ようこそひより至上主義の教室へ 作:nagai
「なんでこんなことに」
「それは俺のセリフだ」
椎名との楽しい勉強会のあった休日はあっという間に終わり、また楽しい学園生活が始まった。何でも楽しいからいいんだが、今のこの状況だけはあんまり楽しくない。
放課後の誰もいない教室にて、こちらを睨みつける石崎。金田が石崎を扱いきれないからという事で、いつものように勉強会にちょっかいを出しに行った俺に押し付けてきやがったのだ。
「まあいいや。石崎、まじめにやれよ」
「……やっても分かんねぇんだよ」
壊滅的に勉強が出来ていない――とまではいわないが、安心できるかと言われるとそうでもない。龍園がなんとかするだろうと放っておいてもいいのだが、石崎との信頼を勝ち取るいい機会でもある。
「まあ、それを何とかするために勉強会があるんだが。とりあえず中学の内容から確認するぞ」
「あ? それぐらい――」
「できるんなら証明しろよ」
高校のこの時期の勉強が分からないと言っている時点で、中学の勉強が出来ているはずがない。まずはそこから始める必要があるのだが、なんでかわからないが勉強できない人ほど基礎をやりたがらない。
睨みつけてやるとしぶしぶといった調子で、俺の持ってきた中学生向けの小テストを解き始める。
英語は現在完了が怪しく、数学は案外できているが計算の仕方が回りくどい。数学は解説で端折られている途中式が分からずに理解できないのだと判断、まず教えるべきは英語だろう。知らない単語も多そうだ。
「しかし教えると言ってもなぁ」
「なんだよ志島。お前成績いいだろう?」
「じゃあ英語の勉強法を教えてやろう。
まず簡単な英和辞書を丸暗記するだろう? そのあと英英辞書を丸暗記。もちろん発音記号を読んで発音も一緒に頭に叩き込む。あとは動画で英語喋ってんの見れば完璧だ」
「できるか!!」
「だよなぁ。まあ、とりあえず教科書の解説読みながらわかんないところを聞いてくれ、分かんないところは全部聞いてこい。だが、今はとりあえず英単語でも覚えろ。とりあえずノート埋め尽くすくらい書いて覚えろ」
「なんだよ。書きまくるのは非効率だって金田が言ってたぞ」
なぜだか得意げな様子で言う石崎。殴りたくなったが我慢だ。
「それは勉強する奴の話だ。書きまくるのが非効率なのは事実だが、やらないより非効率なことがあるか。お前の場合はまず勉強する習慣をつけろ。英単語書きまくるのは始めるハードルも低いし、やる気が出ないときなんかにまずはそれからやるといい」
「ちっ、偉そうに。なんでこいつなんかを龍園さんは見逃してんだ」
「そりゃあ……まあいいや、とりあえず俺が教えるからには赤点はありえない。安心しろ」
龍園はおそらくあの交渉が、龍園亡き後に俺がクラスを支配するにあたって有利になるためのものだと気が付いているだろう。それに気が付いたとしても龍園は俺に手を出せない。約束を律義に守っているのではなく、俺と敵対してクラスが崩壊することを避けたいからだ。もしも龍園と戦うことがあるとすれば、龍園が他のクラスをすべて下し、Aクラスでの勝ち残りが盤石のものにあった場合だけだろう。
「ああ、クッソ。なんで勉強なんかしなきゃなんねぇんだ」
「そりゃあ学生だからだな」
「意味ねぇだろ。俺は英語なんか使わねぇよ」
「ふむ」
確かに、石崎が今後英語を使うかと言われれば、あまり使うことは無いだろう。大学に進学しないのならば、あるいは海外に行かないのならば、日本にいて英語を使えなくて困ることはまれだ。
しいて言うなら将来石崎が、英語を母語とする人間を好きになった時に後悔するだけだろう。
なんて思ったら大間違いだ。
「石崎。お前は英語をしゃべれるようになって、アルベルトに英語で話しかけて見ろ」
「あ?」
「外国語を学ぶ意味はいっぱいある。海外の文化や思想といったものが、その言語には深くしみ込んでいる。外国語を学ぶことは視野を広げることにつながる。ほかにも、特に日本だと外国語が出来るだけで尊敬されるし、いざというときにかっこつけることもできる。けれどそんな抽象的な目的や、いつか使うかもしれないなんて言う可能性は、語学習得なんて言う苦行を乗り越えるモチベーションにはならない。
何のために語学を学ぶのか、それはな石崎。誰かが自分の言葉で話しかけてくれたらうれしいからだ。自分のためじゃなくて、人のために勉強しろ。アルベルトと仲良くなれるぞ」
「……アルベルトとはもう仲がいいから必要ない……けど、まあ、やってやるよ。それと、悪かったな志島。お前のことを誤解してたみたいだ。とんでもない変人で、冷たい奴だと思っていたんだが」
なんか石崎からの評価が上がった。適当なこと言ってただけなのに。
実際石崎は仲間思いだし、誰かのために何かをする方がモチベーションが上がるだろうと思っての事。全く思ってもないことを言ったわけではないが、それで俺のことを優しい奴だとでも思ったのなら大間違いだ。だが、石崎からの信頼を少しは得られたのならばよかったと思おう。
☆
「というわけで、放課後石崎に勉強を教えてたんだよ」
「石崎君は大丈夫そうですか?」
「まあ、なんとかなる…………それより騒がしいな」
所と日付が変わって放課後。
今日は椎名と共に図書館にいた。今日くらいは勉強ではなくのんびり本を読もうという事でやってきたのだが、のんびりという雰囲気にはなれない。
「そうですね。図書館にしては少々声を張りすぎです」
困ったような表情の椎名は可愛いが、それはそれとして椎名を困らせる奴を生かしては置けない。
「ちょっと注意してこようか」
「いえ、近くにいる生徒が注意するでしょうから、すぐに静かになると思います」
顔を確認しに行こうと思ったのだが、椎名がそういうのなら見逃しておこう。だが声は覚えた。
「そうだ、椎名。ちょっといいか?」
「なんでしょうか?」
俺が椎名に声をかけると、椎名は本を閉じてこちらをじっと見つめてきた。心臓が高鳴る。
「よかったら下の名前で呼んでもいいかな?」
「別に構いませんが」
「まじで! やっ――――」
叫び声をあげそうになったのを慌てて抑える。周りがうるせぇぞというような目で見てくるので遅かったようだ。周りに頭を下げて謝ることにする。
「それでしたら、私もいいですか?」
「え? 何が?」
椎名――ひよりは俺に問われて微笑みながら、
「私も下の名前で、■■君と」
「……うん。ぜひそう呼んでくれ。椎名――じゃなくてひより。今から俺の話を聞いても、そのまま下の名前で呼んでくれ」
「? はい。それはもちろんです」
「ひより、俺はな――――」
次回こそ遅くするといったのに守れなくて大変申し訳ございません。
評価されれば続きを書く現金な性格で、勢い余って書きました。
次回は絶対に本当にマジで何がなんでも遅くなります。
1000人お気に入り記念になんかやりたいんですが、そういうの今までにやったことないので、何がいいかアンケート取ります。
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