R18ではないけど、喋ってる内容はわりかしがっつりえっちなので注意です。動物の話だけど。
「は~……」
窓の外を眺め、憂鬱げに溜め息を零したメロが、ころんと床に転がる。
その表情が重苦し気に沈んでいて、ここ最近パソコンが壊れて大事な小説のデータが消えたり、落ち込んで元気がない日が多かったりしたことを思い出したボクは、なんとなく傍に来て隣に座ってやった。
別に、話を聞くぐらいで何を出来るわけでも、特に何かをしてやりたいとも、思っているわけじゃないけど。
死んだ魚のような目をちらりと流し見して、ボクは話し掛ける。
「どうした? 何かあった?」
「いや、別に何もないんだけど。馬のセックスってうらやましいなぁ……って」
「何て?????」
ぼんやりした覇気のない答えの割には内容があんまりすぎて、三度見する勢いで振り返った。
メロが突拍子もない事を言い出すのは毎回のことだけど、今回は何がどうしてそういう話になるんだ。
じぶじぶした雨模様のベランダを見やってから、床に寝転がったままのメロが上の方を指さす。
「その本をね、最近読んでるんだけど」
見れば『生きものたちの秘められた性生活』と書かれたオレンジ色の表紙の本が、机の上に乗っていた。
……最近カフェで真面目な顔して何か開いてると思ったら、なんて本読んでるんだ。
ボクはやさしいから、頭を抱えただけで一応話の先を促してやった。
「……それに、馬のことでも書いてあるわけ?」
「恐竜でも魚でも鳥でもカエルでも、色んなこと書いてあるよ。まだ半分しか読んでないけど。
馬はね、あの、いわゆる競走馬の種馬の話が書いてあるんだけど」
「ああ、あの競馬に出る」
「それそれ。いい戦績を残した強い馬の精子は価値が高いから、競馬で稼ぐ金額よりもうんと稼げることもあるんだって。まさしく金の玉袋ってやつ。で、ちゃんと病気とかの厳密な検査とか審査を経た後で、牡馬と雌馬を交配させるための施設っていうのがあるんだけど」
別にメロの元気が出るなら何だっていいんだけど、二人っきりで過ごしていて、それなりにのんびりしたいい雰囲気の昼下がりに、なんでボクは彼女から馬の金玉についてレクチャーを受けているんだろうか。
面白がればいいやら、泣きたくなればいいやら、どんな顔をしたらいいかわからないまま聞いていると、床であられもない格好のメロが体の節々を伸ばし終え、ボクの膝にずしんと頭から転がってきた。重い。
「交尾の時は、雄の馬が雌の馬の上からのしかかる感じになるの。その時に雄の馬は、雌の馬の首筋を後ろから愛おしそうに噛むんだって。
もう、いいよね~。うらやましいよね」
「……え? その話であんたの琴線に触れたのって、まさかそこだけだったの?」
「いや、他にも色々面白い裏話はあったよ。馬の一物は抜けやすいから、抜けないように間中それを必死で押さえる係の人がいるとか。
でも、胸キュンポイントとしてはさっきのインパクトが半端なかった。うらやましいなぁ。馬でもそういう愛情表現あるんだ。
想像しただけでドキドキしちゃう」
メロはきゃあきゃあ言いながら床を転がっている。膝からどいてくれたのは幸いだけど、よく分からない。
それって馬の話だよね? 人間に例えると、ってこと?
そもそものところを、ボクはちょっと意地悪い疑問を抱いて質問してみることにした。
「でも、それを見てるのは人間なんでしょ。愛情を持ってる風に見えるっていうのは、人間が後付けで考えた理由や錯覚っていうか、勘違いじゃないの?」
「まあね。でもさー、我々だって日常的に、ペットを飼ってる人がこういう愛情表現があるんだとか、この子はこういう感情を持ってるんだって発信するのを見て、共感したりするじゃん。犬猫や鳥類みたいな身近な動物には、簡単にそれがあるって断言するのに、馬とか魚とかトンボにはそれがないって証明にはならんでしょ」
「……それもそうか」
だいぶ暴論だが、言われてみれば確かにそんな気がしてくる。
動物にも色んな愛情表現がある、か。
でも、なんでメロはわざわざそんな話をしてきたのだろう。単に知ってる知識を広めたかったから? それもあるだろうけど、羨ましいって事は、何が羨ましいのかその内容を考察してみる程度の価値はある。
馬……になりたいわけじゃないだろうし、セックスそのものに羨望を向けてるわけでもない。
じゃあ、単にこういうことだろうか。
何をするともなく、ぼーっと机に肘をついたメロは、長い髪を暑そうに首の片側へ追いやっている。
隣でその後ろ姿をしばらく眺め、片腕を回して抱き寄せてから、ボクは露わになった右の首筋へ、そっと口を付けた。
「こういう感じ?」
「ぴぃっっ」
唇の表面が触れた瞬間、ことりみたいな声を上げてメロが飛び上がった。この反応は。
「なななな何するのいきなり!!!」
「後ろから噛まれるのが羨ましいんだろ?」
「そ……そうは言ってないけど、正しいけどっ、そんないきなり来なくてもっっ」
慌てすぎて、言葉が大混乱だし涙目になっている。別に、まだキスしただけで噛んでもないのに。
ちょっとだけ――面白くて、ちょっとだけ嗜虐心が疼く。
今言ったんだからもういきなりじゃないでしょ、とボクは言い訳して、うなじの右側から、辿るように唇を這わせた。
唇を静かに押し付けては離し、小さく震える彼女の頭を手で包みながら、産毛の感触が残る首筋を微かに舌先でなぞる。
そうっと開いた唇の間から、歯を覗かせて肌の表面を引っ掻くように甘噛みすると、びくん、とメロの震えが大きくなる。
「ひっっっ、ちっ、ちょっとっ」
「……続き、ここじゃない方がいい?」
まだ全然、噛んだうちにも入ってないんだけど。
耳の先に囁いて、触れるか触れないかという微妙さで先端に歯を立てると、彼女は頷くのが精いっぱいという体でがくがく首を動かした。
まったく。あんたがどれほど後ろに弱いか、見えない方向から触れられるのが好きか、ボクが嫌というほど知ってるってわかった上で、駿馬を引き合いに喧嘩を売って来たんだとしたら、相手を間違えている。そんなつもりはないんだろうけど。
別に、ボクは馬相手に妬いたりしないし、馬が羨ましくなるほど自分が下手とも思えない。
何がどうであれ、あんたの震え方と声だけで、あんたがどれ程感じているか分かるボク以上に相手が務まる奴なんて、他にはいないだろうからね。