地獄と天国、どっちがいいですか。……なにって、これから行くならどっちがいいかってことですよ。トレーナーさんは行いがいいから天国でも地獄でも選べます。セイちゃんが保証します。もちろんじいちゃんやフラワーも天国に行けるし、スペちゃんにグラスにエルにキングもみんな天国です。みんな良い子で、悪いところなんてこれっぽっちもないから。
……私は、私は。もちろん、地獄です。
普段からサボりまくってたツケがきて、授業地獄とトレーニング地獄に閉じ込められます。……でも、地獄でも良いんです。もう、いいんです。
ここから降りれば、私は自由になれる。何もかもが色褪せてしまったセカイから逃げ出せる。最後に逃げるのが現実からなんて、洒落が効いてると思いませんか? つまんないって、言いましたよね。本心じゃなかったつもりなのに、いつのまにかわからなくなりました。
もう一度聞きます。見逃せば地獄行き、捕まえようとすれば天国行き。捕まえたところでセイちゃんは地獄行きなので、一緒にはなれません。じゃあ、さようなら───。あるいは、いつかまた地獄で。
……そこまで一気に捲し立てた後、わずかな時間トレーナーさんの言葉を待つ。
青空は夕立に染まり、雨が降り始めた。
言葉はなく、目の前の人影はゆっくりとこちらに向かってくる。力尽くで止められるわけがないのに。何か近づいて言いたいならそれでも良い。振り払って、私は地獄へ落ちる。そのつもり、だった。
叫び声すら上げられなかった。私は背中まで思い切り抱きしめられていた。ちょっとトレーナーさん、セクハラですよと以前の私なら言っていただろう。けれど、今のこれはそんな意図ではなかった。人を愛おしむ感覚は知らなかった。恋にときめく心情などわからなかった。ただ、無言で抱きしめるあなたに応える。やがてぽつりとあなたが口を開く。
これで、犯罪者だ。
意味がわかって、糸が解けるような感覚がした。なんだ、そうすればよかったんだ。悪い子に手を出せば、もれなく悪い大人が生まれる。あなたが大人で、私の信頼する人で。そうでなくてはこの図式は成り立たない。
抵抗はせず、あなたの背に手を回す。雨はやがて土砂降りになって、二人の間にまで水が浸み通るようだった。あなたとなら、共に地獄へいける気がした。
釣果ゼロ。−1。マイナスだって、歩めないわけじゃない。
雨が止むまで、服と肌が張り付いて離れなくなるまで。二人の身体が一つに感じられるまで。