ようこそひより至上主義の教室へ   作:nagai

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3話 綾小路清隆

 ウルトラハッピー無人島生活編二日目。

 

 昨日水着のひよりという中々刺激が強い物を見てしまったからだろう。なんだか淫猥な意味で幸せな夢を見た気がする。

 

 

 特に深い意味はないのだけれど、急いでテントから這い出て、服のまま海に飛び込んだ。

 

 

 

 

 びしょ濡れの状態で点呼に参加した俺を見て、なぜか誰も不審そうにしてこない。まるで俺が、朝一で服のまま海を泳いでも不思議じゃない人だと思っているみたいだ。納得いかない。

 

 

 折角なのでみんなが遊ぶのに混ざって、服のまま海で泳ぐ。古式泳法を昔一度教わったことがあるので、思い出しながらいろいろ試してみる。水泳はかなり体力を使うが、その分楽しい。

 

 

「さて、昼前にはさすがに着替えるか」

 

 一通り泳いでみてから、いったん水着に着替えることにする。荷物から水着を取って、着替えのためにテントへ入るが、何人か日差しを避けるためにか寝そべって過ごしていた。ここで着替えるわけにはいかないか。あまり見られて困ることもないし、いずれ知られるだろうけれど、避けられるときは避けておこう。

 

 

 

 岩陰を探して、ジャージを脱ぐ。海水が浸み込んでいて、このまま乾かしてもべとべとしそうだ。ビニール袋の中に入れて、船に戻ったらすぐに洗うように覚えておこう。

 下着を脱いで、すぐに水着を履く。一瞬でも外で下半身を露出すると、急に肝が冷えた。周囲にはなるべく気を付けているとはいえ、うっかり見られたら変態だと誤解されてしまう。

 

 それからラッシュガードをシャツの上から羽織り、隙間から引き抜くようにシャツを脱いだ。

 何人か近くにやってきたが、まだ距離はある。会話をしているらしいが、その会話が聞こえないくらいの距離だ。

 

 こんな岩陰にまでやってくることは無いだろうから、少しその場にしゃがんで、傷を確認する。母に刺された傷跡を。

 

 

 まだ一年も経っていない。肝臓近くを刺されて大量出血した。三日後にはある程度体を起こせるようになったけれど、医者に随分と驚かれたものだ。

 かさぶたは剥がれ落ちたけれど、痕はいつまでも残るだろうね。

 

「ふふ……やってくれたね。まったくお前は」

 

 刺された瞬間の事を正確に思い出す。別に完全記憶能力ではないと思うのだけれど、俺の記憶力はかなりいい。すぐに記憶から引き出せないことがあって、それが弱点だけれど。

 ゆっくりと記憶の海へと潜り込む。

 

 ヒステリックな叫び声が耳元で聞こえる。目の前にきらりと光る刃物があって、無意識だったけれど、少し刃先をずらしていたのか、俺は。

 皮膚に侵入した瞬間は気づけない。するりと入って、意外なことに異物感が先だ。それから激しい痛みに――――

 

 

「いっっっってぇ……思い出し過ぎたぁ……」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ひよりを探して一緒に食事をとったりしていると、龍園と誰かが話しているのを見かけた。

 

「あ。綾小路君だ。ごめんちょっと行ってくる!」

 

 

 すぐに走っていくと、龍園がどや顔で何か話していた。駆け寄る俺に気が付いたらしい龍園に手を振ると、死ぬほど嫌な顔をされた。そんな龍園の様子に、綾小路君ともう一人の女子生徒が振り返る。

 

「やぁ! 久しぶり、綾小路君! 須藤君の事件以来じゃないか!」

「あ、ああ……」

 

 須藤君の事件、という言葉に女子生徒は随分と警戒してきた。

 

「須藤君? あなたもあの事件に――」

「堀北鈴音さん? 堀北会長とは仲良くさせてもらっているよ。どうぞよろしく」

 

 堀北会長、と言ったとたんに、随分と大きな反応を見せた。様々な感情を隠せていない。堀北会長の妹とは思えないほどだ。

 

 一応俺なりに学校中の生徒の顔と名前くらいは調べているので、堀北鈴音の事も情報としては知っている。そもそも顔は四月の間に全生徒覚えて数えたし、あとは名前を知るだけだった。

 

 

「兄さんと……」

「うん、でも、堀北さんと話すのはまた今度かな」

 

 堀北妹にはあまり興味を持てない。今は、まだ脅威じゃないだろうし。

 

 

 以前少しだけ接触したことがあるが、今日初めて、綾小路清隆と正面から向き合った。

 

「うん。勝てないな」

 

 少なくとも格闘では無理だ。あまりスキル自体に差はないと思うが、なんだろう、経験値が全然違う気がする。

 

 最初の一回目では、軽く殺される。二回目でも、全力を出されたら死ぬかも。もちろん、綾小路君が殺す気ならだけれど。

 後遺症が残らない程度に加減されるとすれば、五回目くらいから勝負になるか。勝てるくらいに成長できるかは怪しいな。ほとんど人間の上限値に近いだろこれ。

 

「どうだろ、プライベートポイントを支払う代わりに、俺に稽古をつけてくれたりしない?」

「? 何の稽古だ?」

 

 まるで理解のできなことを言われたような表情を浮かべて、惚ける綾小路君。まさに困惑、といった感じだが。

 

「釈迦に説法とは思うが、人間の演技の表情は訓練すれば見破れる。もちろんそれを理解したうえでさらに対策を取ることだってできるけれど、こういう能力は俺の方がまだ上かな。意外と表情のコントロールが甘いね。俺への警戒の仕方が、変な人に絡まれたとかいう感じではない。俺の知識を警戒しているし、細かく分析しているな」

 

 意外な弱点、とでもいうべきだろうか。ただ、この微細な表情に気づける人間が、世界で何人もいるとは思えないけれど。

 

「言っている意味が分からないな」

「まあ、でも、君なら分かるだろ? ある程度見てわかることもあるって」

 

 

 確か、ブランドバッグの真贋判定だったか、普段から使っている人間の場合、深く考えるよりも直感の方が正確に判断できるらしい。職人の知恵というのは間違っていたりする。というのも、これらは言ってしまえば思い込みでもある。そういう考えに凝り固まっている。

 ただ、職人が臨機応変に考えた時の勘というのは、信用できる。

 

 勉強が出来る人間ほど、顔写真だけで勉強が出来る人間を識別できる能力が高い。格闘技に秀でた人間も、経験者を当てられる。

 

 勘なんて言うと、随分とテキトーなものに感じられてしまうが、無意識の判断というと少しはイメージが変わるのではないか。

 

 

 例えば、傷のつき方、認識していないが脳には情報が行く僅かな糸のほつれ方、言語化不可能な色の微妙な違い。これらを無意識に識別して、ブランドバッグの真贋判定をしている。

 賢い人間は、賢い人間のデータを自分という例から毎日得て、それに当てはまる人間を無意識に探し出せる。

 そのほかの能力でもしかりだ。要は、同業者の臭いがする、みたいな。

 

 

 俺は記憶力がいいからか、あるいは観察力が優れているのか、その両方か……とにかく、人間の能力の鑑定に関しては自信がある。

 

 

 綾小路君の能力値だって、ある程度は見ただけで読み解けるつもりだし、今話した例からして、綾小路君も俺の能力をある程度は認識したはずだ。

 

 

「例えば、目の前に最高の教材があるとしてさ……他の本では手に入らない知識の詰まっている本が、目の前にあるんだ。絶対に読みたくなるだろ」

 

 

 綾小路君は今度はほぼ完璧に表情を隠した。一度指摘されて、すぐに修正したか。学んだというよりかは、油断していたのを改めたという感じだろう。

 それでも、ほんの一瞬だけ俺に共感を示した…………気がする。”勘”だけれど。

 

 

「おい。いつまでわけのわかんねー話を続けるつもりだ?」

「龍園……うーん…………」

 

 今すぐにでも本を読みたい(綾小路と一戦したい)のだが、これまで実力を隠しているらしい彼が乗ってくるとは思えない。

 

 

 というか、なら今の俺の行動ってかなり綾小路君からしたらうざいんじゃね? あれ? 謝った方が良いかな。

 挨拶だけのつもりだったのだけれど、綾小路君から学べそうなことが多すぎてテンション上がって、しゃべり過ぎた気がする。龍園も今のやり取りで、綾小路君に注目する可能性があるし、そうなれば目立たないように行動している綾小路君は俺を避けるかも。

 

 プライドと、綾小路君から嫌われて学ぶ機会を失うリスクとを天秤にかけて――――

 

 

 

「たいっへん! 申し訳ありませんでした!!」

 

 即座に土下座した。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 その後、堀北が、交友関係がないにもかかわらずそれでも俺の悪評を聞いているという話をして、龍園もどういうつもりなのか知らないが、「わけのわからねぇ行動ばかりする馬鹿」だの、「高円寺より理解が出来ない奴」だの、根も葉もない中傷をしてきた。

 

 ちょっと流石に傷ついたので、ふえーんと泣き真似をしてひよりのもとへ逃げた。

 

 

 ひよりに流れで抱き着けという悪魔のささやきもあったが、お互い水着だったので、そんなえっちな事はやめて、大人しく横に座る。

 

「……大丈夫ですか?」

「え? 何が?」

「いえ、その……土下座してましたから……」

「あー……」

 

 

 何だろ。たぶんひよりは俺の方を見ていないだろうという考えで土下座したのだけれど、俺の方を見てくれていたらしい。

 それは少し嬉しい。でも、綾小路に土下座しているところを見られたのは、ちょっと……

 

 よし、綾小路ぶっ殺す!




 なんかひよりかわいいってなる話が最近書けてないので、次は最後までひよりたっぷりな話を書きたいです。

 最新刊の物憂げな表情のひよりがちょっと考えられないくらい可愛かったです。

 橋本から「綾小路ひより特別視してるっぽいよ(意訳)」と言われて、とりあえずひより狙おうとする坂柳も可愛かったです。少なくとも坂柳がひよりを狙う事はもうないと思うので安心です。
 

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