なので、時系列的には「あなた」攻略記より少し前かな?
夜中に作者を挟んだ愛理さんとヨハネさんの会話。
相変わらずの夢ですので注意。
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すよすよと、鼾混じりの寝息が聞こえている。
狭いシングルの布団に、小さな愛理と小さなヨハネ、二人を抱いてくっ付くように眠る作者ことマルメロ。そんな彼女を両脇に挟み、肘をついて寝そべりながら眺める、二人の影があった。
ショートボブの髪型は、並ぶとよく似ている。
一人は褐色肌にやや後ろが短いボブの女――寝る時でも露出が変わらず多いヨハネで、作者に半ば無理矢理布団に引きずり込まれてぶちぶち文句を連ねていた。
「ったく、なんでこんな狭い布団に寿司詰めにならなきゃいけないわけさ。ボク自分のベッド帰りたいんだけど」
「帰ればいいじゃないか。メロは寝ちゃったよ?」
「目が覚めた時にいないとうるさいだろ」
「くく、なんだかんだでヨハネも気に入ってるんだねぇ」
「そういうんじゃないけど」
そして作者を挟んでヨハネの向かいにいるもう一人――色白肌に黒髪ボブの愛理は、そんな彼をからかい半分に宥めながら、ぷにぷにと作者の頬をつついている真っ最中だ。
「ふふ、よく寝てる」
身を屈め、ちびと寄り添って眠る作者の唇に、そっと唇を落とす愛理を、じっと見ているヨハネがいた。
「なんだよ、羨ましい?」
「いや……なんか……毎回、その、唇にやってるの、恥ずかしくないのかな……って」
初心なヨハネには、安易にキスと口に出すことも恥ずかしいらしい。
やや赤面しながら身を起こし、手慰みに作者の髪を指へ絡めて撫で始めるヨハネを見て、愛理も座り直しながら目を細める。
狼狽するように、ヨハネの目が泳いだ。
「キ、キスって、場所によって意味が違ったでしょ。別に額とか、頬とかでもさ……そういうのでも、伝わるのに」
「それもしょっちゅうしてるよ? メロだって君におやすみのちゅー、してくれるじゃないか」
「だから、それでも恥ずかしいんだろっ。それなのにあんたは……」
「唇に贈るキスは、愛情表現のキスだよ? 別に何も間違ってない」
「そうだけど……互いに、旦那がいるのにとか相手がいるのにとか、そもそも住んでる世界が違う……とか、気になったりしないわけ」
別に嫌ではない。とは思うのだが、この距離感の中で疼く気持ちの正体が、まだ見定まらない。
今まで自分を、こんな風に元いた世界から引き抜いてまで、肌身離さず傍にいようとする相手が、いなかったから。独立した、出逢った事のない自分自身にも、彼女にも、ヨハネは戸惑っていた。
そう視線で訴えるヨハネに、愛理は月のような静かな笑みを漏らす。
「そんな理由で会うのを我慢する方が、勿体ないと思うよ? 彼女は僕自身でもあり、僕のことを必要としてくれてる。もちろん、僕の方もね」
「開き直りも著しいねぇ。いい年して」
共依存ってやつかも、という言葉に微かに眉を顰めるヨハネを見て、愛理がくすりと笑った。
その年では考えられないくらい、ヨハネは大人だ。
依存することや信じることのリスクや脆さも考えて、慎重になっている。それでも尚、人を信じずにはいられない、優しいヨハネには通じてくれることを祈りながら、愛理は口を開いた。
「よく考えてみろよ。不幸や苦しいことなんて、こっちが望まなくとも向こうから勝手にやって来るんだ。
いつか突然病気やガンになるかもしれない。大災害が起こるかもしれない。身内が亡くなるかもしれない。親が介護を必要とするかもしれない。辛い仕事でもお金のために働かなきゃいけなくなるかもしれない。
……メロが思う『いつか』は、望まなくとも突然やって来る。
だったら、今のうちだけでいいから、メロのことを僕が幸福で埋め尽くしておきたいんだ」
こぢんまりした部屋に流れる、三人分の吐息と静寂。
「いつか」。いつか、創作活動にまで手が及ばなくなる日のこと。
それが、できれば死と同日であればいいと、愛理は望んでいる。けれど、生きていく以上それが叶えられるかはわからないから、と愛理は彼女を細腕の中にぎゅっと抱き寄せながら、小さく微笑んだ。その温もりが通じたのか、彼女は幸せそうな口元をわずかに緩めると、愛理の控えめな胸元へその頭を擦り寄せる。
「本当は、いつまでだって甘やかして、こんな風に甘えん坊の子供のままでいて欲しいぐらいさ。僕としては」
「あんた相当重傷だな」
「愛しくてたまらないんだよ。だって、こんなに僕らのことを慈しんでくれて。可愛くないわけがないだろ」
愛理程ではないにしろ、否定はしないというのが、ヨハネの答えを示していた。
頬に流れる髪と肌に手を触れたヨハネに、羨ましいなら自分からやってみろ、と愛理が目で促す。
「……バカでしょ。羨ましいわけじゃないって言ったじゃん」
「でもそうしたいって顔してるよ?」
「なっ……これは、あんたに触発されたからで、別にこいつのことが可愛いとか好きとか、そういうんじゃ。ボクはあんたほど、狂うつもりもバカになるつもりもない」
「理由なんて何だっていいさ。メロを傷付けるんでなければね。……少なくとも、好意的な感情を持って接してくれてる。だろ」
「なんであんたは、誰かに手を出すことにそう軽くなれるんだよ」
「だって僕は元々軽い女ですから?」
くすくすと笑う愛理に呆れながらも、触れた手をヨハネは離せなかった。長い睫毛を瞬かせながら、じっと作者の顔を間近で覗き込み、躊躇うように唇を近づける。水のように青く澄んだ瞳が、躊躇いがちに揺れる。
「……まだ」
「うん?」
「まだ、でいいのかな。ボクにはまだ、……目覚めてる間には、きっと無理だから」
こんな風に口付ける理由など、愛理と違って明確には説明できない。
だから、こっそりと夜闇に隠して。
どさくさに紛れるように触れた、湿り気を帯びた唇が離れた時、本人に気付かれないままのこの距離に、ヨハネはもどかしさと安心の両方を抱えていた。