Vtuber、罠にかける   作:人間のくず

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1話 オスガキ

 

「今日は、重大発表というタイトルを見て来てくれた方が、大勢いらっしゃると思います」

 

 意図的にゆっくりと、ひとつひとつ。

 少しでも気を抜けば震えてしまいそうになる声を、手と腹筋に力を入れて必死にひた隠す。

 それ自体非難されるような事ではないとは思う。

 何せ重大発表だ。今までも様々な場面を乗り越えてと自負しているが、こんなに大々的にとんでもない発表をするぞと銘打ったのは初めてだった。

 勿論SNSでもしっかりと告知をした。

 思い付く限りの知り合い、同業者にも是非見て欲しいと声を挙げた。

 

 次から次へと、丸で波のように流れるコメントはいくら隠そうとしても伝わる緊張感に困惑している様子も見てとれた。

 

『荒らしやめろ』

『緊張してる?』

『相変わらず声は綺麗だな』

『地上波進出とかか?』

『釣り』

『勿体ぶんないでくれ』

『うおおおおおお!!!!!妊娠!!!妊娠発表!!!妊娠確実!!!!!』

『声震えてね?』

 

 画面に流れる文字列は、生きているかのように目に突き刺さる。

 ひとつ息を吸って、吐く。

 

「私は、今まで皆様に大きな、大きな隠し事をしていました」

 

 まるでライブに湧く観衆のように、コメント欄がうねって流れる。

 

「私、小森こずえは」

 

 今までずっと騙していた。

 アナウンサーのように綺麗だと皆様に褒めて頂いた声色を保つ事がこれほど難しいとは思わなかった。

 

「わ、わたし、コモリコズエは……」

 

 もう耐えられなかった、我慢が出来なかった。

 自分の気持ちを、伝えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ざぁ〜んねん♡ 女じゃないでーす!! オ・ト・コ・でした〜♡」

 

 声色を変える。努力して作り込んできた小森こずえとしての声色を。

 腹の底から押し寄せる衝動に笑いが堪え切れない。配信で見せていたような上品な笑い声ではなく、時折引き笑いが混ざるような下品な男の、笑い声。それを自覚するだけで更に笑いが込み上げてくる。腹が、はらがいたい……とバンバンと音を出して机を叩く。

 今まで見た事もないくらいの速度でコメントが流れていく。最早読む事すら儘ならない。

 

「……あぁ〜、笑った笑った。皆様〜? 見てる〜? えー、隠し事というのは先程言った通りで、ワタクシこと小森こずえは、今まで清楚系Vtuberとして活動してきたこのワタクシ、小森こずえは、女性ではなく」

 

 とてつもない速度で流れていくコメントの中にひとつ、思わず目に入ったその一文に自然と口角が上がった。

 

『裏切ったのか』

 

 楽しくなって、小森こずえとしての声に戻して、清楚という言葉とは程遠い媚びた声を出す。

 

「男性、男でした♡」

 

 この日、小森こずえの小さな森チャンネルは1動画あたりチャンネル史上最も多い再生数を記録。

 

 炎上した。

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