SEVEN's CODE二次創作エッセイ   作:大野 紫咲

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お風呂でまったりいちゃいちゃするだけの、作者と夜翰さんの話。
相変わらず自分語り成分多めなので注意です。
オチとか山は特にない!いつものやり取りがこんな感じだなぁっていう、ただそれだけ。

しぶ→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16335293


二人がよければそれでいい

「剃刀よし、髪留めよし、タオルよし……シャツとパンツはここに置いたし、入浴剤はここで開けたし。これで忘れ物ないよね」

 

 いつも、脱衣所と風呂場に何かしら持ち込むせいで、忘れ物大魔神と化しているメロが、さっさと自室で服を脱ぎ捨てつつ確認していた。

 誰もいないからって、相変わらず部屋で脱いでから、半裸で風呂場に移動してくるそのスタイルどうかと思うけど。

 

「風邪引くよ」

「だって、脱衣所で脱ぐと物が多くてごちゃごちゃするんだもん、冬場は服も分厚いし。でもそろそろヒーター出したいよね」

 

 湯船から汲み上げた水で掛け湯をして、白くて平べったい丸型の入浴剤を手に持ちながら、メロが風呂に入る。いつもいつも、入浴剤は絶対に触って遊ぶのが主義らしい。

 

 「だって、せっかく手の内で溶けていくのを見ていられるのに、触らないなんて勿体ない。ずっと弄ってる方が、『今入浴剤入れてるんだ』って感じがしない?」って言ってた。正直ボクには、どのへんが勿体ないのかよく分からないけど。

 

 入浴剤からしゅわしゅわと泡が放たれて、もやもやと湯の内があっという間に濁る。

 

「……それ、煙を吐きながら飛んでる、墜落直前の飛行船みたいだね」

 

 そう言うと、おおっという表情になったあんたが、目を輝かせた。

 

「めちゃくちゃ素敵な表現じゃない。さすがヨハネさん。今度使わせてよ、それ!」

「別にいいけど、どんな話だよそれ……」

「まあまあ、使い所はどこにでもあるよ。地の文とか比喩とかね。いいなあ、素敵だなぁ。うっとりしちゃった」

 

 えらく気に入った様子で、ちゃぽんとはしゃぎながら湯を揺らすあんたのセンスは、やっぱり謎だ。

 まあ、褒められて悪い気はしないけど。

 

「やっぱり、一番風呂全然違うね。いつもあんなにぬるくて寒いのに、今日は全然寒くないんだもん。風呂に浮いた毛を掬わなくてもいいし、帰りに風呂掃除しなくていいし。

人生のご褒美って感じ」

 

 湯気の中で肩までつかったあんたの頬は、これ以上なく幸せそうに綻んでいた。

 風呂に先に入れるだけでこんなに喜べるんだったら、安いものだ。でも、正直その方が、ボクも風呂に呼んでもらえるので、有難くはあるけど。

 自分で言うのも何だけど、ボクもメロも細身だから、めいいっぱいくっついて肩を並べれば、一緒に入れる。

 濁った入浴剤の湯は、わずかにとろみがついていて、肌を撫でるとつるつるした感触がする。腕や体についた泡をしゅわしゅわと楽しそうに取りながら、腕を胸の前で交差したメロが言った。

 

「ふふ、濁り湯だとおっぱい見られなくて残念でしょ」

「いつもだってそこまで見てないってば、バカ」

 

 まあ、目のやりどころに困らなくて助かるのは事実だけどね。

 普段は透明な湯が多いから、仄かに緑がかった乳白色のお風呂は、新鮮な気分だった。

 

「『菖蒲の浮いたヒノキの湯』最高……他のもいい匂いだったし、もうずっとリピしたいよぉこれ」

「本当に菖蒲の匂いなのかは分からないけど、いい香りだね。アヤメさんでもこういうのを選ぶのかな」

「うん、あの子のセンスなら絶対有り得そう。あやめさんにあやかった湯って感じで、なんかいいねこれ」

 

 沸いたばかりの湯は、熱すぎず冷たすぎずに、じんわりと体の奥底を広げていく感じがする。

 べったり甘えてくる彼女を体の上に乗っけていても、水で浮力があるから重くはなくて、背後から抱き締める形になりながら、ふと手が脇腹に触れた。

 

「……メロ、痩せた?」

「痩せてないよ。寝込んでから久しぶりに会った人にも言われたけど、さっき風呂入る前に体重乗ったら、38.5だったから500グラムも増えたんだよ!ちゃんと!」

「晩御飯食べた後でそれってことは、多分空腹時に計ると38でしょ……そんな変わんないよ」

「いやいや!だってちゃんと朝ごはん食べ……たのはバイトがあった時だけか……

もしかして、私ちゃんと食べてるって意識だけで、実際は食べてない……?」

 

 ヨーグルトとかちゃんと足したし、パンにもチーズ掛けてるんだけど、と首を捻って唸るメロの胸から脇は、痩せているとかを通り越して、言い方を選ばないなら骸骨を触ってるみたいでいつも不安になる。

 普段は誤魔化されてしまう服の下を、あまりじっくり触る機会はないけれど、ボクは検査するように、抱き締めたまま掌と指でまさぐった。

 

「……? あの、ヨハネさん……?」

 

 目を閉じて、触覚に集中する。

 メロが胸を張るまでもなく、ボクの手が触れている場所は、肉っていうより骨だ。肋骨が浮き出てるし、一本一本の骨と骨の隙間に、指が入りこんでしまいそうな感じ。

 背中も、少し曲げただけで骨が浮いてゴリゴリしている。

 メロがこうってことは、サキもこの体なんだろうけど、直に触れるボクに、それを誤魔化すようなことは彼女はしない。痩せぎすの体にそっと触れながら、ボクは頬を寄せた。

 

「……もう言われ飽きたと思うけど、あんたもうちょっと食べた方がいい。

セブンスコードだから何とかなってるけど、あんたこれリアルで同じような無茶したら、緩衝材も何もない場所じゃ即骨折だよ」

「リアルで鳥に飛び乗ったり池に飛び込んだり、走って逃げたり落ちたり転んだりする機会は、そうそうないと思うけどね……」

「だとしても。これはちょっとガリガリすぎ」

 

 思わず目を細めてキツく睨むと、メロは唇を尖らせながら、長い髪先を湯に浸したまま振り返った。

 

「標準体重遥かに下回ってシンデレラ体重のヨハネさんがそれ言う〜? 自分だって痩せてるじゃん。それに、私より身長高くて体重少ないのに、普通に働いてる人だっていたよ」

「人は人、自分は自分でしょ! 現にあんたが体力なさ過ぎなのは、その肉付きのなさと無関係ではないだろ。痩せてるのとガリガリなのは違うの!

見た目しか気にしない奴には『細いね』で済ませられるかもしれないけど、改めて触ったら病的にガリガリしてるから、心配なんだってば」

 

 服の上から抱き締めただけでは、分からない。だから、触れるたんびに思わずぞっとして口を出してしまう。

 別にその体が嫌だから太って欲しいって訳じゃないからね、と念を押すと、メロは照れたように頷いていた。

 

「同じくらい痩せてたら、私もヨハネさんみたいにいい体になるって思ってたけど、そうでもないよね。

やっぱりちゃんと、筋肉もないと綺麗な体にならないし……二次元て、リアルとは仕様が全然違うよな。痩せてても、私全然あんな華奢で可愛い女の子にならないもん。ただガリガリなだけの肩幅オバケっていうか……もっと可愛くなりたいのに」

 

 あーあ、と肩をすくめた拍子に髪から雫が落ちて、ボクは水音が反響する浴室の中で、ふと細い肩に向かって問い掛けていた。

 

「ねえ、あんたさ……自分の体、嫌になる事って、ないの」

「うん?」

「あんたは、創作者だろ。自分の体を、出来る限り望みに近い形にすることだって、出来たんじゃないかって」

 

 背が低すぎるとか、痩せ過ぎるとか、前歯が出てるとか。

 自分の体に対する不満なんて、幾らでも聞いた。でも、それを改変することをメロはせずに、敢えてありのままの自分でいる。

 それが、少し不思議だった。

 

「んー……。言うて、このままの自分も、そんなに嫌いじゃないよ。不満はあるけど、最終的には嫌いじゃないんだよ、まだ」

「まだ?」

「なんていうか、不具合は多いけど、好きって言ってくれる人がいるからね。

……歳を取ってでもそう思えるかは分からないけど」

 

 両手で押さえたあんたの頬にも、いつか皺が増えるんだろうか。でもそうなっても、あんたはそれを若返らせて描写したりはしないんだろうな、とボクは思う。

 

「夢でも都合良く自分の中の何かを歪めて、嘘の自分を見せて愛して貰うのが嫌だってだけ……かな。ヨハネさんに嘘つきたくないもん。

絶世の美女で、タフで可愛くて、過去が重くてもそれに壊されない強くてやさしい人間、とかになれたら、理想かもしれないけど、私は多分、どっかで引っ掛かると思う。だって、いくらそう自分を作っていても、『外』の私は無力でどうしようもなくて、そうじゃないって知ってるから」

「外のことは、それこそ気にする必要なんてないでしょ。セブンスコードにだって、みんなリアルを忘れたくて来てるようなもんなんだから」

「それはそうなんだけどね。私不器用だからさ、どうしてもダメなの。何をしても『自分』を切り離して考えられないんだよ。

まあ、その時点で、自分のことを結構気に入ってるってことになるのかな、って。自分を消したいほど苦しくて辛い思いしてる人に比べたら、うだうだ言いながら向き合うくらい何のそのだよ、こんなん。もはや義務みたいなものかも」

 

 長い髪は、大きな髪留めで頭の後ろに留めてある。それでもそこから髪の先が湯船につくほど、彼女の髪は長い。ボクが来たばかりの頃は、まだ湯船につくほどじゃなかった。出逢ってからの時の積み重ねが、彼女をこうしたんだよな。ボクが好きだって言ったから、好きを大事にしてくれて。

 彼女はいつだって、自分の中にある「何か」を、見つめようと目を見開いていた。

 

「私はこんな風にしかなれないけど、こういう奴だって知っても好き、って思ってもらえるような人間になりたいの。

だいたい、都合の良さならこうして傍に居てもらってる時点で、十分我儘叶えてもらってるし、色々歪めてるし、傲慢になってるよ。それで充分」

 

 ありのままの自分、か。

 そんなの正直、自分に自信がある人だけの、今まで愛されてきた人だけの、美談だと思っていた。今でもそう思う。

 ……けど、メロにだって美しい話しかない訳じゃないだろうし、その痛みや苦痛を誰かと比べてどうだからとか論じるくらいなら、ここで幸せそうに笑ってて欲しい。たとえ恵まれてる人間だって周りにどう貶されたとしても、あんたはそれが様になっている。そう伝え続けたい。

 

「この世界で見せるあんたが、『嘘じゃない』ってことは……少なくとも『可愛い』は、嘘じゃないわけだ」

「うっ……まあ、一番よく言われるし、コンセプト的にもそっちに合わせてると楽だからね。それに、言われて悪い気はしない。ヨハネさんはそういうの好きじゃないんだっけ」

「ちやほやされるのはうんざりだけどね。でもあんたみたいな、特定の奴だけに可愛がられるのは、悪くはないかな」

「おーおー、言うようになって」

「ほら、そろそろ出ないと湯あたりするよ」

「やだぁ、まだ大丈夫だもん。暑くないもん」

 

 どことなく嬉しそうに言いながらも、湯船から出るのを渋るメロを追いやって、さっさと頭を洗わせた。

 最近は寒いから、一番風呂になる時以外は、頭皮のマッサージはサボッているらしい。最初に入れた日はあったかいから、と洗い場に座ったままで念入りにしっかり3分、頭皮を指先で解す。

 水に濡れると、メロの黒い長髪がすっかりボリュームを失くして、搾れるくらい細くなってしまうことに、いつも驚いてしまう。こんなに少なかったっけ、って思うぐらい。

 

「ふかふかの犬の毛って、風呂とか雨に濡れるとこんな風になるよね」

「そんなにボリュームなくない、私……? ムラサキになってる時は絵面的にわかりやすいかもだけど、リアルでの髪の毛って、そんなに言うたほど多くもないよ。しょぼいでしょ。今は放置してるけど、夏に結構邪魔で中身梳いちゃったし……」

「それでもな。あんなに触ってわさわさするものが、ここまで減るって不思議な感じ」

 

 垂れてオバケみたいな髪に手を通す。少ない方だ、とは言うけれど、それでもボクからすると珍しい。たとえ絵で見るほど多くなくっても、このくらい長い髪の毛は、手入れも洗うのも大変だろうなと思う。

 体を洗うスポンジを泡立ててから、剃刀を手にしたメロに後ろを向いていろと言われて、ボクは背後で響く電動音に耳を澄ませていた。肘をついて壁と向かい合っていると、ヴィィィンという電動カミソリ特有の音が聞こえてくる。

 

「今更風呂場で裸見るくらい、何とも思わないのに」

「そうじゃなくてね、陰部の毛を剃る時って、割ととんでもなくあられもない格好してるから。でも、これが一番剃りやすいんだよね。最初は人に剃られた時にこの格好させられたからさ、恥ずかしくて嫌だったんだけど、利便性と天秤に掛けたら、誰にも見られてないなら別にいいかと……」

「……ちょっと待って、逆にそれどんなカッコ? てか人に剃られたって言った?」

「大昔の元彼の話だから! ていうか絶対に見たらダメだからね!?」

 

 そんな言い方をされると逆に興味がそそられるんだけど。でもまあ、下手な事したらこっちが困ることになりそうだし、大人しく合図があるまでは壁を向いていた。もういいよ、と言われて振り向けば、メロがまだ剃刀を手にしたまま、脇とか足の毛に取り掛かっている。まあこれはごくごく一般的なポージング……だよな。

 

「永久脱毛とか考えたりしないの?」

「たっかいよぉ、あれ。あれをビジネスにしようと考える人がいる限り、高いだろうけどさ。でも出来たら楽だろうね。脇とか、すごい面倒だもん。なかなか見づらい場所は剃れなくてさぁ」

 

 未だしつこく剃刀を当てている様を見て、剃刀負けしやすいと言っていたメロの肌が心配になる。けどまぁ、脇なんて事実角度的に剃りづらい場所だし、しょうがないんだよね。

 

「ボクのいる世界だと、そこまで高額じゃないんだけど。でも簡単に手が出るようになったら、それはそれで綺麗な肌が横行するようになるからアレかな」

「手入れしてるのが当然、みたいな常識になっちゃうと困るよね。私なんか、ちゃんと剃ってるの脇と脚だけだよ。腕は私が気になりませんっていう理由でノータッチ」

 

 確かに、ちょっとふわっとした毛がメロの腕にも生えている。でも、ふわふわしてて乾いてる時は触り心地がいいくらいだし、本人が気にならないなら別にどうでもいいって程度だ。まったく、体の悩みっていうのは尽きない。

 

 最後にもう一回入るー、と言いながら湯船に侵入してきたメロは、やっぱりお湯が冷めていないことに感動していた。

 濡れた髪は、縄みたいに纏めて何回も折り曲げてから、髪留めで器用に頭の真上に留めてある。おでこを丸出しにした丁髷みたいで、本人曰くちょっと絵にするのは憚られるような顔らしいけど、まあ、これがそのまんま漫画になるっていう訳でもないし、別にいいんじゃないかな。

 人に見られっこないのなら、あとはボクが独占するだけだから、いくらでも。

 

「ねーねー、抱っこして」

「ったく、甘えん坊だな……今ボクが下になるから、って、わっ!」

 

 四つん這いに上に乗ったメロが湯船の中で滑って、ばしゃんと湯が波立った。その拍子に、湯船の上に半分閉じっぱなしだったお風呂の蓋を、バランスを崩したメロの足先が蹴飛ばして、ものすごい音が出る。きょとんとしたままボクらは顔を見合わせ、そして耐えきれずに笑った。

 

「まったく、何してんの、あんたは」

「ふふ……っ、ごめんごめん。だって狭いんだからさぁ。絶対二人向けの浴槽じゃないよ、これ」

 

 湯気で曇った四角い部屋に、笑い声がこだまする。

 そう。結局、何に向いていなかろうと、ボクら二人がよければ何でもいい。そんなごく単純な事実に、肩の力がふっと抜けた気分になりながら、ボクは、今度は温泉に行こうとはしゃぐあんたの瞳を見つめていた。

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