裏ボスの裏ボスによる裏ボスのための戦いっ!~裏ボス黒猫がただ無双していく物語~   作:霧夢龍人

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宵闇に浮かぶ赤の瞳は何を映すか

「ねぇねぇお母さん!寝る前に、今日もあの御伽話聞かせて!」

 

「んもぅ、またなの?…しょうがないわねぇ」

 

夕闇迫る空の下、頑丈そうな煉瓦で出来た家の中に一組の母子がいた。

 

子…女児は愛らしい瞳で、母に御伽話をねだる。いつも聞かせているのだろう、母も口調とは裏腹に、満更でもない様子で語り始めた。

 

「昔々、あるところに一匹の小さな黒猫がおりました。その猫は、生まれながらにして自由を求め、様々な土地を冒険していたのです」

 

と、一区切り入れて、母は我が子を見る。

 

期待に瞳を輝かせ、まだまだ寝つきそうにない。仕方なく、再びまた語り始めた。

 

「ところが、その猫は冒険し、世を知る旅に、他の動物や人の穢れた感情に影響され、どんどん傲慢になっていきました……小さな体躯に、その身に余る傲慢さ。神はその黒猫に傲慢の罪を与え、さらに贖罪のために謙虚の美徳を与えました」

 

ゆっくりと優しく語りかける母。その物語に引き込まれている様子の女児。

 

やはり親子というべきか、似たり寄ったりのその姿は、同じ血筋を感じさせた。

 

「だが、自由を追い求めた黒猫は、美徳という名の制約に縛られる権能を嫌悪し、今度は怒り──憤怒のままに暴れました。憤怒の化身と化したのです……しかし、これを放っておく神ではありません。次は全力でとばかりに、慈愛の権能と残りの五つの権能を用いて、神は猫の自由を封じたのです。猫は怒りの力で、全ての七つの禁忌の力を解放したのですが、それでも神には及ばず……結果、七つの制約に囚われた猫は、己と神を恨み、永い永い眠りにつくのでした……」

 

「………黒猫さん可哀想だね」

 

何度も聞いている筈なのに沸き上がってくる哀しみの感情。幼い子供が故に、感情を抑える事を知らないためか、眉を歪め、輝かせていた筈の瞳が色を落とす。

 

「確かに可哀想かもしれないわね……でも、黒猫さんは罪を改める機会を与えられた筈だわ。けどそれも無視して自由を追い求めたのは、黒猫さんの責任よ?」

 

「うーん……あっ!」

 

納得はしているが、どこか腑に落ちない様子で考えこむ女児は、暫くの思考の後、何かに気付いたように声をあげた。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、今ね、黒猫さんが窓にいたの。でもいつの間にか消えてて……気のせいなのかなぁ?」

 

「あら、もしかして今の話を聞いて、黒猫さんが起きちゃったのかしら」

 

娘の言った事を肯定も否定もせず、ただおどけたように笑う母。

 

二人は知らない。

 

娘が目撃した猫の正体を──いや、娘はいずれしり得るかもしれない。

 

只の黒猫の姿をした、制約に縛られし咎人の姿を。

 

今日も人知れず黒猫は哭くのだ。

 

 

己の自由を奪った神を思って。

 

 

今日も猫は泣くのだ。

 

 

可愛らしく、まるで人畜無害かのような表情を浮かべつつも、目だけは紅い月のように爛々と輝かせて。

 

 

今日も猫は鳴くのだ。

 

 

いつの間にか宵闇へと化した夜空を見上げて───「ニャア」───と。

 

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