戦闘員さんは転職するようです   作:火影みみみ

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惨劇は次回
今回はパワーアップ回


新装備“アンチクロス“

 夢を見ていた。

 酷く穏やかで、優しさに満ちた少女の夢。

 古い和服に身を包み金色の長い髪を靡かせるその少女は、誰もいないその和室で虚空に向かい話しかけている。

 …………いや、違う。

 彼女の正面、向かい側に何かがいる。

 まるで黒い煙を身に纏っているように輪郭が定かではないそれは、突如威厳のある声で少女に語りかける。

 

『この世全ての生命には、避けられぬ宿命が存在する』

『数多の未来を観測し得る我でさえも、望む未来へと辿り着くことは容易ではない』

『断言しよう。貴様は死ぬ。その愛が報われることは決してない』

 

 そう告げると少女は少し悲しげに笑う。

 しかし次に彼女が口にした言葉はその影を驚かせた。

 

『それでも私は止めないわ。その先に待つのが破局だとしても、私は愛せずにはいられないから』

 

 幼児ゆえの純真さか、それとも全てを理解しているのかわからない。

 けれど、その影をまっすぐ見つめるその金色の瞳が嘘ではないと物語っていた。

 

『……愚かな女よ。もうこの世には現れぬと思われた神の愛娘よ。貴様に人並みの憎悪があれば未来も変わったであろうに。惜しいことだ』

『心配してくれるの?』

『まさか。我々にとって貴様は忌むべき存在。貴様が消え去るのであれば、それは我々の悲願に一歩近づいたも同義。悲しむことなどあるはずもない』

『嘘つき』

 

 短く一言だけだったが、少女のその言葉は影の口を閉じさせるには十分だった。

 

『悲しいから私に逃げてほしいのでしょ? 愛を感じるのに敵も味方もないわ。私はあなたを友達のように思ってるし、あなたも私をそう思ってくれているのよね。だから私に生き延びてほしいのでしょ? たとえ無駄だと分かっていても。違う?』

 

 瞬き一つせずに、その影を見つめながら話す少女。

 その真摯な様に諦めたようにため息を吐き、影は話しだす。

 

『なるほど、神々が愛したのも頷ける純粋さだな……。だが一つだけ間違っている。貴様は確かに死ぬが、全未来で必ず死ぬわけではない。たった三通り、三通りだけ貴様が生きる道がある。万を超える未来の中のたった三つ……いや、既に一つは分岐済みで辿ることはできないようだ。ともかくこの二つの未来に辿り着かなければ、貴様は死ぬだろう』

『へぇ、ってことはあなたが私のことを親しいと思ってくれてるのは間違っていないのよね』

 

 ニコニコと満面の笑みをこぼす少女。

 自身の命の話をしているというのに着眼点はそこなのかと、影は呆れたが、昔から彼女はずっとこういう感じだったと思い出す。

 

『祈れ、少女。もしも貴様が生き延びたのならば……いや、世迷言だ忘れろ』

 

 そう言い残すと、影は姿を消した。

 まるで空気に溶けるように霧散したのだ。

 

『そっかぁ……私死んじゃうんだ』

 

 影が姿を消して少しして、初めて少女はその顔から笑みを絶やす。

 

『でも、仕方ないよね。私は憎むなんてできないもの。人を憎むくらいなら、それ以上に愛を与えたいわ。だって愛はこんなにも素晴らしいものなのだもの…………ねえ、あなたもそう思うよね』

 

 そして、その瞳は()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………朝っぱらから最悪な夢を見てしまった」

 

 布団から上体を起こした体勢で、片手を顔に当てたまま彼女はぼやく。

 

「愛は素晴らしい? 愛を与えたい? くっっっっっだらない。愛なんて所詮はただの自己満足でしょうに」

 

 彼女はあの少女の考えを全く理解できていなかった。

 それが今の今まで愛らしい愛を与えられなかったからか、それとも長年にわたるブラック企業務めがそうさせたのかは分からない。ただ一つわかるとするならば、彼女と少女が分かりあうことは決してないということだろう。

 

「やっぱ金髪ってダメだわ。あのクソ野郎思い出すし、ブラック企業ついでに金髪もぶっ殺してやろうかし…………だめだ。うちのトップも金髪じゃん、止めた」

 

 一瞬芽生えかけた金髪に対する殺意は、裏界十字軍の大総統も金髪だったことにより消え去った。

 これが数多の金髪の人間を救うことになるが、それは誰も知らないし、知らなくてもいいことだろう。

 

「ああもう頭痛い。テレパス系じゃなくて普通に頭痛い……。薬とか効かないし、大人しくしてるしかないかな」

 

 時計を見ると、今は午前6時を少し過ぎたところだ。

 朝の自主訓練は休むか、そう思って二度寝しようとした時だった。

 突如、けたたましい呼び鈴の音が室内に響く。

 

「誰?」

 

 こんな朝早くから訪ねて来る人など前職場の人間……怪人しか心当たりはなかったが、もうみんな死んでいるはずなので候補から外す。

 取り敢えずドアスコープから相手を確認すると、そこにはこんな朝早くから眩しい鎧を身に纏ったクラウディアがそこにいた。

 一瞬の思考停止、けれどすぐに我にかえると近くにあったトイレの鏡で身だしなみを確認、寝巻き……と言うかジャージから着替えている時間はないので軽く支給されたコートを羽織る。

 これで取り敢えず人前に出れる姿にはなったはず、と落ち着いて扉を開ける。

 

「こんな朝早くにどうされました? お仕事ですか?」

「開口一番社畜根性全開なのは流石にドン引きだよ君……。そうじゃなくてね。頼んでいた装備がようやく完成したみたいだから早く渡しておきたくてね。これを受け取ってくれたまえ」

 

 そう言ってクラウディアは手のひらより少し大きいくらいの小箱を彼女へと手渡した。

 開けてくれ給え、とクラウディアに促され彼女は小箱を開く。

 中に入っていたのは丸い縁の中に十字の線が走る、俗に言う十字紋と呼ばれる紋章をモチーフとした髪飾りだった。

 

「これが裏界十字軍科学部が悪ノリと好奇心と最新技術の粋を結集して作り上げた大罪騎士アンチフェネクス専用装備”アンチクロス”さ」

 

 今何か余計なもの混ざらなかった?と思いつつ、彼女は手に取ってみる。

 感触からして金属のよう、だけど不思議な温もりを感じる。

 …………いや、違う。これはただの金属じゃない。

 何度も何度も触れたことがある彼女だからこそ、この金属の正体に気づくことができた。

 

「まさか、これってアダマントですか?」

 

 アダマント。それはオリハルコンやヒヒイロカネとも呼ばれ、歴史上でも度々英雄の武器として使用される世界最高峰の金属である。

 現在でもその希少価値は変わらず、ヒーローや怪人の間でもそれを用いて作られた武装を所持してるのは上級クラスに限られているほどだ。

 

「おお、よく分かったね。前にも触ったことがあるのかな?」

「はい。何度も斬られたことがありますので」

「あ、はい」

 

 これは触れてはいけないと、クラウディアは強引に話を逸らすことにした。

 

「ああそうそう、この髪飾りは仮の姿でね。解除コードを音声入力すれば本来の武器に形を変えるようにできている。解放(リリース)と唱えてごらん」

「…………解放」

 

 彼女がそう唱えると、髪飾りは黒い光に包まれる。

 それは暗闇を増すと突如二つに分かれ、彼女の掌に一つずつ収まった。

 闇が晴れるとそこにあったのは近未来的なデザインが施された二つの異なる拳銃だった。

 片方は黒緑色を基調とした銃剣を備えた短機関銃であった。ただし引き金からそのまま銃口より少し先まで鋭い刃が取り付けられたガンブレードと呼ばれる武装で、グリップが回転し近接戦も可能のようだ。

 もう片方が赤黒い色を基調とした拳銃。こちらは回転式拳銃をモチーフとしているようで、大型の弾丸を六つ入れられる回転式シリンダーに銃口の先端に照準器らしき鋭い刃が取り付けてある。こちらはグリップの角度がやや水平に近いものの、回転はしないようだ。

 

「黒緑色の方が“タウラブラスター”、小型で赤黒い方が“フェネクスマグナム”だ。両方とも君の力を吸収し、増幅する設計となってはいるが、見た目通り運用法がやや異なっていてね。フェネクスマグナムは高威力のエネルギー弾を放つことができるが連射は効かない。タウラブラスターはその逆で低威力ながらも連射を得意としている。更に奥の手として両者を合体させることで大型剣モードと超高火力ブラスターモードの二つの形態になることが出来るぞ!」

 

 言われたとおりにフェネクスマグナムの本来なら撃鉄がある部分に設けられた窪みにタウラブラスターの銃口を合体させる。そうすることでフェネクスマグナムのグリップが左横に飛び出す形となり、これがフォアグリップのような役割を果たすのだろう。

 次にフェネクスマグナムを時計回りに45度回転させると、マグナムの照準器とタウラブラスターの刃が連結する。そのままブラスターのグリップを動かし銃身と平行になるようにするとまるで片刃の大剣に近い形態をとった。

 

「どうだいカッコいいだろう!」

「……はい。とても素晴らしい出来だと思います」

 

 まるで子供のようにはしゃぐクラウディア。

 それにつられて思わず笑みが漏れる。

 

「おや? 君が笑ったのは初めて見たね。いやいつも顔を隠してるからわからないのもあるけどさ。その白髪も相まってけっこう美人だよね君って」

「……私に顔を隠すように言ったのは総統ですよね」

「まあそうなんだけどね。ああそうそうもう一つ伝えることがあったんだった。アンチクロスは待機状態時に持ち主への認識を阻害する効果があってね。その髪飾りをつけている間は素顔で行動しても問題ないようになったよ」

「それは便利ですね。……素顔で行動するのってこの前と潜入する時くらいだったから結構新鮮かもしれません」

 

 この前とは前職場にて暴れてから裏界十字軍へ向かうまでの間のことである。

 幻想機関の職員は常にフルフェイスのため、素顔で行動する時間が極端に少ないのだ。

 

「おっと、もうこんな時間か。次の会議があるのでこれにて失礼するよ! 今日の任務君ならば問題なかろうが、何かあったら即撤退してもかまわないからね。じゃあ、そういうことで」

 

 急にスマホで時間を確認すると慌しく去っていくクラウディア。

 ぽつんと取り残された彼女はとりあえずアンチクロスを待機状態へと戻し、それを左側頭部へ取り付けてみる。

 鏡で確認して、問題ないことを確認すると、とりあえず朝ごはんでも食べようと彼女は冷蔵庫の中を確認することにした。

 

 




・アンチクロス
 待機状態は十字紋の髪飾り。
 どう見ても島津の家紋なのは言わないお約束。
 合体拳銃はロマン。

・クラウディアさん
 実は金髪金眼だった。
 年のわりに子供のようにはしゃぐタイプ


 やめて、アンチフェネクスの炎を喰らえばいくら防火構造のビルでも跡形も残らないわ!
 負けないで今あなたが倒れたらどうなるの!?
 社員はまだ残ってる、今月の業績を乗り切ればまだまだ稼げるんだから。
 次回「ブラック企業死す」
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