ようこそひより至上主義の教室へ   作:nagai

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 一日で書いたので、ミスが多いと思います。ごめんね。


7話 志島■■

「銭湯に来るのは初めてだなぁ」

 

 中間試験は明日。余裕のない生徒は今頃最後の追い込みに専念しているだろうし、余裕のある生徒は明日に備えて体調を整えているところだろう。

 俺は今更勉強することもないし、体調面でも不安はないので、適当に過ごしているのだが、ふと見かけた銭湯に立ち寄ってみることにした。

 乗ってきた三輪車を、盗まれないように街灯にチェーンでつなぐ。

 

 

 人前で裸をさらすことに抵抗はあるが、人がいなかったので良かった。もちろん誰かがいても我慢して入ったんだが、やっぱりいない方がリラックスできていいだろう。広い露天風呂に、肩まで入って一息つくと、急に眠気に襲われる。ここで眠ったら最悪死んでしまうかもしれない。

 

「釣り竿でも持ってくればよかったな」

 

 魚が釣れるわけはないのだが、お湯の中に魚がいると思い込みながら釣りをしていれば、集中して眠気覚ましになっただろう。しかし持ってきていないものは仕方ない。次に来るときは忘れず持ってくるとして。

 

「サウナにでも行くか」

 

 サウナというものに興味はあった。向こうの方ではサウナに入った後雪に飛び込んだり、冷水に飛び込んだりするらしいが、見たところそういった設備はないようだが、冷水はシャワーでもいいのだろうか。

 

 

「……おや」

「……」

 

 サウナの方に行ってみると、先客がいた。引き締まった体つきで、怜悧な顔立ちの男子生徒。この学校に在籍している人間ならば一度は見たことがあるだろう。

 

「生徒会長さんじゃん? こんばんは」

「……一年か」

 

 この生徒会長もかなり優秀な人間であることが窺える。以前にも話したが、殆ど特殊能力に近いとは思うのだが、ある程度見ただけで人間の格付けができる自信がある。

 この会長には負ける気はしないのだが、簡単には勝てないだろう。人間はそれぞれ特別なので、簡単に上位互換だなんて表現は使いたくはないのだが、葛城の上位互換だと思えばわかりやすい。

 ところで。

 

「初めまして生徒会長。僕は一年Cクラスの志島と言います」

「……『あの』志島か?」

 

 ええ……会長もそういう反応なのか。

 

「たぶんその志島です」

「お前の話はよく聞く。よくない噂が多いようだが、それ以上に、上級生に探りを入れてきている一年生がいるという噂だ」

「おや、そんな噂が? まあ事実ですけれど」

「何が目的だ?」

「もちろん快適な学生生活ですよ。そのためには情報も必要でしょう?」

「それが目的だったのなら悪手だったな」

「南雲のことです? 彼は確かに面倒そうですけれど、徹底的に関わらないようにすればたぶんそんなに面倒じゃないですよ?」

 

 

 南雲副会長。正直言って嫌いだ。そもそもチャラい人は好きじゃない。

 南雲が優秀かどうかと問われれば、間違いなく優秀だろう。二年生Dクラスに探りを入れ始めてすぐに、南雲の方から絡んできた。クラスの垣根を越えて、二年生をある程度支配しているらしい。

 その事実だけで果てしなく優秀であることが分かる。もちろん運や性格もあるだろう。例えば坂柳の場合は現在Aクラスは分裂し、性格的に学年全部を纏めようとはしなさそうだ。

 龍園もあのやり方だとクラス一つが限界だし、一之瀬はそこまで支配的な行動をとれない。

 

 やはり唯一可能性があるとすれば綾小路か高円寺だろう。

 

 この言い方だとあの二人並みに優秀だという事になるが、そうではない。レベルとしては坂柳に届くかどうか。ちゃんと対策すれば勝てる。

 万全の準備をして、不意打ちでハメようとしても食い破ってきそうな綾小路と高円寺には劣る。

 

「お前は目を付けられやすい行動で有名だ」

「そうですね? それだけですか?」

「何?」

「いえ、会長が事実確認だけの発言をしたことに違和感を感じまして。もしかして今、俺が南雲の支配下に無いか探りを入れたのかなと」

 

 見た感じ会長の方は坂柳よりも優秀。つまりは南雲より上だ。その南雲を会長が警戒していることも三年生への探りからわかった。

 二年生と違って三年生は統率がされていない。どちらかというと三年生の情報の方が多く手に入ったくらいだ。

 

 なんて話を会長にしたうえで、

 

「なので、どうにかしないと食われますよ? 南雲には情報を取られて、こちらは情報を取れないなんて状況になりかねません」

「……問題ない。南雲は俺との正面からの戦いを求めている」

「そうですか? ああいうチャラ男は負けそうになったら顔を真っ赤にして反則技でも使ってきそうですけれど。まあ、勝てば官軍ですけど」

「お前もそういったやり方か? Cクラスと言えばお前と龍園の話は三年生にまで聞こえてきている」

「まあ、否定はしません。俺のやり方は父の教えを反映しています。まずは反則で勝って、向こうが卑怯だと騒ぎ立ててから正々堂々と勝つ」

 

 俺の父は妹との結婚――つまりは事実婚なのだが――をプロボクサーの祖父に猛反対されたらしい。まあ、当たり前なのだが。そんな父は全くボクシングをやっていなかったらしいのだが、祖父とボクシングで対決して結婚を認めてもらおうとした。結果として二勝。まずは回し蹴りで一勝。卑怯だともう一戦を申し出た祖父を受け入れて、ボクシングのルールで徹底的に叩きのめしたという。

 父の妹、つまりは俺の母は、その時のことをよく恍惚とした表情で語っていた。

 

「いやなやり方だ」

「……さて、俺としては南雲の作る学校は嫌なので、出来ればあなたを支持したいところなのですが」

「信用ならないな」

「俺の目的はひよりと楽しく学校生活を送ること。実力主義みたいなギスギスした教室は嫌なんですよね。やっぱりひより主義の教室を作っていきたいところです」

 

 

 俺の言葉に、会長は黙ったまま。さてどうしたものかと考えて。

 

「そうですね。信用のためにも、あなたには俺が入学してから何をしてきたのか、お話ししましょう」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「どうしたものかな」

 

 あふれるアダルトグッズの数々。最初の五日間、俺はポイントが変動する可能性に気が付いて、一切ポイントを使わずに過ごした。もちろん、食事代くらいは使っているが。

 

 そうして温存していく予定だったポイントをすべて吐き出したのが五日目。登下校する生徒の中に、頭のおかしい生徒がいた。俺は父親と同一の存在になるために、血の滲むような努力をしてきたのだが、それをはるかに超える実力、資質。そこまで正確なことはわからないが、なんとなくまだ伸びしろがあるのではないかと思う。そんな化け物が二人だ。

 

 そりゃあ、嫌になってこうなるさ。

 

 

 

 その絶望も七日目に吹き飛んだ。運命と出会ったとでも言えばいいのだろうか。椎名ひよりという大天使。俺は彼女と出会うために生まれてきたのだと確信した。

 これは俺の持論だが、天才ほど論理的思考をしていない気がする。世間は論理的に論理的にというが、論理的思考はあくまで手段、所詮はツールに過ぎない。それを崇拝している人間が一定数いるのが気に食わない。天才は問題に遭遇した瞬間、答えにワープする。それがあってるかどうかが簡単に判断できないのが難点だが、よくよく天才と言われた人間の話を見てみると、まずは確信があってから理由付けしているのが分かると思う。

 

 答えにたどり着いた天才は次に行動する。自らの直感が正しいことを、神に与えられたこの能力が唯一無二の絶対のものであることを証明しなければ、生きていけないからだ。天才は挫折しないのではない。挫折を乗り越えた先に成長があるなんて青臭いことも言わない。

 挫折しようがしなかろうが関係ない。最後に自らの正しさを証明したものこそが――天才、勝者となる。

 

 

 

 ☆

 

 

「それで、上級生と交渉するだけのポイントをどうやって手に入れた?」

「簡単ですよ。まずは一年生の情報を重点的に調べました。今やろうと思えばクラス間の争いがあるという意味でも、俺が悪名高いという意味でもできないですが、その時は簡単でした」

 

 

 そこで少し役立ったのがアダルトグッズだったりする。こっそりと取引に使えるし、おとなしい生徒をうまく選べば、アダルトグッズで取引したことがばれたくない心理も働いて、俺に情報が渡った事すらばれない。

 特にBクラスの生徒、俺はヤンバルクイナ1号と呼んでいるんだが、彼はむっつりスケベでべらべらとクラスの情報を漏らしてくれるくせに、Bクラスにはそのことを話していない。

 ただ、彼は小心者なので、これ以上情報を寄こせと言っても、仲間を裏切る罪悪感と、そのことがばれる恐怖、誰にもバレたくない秘密であることなどがごちゃごちゃになって壊れてしまうので、もう使えない。

 

「そうして手に入れた情報をもとに、交渉の相手を葛城、そのあと坂柳にしました」

 

 葛城は噂以上に慎重な男だ。Sシステムの予想が間違っていたら十万あげる、なおかつSシステムがあると仮定して態とクラスの評価を落とす行動をすることを条件に五万ポイントを手にした。

 そのあとの交渉相手の坂柳には、葛城とそういった契約を結んだ事を話し、葛城を落とすときにはどんな状況でも必ず手を貸すことを条件に、葛城が完全につぶれるまでは不可侵であることを契約した。

 

 

「葛城は攻めては来ないでしょうけれど、坂柳は面白がってこっちに火の粉を飛ばしてくる可能性がありますからね。いつか戦うことになるのは分かっていますが、今この状態で出しゃばってこられると面倒なんてものじゃすみません」

 

 実際坂柳と対決するときは、父の教えに則ってやろうと思っている。まずはどこかで不意を突いて叩き潰す。周りの目から見ても汚いと思われるようなやり方で、それでいて俺が勝ったという事だけは事実となるように。坂柳は正々堂々とした再戦を申し出てくるだろうから、そこでもう一度潰す。

 

 どちらにせよ、一番の敵はDクラス。今やるべきことは安定化だ。下手に刺激しまくるよりは、地盤固めに集中して、少しでもDクラスとの差を広げることを意識する。

 そういう意味では、接触したこと自体もあまりよくはなかったといえるが、葛城にも坂柳にも、俺が龍園のやり方に少しずつ反旗を翻そうと思っていると伝えてある。葛城は龍園のやり方が理解できないだろうから、おそらく信じている。坂柳は分かっていても、それはそれで面白そうと考えて放置するだろう。

 葛城に対しては、内輪揉めの可能性を見せて警戒心を減らさせた。

 坂柳に対しては、逆に少しだけ興味を持たせることによって傍観させた。

 

 

 そのあとはポイントを使ったりして上級生から情報を聞き出す。

 優秀な人間からしたら考えられないことではあるが、人間というのは案外簡単に情報を漏らす。こっちが知っているフリをすれば、金を払わずに、こっちが知っていることを前提として情報を話す馬鹿もいる。

 

「とまあ、そのあとは知っての通り」

 

 俺があれだけアダルティーな言動を繰り返したのは、この時に交渉した人間の口をふさぐ目的と、クラスポイントを減らす目的がある。こんなやべー奴と交渉したとなると、そいつの評価はダダ下がりなんてレベルじゃない。

 事実として、殆ど俺とつながっている上級生の存在は、南雲以外にはばれていない。三年生にもなると、誰にも気づかれていないのではないだろうか。

 

 

「お前の話が事実である保証はない」

「まあ、ここで『そうかお前は味方だ!』とか言い出したら情報くれた人と同レベルですから」

「だが、事実であるとして。お前は綾小路を知っているな?」

「……そんな事話していいんです? まあ知ってますけれど、下手したら俺に情報を与えただけでなく、あの綾小路から恨まれたかもしれませんよ」

 

 さすがに二か月目になると、集めなくても情報は入ってくる。

 どうやら綾小路は平凡な生徒を装っているらしい。あれだけの化け物が、ちょっとの片鱗でも見せようものならすぐに噂になるはずだから間違いない。

 

「お前の話からDクラスについて、一切出て来なかった。お前はDクラスだからとそれだけで舐めるような生徒ではないだろう」

「決めつけるのはよくないですよ? 俺が上しか見ていない足元お留守さんかもしれませんし」

「見ただけでもある程度の判断はできる自信がある。お前はふざけた奴に見えても、その実考え抜かれた言動をしている。ついでに教えろ。あの三輪車で走り回る奇行には何の意味がある?」

「え? 奇行? は?」

「……なん……だと……まさか、お前は――あれは……」

「え? どういうことですか?」

「まて、ならば、水たまりで釣りをしていたというのは?」

「あれは精神統一ですよ。釣れるとは思ってません」

「凧あげをしていた理由は?」

「楽しかったですよ?」

「……」

 

 

 堀北会長はどうしたことやら項垂れて、しばらく動かなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間試験本番だ。

 

 何人か不安そうな表情を浮かべているが、龍園の持ってきた過去問が行き渡っているのならば、誰も退学者は出ないだろう。それでなくとも、難しい問題というわけではなかったし。

 

 

「それでは中間考査を始める」

 

 いつもよりもいくらか硬めの口調で、担任の坂上先生がいい、前の席から順番に問題用紙を配り始めた。受け取った俺は自分の分を受け取らずに後ろに回す。

 俺の後ろの席の生徒は困惑した様子だったが、回すように言うと素直に従った。当然、坂上先生は俺の分を配っていないので、数もあっている。

 

「志島の分はこれだ」

 

「あ? どういうことだ」

 

 俺に直接問題用紙を手渡した坂上先生に、龍園がかみついた。他の生徒もどこか訝しげに俺を見て、ひよりだけがどこか寂しそうな顔をしていた。

 

「志島。話しても?」

「まあ、毎回こういうことになるでしょうし、これまで誰も俺の事気にしていなかっただけで、そのうちどこかで問題が起きそうですし構いません」

 

 

「龍園。いや、クラスの全員に伝えておくが、志島は、自分の名前が認識できない」

 

 

 俺に配られた問題用紙には、あらかじめ俺の名前が印字されていた。入試の時は名字だけ書いて出したが、入学後は学校側も配慮してくれている。

 

 

 こうなってしまったのは母親原因だ。

 

 母親を恨んでいるかと問われれば、恨んでいるような、恨んでいないような、微妙なところだ。父親が死んだときのあの狂乱ぶりを思い出すと、しょうがないという気もする。

 

『どうして……どうして……』『そうだ……いないのなら、もう一度そこに――』

 

 泣き叫び続けて、声が出なくなった母親が、久しぶりに笑いながら俺に言った。

 

 父親に、志島貴之になれと。

 

 

『志島■■』

 

 知らない漢字なんてほとんどないはずなのだが、どうしても志島より先の文字が読めなかった。




 しばらくオリジナルとか書くので、更新は二年生編の六巻ぐらいで書きたいと思います。
 一応キリいいですし。
 実はもうオリジナル書いているので、慌ててこれを仕上げたのでミスが多いでしょうが、そのうち修正します。

 ところで南雲ネットで滅茶苦茶舐められてますけど、実際鬼有能だと思います。三下ムーブがあれなだけで。

 感想いっぱいありがとうございます。そのうち全部返しました。

 

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