「何を読んでいるんだ?」
トレーナーさんが私に聞く。
「今度やるホンの原作です。ミステリーなのですが、実は」
「ああその先は言わなくていいよ! ドラマで楽しむから」
「そうですか。……そうですか」
少し嬉しい。予想していなかった。
「本当だ。実を言えばカフェの出るドラマは今まであまり見たことがなかったんだ。でも最近は古いやつも見てるぞ。……カフェのことを少しでもよく知れればいいなと思って」
「演技から私が見えますか?」
私はただの鏡なのに。
「見える……と思う。たとえばあんな顔をあの時もしていたな、とか」
「……同じように演技しているだけかもしれませんが」
「それは、信じるしかないなあ」
「信じる、とは」
「カフェが俺の前で本心を出してくれてるって、信じる」
そんなふうに言われたら、どうしようもない。
「……トレーナーさん、ファンレターです」
「……やけに嬉しそうだな」
「……そうですか? 私としては見慣れたものですが」
そうではない。
「トレーナー室に届いたってところが重要なんだろ?」
流石トレーナーさん、よくわかっている。
「……まあ、そうですね。私の"走り"へのファンレター。きっとそれは、大切な初めての」
思えば、女優として活動し始めた時も。最初のファンレターは得難い希望に見えた。今では滝のように降ってくるそれも、どれもに心がこもっている。
「……ちゃんと読まなければなりませんね」
今まで貰ったものも。初めて貰ったものも。どちらもマンハッタンカフェへのファンレターなのだから。
雨が降っている。雨が創る物語というのはなぜ悲しいものばかりなのだろう。雨雲は不安と不吉を予感させるからか。雨の後の虹は爽やかな別れを連想させるからか。
「……はうぅ、ライスがお祈りするといっつも雨だ……」
道すがら、一人のウマ娘を見つける。彼女も雨に頭を悩ませているのだろうか。
「……あの」
「……はい! ……って、マンハッタンカフェさんですか!? あの、私あの映画観ました! 『幸せの青いバラ』……」
私がナレーションをやった映画だ。
「そうですか、ありがとうございます。……あなたは、雨は好きですか?」
「……えっと、ライスは……その。嫌いじゃないんですけど、いつも降らせてしまってるのが迷惑かけてるかな……って」
「……そうですか。あなたが好きでいられるのなら、雨もきっと応えてくれますよ。あなたの世界の主人公はあなただから、あなたは何者にでもなれる。迷惑だなんて思ってはいけません」
現実と物語は違うのだ。全てに因果があって、全てに因果がない。
「ライスも、ヒーローに……」
「お名前を聞いていませんでしたね。覚えておきます」
「……はい、私の名前はライスシャワーです!」
祝福の名を冠するウマ娘。彼女の創る雨は、悲しくない気がした。