芹原緋夜はどこにでもいる大学生だった。
ただ両親共に俳優兼モデルであったためその容姿は誰もが二度見するほどの美人だった。また、幼い頃から趣味で色々なことを嗜んでおり興味本位にいろいろなものに手当たり次第に手を出したため、本人の器用さも相まって基本的になんでもできた。成績も良く運動もできるため緋夜は何をするにしても常にトップだった。それでも緋夜はその性格だけに人に好かれていた。
そんな緋夜がいつものように講義を終え自宅に帰ろうとして道を曲がった時、高校生の女の子とぶつかった。
「ごめんなさい、大丈夫? 怪我してない?」
「いえ、大丈夫です。すみません」
「こちらこそ、ぶつかってしまってごめんなさい」
そう言って差し出した緋夜の手を女の子が掴んだ時、二人の真下に魔法陣が現れ、咄嗟に女の子を抱き寄せた。
緋夜は女の子を庇いながら見知らぬ床に座っていた。一瞬の静寂の後、部屋を揺らすほどの歓声が響き渡った。
「成功したぞ!」
「聖女様の降臨だ!!」
「これで我が国は救われる!!!」
訳が分からず戸惑っていた緋夜だが彼らの会話からどうやらどっかの異世界に召喚されたらしいと理解する。こういう時に冷静になれるのは両親の教育とファンタジーオタクのおかげだろう。
緋夜は数あるジャンルの中でも異世界物が大好きだった。いろいろなジャンルを読むが異世界ファンタジーだけは特別熱中していて、その異常なまでのハマり具合からいつしか『ファンタジーオタクの残念美人』と言われるようになった。それこそ自室の本棚が全て異世界もので埋め尽くされるほどには。家族も友人もここに関してだけは早々に諦めた。
だからこそこのような事態になっても状況がすぐに把握することができた。緋夜が咄嗟に庇った女の子は状況が分からず緋夜の腕の中で震えていたが無理もないだろう。
そんな状況にも関わらず歓声を上げ続ける人達に向かって緋夜が声をかけた。
「あの」
緋夜が声を発した途端あたりは静まり返り視線が集まる。そしてしばらくの沈黙の後、一人の人間がこちらを指差し震えていた。
「な・・・・・・ななな・・・・・・せ、聖女様が二人っっ!?」
その声に同調して周りが騒ぎ出す。
「馬鹿なっ! 今まで召喚されたのはお一人だけのはずだ!」
「召喚が失敗したのかっ!?」
「そんなはずは・・・・・・っ!」
口々に喚き出す周囲とは対称的に緋夜は冷静に状況を理解する。彼らの会話から察するにどうやら本来ここの呼ばれるのは一人だけだった。しかし目の前には二人いて、今までは一人しか召喚されなかったため大混乱、といったところだろう。向こうで何が起きたのかなど彼らは考えない。召喚というものが意味するものに気づかないから。
(読んでて思うけど召喚ってつまり・・・・・・)
そう考えている緋夜達の前にローブを着た金髪の男の人が立った。様子からして召喚を行なった人達のリーダーだろう。
(この人神官長かな、それとも魔導師長? てことはこれから行われるのは)
鑑定だろう。どちらかが聖女なのか、それとも両方聖女なのか、あるいは両方とも聖女ではないのか。
「失礼ですがこれからお二人の鑑定を行います。こちらへお呼びした理由はそのあとにお話しします」
ローブの男の人が優雅に言うのを普通は逆だけどね、などと心で突っ込みを入れながら見ていた緋夜に気づかず座り込んでいる緋夜達を立たせて鑑定を始めた。
最初に行われたのは緋夜が庇っていた女の子だった。彼女の鑑定をしたローブの男の人が微かに震え出したのを見て心配そうに見つめる周囲とは対称的に緋夜には大体の予想がついた。
「素晴らしいっ!!! これほどの魔力とスキルの数々、そして聖属性魔法!!! まさしく聖女様です!!!」
男の人が歓喜に声を上げた途端周囲からも歓声が上がった。この人ちょっとイメージ変わった、と場違いなことを思いながら緋夜は自分のことになんとなく想像ができてしまった。
(多分私は違うだろうな、テンプレ的に)
こういう場合、両方ともということもあるにはあるが大体はどちらかがハズレだ。そしてそれが判明した途端に追い出されて冒険者になって無双する、なんて話はよくある。それが城に伝わると帰ってきてと言ってきて今更何? となる訳だ。そしてその場合、大抵元の世界に帰れなかったりする。
緋夜はなんとなくそうなるかもしれないと嫌な予感を覚えて鑑定が終わるのを待った。
結果は・・・・・・
「ふむ・・・・・・失礼ですが貴女は魔力もスキルもございません」
予想はしていたがまさかの魔力なしスキルなしの完全なる一般人。嫌な予感的中と落ち込む心を全力で隠して目の前の男性に笑顔を向ける。こういう時は役者の娘、幼少から親から教わり技術を盗んできただけのことはある。加えて聴こえる母のお言葉。
『いい? 緋夜。嫌な時や辛い時ほど役者になるの。どんなに理不尽でもそれを悟らせてはダメよ。ここは舞台、カメラの前。そして自分は今役を演じている。やり直しのきかない本番。そう思い込むの。悲しんだりするのはいつでもできるわ。役者になって自分に有利になるよう動くのよ。そしてその状況で一番重要なことをやりなさい。そうすれば後から楽になるから』
(ありがとうお母さん。でもテンプレでもリアルになるとちょっと挫けそう、だって・・・・・・)
目の前からはすごく哀れみの籠った眼差しを周りからは哀れみに加えて蔑み嘲りの視線を全身にもらっているこの状況。誰でも嫌になるだろう。しかしそれでも今は舞台の上だ、と必死に言い聞かせ緋夜は笑顔で口を開く。
「なるほど、分かりました。つまり、私は聖女ではないただの一般人ですね」
「はい、言ってしまえば聖女様のおまけ、ということになりますね」
言って欲しくなかった言葉をストレートに言われて、緋夜は挫けそうになるのを全力で保ち、そしてそれを一切表に出すことなく笑みを浮かべた。