ウマ娘の某所に載せた短編集   作:春華ゆが

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やっぱりリメイクです


大人になりたい子供の二人

 恋。それは大人への階段。恋。きっと、いつかアタシの未来にあるもの。だからマヤは、日々"いいオンナ"目指して修行中だ。トレンドだって外さないし、いつでもキミを夢中にさせる準備はできている。ああ、でも。"キミ"はいつ現れるのだろう。未来のマヤと巡り合う、運命のキミ。マヤをムチューにさせてくれる、ステキな人がきっとどこかに────。

 

「どうしたの、マヤノ? ぼーっとして」

「……うわっ! テイオーちゃん! マヤちょっとオトナな悩みをしてたのに!」

 

 ベッドの上でごろごろしてたところに、聞き馴染みのある声がやってくる。同室のウマ娘、トウカイテイオーだ。彼女はすっごくキラキラしてる。多分アタシにはないものを、きっとたくさん持っている。でもマヤだって負けない! 恋する乙女の力を手に入れられれば、そう! テイオーちゃんにはそれが……ない、はず。はず、なんだけど。

 

「ねえ聞いてよマヤノ〜! 今日カイチョーがさあ……」

 

 はず、だよね? 自信がなくなってきた。いつもテイオーちゃんは生徒会長、会長さんのことを喋っている。それってもしかして、もしかすると?

 禁断のコイ、かも。

 

「……テイオーちゃん、会長さんのことが好きなの?」

 

 好奇心。あるいは対抗心。同室の相手はライバルの一人。絶対先にオトナの女になるんだ、そう思っていた相手の一人。恋を知るのは自分が先だと、勝ちたいと思う気持ちはあるけれど。恋に恋する乙女として、マヤノトップガンは他人の恋にだって気を配らずにはいられない。

 

「……? 好きだよ? すっごくソンケーしてるんだ!」

「……恋してるわけじゃ、ないの?」

 

 でも、でも。もしもそうなら、それは触れてはならぬ恋の形。見てはいけない愛の形。ならば自分は、そっとしておくべきか。応援した方がいいのだろうか。いつかアブナイ本に書いてあった、同性同士の禁じられた愛。それ、だとしたら。

 

 

「……コイ? 何言ってるのさマヤノ、ボクとカイチョーはウマ娘同士だよー!」

 

 テイオーちゃんは、知らないんだ。そんな禁忌の愛の形なんて。なら安心。いや、もしかしたら気づいてないだけ? だってテイオーちゃん、そういうの鈍そうだし。そうだとしたら、ほっといた方がマヤに有利? そうすれば、先に大人になるのはアタシ。でも、マヤだけなんて。テイオーちゃんを、置いてけぼりにする。それはなんだか、ちょっとだけイヤだった。

 

「……あはは、そうだよね! マヤ変なこと聞いちゃった!」

 

 やっぱり、ホントに恋かはわからない。でもなんとなく、テイオーちゃんは隠してるか、わかってないか。何か違うのは、"わかった"。今はそこまで。でもいつか、もっとわかるかな? そうだったらいいと思う。

 

「カイチョーのこと、すっごく好きだよ。

 ボクの目標! カイチョーみたいになりたくて、そのために。そのためならボクはなんだってできる」

 

 そう語るテイオーちゃんの表情が、少し変わる。真剣だった。本気だった。気持ちのホントがわからなくても、それが迷いなはずないって。そう、思えた。

 

「……マヤノは何かそーいう目標、ないの?」

 

 そう、トーンを変えて。質問者が、こちらからあちらに転換する。アタシ。マヤには、キラキラがあるのかな。そう、少し考えて。

 

「マヤは……ワクワクしたい」

 

 そして、しっかりと。言葉を吐き出す。だいぶんふわふわした内容になっちゃったけど。

 

「……ワクワク?」

 

 やっぱりはっきりしてないよね。正確に言えばきっと、わからない、というのが正解なのだろうけど。

 でも、この気持ちはウソじゃない。生まれてすらないホントの気持ちを吐き出しているのは、テイオーちゃんが自分のそれを見せてくれたから。私たちは、まだオトナじゃない。

 

「うん、ワクワクして。ドキドキして。そんな気持ちになりたい。……だーかーらー!」

 

 だけど、だからこそ。子供でいられるこの今は、きっとそれも必要なもの。大人になりたいからこそ、子供は頑張らなきゃいけない。そう、それには何か、ずきゅんと来るものが。

 

「恋をしたいの! トキメキたいの! それで、テイオーちゃんと会長さんのカンケーがそういうのだったら、参考になるかなーって」

 

 そう、ダメ元で。先程曖昧だったものを、今度は直球勝負で聞いてみる。正確には、参考に、というより。対抗心とか応援したい気持ちとか、お節介のない混ぜだけど。

 

「……えへへ、カイチョーのことは好きだけど、コイってちゅーしたいとか、そういうのでしょ? ボクはカイチョーに褒めてもらえるならそれで……」

「ホントは?」

「……不安になってきた……。マヤノが変なこと言うからだよー!」

 

 うーん、間違えたかも。オトナの女がここにはいない。だから恋の何たるかなんて、自分だってわからない。だから聞いてみたけど、テイオーちゃんにもわからない……。どうしよう。

 

「うーん……。でもテイオーちゃんのそれって、単純なソンケーだけじゃないと思うんだよなあ……」

「マヤノがそういうなら、そうかも……。ああでもっ、ちゅーとかは絶対! ぜったいないから!」

 

 2人でぽく、ぽく、ぽく。自分たちはまだ子供で、何も知らないのだとわかる。真剣に考えても、オトナたちから見ればおあそびにしかならないことしか思いつかないのだろう。どきどきと動く心臓は、自分たちが成長するために頑張っている。そうやって毎日大人に近づいてはいるけど、今すぐにはなれない。

 

「あーあ、早くオトナになりたいなー……」

「ボクもはやくカイチョーみたいに、かっこよくて、すごいウマ娘になりたいよ……」

 

 互いのベッドにそれぞれ寝転んで、二人の気持ちが重なって。大人になりたい二人の子供は、ウンウンと悩み続けていた。二人なら大人の考えに届くだろうか。たとえそうではないとしても、同じことを考えていた。同じ時間を過ごしていた。

 

「目標は、具体的な目標はあるの?」

 

 ふと、呟いてみる。大人になるための目標。テイオーちゃんの、夢。そんな少しの未来の話を、ちょっと聞いてみたくなったから。

 

「おお! よくぞきいてくれたまえ!」

 

 怪しい日本語とともに、彼女は一枚の紙を取り出した。そこに、サインペンでさらさらと。

 

「目指せ、無敗の、三冠ウマ娘……と! どう!?」

「デビュー戦もまだなのに、気が早くない?」

「そんなことないぞよ〜! すぐにすごいトレーナーを見つけて、すごいデビュー戦を飾って、あっという間にカイチョーを超えてみせるんだから!」

 

 少し、羨ましいかも。目標の高さはとてつもなくくっきりはっきりわかっていて、それでもその上に夢を見ている。拙いかもしれないけど、確かなキラキラがテイオーちゃんには見えた。

 

「いいなあ、マヤも……そうだ!」

 

 そこで少し閃く。漠然とした彼方の目標で、まだテイオーちゃんには敵わないかもだけど。負けるつもりはないから。

 

「素敵なトレーナーちゃんを見つけて、素敵なランデブーをするの! 飛行機に乗って、窓から綺麗な夜空を見下ろして……」

「それ、なんか具体的すぎない?」

「テイオーちゃんの方がよっぽど具体的だよ? すごいと思う」

「マヤノもすごいと思うよ。……もちろん、ボクが一番すごいけど!」

 

 さらっとテイオーちゃんを褒めたら、褒め返された。意外だ。内心敵わないと思いながら、こんなことを言ってたのに。

 

「ボクさ、たまに不安になっちゃうんだ。"もし、夢が叶わなかったら"。だから夢がはっきりしてくるのは、ドキドキする。二つの意味で。でもマヤノはさ、走ること以外にも楽しみがあるっていうか、いつでもどこでも何かを楽しめそうっていうか」

 

 面と向かってそんなことを言われたら照れてしまう。悪い気もしないけど。マヤはテイオーちゃんがキラキラしてるって思ったけど、テイオーちゃんから見ればその逆。そうだとしたらくすぐったい。子供らしいないものねだりにすぎないとしても、心が温まる音がして。

 

「テイオーちゃんは、本当に真剣だね」

 

 そしてそうやって、褒められたら。こっちも、更に褒めたくなる。

 

「……マヤそんなに、一つのことに夢中になれないもん。レースは楽しいけど、トレーニングがつまんないから全然走ってない。テイオーちゃんは、我慢してトレーニングしてるの?」

「それは、違うかも」

 

 違う。私とキミはやっぱり、モノの見え方が違う。でもそれは、悪いことじゃなくて。それぞれの伸ばすべき長所、なのかも。

 

「トレーニングは、すっごく楽しいんだ。力が湧いてくるって、強くなってるって実感できる。……確かに同じことの繰り返しだけど、結果は毎回違うんだよ? 真剣さが絶対、報われるんだ」

「……マヤは毎回違うことをしたいなーって思っちゃうけど。同じことでも、毎回違うってこと?」

「ふっふーん、マヤノもまだ子供だなあ! ワガハイがこれから教えてしんぜよう〜!」

「授業はつまんないからやだー。……でもさ、やっぱりみんな違うってことかも」

 

 そう、違う。誰一人として同じウマ娘はいない。そんなそれこそ子供でも知ってそうなことだけど、それがよくわかった気がする。大人の階段を、二人一緒にまた一つ。

 

「……違う、か……。ボクもカイチョーとは、違う。そういうことかな」

「なんとなく言っただけだよ」

「マヤノのなんとなくは当たるじゃん」

 

 そう、誰もがみんな違うなら。それはもちろん、いいことでもある。けれど誰かのようになりたい、という目標も、成し遂げられないものかもしれない。……でも、テイオーちゃんはそうだとしても、あきらめないと思った。走り続けると思った。これは勘じゃなくて、それなりの付き合いからの経験則。

 

「……さっきも話したけどさ。夢がもし、叶わなかったら。叶ったとしても、叶った後。ボクたちが、大人になった後」

 

 なんとなく、テイオーちゃんの言いたいことがわかった。だから、自然と引き継いで、言葉にする。

 

「将来って、未来って。どうなるんだろうね。早く大人になりたくても、早くなることはできなくて。ずっと子供でいたくても、子供のままではいられない」

 

 当たり前のことを言ってしまう。でも、これが私たちの同じ悩みなのかも。大人になりたい、子供でいたい。そんなわがままを、今ここでなら口に出せる。そうして声にすることが、きっと何より意味があって。

 

「デビュー、怖いね……」

「……うん」

 

 そんな弱音も、きっと意味がある。成長したいけど、成長は怖い。勇気もやる気もあるとしても、待ってる間はとっても怖い。だからこうして、支え合うのかもしれない。大人になってもそうだったらいいな、そう思った。

 ふと窓から夜空を見上げると、キラキラの星が瞬いていた。夜の空に光る星は、何億年もずっと同じ姿をしているらしい。それでも、ずっと光っているわけじゃなくて。何億年が終わった後、その星はいのちを終える。その時、どんな気持ちなんだろう。そんなふうに息を呑んでいたら、テイオーちゃんが不思議そうに聞いてきた。

 

「どうしたの、マヤノ」

「あそこに光ってる星にも、命の流れが、始まりと終わりがあるんだなーって。改めて」

「……すごいスケールの大きいことを考えてるね。やっぱりマヤノの見てるところは、ボクとは違ったりして面白いなー!」

 

 自分からすればテイオーちゃんの見てるモノも、面白い。デビューして、無敗の三冠ウマ娘になって、憧れの人を超える。そんなどこまでもはっきりして、鮮やかな夢。それはあまりにも近い着地点すぎて、ぶつかってしまいそうなのに。彼女はそこに向かって、少しもぶれることがなかった。うん、やっぱり。

 

「テイオーちゃんと同じ部屋でよかった」

「ボクも。マヤノと同じ部屋でよかった」

 

 不意に、互いの存在に感謝する。そうして、二人で同じように夜空を見上げる。同じことを考えて、同じ時間を過ごして。どこまでも、同じように。

 きっと子供の自分たちは、これから成長していく。そうして、互いの違いがわかっていく。時には噛み合わないことすら見つかるかもしれない。でもきっとそうやって誰もが違うから、誰かと一緒にいる意味がある。この関係もそうだったらいいな、そう思う。デビューしても、夢が叶っても、大人になっても。数億年もの間同じように並んで光る星たちのように、そうであったら嬉しい。

 そうだ。もしあの星に祈れば、願いごとが叶うというのなら。もちろんひとつといわず、たくさん叶えたいけど。一つ、今思いついたものがある。今日はそれをお願いしよう。これから先、とっても先の話だけど。やっぱり自分にとっての目標は、ワクワクでいっぱいなとびきり先の話がいい。

 おばあちゃんになっても、ずっと友達で。

 未来に一つ。夢よ、煌めけ。

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