ようこそひより至上主義の教室へ   作:nagai

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3話 学力主義

 龍園と不戦の契りを結んだその一時間後。

 俺は受け取った三輪車を漕いで寮へと帰る途中。偶然にも遠くに女神を見つけた。よくよく見ると女神ではなく椎名だ。

 

「Hey! 彼女!」

「おや、志島君……ええとあの、それは?」

「三輪車。名前はヤンバルクイナ6号にした。自転車に乗りたいからまずはこれを極めようと思って。椎名は図書館の帰り? それとも部活?」

「図書館に行ってました。今日は志島君はいらしてませんでしたよね? おすすめの本を紹介したいと思っていたのですが」

「明日は行くよ」

「いえ、クラスで渡せば――」

「いやいや、俺と話すと椎名がハブられかねないぞ」

「えっと……それは志島君の噂と関係があるんですよね? 数人の方に尋ねてはみたのですけれど、私は知らない方がいいと言われて」

「……あー」

 

 確かに。

 この椎名に、不純とは対極のさながら純真無垢が人の形をした大天使に、俺の悪評を伝えるというのは抵抗を覚えてしまうだろう。椎名に対して『アダルト』な話をするなんて、恐れ多いとかいう次元じゃすまされない。

 

「まあ、そのうち俺の評判も回復するだろうから、そうだね、一学期中はクラスではあんまり話さないようにしてもらえるか? 椎名に迷惑がかかる」

「えっと……」

 

 困ったような、悲しそうな表情を浮かべる椎名に、過去の行動をここまで悔やんだ日はない。誰も椎名に話さないのなら、俺から話そう。俺の噂を調べようとしたのならば、少なくとも俺が蛇蝎のごとく嫌われていることは知っているはずだ。だから後はどうしてそうなったのかを告げて、納得してもらうほかない。

 

「椎名。正直に白状すると、先月のはじめに俺はえっちなものを10万円分も購入しまくって、それを全く隠そうともしなかったんだ。それで女子に引かれている。女子たちは俺のことを『変態性欲大魔神人魚』と呼んでいるんだ。普通に犯罪者扱いだ。だから、俺の評判が回復するまでは、クラスではあまり俺と話さない方がいいんだよ」

 

 先ほど石崎に椎名以外どうでもいいと告げたばかりだというのに、ここまですぐにクラスメイトからの名誉回復が急務になるとは完全に予想外だった。

 

「ですが、こうして話していても志島君は悪い人では――」

「ありがとう椎名。椎名がそういってくれるってことは、クラスメイト達もすぐにそう思ってくれるってことだろう? だから、その時まではなるべく、な?」

「そういう事でしたら……」

 

 

 椎名は納得のいってなさそうな様子ではあるが、ひとまず了承してくれた。やはり椎名は人を信じすぎる傾向がある。俺ほどのゴミ人間をここまで簡単に信用しているようでは、将来の椎名がどうなってしまうのか不安で仕方がない。

 やはり俺が守らねば。

 

「そういえば、志島君はテスト対策進んでいますか?」

「うん? ああうん。出来てる出来てる」

 

 椎名は空気を変えるように――いや、あんまり気にしそうにないし、単純にふと思い出したんだろう――そんな話題を出してきた。

 テスト勉強なんて必要ないが、出来ているといった方が無難だろう。小テストで満点を取って調子に乗っていると取られるかもしれないし、そもそも勉強していないなんて言ったら椎名が不安に思うかもしれない。

 

「よかったら私と勉強会しませんか?」

「え? 勉強会? 椎名は勉強できるでしょ? 小テストでも点数高かったし」

「ええ。ですが、満点ではありませんでした。何も成績に不安を感じるから勉強会をするのではなく、より高得点を取るために勉強会をできれば、と」

「なるほど、そういう事なら」

 

 正直な話、あんまり勉強会そのものには乗り気ではない。椎名との勉強会だからやるけど。

 

 というのも、椎名ほどの学力があるのなら、今はクラスメイトの成績が不安な生徒たちに教えてあげてほしいところだ。赤点を取る不安のある生徒はいる。より高得点を目指すよりも、今は底上げの時期だろう。

 

 

「では、今度の休日にでも勉強会をしましょう。では志島君、また明日」

「うん、また明日!」

 

 

 寮の方へ歩いて行く椎名。俺もそっちなんだけれど、なんかまた明日って言って別れた後また一緒に帰るのは気まずい気がする。椎名は気にしないだろうけれど。

 

「まあいいか、まだ本屋は開いてるだろうし、本屋にでも行こう」

 

 

 10万円えちえち商品に費やしたなんて知られて、椎名に絶縁を言い渡されたらどうしようかと思っていたが、杞憂に済んだし、かなり気分はいい。

 

 

「パラリラパラリラ!!」

 

 キコキコキコ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「小テストの成績が危なかった奴は全員参加だ。成績上位者も馬鹿どもに教えてやれ……志島お前は来なくて良い。何を教えだすかわかんねぇからな」

 

 

 翌日。放課後教壇に立った龍園はそんなことを言い出した。まさか龍園が勉強会を開くとは予想外にもほどがあるが。

 

「龍園。お前がそんな催しを開くなんて意外だな」

 

 あまりにも予想外なので純粋な好奇心として目的を尋ねてみる。

 

「さすがにこんな早いうちから退学者を出すわけにはいかねぇ。それに俺の見立てじゃあ必勝法もありそうだしな」

「ふうん? まあ、クラスの学力が上がるんだったら大歓迎だな」

 

 

 学力主義を非難する人はいるが、高校なんかの勉強の良し悪しで実力を決めつけてくれるなんて、ありがたいことのはずだ。

 

 例えば、おそらく勉強においてこの学年で俺の相手になる奴はほぼいないだろう。綾小路や高円寺なんて言う不気味な存在はいるが、それでもだ。

 

 そんな圧倒的に格上の俺に対して、勉強という分野であればどの生徒でも引き分けることが出来る。

 

 俺がいくら8桁×8桁の掛け算を2秒で出来ると言っても、学校の試験は早く解けたことで加点にならない。

 俺が日本史の学術書を何百冊も丸暗記しているからと言っても、学校の試験では出てくる範囲は限られる。

 そして、どんなにいい点数取ろうにも、通常100点からの減点方式である以上、格上相手にいくらでも引き分けることが出来る。お互い100点ならいくらその裏で実力差があったとしても、結果だけなら引き分けだからだ。

 

 

 ゆえに、学力主義以上に平等な基準はありえないのだ。

 決められた制限時間に、有限の問題数。この出題形式では相手がどれだけ格上であっても関係ない。

 位相幾何学を理解していたとしても学校の試験では出て来ない。日本史の背景を細かく論じることが出来たとしても、そこまでは求められない。

 だからこそ、学力――学校の勉強という分野においては相手がどれだけの力を持っていようとも引き分けにできる。学力主義以上に弱者に寄り添ったものはないだろう。

 

 

 だが、今の龍園の言い方からすると、純粋にクラスの学力を向上しようというわけではなさそうだ。

 

 まあ、椎名との勉強会以外に今の俺は興味ないしどうでもいいや。




そういえば今更ですが、主人公は、

「まずえっちなのは女子に嫌われる。だから椎名にも嫌われる可能性があってマジで怖い」

といった理由からアダルトグッズを椎名に見られたくないと思ってました。

 三輪車で走っている様子を見て嫌われるかもしれないとは夢にも思いません。変態ではなくても変人ですので。


 次回は早くても来週の火曜日くらいだと思います。

1000人お気に入り記念になんかやりたいんですが、そういうの今までにやったことないので、何がいいかアンケート取ります。

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