夜の空を切り裂いたら、裂け目から青空が出てこないだろうか。ふと、そう思う。
けれど私に持てるナイフは短くてあまりに鈍。刃は決して天辺まで届かない。
逃げ惑うことは得意だけれど、差し切ることは私の頭には向いていないのだ。
明日を待つしか、青空を見る方法はない。
明日を待つしか、あなたに会う方法はない。
愚かにも昼寝を満喫してしまった私は眠れないでいた。とはいえ普段は昼寝時間に構わず眠るのだが、今日は心が落ち着かない。
落ち着かなければ、明日は来ないのに。
「何か時間を潰すしかありませんねえ……」
でも、こんな時間にテレビをつけるわけにもいかない。こんな時間に外を歩くわけにもいかない。寮の生活は健全潔白。私のようなサボりと逃げに満ちた存在には相容れない。それでも仕方なく、ただ思考を求る。
セイウンスカイという存在は、思考によって生かされているのだから。
眠気の来ない目蓋を閉じて、思い浮かべるは楽しい昼間。夢を見れないなら、夢を思い描く。
たとえば明日、あなたに会ったら。まずどんなことを言ってくれるだろう。おはよう、とかそういったものも嬉しい。何気ない言葉の端々に、私を気遣う錯覚を覚える。
錯覚であっても、オロカモノの私はそこに夢を見るのだ。現実は夢に比べて、あまりにも短くて尊い。私には掴めない。寝ている間、逢えない間。ただ、私の頭の中にある夢の影。
それが身近な幸せで。私にとっての最高なのだろう。私には才がないとも。私には勇気がないとも。私には、何もないとも。だから、だから。
あなたの隣に居られるのも、通り過ぎる時の僅かな狭間だけ。いつでも一つだけ、平気そうな仮面だけ。私に使える表情はそれだけ。
ただ、罪と知りながら。届かない光と知りながら。私は一つ、夢を描く。あなたと二人、どこかに二人きり。狭くても、あなたとなら幸せだ。暗くても、あなたとなら歩ける。
そこまで思って、想っているのに。どうして私の心は刃を持てないのだろう。あなたを包む神秘の闇を切り裂いて、あなたの心のホントが見たい。
それは、夜に於ける青空のような。見たくても、見れないもの。だから、夢に描くだけ。
「……す、き」
呟く。たった二文字。私はそれだけの言葉すら、手元に煌かせられない。
本当に眠れなかった。これではあなたに怒られてしまうな。まさか理由なんて言えないし。目元の隈を指摘されて、バツの悪そうに笑う私。現実はもう見えていて、夢よりもはっきり色褪せている。
「おはようございます、トレーナーさん」
「おはよう、スカイ。……おっと、どうした」
ほら、やっぱり。これが現実。予想外なんて万に一つも────。
「……泣いてたのか? 目元が赤いぞ。……その、俺でよかったら。
なんでも言ってくれ。俺はお前のトレーナーである以前に、頼られる存在でありたいし」
まさか、まさか。目元を反射的に触ると、また涙が。
「……あらら」
「スカイ。本当に、なんでも言ってくれ」
その言葉こそ涙の元だよ、トレーナーさん。でも。
「なんでも、ですか」
「遠慮しないでいい。頼ってくれ。信頼してくれ」
「じゃあ、ですね─────」
たった二文字。いっても、いいですか?