「水族館なんて、アンタも気が利くじゃない」
有馬記念で見事一着を取りスターウマ娘になったダイワスカーレット。
彼女を労う意味を込めて、俺とスカーレットはある日、水族館に寄っていた。
「で、誰の入れ知恵なワケ?」
「……流石に隠し事はできないな……話すよ」
ここに来たのには理由がある。
もうすぐ始まるURAファイナルズに向けて、彼女を一番に、『ファイナルズ・チャンピオン』にするには。
強力なライバルになるであろう存在のことを、話しておかなければならないだろう。
同期のトレーナー、桐生院葵。そして、その担当ウマ娘であるハッピーミーク。
彼女達がすれ違い、紡ぎ合い、二人三脚に至るまでの経緯をスカーレットに話した。
「……と、こういうわけだ。ウオッカとの決戦もあるだろうが、それだけに気を取られてはいけない……って、うわっ!」
ずずい。むーっ。気がつけば、スカーレットの真っ赤な瞳が、自分の目と鼻の先で睨みつけていた。
「ちょっとアンタ、今まで一言もそんな話しなかったじゃない!」
「いや、すまない……! タイミングがなかったというか、言う理由がなかったというか……」
「わかってるわよ。どうせアンタのことだから、余計な心配をかけさせたくなかったんでしょ。……ありがと」
一転、そっぽを向いて。感謝は本心みたいだが……拗ねてる?
「で、このタイミングで打ち明けたのも。『アタシのライバルになるから』、なんて。全く」
そう言うと、スカーレットはため息を一つ。そしてこちらに向き直り、告げた。
「今一度、はっきり言っておくわ。アタシのライバルはアイツ……それはきっと変わらない。何を言われてもね。それはURAファイナルズでも変わらないわ。でも。
アンタのライバルが、その桐生院さん。それはわかった。……漸く、アンタの目指してたものが見えた。
アンタ、その人に負けたくないのよ。自分の担当ウマ娘が、このダイワスカーレットが。"一番"だって証明したいの」
そうか。そうだったのか。
「……目標があるヤツは、強い。アンタの強さの源、やっとわかったわ。
……あーでもシャクねー! アンタには散々アタシのこと話したのに。アタシもアンタのこと知ってるつもりだったのに。
……アンタの一番は、アタシじゃなかったのかも」
少し寂しそうに。そんなことはない、と否定する。本心だ。すると、ぷっと破顔した。
「あはは! ちょっとからかっただけよ。アタシのトレーナーが、アタシを最優先にしてくれてたこと。それは知ってる。でもね、だから。
"これから先はアンタの夢を叶えるの"。もちろん、アタシを一番にするのを忘れちゃダメだけどね?」
夢の扉は開かれた。そんな、どこかで聞いた言葉が頭に浮かぶ。スカーレットじゃない、自分の夢。
「……ありがとう、スカーレット。目が覚めた気分だ」
「……なによ。アンタとアタシは二人で一人。それが担当ウマ娘とトレーナーの模範的な関係、でしょ?」
「……敵わないな」
「……今までそれを教えてくれたのは、アンタだった。覚えてる?
アイツがダービーに出るって聞いた時、道を見失ったアタシにアンタは指し示してくれた。
……URAファイナルズでアイツと雌雄を決する。そこまでこぎつけられたのも、アンタのおかげ。ずっと、色んなことを偉そうに教えてくれたじゃない」
褒められてるのか、貶されてるのか。……信頼されてるのは、確かだ。
「……ああ。これからもスカーレットのトレーナーとして、精一杯サポートするつもりだ」
宣誓。そしてそれはもう一対。
「そう、そしてアタシはアンタの担当ウマ娘として。精一杯走って、一番になる!」
人差し指をいつものように。彼女もまた、宣言する。
ああ、そうだった。彼女はいつも、輝いている。でも、その輝きは相当な努力の上に咲き誇っている。
そしてそれをサポートするのが、自分の仕事だ。いままでも、これからも。
「……アタシは一番のウマ娘、ダイワスカーレット。そしてアンタはそのトレーナー。つまり……ううん」
スカーレットはそこで言葉を切る。
「……この先は全部勝った後に取っておくわ」
「勝てるのか?」
心配するように、挑発するように聞く。
「誰が相手でも、当然!」
ふふん、と彼女は鼻を鳴らす。
「アタシが一番なんだから!」
そう、彼女は一番のウマ娘なのだから。