ウマ娘の某所に載せた短編集   作:春華ゆが

41 / 103
たまえ


セイウンスカイよ微睡みたまえ

 微睡みたくて、微睡みたくて。夜、灯りなく眠るより。昼、陽射しを受けながら眠る方が。体内時計に反旗を翻し、生活の摂理に逆らって眠る方が。

 目蓋が閉じるか否かのせめぎ合い。その激動の中で、私はついに朧げな睡眠を得ることができる。

 我よ、安らかに微睡みたまえ。

 

 何度も眠る。何度も起きる。眠るたびに微睡みを通り、起きるたびに微睡みを通ずる。昼寝の真髄はそのアンバランスな安らぎにあって、通りすがりにおける一瞬が那由多に感じられる。

 現実と夢幻、まさにその間の夢現。アンリアルをリアルの感覚で受け止め、リアルをアンリアルの感覚で受け止める。そこには苛烈な激情が混ざり、目覚めた時に恥ずかしさで潰れてしまいそうなほど。けれど、感情の発露は心地よい。私はいつも逃げてしまうから。心の内で、声を発さず思い切り叫ぶ。あなたのことを。

 我よ、安らかに微睡みたまえ。

 

 微睡みは夢を生む。半端な脳の覚醒は、私を眠りに沈み込ませない。現実の絵の具で塗られた景色は、現実を素材にしていながら少しも現実的ではない。あるところには泥のような絵の具の塊が置かれ、あるところには極彩色の大パノラマが敷かれている。

 そして私の夢において大抵大きなスペースを取っているのは、あなたを想わせるアイテムの数々。ここにあるねじれが、あなたへの私の感情。ここにある歪みが、あなたへの私の行動と内面の差。そういったものを表している。

 我よ、安らかに微睡みたまえ。

 

 そうして私の意識は徐々にはっきりとする。夢の中で意識がはっきりとするというのは、つまりまるっきり前後不覚であるということだが。あなたの形をしたものが現れる。私とあなたはいつのまにか一糸纏わぬ姿になっているけれど、互いにそれを恥ずかしがることはない。

 ただ、触れる。脳があなたに触れた感覚を再現しようとするけど、現実の私は指一本あなたと交わしたことがない。だからその感覚はざらついた粘土のような奇妙なもので、それでも私は微睡みの中でついにあなたと触れ合える。

 我よ、安らかに微睡みたまえ。

 

 肌色と肌色。私たちは互いにうごめく一色に変わる。私のような口下手でも、心の奥底にあるここならば愛を叫べる。ただ、言葉にもならない色を口から吐き出す。心臓から撒き散らす。

 でも、駄目なのだ。夢は現実を反映してしまう。どれほどかけ離れていても、現実に想像できないことは夢では起こらない。あなたは柔かに笑うけれど、あなたは決して答えない。抱き合うことすら許される夢の中であっても、私の想いは届かない。消える。消えてゆく。

 我よ、安らかに微睡みたまえ。

 

 目覚めなければならない。もう、何もかもが無に帰した。終わりを告げる合図に等しい。夢を見るほど疲労することはない。自身の心を暴き、情け無い願望をはちきれんばかりに噴き出す。

 疲れ果てないように、私は目を覚ます。何度も微睡むうちに、現実へと目覚める方法も何となく掴んできた。手脚の感覚を隅々まで意識して、目蓋に力を込める。そうして何より。早く目覚めたいと、願う。あなたに会うため。また、会うために。

 我よ、安らかに目覚めたまえ。

 

「ふぁ〜あ……。おはよーございます、トレーナーさん……おや?」

 

 返事がない。ついに見捨てられてしまっただろうか。

 

「……トレーナーさーん……あら、なるほどね」

 

 書類に包まれて寝ていた。私がソファを占有してしまっているからちゃんと横になれないのだとするなら、少し申し訳ない気もする。布団は……ないしなあ。

 

「……風邪、引いちゃいますよ……」

 

 起こそうか、それとも。とりあえず近づいて、その時だった。

 

「……スカイ……」

 

 あなたの、微睡み。その典型的な発露の一つである寝言。どういう文脈なのか、それとも文脈など彼の夢にも存在しないのか。わからないけれど、わかることは一つ。

 あなたの夢に、私がいる。

 

「……はいはーい、ここにいますよ……なんて」

 

 あなたにかける布団は見つからないままだけど、ひとつだけ暖めてあげる方法を思いついた。

 椅子の後ろからやさしく、ふわり。包み込むように半身を抱く。頬をあなたの首筋に当て、全身で。先程まで見ていた夢の渇望が、ほんの少し私に勇気をくれたらしい。あなたは寝ているのだから、大丈夫。

 それに、あなたの微睡みもまた安らぎに満ちているならば。その手助けとして、夢に現れ、現実にて抱き止められるならば。あなたのためになれて、嬉しい。

 君よ、安らかに微睡みたまえ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。