攻略記といいつつ途中以降は全く関係ないおまけなので、読みたい方だけどうぞ!!!
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「どおおぉおっして分かってるのに出来ないんだあぁぁぁあ私はあぁああぁ!?」
「単に能率の問題じゃない? もう2時間もやってるし……集中力が続かない状態でやるより、明日に回した方がいいと思うけど」
「でも悔しぃぃぃぃ!!! ここだけ! 序盤のここだけ出来るようになったら終わるから!」
さっきから何百回もそう言い訳して押されるコンティニューボタンに、ヨハネははいはいと呆れたように付き合ってくれる。
この曲「At My Pleasure」は、Materiaとほぼ同時期に始めておきながら、未だに一度もフルコンボしていなかった曲だ。
大きく得点を落とすことこそないものの、正直フルコンボは諦めていた。
それもそのはず、楽曲レベルと言われる譜面の難易度は11……Materiaの10より更に上なのである。
今度の今度こそは無理だと思った。頭おかしい。
それでも度重なるプレイで、なんとなくミスするところを掴んで、これまでにない兆しを感じた気がして、ただ好きな曲をフルコンしたいという思いのまま、ヨハネと詰めを始めたフリープレイの練習時間。
最難関は最後のフリック地獄だが、そこに至るまで、どうしても指が出遅れてコンボが切れてしまう地点があるのがもどかしい。
そんなに速くないのに、どうしても指が動いてくれない。
「ぐぅううううううまた失敗」
「歌詞に入るまでの前奏の成功率が、まだ10分の1ってところかな……やれやれ」
「フルコンどころか、これじゃ最後に到れるかどうかまでも博打に頼りすぎだよおぉ」
「確実に取りたいんでしょ? 前奏の部分、右手と左手に担当箇所分けた方がいいんじゃない? その方がやりやすいなら」
的確なアドバイスで、まずは歌が始まるまでのミスを潰す。
その後は、サビが始まる前のどうしても繋げられないBメロとCメロが課題。
「どうして出遅れちゃうんだろう……」
「……歌いながらやってみれば?」
「えっ」
「ボーカルに合わせてノーツが出るだろ。歌いながらやれば、出遅れる場所が減るかも」
「そ、そんな何べんもやったら喉枯れちゃうよ!!!」
「口動かすだけでもいいから。……それにボク、あんたの歌があると士気上がるけど?」
にぃ、と唇の端を持ち上げるヨハネさんは、ドライブの時に聞かせて以来私の歌をせがむようになったけど、正直ちょっと恥ずかしい。
でも実際、歌い始めてから2つ3つミスは減ったような気がした。
「もっと、この歌みたいに自信持って。あんたが世界回すんだって気持ちで」
「無理だようぅぅ……絶対ここでミスるって思っちゃう」
ミスする場所は分かるのに必ず間違えるとは、どういう因果だろう。もう間違えるのが癖になって、クリア出来ないんじゃないだろうか。
ノーツの記号がゲシュタルト崩壊しそうな段になっても、同じ曲をやめられない私の狂気じみた執念をどう見たのか、ヨハネは飄々としながらも茶化すことはせずに、何度も何度も同じ場所に傷を受けてくれた。
「あー……また掠ってる」
「うう、ごめん!!!!!」
「やっぱ最後なんだよな……これ覚えないと無理じゃない?」
「だよなああああ……」
ブロック、からの攻撃を繰り出すタイミングが、非常に速い。
ちょっとでもズレると互いの脚を踏んでしまう。
「こうなったら……」
面倒だと思いつつ、背に腹は変えられない。
ちょっとヨハネさんには我慢して貰いながら敢えて攻撃を受け、回らない頭で、右左、と攻撃を防ぐ順番を覚えようとする。しかも難所は最後だから、そこまで辿り着く頃には疲れ果ててしまって、譜面を覚えるどころではないという戦闘訓練が数度続いた。
「……やっぱ明日にする?」
「やろう! もう少しで何か掴める気がするから!」
もう楽しいと思う余裕もないまま叫ぶ私に、ヨハネさんが微笑む。
「あんた、ホントにこの曲が好きなんだね」
「好きだよ! だって」
初めてのレベル11の曲だし。
それだけじゃなくて、余裕な強気の視線が、いつだってその力で背を押してくれるヨハネさんのようで。
これをやれたらまた何かが変わる気がしたから、どうしても可能性を開いてみたかった。
あなたが好きだから、こんな私でも、伸ばせるところまで手を伸ばしてみたいって思えた。
頑張るから、すごいねって言って欲しかった。
少しでも――パートナーとして、この「好き」が嘘じゃないって、信じて欲しかった。
色んな感情が溢れかえったけど、でもだからこそ、この思いは指先に乗せるしかない。
黙って目を擦った私の耳元で、いつの間にかすぐ傍にいたヨハネの声がした。
「……やろう」
「え?」
「やろう。あんたがやれるって思うなら」
じっと注がれたひたむきな目に、息が止まるかと思った。
いつになく真剣な眼差しに、鼓動が高まる。
Materiaの時は、まだ私をからかっているようだった。
まだ行けるでしょ、こんなところで終わるはずない、という鼻先を掠める挑発に負けたくなくて、必死で付いて行った。
でも、今はヨハネがヨハネの意思で、私を見ている。
同じ気持ちで、課題に向き合ってくれている。
「他の奴はどうか知らない。でもボクは――
あんたがボクを信じてさえくれたら、ボクは必ずその気持ちに応えてみせる」
断固とした強い言葉が、胸を射抜いた。
涼しそうに言い放ちながらも、その瞳の奥に負けん気の強い闘志を燃やし――他の誰でもない私の願いのために、その気持ちをまっすぐ向けてくれていた。
「一緒に、行こう。あんたとなら出来る」
頷いて、その手を取った。
身を預けて、もう一度譜面に向き合う。
踊るように、その闘う姿が目の前に浮かぶように。
翌日も練習を続けて、ある程度詰めたところでネットの手元動画を観察した私は、ヨハネさんに提案した。
「最後、ちょっとやってみたいことがあるんだけど、試してみていい? ミスが増えるかもしれないけど」
「運指? いいよ、いくらでも。こっちは任せな」
少しずつ、色んな右手と左手の組み合わせを試してみる。
動画と全く同じとはいかなかったけど、やっているうちにどのタイミングで押せばいいのか、少しずつ慣れてきて。
クリック音を変え、覚えた音の通りに辿る作戦を始めた時には、序盤から難所までを一気に通して出来る率が急に上がり、ヨハネさんが思わず口笛を吹いていた。
「あと少しだ」
誰かのためじゃなくて、己のために勝利する。
向かうところ敵無しだって気持ちで、今だけは何者をも恐れない傲慢さで、我儘に振舞って――
そう心を委ねながら譜面を追っていたら、ある時気が付くと、フルコンは目の前に迫っていた。
最後の難所。上手く押せない。タイミングが合わない。
でも、美しくないからって弱気になりたくない。ここまで頑張ってくれたヨハネさんの気持ちまで乗せて、執念でただ残像のように映る場所をがむしゃらに叩いたら――
「777」と「FULL COMBO」の文字が、最後に画面に映っていた。
「や、った」
しんとした場で、今までと違って、二人ともポカンとしてしまった。
余裕を浮かべるのさえさえ忘れた、ヨハネさんの顔といったら。
「や、やった。やったよ!」
「アハハ、やったね!!!」
二人で抱き合いながらハイタッチして、馬鹿みたいにそう繰り返すことしか出来なかった。
本当に、馬鹿みたい。
でも、勝ちは勝ちだ。
この瞬間、私は愛すべきパートナーと共に、最高難易度の相手を破っていた。
「あ、あつい……それにしても暑い。なんかこの時間風止まらなかった? クリアしたから暑いのかな」
パタパタと手で風を送るマルメロが、無邪気にリビングで立ち上がる。テンションの冷めやらぬままに、早口で言葉を紡いだ。
「でも、このまま勢いに乗れたら色々やれる気がするね。今まで手付けてなかった他の曲も、集中してやってみよっか」
行き場もなくぱたぱたと立ち上がって家の中を歩くマルメロの後ろを、何かを言いかけたままのヨハネは、怪訝な顔で黙って追う。
それに気付かないまま、まるで先を封じられるのを恐れるように、マルメロは口を開き続けた。
「ああでも、先に今日の記録をレポートにした方がいいかな。忘れたくないし。それに、ヨハネさんに着せたい服もあるんだよ。写真撮ったんだけどまだ絵に描いてなくてさ。それも……」
「その前に、ちょっと待って」
すい、と細い腕が伸びる。
はあはあ息を切らしているマルメロの熱い頬に、気が付いたらぴたりと褐色の手が添えられていた。
ひんやりと冷たい感触を味わいながら、真剣な表情を浮かべた端正な彫りの深い顔立ちが、瞳に大写しになる。
ヨハネ本人は褒められるのを嫌がるが、超美形のイケメン顔が眼前にあって、動揺しない人間はいない。
ぶわわわっと、今しがた感じていた暑さとは別の意味で、頭に血が昇りながらマルメロはあわあわと口を開いた。
「ちょっ……あ、あの、いくら誰も見てないとはいえ、こんなとこで……その……」
「っ、馬鹿! 何勘違いしてんのさ! そういうことじゃないに決まってるだろ!」
恥ずかしそうにもじもじしていると半ば本気の頭突きを額に食らい、あうううと悲鳴を上げるマルメロ。
「い、いたひぃ……何するの……」
「落ち着けってば。今日はもう休んで。あんたが疲れるようなことはもうしなくていい」
「……へ」
じっ、と注がれる藍色の視線を受けて固まったマルメロは、しかし慌てながらその身を見上げて口を開いた。
「あ、っあ、でも、まだその……ゲームやっちゃったから、勉強も終わってないし。時間があるのにやらなきゃいけない事やらないなんて、勿体ないし! その、」
「あんた、何をそんなに慌ててるの? ……無理しなくていいんだよ」
気が付いたら、しなやかな掌で、結った頭をぽふぽふと撫でられていた。
思いがけない言葉に、ぼろっとマルメロの目から予期していなかった涙が零れたが――それに気付かないかのように、いつもと同じ表情で彼女は顔を上げる。
「む、無理はしてないよ。こんなの無理のうちに入らないし」
「でも疲れてる。長時間和服着てたら、体だって本当は痛いでしょ」
「それは、和装キャラで通すって決めたから。暑くなったら着れなくなるし、ちゃんと着ないと……」
「あんた……しんどいの我慢して、『やらなきゃ』いけない事ばっかり意識し過ぎじゃない? そりゃ、『やりたい』事でもあるのかもしれないけど。……でも、突っ走ってばかりだと辛いよ。あんたは、頑張るって決めてから、歩みを止めない。……止まるのを、怖がってるみたいに見える」
俯いたまま、その言葉を聞いていたマルメロは――向かい合うヨハネの手を両手にきゅっと握りながら、堰が切れたように吐き出していた。
「怖いんだよ。私は弱いから……止まったら、もう二度と動けないんじゃないかって気がする。先が見えなくても、がむしゃらに頑張って――そうじゃなくても、『普通』に生きてる人は、私のどんどん先を行くから」
「『普通』って何さ。あんただって、務めを果たしてこの世で生きてる人間だろ」
「違うんだよ。私が止まってる分、他の人はどんどん先に歩いて行っちゃうの。私の倍以上のペースで、私の倍以上の何かを吸収して……その人達に居場所が出来ても、私には多分、きっと何もないの。だから、その分必死で生きてないと……何も『頑張ってる』ことになんかならないよ」
はぁ、と涙も拭わず、焦りに塗れたため息を吐いたつむじを、ヨハネは黙って見下ろす。
「……あんたが専業主婦なの、ずっと気にしてるのか」
「それだけじゃ、ないけどね。何も……もっとこれ以上、意図的に自分を追い込んでなければ、何も成長はしないから。一人で立ってなんか、いられないから」
「それで、あんた自身を擦り減らす羽目になっても?」
「多少擦り減るのなんて、生きてるから当然でしょう……こんな事ぐらいで私偉いなんて図々しいって、いつも思うんだよ」
「そんなことはないって思うけど……あんたサメみたいだ」
「止まると死ぬって? でもずっと同じ所をぐるぐる回ってるだけなのかもしれないよ」
別に私自分に厳しいわけじゃないからね、とマルメロは言うが、その表情と呼吸は、先程よりは少し落ち着いていた。
小さく弾ませた肩を、ヨハネが叩く。
「どっちにしろこんな息切れしてる時に、これ以上格好付ける必要なんかない。もうボクらが今日やるべき事は終わったんだし、ボクがお茶淹れとくから、その間に浴衣脱いできな」
「……ヨハネさんがそう言うなら、そうしようかな」
「ジャージでいいからね。別に和服じゃないからってちゃんとした服着る必要ない」
「……なんで分かったの?」
引っ込みかけた戸口の隙間からポニーテールの頭がぴょこんと飛び出している。ただヨハネが肩をすくめると、その頭は引っ込んだが、ふと思いついて、ヨハネはもう一度呼び掛けた。
「ねえ、ちょっと」
畳の上で、まだ浴衣も脱がずに手を掛けていたマルメロが、きょとんと首を傾げる。
「ボク、あんたの洋服姿も別にキライじゃないからね」
「……和服キャラなのに? 洋装はまだ決まったデザインがないから、私だって分からないでしょ」
「別に誰が何て言おうと、何着てようと、ボクには、あんただって事ぐらいすぐ分かる」
「ヨハネ……」
「……。……小さいし? 煩いし?」
「あはは、だと思った」
取って付けたような捻くれた文句にも笑いながら、マルメロは今度こそ、部屋の襖を閉めた。
「……綺麗な服じゃなくていいって言ったのに」
「や、だってヨハネさんの前だから、気合い入っちゃって。でもこの下ブラじゃなくてただのカップ付きキャミだし、楽ちんだよ? めちゃ楽してるよ?」
「それはよかった。ブラなんかされた日には、かえってこっちの心臓に悪い」
皮肉げに言葉を返されて、マルメロは照れたように笑う。
白いスキニーパンツに、モスグリーンのセーラーワンピース。ちょっと襟ぐりが深いデザインなので、露骨に胸元が見えるよりはキャミが見えてた方がマシだと言いたいらしい。
自分の方がよっぽどセクシーな格好してるくせにと苦笑うマルメロの背後で、ポットからお湯を注ぐ音がしていた。
「お湯入れ過ぎたな……うわ、あっつ。まだ飲まない方がいいよ。熱いから」
零しそうになりながら、ヨハネがごとんとマグカップを机に置く。
マルメロは猫舌ではないので、それを賞味しながらも、先程の話題の続きになった。
「私みたいな人間になるとさあ、休むことにも罪悪感があるんだよ。第一、働いてないでしょ」
「洗濯して、体操して、本読んで絵描いて掃除して買い物して、Twitter張り付いて作品書いて、その合間に親や友達のLINEに返信して、また夕飯作って勉強して、挙句にアイリの心配だの人の心配だのばっかりして? ……働き過ぎだと思うけど」
「だって、それだけやってても何も終わらないし成果上げられてないんだよ……。時間は平等なのに、私の使い方が下手すぎるってことだよ……」
「あのね、一日は24時間なの! そのうち7時間寝たら、残りは17時間でしょ!? 今挙げたこと全部で割ったら、1項目2時間も割ける時間ないんですけど!? 大体あんた、今ボクが言ったことで終わんないでしょ。どうせもっとやりたいことあるんでしょ。そしたら一日三食なのに飯を作る時間なんか1時間もなくなるよ」
捲し立てるヨハネの前で、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「……なるほど、それは気付かなかった」
ぽえーっとしながら椅子に寄り掛かるマルメロに、ヨハネが呆れた目を向ける。
「しかもこれ、休憩も何も挟まなかった場合だからね。人間、何もせずにぼーっとする時間だって一二時間は必要でしょ」
「私の場合、七八割それだと思うんだけど……ぼーっとする間に何かやるべき事をしてるというか……」
「それでも、多分あんた意識しない以上に色々してる。何かやってる途中で邪魔が入ったり、別な予定を入れなきゃいけない事だってあるでしょ」
「んー……そうなのかなぁ……。もっと忙しい人は、ちゃんと計画立てて大量に効率よくこなしてると思うけど」
ちびりちびりと、ミントの味が爽やかなハーブティーを、喉に流し込んだ。
時刻は夕方近く。いつも、何もしないうちにもう夕飯準備の時間に迫ってしまったと、焦り出す頃だ。
「言うほど頑張ってないけどね……今日だって全部レンジでチンだし。明日はまた作らなきゃだけど」
「献立考えるだけでも疲れるでしょ。作り置きして時間が作れるのは、褒められていい事だし、もっとゆっくり使っていい時間だよ」
「かな……」
「あんまり前に進むことばっか考えないで、たまには普段やるのと全く関係ないことで、時間忘れてみれば?」
「たとえば?」
そう提案されて顔を向けると、ヨハネは考え込むように腕を組んだまま、顎の下に指先を当てた。
「……たしか、ちびと小翰が服を欲しがってた」
「あ……そうかあ。作るって約束したもんな。私がやりたい事優先するの、いつもあの子たちは待っててくれてさ。本当にいい子達だよ……時間が出来たらって先延ばしにして、すっかり出来てなかった」
「あとは……ボクのイメージでアクセとか作ってくれてもいいよ」
何気なく言ったのだが、マルメロはまじまじと素っ気ない横顔を見つめてしまう。
ちらり、と左耳の先にイヤリングが光った。
「……欲しいの?」
「たっ! 例えばの話だから! 別に作れって訳じゃ……」
「ふふ、わかった。いつかお揃いに出来たらいいね」
「お、お揃っ……!」
今度は自分と反対にだんまりになったヨハネを見て、マルメロが小さく笑う。
――焦らないでいこう。
慌てて何かを作り上げなくても、絵に描いた餅を並べ立てるだけでも、こんな風に喜びを分かち合ってくれる人がいるのなら。
「……ねえ」
ふと隣に座ったヨハネが、とんっと肩を寄せた。
夏場の薄い服装では、布越しでも剥き出した肩の温もりがよくわかる。
「一つだけ、言っときたいんだけど。
これから先、あんたが歩こうと、歩みを止めようと……少なくともボクだけはあんたの傍を、離れないから」
「……なあに、それ。プロポーズ?」
「別に、どう受け取ってもらってもいいけど? ……そうだね、そう思われても別に構わないかな」
意表を突くからかいにも、珍しく涼し気な表情で受け流すヨハネを見て、マルメロは目をぱちくりさせた。
「……ここ、ヨハネさんが住んでる現実世界とは違うんだよ? 違う世界の子なのに」
「セブンスコードを通ればいつでも向こうは帰れるし。言ったでしょ、親も嫌いだし学校も嫌いだったって。だから、セブンスコードの中ならともかく、現実そのものに未練てもんはあんまない。
ボクを本当に心から必要としてくれた変わり者なんて、あっちで出逢った仲間と、それから……」
ちらり、と細めた青い宝石のような目が、一瞬だけ横を見た。
「……あんたぐらいだ」
「ん?」
「なんでもない。とりあえず、あんたは安心してていいよって話」
「……そっか。嬉しい」
そう言っても、心配性のあんたには半分くらいしか伝わらないのだろうけど、と思いながら、倒れかかってきた体をヨハネが黙って受け止める。
――ボクは、あんたを信じてる。
だから、あんたも信じて欲しい。
言葉にせずとも、その気持ちの幾許かは、柔らかい香りを放つハーブティーの味と穏やかな時間から、確かに伝わっていた。