孤独だけは何人も逆らえない。
気ままな浮雲を気取っていた私も例外ではない。もっともそれに気づいたのは、とんと時間が経ってから。経ち過ぎてから。愚かに頭を回す私は、脳の児戯が人を生かすのだと信じ込んでいた。
例えば今天井に浮かぶフィラメント。
例えば今天頂に浮かぶ雲。
それらのものが極小の繋がりによって成立しているように、私のいのちも繋がりによって成立していることを分かっていなかった。
繋がり。私たちは誰しも繋がりを必要とし、繋いだ手をチューブにして呼吸する。息をするのが苦しければ、より深い繋がりが必要になる。心を分かち合い、苦しみと幸せを共にする。
例えば嘗ての私とトレーナーさん。
例えば最近とんと連絡を取っていない同期のみんな。
心の繋がり、それは神聖で純粋だ。だから強く、維持できるのならきっとそれが理想だった。
でも、それはそう簡単なことではない。何もかもに疲れ果て、息をするのにも飽き飽きして。いわば心が死んでしまった状態。そんな状態で互いに歩み寄るほどの気力があるだろうか? 私にはその勇気がなかったのだろう。
だから、そこの繋がりに別の意味を上書きした。大切でかけがえのない繋がりというのは、互いの努力無ければ沈み込んでしまう。心が死んでしまえば、相手がどんなに手を伸ばしてもその手を取れやしない。
即ち私が生き延びるのに必要なのは、沈み込んだ先にあるどろどろの関係性。暗く、埋没する。欲求だけに支配された従属節。傷を舐め合うことを目的とし、それどころか舐め合いによる触れ合いを本質としてしまうような、薄っぺらい蜘蛛糸で出来た繋がり。
そう。私はトレーナーさんが垂らしてくれた蜘蛛の糸を自分の方へ引き摺り込み、それで新しい偽りを編み込んだ。小綺麗だった今までの関係に縫い針を何度も刺してズタズタにした。
そして傷の上に張られた色付きの紋様は、ギラギラした汗の照り返しと仄暗い肉欲の繋がりを表している。
ちょうど、今私たちが終えたような。
「……ふぃ〜。お疲れ様でした、トレーナーさん」
胸板の上に寝そべりながら労いのような形を述べる。本当はもう彼は私のトレーナーではない。ただ、今の関係はその頃より一歩だって進んでいるわけでもない。だからそれ以上の呼び名も見つからず、こうしている。
「……ああ」
「おっと、どうしました控えめに。トレーナーさんがしたいなら、もうちょっと延長してあげてもいいですよ? 料金はタダ。思い出払いということにしてあげましょう」
そう戯けて言う私に、思い出の面影が残っているのかもわからない。心は死んで、肉体だけが連続性を持つ。ゾンビと何も変わらない。
「……いいよ」
曖昧な返事に少し苛立ってしまう。この人は未だに聖人君子であろうとしているのだろうか。こちらを労ることで何かが積み重なって元の世界へ届くのだと、そう夢見ているのか。
「……そんなこと言わないでくださいよ──」
身体を擦り寄せ、脚と脚を絡めて。汗に濡れた尾を巻き付け、精一杯の。
「"あなた"」
このフレーズが私たちのトリガー。いつからかそういうことになっていて、おそらくいつまでもそれ以外のものにはならない。
必然声をかける私から毎度誘うことになるし、それで現状彼が不満そうにしているようにも見えない。……そもそもトレーナーさんの感情なんて、もうずっと見ても見えてもいないけど。
跳ねる感覚と共に再び心は閉ざされ、繋がっているという情報的事実だけを貪り食う。暗闇に包まれた部屋において目は要らず、水音と布擦れだけが私たちの湿気った焚き木になけなしの火をくべる。
下腹部でうごめく肉塊は、熱く求めていたはずのものなのに冷え切っていた気がした。
退廃。堕落。私たちの今を端的に表した言葉はこういったもので、さながら逆位置のタロットのように悪いことづくめだ。
小一時間。語るほどの価値も無くなってしまった行為を終える。ぐっしょりと濡れた布団の上で、少し重なってぐったりとする。愛も欲も見えないほどに薄く、故に喘ぐように必死に求める。何もかもがなくなれば死んでしまうことだけは分かっているから。
死んでしまうのは怖いから。まだ、怖いから。
「じゃあね、トレーナーさん。また今度」
「……また。よろしく、な」
次回があるというのは素晴らしいことだ。何においても終わらないことは美しくて、だからトレーナーさんもこの関係に同意したはずだ。
セイウンスカイというウマ娘が走れなくなった時、何故当初のトレーナーさんが私を見捨てなかったのかはよくわかっていない。まだ私に未練があったのか。そうだとして、その未練がどういう意味合いを孕んでいたのか。或いはやはり、トレーナーさんは聖人君子だったのか。私を見捨てることを考えるだけで心が痛んだのか。
とはいえそんな清く正しいトレーナーさんも、既にセイちゃんと同じ底なし沼に浸かっているのだが。
トレーナーさんの家を出て、手持ちの合鍵で戸締りをしてやる。ここだけ見れば、私たちはどこにでもいる浮ついたカップルだ。
それなりに運動した。だからそれなりにご飯も美味しいだろう。最早行為は惰性と疲労によってのみ構築されている。それはつまり私が生を感じるのも惰性の中にあり、疲労した肉体もまた私に生を訴えているということ。生きることは三大欲に支配されているというのは至極その通りだと思う。
寮を離れた私は一人の家を持っている。頼めばトレーナーさんは自分の家に住まわせてくれたかもしれないが、それは最後の理性が邪魔した。今の私にはこの狭い一坪が合っていると思うし。
冷たい床に座り、低いテーブルに買ってきた惣菜を広げる。特に変わったところのない揚げ物、昼の売れ残りの弁当。夕暮れという半端な時間に昼食とも夕食ともつかない食事を取るのも、私の堕落の一つだ。
味付けは濃くて、咥内で蠢いた後の感覚の削れた舌に合う。ただ漏れるだけの喘ぎで乾いた喉には生温い水道水を流し込む。
ここまでがこのルーティンの流れで、この程度のことでも極楽を少し感じられる。ああ、人生は充実していると。錯覚を呼べる。
「あとはこのまま横になれば、三大欲求完全制覇だなぁ」
機械的に人間の本質がどうたらと言ってしまうなら、今の私は何一つ不足なく満たされていることになる。生きるために必要なものはこれだけで、私の命はシンプル・イズ・ベスト。コンパクトにまとまっている。
片付けもせず着替えもせず。床に寝そべり、眠気を待つ。当然こんな寝方をすれば明日には身体が痛いのだが、もはや私の身体は資本と呼べるものでもない。
さて、明日は。どうすれば生き延びられるだろうか。意識だけが僅かに前を向いたまま、私は眠りに落ちていった。
青空は色褪せ、白に光る雲も萎びている。
*
look at me. 私を見て。私があなたに恋焦がれているなら、私を見てほしいと願うはずなのだ。私に魅力を感じて欲しい。触れて欲しい。求めて欲しい。けれど、そんな感情は私の中に存在しない。私にあるのは、肉体の欲求に従うだけの脊髄反射だけ。
それを満たす方法として、彼を選んでいるだけ。もしかすると昔は私にも心の動きがあったのかもしれないが、もうわからないくらい昔だろう。
愛や恋は信頼よりも深く、脆い。矛盾と欺瞞を孕んだ人の弱さの象徴。それを分かりきった上で人々は自ずから溺れていくのだから、滑稽だと思う。だからと言ってそれを選ばなかった自分が利口だとは、口が裂けても言えないけれど。
嘗ての策士は、そんな剥き出しの悪意を街行く男女に向けながら独り歩いていた。行く先も当てもなく、さながらいつまでか愛好していたサボりのように時間だけを潰す。昔と違うのは、これが本物の逃避であることだろう。もっとも止める人もいない。今の彼は私が呼んだ時にただ受け入れるだけの存在だ。それ以上を私が求めないから、そうなっている。
連日は流石に迷惑だろうか。なんとなく暇な気分が抜けないので、発散してしまいたくなる。もうすっかり錆びついた関係なのに、相手のことを道具として割り切れない。少しばかり慮ってしまう。これはきっと死にかけの心が呼吸するかの如く私の中を這いまわっているから。今の私からは異物でしかなく、穢らわしいとさえ思う。
でも。反対に。彼の心にまだ私を想う何かがあるのなら、それは少しだけ嬉しいかもしれない。人は誰しも傲慢で、自分にはすぐ絶望するくせに他人には冀望を求めるよう命じてしまう。憎い相手を殺すより先に己の命を絶つように、他者の心を見ることを怠り無条件で都合の良い解釈をする。これもその一環。
つまり私は、まだ人なのかもしれない。
「あの〜、そこのお姉さん」
お姉さん。周りを見ても他に反応しそうな人はおらず、振り返る。私を捕まえてお姉さんとは。そこには優男風の男が立っていた。髪は薄く染めていて、小綺麗な服装。
「はい、なんでしょう」
だいたいわかる。経験はないけど。
「良ければそこらでお食事でもしませんか、暇だったらでいいけど」
だんだん口調が砕けてきて、気さくな雰囲気を醸し出す。
「……お兄さんの奢りで、お願いしますね?」
交渉成立。ギラついた欲望を隠さないのはむしろ心地良いくらい。どうにでもなれというより、どうなるか考えるのすら面倒だ。
こうして、晴れて私はナンパされた。
「へぇ〜、スカイちゃん結構いいとこまで行ったんだ」
「まぁ、そうですねぇ。私にしてはまあまあいい線行けましたね」
近くにあったチェーン店のファミレスに入り、ドリンクバーとデザートで口を満たす。生きるための水分と心を溶かすための甘味があれば、この人が求めるような話はできる。彼とはもうろくに喋らないから、まともに誰かと会話するのは久しぶりだ。
この男の人はレースのことについて殆ど知らなくて、そう言った人に解説してやるのは少し楽しい。私が昔いたところは、結局私よりも物事に詳しいか、知らずとも頭が回る人ばかりだったから。
「……で、そのトゥインクル・シリーズの途中でドロップアウトしたうちの一人が、私セイウンスカイというわけです」
「ふーん、じゃあ今何してるの? バイト?」
「……何もしてないですねぇ」
何も。本当に何もしていなかった。ただ息をするのに必死で、生きる欲求を保つのに必死で。
「お金とか困らないわけ?」
「……お金が尽きたら、その時がその時ですよ。走るのをやめた時点でロスタイム。そういうことになってるんです」
そんなウマ娘ばかりではないだろうけど、そんなウマ娘は私だけではないだろう。走ることも勝つこともできなくなれば、本能は生を閉ざすことを求める。それに別の本能が抗い死にたくないと叫び続けて、生き永らえる。
絶叫と恐怖が支配する非論理的な生物。そこには本能の段階ですら矛盾しかない。
「……ふーん。実は割りのいいお仕事があるんだけどさ。カメラの前でちょっと喋ったりすれば五万円。継続可」
五万円。今の私には大金だ。でも金額より、那由他に広がる暇を殺せることが魅力的だった。
「……怪しいですねぇ」
「嫌だったら途中でやめてくれて構わないからさ、話だけでも、ね? 君みたいな子が生活できなくて死んじゃうなんて勿体無いよ」
あからさまな罠だったのに、男の最後の言葉に少し心を動かされて。私は結局、誰でもいいから求められたかったのかもしれない。
昼下がり、青空の翳り。グラスに残った氷が溶け切るのと同時に、私たちは席を立った。
「じゃあセイウンスカイちゃん、こっち座って。……名前とか個人情報は適当に隠してもらって構わないから」
連れ出されて案内されたのは、寂れたホテルの一室。ホテルというものは昼間から入るようなところではないが、ここはおそらくこの男のテリトリー。
清潔を装った空気がギラギラと張り詰めていて、明らかにそういうことをするという感じの部屋だ。会話だけで済むわけがない。でも、流されていく。
カメラが回る。私に向けられる久しぶりのカメラ。穢れた目線は今の私に相応しい。
「じゃあ、質問していくね。まず─何歳?」
「元中等部、ということで」
「オッケー、じゃあ次」
明確に答えてはいけない。その時点でこのインタビューはお遊びで、前戯だ。それに私はあの頃から一歩も時を進めてないのだから、あながち間違いではない。
「彼氏とかはいるのかな?」
少し言葉に詰まる。トレーナーさんは、私にとってなんなのか。必死に肉を削いで繋ぎ止めているだけで、もう心の繋がりなどというものは断絶されているのではないか。迷う私を察してか、男は言葉を継ぎ足す。
「あー、複雑な関係があるんだねえ。いやいやわかるよその気持ち。俺も沢山の女の子の悩みを聞いてきたからね」
私は遊び人です、みたいなことを聞かされても全く安心できないのだが。それでも不思議と心は安らぐのだから、この男の話術というのは小賢しい私のものとはレベルが違うのだろう。とうとう最後の取り柄すら無くなってしまった。
「うーん、それじゃあ次」
「上、脱いでくれない?」
予想の通り。私は地獄へ堕ちていく。
「綺麗だね」
「……あはは、ありがとうございます」
まだ触れない。触れさせない。仄かな反抗心が私を守っていた。誰に対する義理を立てられるものでもないのに。今私が守っているものは、誰でもなくなった彼に、誰でもなくなった私が繋がれていられるための道具。そうでしかない。
守ると言っても上半身は使い古した下着だけになって、もう時間の問題なようにしか思えないけど。逃げる気すらない。この先にあるのが地獄なら、私は堕ちるべくして堕ちている。とっくの昔に青空からは堕ちたのだから。
「その男の人、ずいぶん君のこと大切にしてくれてるんだねえ」
「……トレーナーさんのことは、いいじゃないですか」
その男の人。考えるより先に、触れてほしくないものへの発露を口にしてしまう。
「……へえ、トレーナー。つまりは在学中からそういう……」
墓穴を掘った。策士にあるまじき失態。冷静さが、消えてゆく。死んだはずの心に、業火が巻き起こる。
「……違いますよ」
「へー、じゃあトレーナーさんはそういう気を君には持ってなかったんだ。寂しいねえ」
その時になって初めてわかることというものが世の中にはいくらかある。
「……そうかもしれない」
「いやでも、学生を辞めたら手を出したんだからそうでもないのかな? あはは」
そのうちの一つに。
「……そうだとしても」
「あなたなんかにトレーナーさんのことをとやかく言われる筋合いは、ない」
己の逆鱗。触れてはならぬ怒りのスイッチが存在する。
「帰ります。別に下着見られたくらいで訴えませんから、さようなら」
乱雑に荷物を手にして、被るように上を着直して。
「……ちょっと、ごめんって……!」
「どいてよ」
手を出すまでもない。己のうちに眠っていた勝負師の気迫を解放する。殺意まで込めて睨みつける。ぺたん、と尻餅をついた男の横を、振り返りもせず立ち去った。
行く先は決まっている。
*
「昨日ぶりですね、トレーナーさん」
「……何かあったのか?」
「聞いても面白くないですよ」
流石に察しがいい。とはいえ息を切らしながら部屋に転がり込んできた私を見て、異変を感じない方がおかしいか。
「トレーナーさん」
「……スカイ。それはダメだ」
その言葉を無視して、身体を寄せる。先程乱雑に着たばかりの上を脱ぎ去り、肌同士が擦れ合う場所を探る。
「"トレーナーさん"。"トレーナーさん"が、抱いてください」
架空の"あなた"。顔のない恋人の代理ではなくて。本当のあなたから、求められたい。そうすれば、私たちの最後のタガは外れて、濁流と濁流は分かれ目が見えなくなるまで混ざり合える。
それがきっと理想だった。愛し合うのとなんら変わらない。恋の結末と一寸の差もない。だから最初からこうするべきだった。今更、今更私は気づいたのだ。だからあなたも気づいて欲しい。取り返しのつかなくなる前に、この関係を永遠に続けるために。
それなのに。
「ダメだ……スカイ!」
びくん。強引に押し倒そうとした私は、叱られて我に返る。
「……俺が悪い。そうだ、俺が悪い。お前のためと嘯いて、お前が甘えられる土台に成り下がっていた。最後まで導いてやるべきだったのに。
でも最後の一線は守る。お前のトレーナーは、お前には手を出さない。これは俺のわがままかもしれないし、そもそも建前に過ぎないかもしれない」
そうだ、そうだとも。"あなた"と私は、もう飽きるほどに乾いた愛を営んだはずだ。私が"トレーナーさん"と戻れるわけがない。私は"あなた"と奈落に進むしかない。今更。
「今更そんなことを言うんですか」
「今更でいい。いつからでもやり直せる。それをお前に示す必要がある。トレーナーは担当ウマ娘を導く存在だ」
「それこそ、今更じゃないですか。いつの話をしてるんですか」
「いつからでも、やり直せるんだ」
互いに一歩も譲らない、言葉と心のぶつけ合い。死んだはずの心から、生きた言葉が飛び出してゆく。浅ましい肉欲だけで出来ていた関係は、加速度的に色付いて。失ったはずの全てが、甦るように空に浮かび出す。
「私にとってトレーナーさんは」
その続きが言えない。酷い言葉を告げてやろうと思うのに、喉についた私の逆鱗が邪魔をする。頭の中にあるのは、ただ、ただ。
私にとって。
「……だいじな、ひと、だから」
無理だ。どうしても本音が出てしまうな。
「……スカイ」
目頭が熱くなっていることに気づく。頬を触ると、熱い水滴が垂れていた。
「にゃはは、ダメだな私」
どうしても、なんとしても。身体で繋ぎ止めてでも、私はトレーナーさんと離れ離れになりたくなかった。本当は、それを心の底から伝えれば。一緒にいる理由としては充分すぎるくらいだったのに。
「ねえ、"トレーナーさん"」
「……どうした」
「ぎゅって、してください」
「……いいよ」
かたく、かたく。ほんとうの私がトレーナーさんにお願いできるのはこれくらいだ。でも、これだけあれば千里を駆けれる。そうだ。また走れるとも。
「ありがとう、ございます」
ひとりぼっちの青色は、そばに揺蕩う雲を見つけた。
*
「ふふっ、トレーナーさん。今日から毎日私がご飯作ってあげますよ」
「料理できるのか?」
けろりとした会話。なんてことない会話。いつぶり、だったか。
「あー、ひどい! バレンタインチョコだって手作りだったのに! 忘れたんですか?」
「忘れるわけないだろ、あんなにかわいいスカイのこと」
「かわっ……もう! 私たちはそういう関係じゃないってこと、思い出してくださいよ!」
今までの関係は全てご破算。つまり私たちは担当ウマ娘とトレーナーの関係に逆戻りだ。
もっとも、私自身はあなたの言葉が大変満更でもない。振り向けばにやつき切っているのがバレてしまうだろう。
かつて私は、あなたが垂らした蜘蛛の糸をこちらに引きずり込んだ。どうしても、それだけは離したくなかったから。蜘蛛糸で編まれたつながりに、愛がなくても構わないと思っていた。
けれどそれは違った。確かにあなたは、蜘蛛糸に愛を編み込んでくれていたのだ。あなたの伸ばした手を、私は取ることができていたのだ。
ああ、夢のようだ。色褪せた青空に、再び浮かぶ雲があるなんて。
堕ちて、堕ちて、何度も堕ちて。それでも堕ちた場所から、まだ青空は見えていた。そして私には、目指すところへ導いてくれるトレーナーさんがいる。あなたの編んだ掌を、私は掴み返した。
それをまた、見つけた。
今更だけど、今からだから。だから。
全ては、私とあなたと。私たち、次第なのだ。