知っての通り、ウマ娘には二つの名前がある。
一つは戸籍に記載される名前、もう一つはレースの際に名乗る名前である。
一説によれば彼女達は別世界の名前を持って生まれてくるという。
しかし別世界の名前と言っても、彼女達はいつその名前を自覚するのだろうか。
そしてなぜウマ娘と共通の遺伝子を持っているはずのヒトは別世界の名前を持って生まれないのだろうか。
その部分に焦点を当てて、この章ではウマ娘の持つ「特殊な名前」について考えていこう。
まずウマ娘の名前についてだが、過去にも同じウマ娘の名前が存在したという歴史的な事実から見ていこう。
有名な例では、約800年前の我が国の武士に「成田無頼庵」の名前がある。
これは現在G1戦線で活躍するナリタブライアンと同名であり、また黒髪で気性が荒いという類似性が見られる。
さらに13世紀モンゴル地方では、バクシンオという名の綺麗な桃色の髪の快速ウマ娘が仲間からバカにされ砂漠を踏破しようとして途中で力尽きたという童話が残っている。
これは恐らくではあるが、話の内容からして短距離ウマ娘のサクラバクシンオーではないかと思われる。
これ以外にも、現在生きているウマ娘達と同じ名前のウマ娘が過去の歴史の中に散見される。
これらの容姿や性格、伝わる伝記の内容についても現代のウマ娘達の持つエピソードと類似点が多く、単なるそら似と言うには一致点が多すぎる。
なぜ時代を超えて、似ている名前と性質を持つウマ娘が存在するのだろうか。
私はこの仕掛けの原因がウマ娘の遺伝子にあるのではないかと考えている。
そもそもウマ娘とはヒトをベースに創られた特注兵器である。
兵器とは完成品の性能にバラツキがあってはならないものであり、基本性能の安定性が重要視される。
恐らく最初期ウマ娘の遺伝子の基本設計図は共通のものであったのだろう。
そこから用途に合わせて様々な特徴が付加されたウマ娘が誕生した。
性能が変われば運用も変わり、その管理のために、ウマ娘としての特別な名前=コードネームが遺伝情報として登録された、という仕組みだ。
しかし現代のウマ娘の名前を見てみると、ナリタブライアンとナリタタイシン、メジロライアンとメジロマックイーンなど一部に名前の規則性が見られるものの、名前と性能にについては関連性が見えず、コードネームとしてはいささか適当さが過ぎる。
そもそもコードネームならばもっと簡略化すべきなのに、あえて名前と性能の関連性をズラすようなネーミングをしている。
これについては情報かく乱が目的だったのか、それとも名付け親の拘りなのか、それとも現在には伝わっていない特別な関連性があるのか、今となっては知る由もない。
兵器として運用されていた頃のウマ娘は人工的に設計された受精卵を母体に戻し出産させることで、計画通りの個体を生産することができただろう。
しかし世界戦争が終わり、文明が崩壊したのち、ウマ娘達は戦うことから解放され、各々が選んだヒトとの間に子孫を残していった。
最初は母親のウマ娘の遺伝子を半分受け継ぐために、母子ともに同じコードを備えてしまい、同じ名前できっと苦労したことだろう。
しかしウマ娘がヒトと長く共存し交配が進むと、人々の中には数多くのウマ娘の遺伝子が入り込んでいった。
そしてウマ娘の遺伝子の中に最も高濃度で存在する「古代のウマ娘」のコードが、そのウマ娘の特徴、すなわち名前や形質として現れてくるのだ。
ここでどうしても解決しなければいけない壁が出てくる。
「同じ名前のウマ娘は同時代に一人しかいない」という事実である。
本来ウマ娘とは兵器として作られた生物である。
普通の銃器を装備し組織として動く連隊ならばいざ知らず、彼女達は一騎当千の特注品として人類の英知を集めて創られたエリート戦士なのだ。
特注品のはずなのに同じコードを持つ兵器が複数存在するのは兵器の運用管理上あってはならない。
となると、同じ兵器が複数存在しないように何かしらのロック機構があると考えるのが自然であろう。
しかし高度な文明が存在し、そのような情報管理ができた時代ならいざ知らず、それ以降の文明崩壊の時代にも同じような管理システムが存在したとはいささか考えにくい。
それでは最初から遺伝情報の中に「コードのダブり」が発生しないようあらかじめ設計されているのだろうか?
しかしそれでは純血のウマ娘とヒトとの間に産んだウマ娘が存在できないことになる。
誠に無念であるが、この仕組みについては現在も解明する糸口がつかめていない。
もしかしたら我々がまだ未発見の場所で古代文明の管理機器がウマ娘のコード管理を続けているのかもしれない。