戦闘員さんは転職するようです   作:火影みみみ

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休暇と学校と

「やはり仕掛けてきましたか、しかしもう既にあれ程に大罪を使いこなす騎士が二人もいるなんて……、敵は想定以上に強者揃いなのですね」

 

 星辰戦隊防衛基地作戦会議室。

 部屋の中央に設置された円卓の上座に座り、手を組んで顎を乗せている小学生の少女、星辰司は深刻そうにそう話し出す。

 彼女の背後には巨大なスクリーンが設けられていて、そこには二人の怪人が映し出されている。

 一体は先日この基地を襲撃した黒い龍の怪人、憤怒の騎士水無月涼太郎。彼は偶々その場にいたサイバーガールの活躍により撃退することができたが、本気を出した彼女ですら撤退に追い込むのが限界であったことから彼の戦闘能力の高さをうかがえる。

 もう一つはたった一体で現星辰戦隊の全員を相手取り、まさに蹂躙と呼べる程に暴れまわり、彼らだけではなく街にも多大な被害をもたらした鳳凰と雄牛の姿を持つ怪人、憂鬱の騎士アンチフェネクス。

 

「悔しいが奴の強さは本物だ。恐らくは相当に実力のある怪人が、大罪の力で更に強化されたのだろう」

「それが後何体もいると思うと頭が痛くなるね」

「いえ、そうとも言えません」

 

 牛沢玲司(グリーン)の推測に山羊唯香(ホワイト)が同意する形で愚痴を漏らすが、直ぐに司から訂正がはいる。

 

「大罪を得たからと言ってあれ程使いこなすにはそれ相応の適性が必要なのです。それこそ何十億に一人か二人と言う程に途方も無い才能が」

「私も同意見よ」

 

 蛇川美波(ブルー)が補足する。

 

「あいつらにそれ程の力があるのなら囮まで使って族長を殺そうなんてしないはずよ。全員で基地に攻め込めばそれで終わりなんだから」

「じゃあ、あいつらはまだ戦える状態じゃないってこと?」

 

 竜光寺犬弥(シルバー)が尋ねる。

 しかし、答えたのは司でも美波でもなく烏丸恵太(ブラック)であった。

 

「爺さんから聞いたことがある。大罪ってのにはいくつかのランクに分けられるらしい。爺さんも大分前に死んじまったしうろ覚えだが、多分それ関係だろ?」

「はい、烏座の戦士は星辰族の歴史を管理する家系でしたね。彼の言うとおり、大罪にはそれぞれ大罪深度とよばれるランクが存在するのです」

 

 キョロキョロと辺りを見回し、ちょうど背後にはマジックボードを見つけると、それを引き寄せ三つの横線を引いていく。

 

「まず、大罪に見初められそれを纏うことのできる第一段階。次に大罪と心を交わすことの出来る第二段階。そして、大罪をその身に宿す第三段階。最後に大罪を解放する第四段階になります」

 

 上から順に1、2、3、4と記し、2の所に憤怒と憂鬱、怠惰を書き加える。

 

「恐らく、基地を襲った憤怒の騎士と彼女が所持していた結晶体から怠惰と憂鬱を兼任しているとおもわれるアンチフェネクスは最低でも第二段階に至っていると思われます」

「第二段階、未だ成長途中であの強さか。第四段階にでもなれば手がつけられなくなるな」

「はい、そうなってしまえば()()()()()()です」

「……なに?」

 

 突如もたらされた宣告に話していた竜牙だけではなく、その場にいた司を除く全員に緊張が走る。

 

「【大罪宿せし者深淵へ沈む時、封じられし神が目を覚ます】星辰族でも極々一部の者しか知らない口伝です」

「深淵が第四段階を示すなら、封じられし神は何かの暗喩か?」

「いえ、神は文字通りの意味でしょうね。その位じゃないと世界が終わるなんて大それた事言わないでしょ」

 

 獅子郷慎一(レッド)が口伝の内容を推理しようとしていると、すぐ傍にいた美波が口を挟む。

 

「美波さんの言うとおりです。この神は太古の昔から現代に至るまで絶大なる影響力を持っており、その名ですら意図的に失伝させたほどです。ですが、彼の神が目覚めたらどうなるかについては逆にしつこいほどに言い聞かされています」

 

 司はそこで一息つき、彼ら全員を見回してこう言った。

 

「彼の神が現代に降臨すると地球上全てに怪人因子が蔓延し、この世は怪人たちの楽園へと成り果てるでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「休暇、ですか?」

 

 所変わって裏界十字軍円卓会議室。最初に彼女が案内されたあの部屋にて、大総統からこの様な命令を下されていた。

 

「ああ、どうやら君の心の傷は想像以上に深いものとみえる。どうせ他の騎士が第二段階へと進むまで作戦予定は皆無なのだから、君と涼太郎にはこの際十分な休暇を取ってもらいたくてね」

「なるほど、そうでしたか……」

 

 休暇、休暇? と脳内で反芻し、ここ数年休暇と言えばベッドで寝ているか装備品の改修しかしていなかったなと思い出す。

 

「そうだね。取り敢えず最低一ヶ月くらいゆっくり羽根を伸ばしてみたらどうだい」

「一ヶ月、ですか……」

 

 一ヶ月。そんなに長期間の休暇を貰ったのは初めての経験なので戸惑う彼女。

 それならば趣味に打ち込めばいいとも思うが、そこで彼女は気づく。

 

(私の趣味って、何だっけ?)

 

 彼女が前職場で極稀に休暇を貰った際は装備品の改修や疲れた身体を休めることしかしていなかった。

 装備品に関してはこちらの専門チームが行ってくれるし、既に折れた骨も癒えた為休む必要もない。

 

(じゃあネットサーフィンや食べ歩きでもする? 却下、長すぎて絶対飽きる。それに体が鈍ったら元も子もない。正直一週間でも十分なのに、一ヶ月かぁ……。うん、値切ろう)

 

 何とこの娘、自身に与えられた休暇日数を削減しようと企み始めた。

 今でも休日は十分もらえているし、給料もいい、未だ馴染めてはいないが同僚関係も悪くはない。裏界十字軍は彼女の労働欲求を満たせる理想的な環境と言えた。

 

「おっと、言っておくが休日の削減要求は一切受け付けないよ。これは命令だからね」

 

 しかし、流石は大軍の長。彼女の考えなどお見通しであった。

 命令とあっては彼女も従う他ない。

 ならば適度に休みつついつでもあの隠し玉を使えるように鍛えるか、と脳内でトレーニングメニューを作り始めたところ、彼女の前にとある冊子が差し出された。

 

青天(せいてん)高校の入学案内?」

 

 手にとって見てみると、それはとある高等学校のパンフレットだった。

 中を見ても不審な点はない。

 

「一ヶ月間、まあ場合によっては更に伸びることもあるが、その間に何もしないというのも暇だろう。君は本来なら学校に通っている年齢なのだから、この機会に通ってみてはどうだね?」

「なるほど、確かに良い機会かもしれません」

 

 これは彼女も薄々思っていたことでもある。

 一応必要な知識は幻想機関により刷り込まれてはいるが、まともに同年代の少年少女と交流したことなど一度たりとも存在しない。

 故に一度くらいはまともな学生生活というものを満喫してみたいと密かに思っていたのだ。

 

「今改良させているアンチクロスの認識阻害機能に少し手を加え、今までは人によって異なる顔に見えていたものを特定の一つに絞るようにしておいた。更には待機状態のアンチクロスに透明化機能を実装したとの報告も上がってきたからこれでどんな時でもアンチクロスを手放す心配はないね。……あとは気になる点はあるかい?」

 

 資料をめくり、転入届に目を通すと保護者の欄に大統(だいとう)(すべる)と記されている。

 考えるまでもなく、これは大総統のことだろう。

 いつの間に調べたのか彼女が通っていると偽装している学校関連の書類も完璧に用意されていて、後は彼女が必要箇所に記入するだけで書類は完成するだろう。

 

「いえ、問題ありません」

「うむ宜しい! 束の間ではあるが人並みの学生生活を楽しんできたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、今日からこのクラスに転入してきた夢無(ゆめなし)(むつみ)さんです。席は……そうですね。獅子郷君の隣の席が空いてますね。そこに座ってください」

「やあ、俺もきたばかりで学内のことはよくわからないが、それでも力になれるはずだから困ったことがあれば何でも言ってくれ」

 

 まさか、彼女が破壊した施設の中に彼らが通っていた高校も混ざっていて、学校が再建されるまで方々に生徒を分散させており、スターレッドこと獅子郷慎一もこの学校にやって来ていたなど、誰にも予想できるはずがなかった。

 そして、前職場で星辰戦隊の個人情報を十分すぎるほどに収集していた彼女は当然ながら彼らの素顔や本名についても知っていた。

 

「……………………………神は死んだ」

 

 額を押さえ、死んだ目でそう呟く。

 幸いなことにその嘆きは誰にも聞こえることはなかった。




・戦闘員さんことアンチフェネクスさんこと夢無睦さん
 もちろん偽名。由来は戦闘員番号から。
 大統総(クラウディア)の親戚ということになっている。
 初日にまさかのレッドと遭遇して元から消えていたハイライトが更に消えた。

・大総統
 報告を受けて頭を抱えた

・スターレッドこと獅子郷慎一
「綺麗な子が転校してきたなー」

・後ろの席のスターブルーこと蛇川美波
「誰よあの女」

・違うクラスにいるスタークリムゾンこと鳳凰院茜音
「誰よあの女」

・彼らの元の学校
 アンチフェネクスの最初の攻撃の余波に巻き込まれて燃えた
 幸い死者はでなかったが、校舎が使用不能になった

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