「どうだ、美味しいか?」
レストランでトレーナーさんと二人、小さなテーブルを囲んで昼食を取る。
「トレーナーさんと同じ料理を頼んだんですから、トレーナーさんが美味しいなら私も美味しいですよ」
そう、言って。私はトレーナーさんが頼んだコースと同じコースを頼んだ。メインは寒い時期にぴったりのポトフ。たとえメニューの一つでも、お揃いというのは心が躍るから。……でも。
「……カフェ、周りが気になるか?」
「……ああ、すみません。やはり外国の方というのは見目麗しいものですから」
本当は。きっとあそこの二人も、遠くの二人も。所作から恋人だとわかること。私たちはそうではないこと。それが少し、狂おしい。
「カフェだって綺麗だよ。自信を持ってくれ。なにせ日本代表で凱旋門賞に挑戦するんだからな」
冗談めかして言われるその言葉はきっと親愛で、情愛ではないのだろう。嬉しい言葉だけれど、苦しい。切ない。でも、それが正しい。間違っているのは私で、私に君を愛する資格はないのに。
だけど、求めてしまう。だから、私は明日勝たねばならない。君に漸く報いることができるとすれば、それは私が敗北の運命を超えたときに相違ない。
「……と、ごめん。ちょっと席を外すよ」
唐突に、君が席を立つ。……なるほど。わざわざ言葉を伏せてくれてはいるが、手洗いに駆けてゆく君の姿が見えた。
……と、そこで。ほんの少し、思いつく。いじらしく、おぞましく。ホンを読む上では登場人物の恋心ゆえの行動にも論理を求めてしまうが、実際にはそこに理屈など存在しない。そう自らの行動から思い知らされる。
「おまたせ、カフェ。わざわざ食べずに待っててくれたのか」
「ええ、一緒に食べたいですから」
「いつも気を遣ってしまわせてるな」
そんなことはない。今さっきの行動だって、全て己のためだとも。
「……さ、早く」
「そんなに見なくても」
「トレーナーさんが食べたのを確認したら、私も食べ始めますから」
そう言うと、トレーナーさんは食べかけのポトフに銀食器を挿し入れる。……ああ、たまらない。気づかないだろう。気づくわけがない。
"まさか、皿を入れ替えられているなんて"。
「さ、カフェも食べなよ」
「……! ……ええ、ええ」
……君の指示で、君を求めるなんて。向かい合って、互いを喰らうことの幻視。ああ、まるで。
たとえ罪に手を濡らすとしても、私はそこに幸せを見てしまうのだ。
かち、かち。銀食器の擦れる音は、布擦れの如く。