「死ね! 死ね! ねえ! はやく死んでよお!」
「なぁカフェ……」
ある日のこと。
「なんですか?」
担当ウマ娘であるマンハッタンカフェと共に、彼女の出演したドラマを観ていたのだが。
「あは、あはは。やった、やっちゃったあ……」
画面に映るのは、血糊をべったりとつけた女優マンハッタンカフェの姿。
「……いや、ちょっと怖いな……」
「トレーナーさん、これはフィクションですよ」
正確には、隣に座る少女がなんの意図でこれを俺に観せているのかわからないのが怖い。ズタズタにされた男がもし自分だったらなどと思ったりはしないが……。
「これで、あたしはひとりぼっちだ。やっと、やっとひとり」
「結構お気に入りの役だったので、見てほしいと思ったのですが」
隣から少し気落ちしたような声が聞こえる。その変化は僅かだが、もうこれくらいなら声色の差を感じ取れるようになった。
「……うん、でもこの子の気持ちはよくわかる。難しい役だろうに、さすがだな」
やっとひとりぼっち。そう言った画面内の少女からは、晴れやかな感情が読み取れる。でも。
「……この子は誰か、わかってくれる人が欲しかったんだ。それがあの芝居だけで伝わった」
「……ええ、その通りです」
一見すれば、このドラマに出て来るマンハッタンカフェは愛と血に狂った少女の役だ。男の存在にうんざりして、殺してしまった。
「……台本から逸脱しない程度に、細かい色を付けていく。演技における醍醐味ですから」
本当は誰も愛せなかった。愛してもらえなかった。そんな情景が、彼女の演技によって色付いていく。
「……すごいな、カフェは」
「お褒めいただき光栄です。……そうだ」
カフェが目の前へやって来る。黄金色の瞳が、吸い込むように見つめる。
「……今度、歳上の男性に恋する役をやるんです。そのきっかけとなる事柄が一つあるのですが、経験がなくよくわからなくて」
「俺が力になれるのか?」
彼女の演技は研ぎ澄まされたもので、俺に何か手を加えられるだろうか。
「……簡単です。頭を撫でて、えらいぞと」
「……なるほど」
少し気恥ずかしいが、それくらいお安い御用だ。
「……偉いぞ。よく頑張った」
さすり、さすり。艶やかな黒髪を撫でると、彼女の耳がぴくぴく動く。緊張でぎこちなく、俺にはやはり演技は向いていないようだ。カフェはというと目を閉じている。演技に活かすため、感覚を集中させているのだろうか。
「……カフェ、どれくらい撫でたら」
「もう少し。もう少し、しばらく。お願いします」
本当はすこし、嘘をついた。そんな役の話など回ってきてはいない。
そのまま、幾億の時が経って欲しいような。目を閉じていれば、永遠にすら続きそうな気がした。