戦闘員さんは転職するようです   作:火影みみみ

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ムシャクシャしてやった反省はしてない

 星辰族の祭祀場。その最奥に座して動かない一人の老婆の姿があった。

 彼女の名前は星辰(せいしん)(まつり)、御歳九十を超える星辰族の最高権力者である。

 星辰族の戦士は全て彼女が神託によって選別したものたちであり、彼女自身も祭壇座の戦士である。

 祭壇座の戦士には特殊な能力がそなわっていて、それによって未来を予知したり、宙に輝く星座の声を聞いたりして里の運営方針を決定したりしている。

 

「初めて来てはみたが、随分と静かで見窄らしい所だ」

 

 黄金の鎧に身を包んだ裏界十字軍の大総統、クラウディアである。

 

「他の者はすでに逃したからのう。ここに居るのはもう儂とお主だけじゃ」

 

「流石は神託の族長殿、我々の襲撃はお見通しということか、だがよかったのかな? 星辰戦隊を集めていれば勝機はあったのではないか」

 

「いや、無駄じゃ」

 

 族長は言う。

 

「どうやっても最後には皆殺しにされる。大罪を相手にするには力が足りぬ。 一人にでも大罪を奪われたら連鎖的に次の大罪が解放されたじゃろうて」

 

「確かに。ここにこうして大罪があることが、その証だろう」

 

 彼女が取り出したのは獅子を模した彫像。

 

「【傲慢の獅子】、そうか慎太郎は逝ったのか……」

 

 獅子郷慎太郎。先々のスターレッドであった男。本来ならばこの大罪は彼が所持しているはずだったのだが……。

 それが彼女の手にあると言うことは、詳細は語るまでもないだろう。

 

「一線を退いた戦士では我らを阻むことはできんよ。それこそ、スーパーノヴァでも持ち出さない限りはな」

 

「スーパーノヴァ。儂が最後にそれを見たのは幼い頃じゃったのう」

 

 過去を懐かしむように呟く。

 

「あれならば大罪にも対応できよう。じゃが、駄目じゃ。力に取り憑かれた者の末路はいつの時代も悲惨じゃ。正規の試練なくして使って良い物ではない。そして、その試練を超えた者は()()()()()()()()()()()。そして」 

 

「そして、力を求めるあまり大罪を犯した、と言うことかな」

 

 それを聞き族長は固まる、がすぐに何かを理解したようで大笑いをし始める。

 

「ははははは! なるほどのう! あの子を見つけたのか!! 結界が突破されるわけじゃ。あれは星辰族でも悪意のある者は通さぬが、それも全てというわけではない! 星辰族に正当なる恨みを持つ者は素通りしてしまう。あの結界は確かに里を守護する物じゃが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一族が悪に染まれば結界は崩壊し、機能を失うようにできておる。故にあの子は、あの子だけには結界は機能しない!」

 

 笑い疲れたのか、族長は息を切らし、ゆっくりと深呼吸を始める。

 

「初めて彼女を見た時に、これは運命だと思ったよ。大罪の復活、そして異界に封じられた我らが母なる大地を取り戻す時が来たのだと確信したさ」

 

「じゃがな、例え己が業で里が滅びようとも、貴様らを見逃す理由にはならん!」

 

 族長は立ち上がり、スターチェンジャーと祭壇を模した結晶体を掲げる。

 

「こちらも、貴方に生きていられると些か都合が悪いからね。ここで死んでもうよ」

 

 彼女は獅子の彫像を握る。

 

「スターチェンジ!!」

 

 族長が光に包まれる。

 

「変身」

 

 獅子の彫像を砕くと、中から溢れ出した泥のような液体が彼女を包む。

 刹那、彼女たちの姿は一変する。

 片や祭司長のような神性な姿をした戦士に。

 片やライオンをモチーフにした鎧姿の怪人に姿を変える。

 ここに星辰戦隊と裏界十字軍、その最高権力者同士の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、私の真の実力だヨ。奸賊」

 

 瞬間、彼女との距離一気につめたスターフェニックス・スーパーノヴァは炎を纏った刃を突き出した。

 感じる熱量、突き出される速さから防御は不可能と考えた彼女は紙一重でそれを避ける。

 左手でレイピアの持ち手を跳ね上げ、更に一歩踏み込み右肘を相手に突き出し、空いた胴体に渾身の肘打ちを叩き込む。

 八極拳で有名となった裡門頂肘である。

 

「ちっ、浅い」

 

 完璧に決まったはずであった。念には念を入れ、打撃の瞬間に肘に展開していたバリアも爆発させていた。

 通常なら装甲を破壊し、内部まで確実に破壊するつもりで全力の裡門頂肘を放った。

 だが実際は二、三歩彼を後退りさせた程度であり、装甲には罅が見られたものの、それは直ぐに修復され、跡形も無くなった。

 

「無駄だヨ。貴様如き有象無象ではこのスーパーノヴァの守りを破ることなどできン」

 

「……ほんっと嫌になる。()()()()なんてふざけた物実在したとか聞いてない」

 

 彼女は見た、自身の攻撃が当たるその直前、スターフェニックスの体から炎が溢れ出たのを。

 彼女は見た、その炎が盾となり、彼女の攻撃の大部分を無力化したのを。

 彼女は見た、その炎が慈愛に満ちた瞳でこちらを見つめていたのを。

 あれは、作り物ではあり得ない。そう彼女の直感が告げていた。

 

「そウ! これこそが我がスーパーノヴァの真髄ヨ! 不死鳥座の戦士が本来持つ回復力が大幅に底上げされたことに加え、不死鳥座の意思そのものが私を守護してくれていル!! まさに鉄壁の防御! これを貴様如きが破れる道理など有りはしなイ!!」

 

 スターフェニックスは再び分身をして彼女を取り囲む。

 しかしこれは先のように直接襲いかかるためではなく、彼女の逃げ場をなくすためのものだった。

 

「「「いくら貴様が速く動けようとも、全方位からの範囲攻撃を避けはできまイ」」」

 

 それは彼が現役時代に愛用したもの、不死鳥座の戦士が放つ最強最後の必殺技。

 さらにスーパーノヴァの状態で放つそれは現役時代のものよりも格段に強化されている。

 太陽の如き輝きで相手を焼き尽くす不死鳥の一撃、その名も

 

「「「クリムゾン・ノヴァ・フェニックス!!」」」

 

 四方八方から襲い来る不死鳥の群れ。

 まともにくらえば流石の彼女とてただでは済まないだろう。

 

「ちっ!」

 

 これを受け切ることは不可能と判断し、前方から来る一体にバリアブレードを放つ。

 彼女としてはこれで攻撃を相殺し、その時に出来た穴から離脱、態勢を立て直すつもりであった。

 

『キュイイイ!!』

 

 その不死鳥が彼女の刃を噛み砕かなければの話だが。

 噛み砕かれた破片が小さな爆発を起こすも、その程度では不死鳥を傷つけるに至らない。

 

「嘘やん!?」

 

 まさか必殺技が反撃してくるとは思いもよらなかったが、直ぐに切り替えて彼女は上に逃げる。

 

「馬鹿メ! 袋の鼠だヨ!」

 

 不死鳥の群れは彼女がいた地点近くにまで到達すると、そのまま上空へ進路を変え彼女に迫る。

 彼女は二、三度刃を放つが、それらは避けられ、または砕かれてしまう。

 

「あーあ」

 

 そうして何もできぬまま、不死鳥が彼女に触れる。

 その直後不死鳥はまるでミサイルでも直撃したかのような大爆発を引き起こす。それは連鎖し、残りの不死鳥も誘爆してしまう。

 少しして、漂う爆煙から一つの塊が落下してくる。

 彼女だ。

 遠目でよくわからないが全身が黒く焼け焦げているように見える。

 

「まったク、しぶとい俗物だったヨ」

 

 勝負はついたと判断し、スターフェニックスは背を向ける。

 里に侵入した賊は彼女一人ではない、このスーパーノヴァが発動しているうちに残りの敵を排除しようと考えたためだ。

 

「ン?」

 

 体に軽い衝撃が走る。

 まだ生きていた彼女が死力の一撃でも放ったと思い後ろへ視線をやろうとして、自身の胸から生えているそれが目に入った。

 

「な、に!?」

 

 それは左腕だった。

 黒く焼け爛れた腕が背中から貫通し胸から飛び出していたのだ。

 

「あは、油断大敵って知ってる?」

 

 後ろから嗤い声が聞こえる。

 彼が振り向く前に、背中を蹴られ地面へと転がる。

 

「ああ痛い痛い痛い、全身大やけどとか乙女に対して酷いことしてくれるよねほんと、どんな教育受けたらそうなるのやら」

 

 そう言って嗤う彼女の姿は見るに堪えないものであった。

 全身の火傷も酷いし右腕は肘から先が炭化し砕けているが、それよりも一番悲惨なのはその顔だ。

 鉄仮面の右側が砕け、その内部が露出しているのみならず、皮膚が剥がれ普段は隠れている眼球や歯茎などが丸々露出している。

 その傷をまるでないかのように嗤う彼女に恐怖を覚えるスターフェニックスであったが、それよりもまず問いたださねばならないことがあった。

 

「貴様、どうやってクリムゾン・ノヴァ・フェニックスから逃れタ! 怪人を焼き尽くす必殺の炎だゾ! それを受けて死なぬはずがなイ!!」

 

 胸を押さえ、立ち上がる。

 指の隙間から絶え間なく血液が流れ落ちるが、気にした様子などない。

 

「まあ確かにね。いくら私でも直撃したら爆散しちゃうから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 不死鳥が直撃する寸前、優しげな目で襲いくる不死鳥の首を掴み、その隣に居た別の不死鳥に叩きつけたのだ。

 衝撃で不死鳥は爆破、他の不死鳥を巻き込んで大爆発を起こすこととなった。

 その時の爆発に巻き込まれ右腕は炭化し、彼女自身も重傷を負うこととなったが、死ぬよりは遥かにマシだろう。

 その後は簡単だ。

 空中にバリアで足場を作り、そこから全力で跳躍。

 爆破では破れなかったため今度は全エネルギーを左腕に集中、そうしてできた刃は炎の守りを貫き、彼に重傷を与えたのだ。

 

「だがそれだけで我が炎ハ、超人因子を圧縮して放出する星辰戦隊の必殺技は怪人に対して絶大なダメージを与えるはズ! それをどうやって防いだのダ!?」

 

「それはね。お前にもわかるようによーく見せてあげる」

 

 瞬間、彼女の周りに幾十もの膜のような何かが現れる。

 

「私はね。本当は攻撃より防御が得意なの。……確かに全部は防ぎきれなくて大火傷したし、今もあちこち因子が侵食して再生が遅いけど」

 

 自信満々にそう告げる。最後の方は小声なのはご愛嬌と言ったところか。

 

「……なる程。バリアはあくまでただのエネルギー。怪人因子を含んでいたならば対消滅しただろうガ、直前に暴発させられたことで威力を弱めらレ、それを破るほどの力は出せなかったカ。……まさか!?」

 

「あ、やっと気づいたんだ。そうそう、お前がご大層に教えてくれた星座の加護なんて、最初から私には効いてないの」

 

 彼女のバリアは四六時中、それこそ寝ている間すらも発動し続けている。ましてや敵地に突入するというのだ。彼女がバリアを解く理由などありはしない。

 その障壁に阻まれ、星座の加護も漂っていた超人因子も彼女には届いていない。

 

「空気や音、光だけを狙って通すのって結構大変だったけど、慣れちゃえば結構便利便利。これがあれば例え火の中水の中でも活動できるし、不意打ち対策にもなる。強化状態でしか発動できないお前の炎とは訳が違うのよ」

 

 そう侮蔑を込めて告げる。

 それを受け一瞬激怒しそうになるが、スターフェニックスは不敵に笑う。

 

「ハハハ……。確かに私が甘かったようだネ。認めよウ。これは私の失態ダ。だがナ! 敵を前にグダグダと無駄話する貴様よりかは遥かにマシだヨ!!」

 

 彼が手を離すと、そこには傷跡など跡形もなくなっていた。

 

「例え心臓を貫かれようとモ、脳を砕かれようとモ、不死鳥が死ぬことはなイ! 油断大敵と言った貴様の言葉、そのまま返してやろウ!」

 

 無傷となったスターフェニックス。それに引き換え右腕を失い満身創痍といった風体の彼女。

 どちらが優勢か、火を見るよりも明らかだろう。

 

「ほんと、お前って馬鹿よね」

 

「なんだト?」

 

「なんで私がグダグダと無駄にお前と話してたと思うのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何を、と叫ぼうとした時だった。突如大きな爆発が起こり、爆風が彼らに降りかかる。

 

「あれハ……貴様、まさか我が屋敷カ!?」

 

 彼が見たのは炎に包まれる一軒の屋敷だった。それは屋根の上に乗っている不死鳥の飾りが特徴的で、炎に包まれるその様はまさに伝説の怪物そのもののように見える。

 

「ずーっと不思議に思ってたんだ。何でここに来てから頭痛が止まらないのか。どうして気分が悪いのか。お前と戦ってる時も考えてた。因子はバリアで防げる。怪人は並のウイルスで体調を崩すはずがない。ならば何? 答えは簡単だった。」

 

 彼の問いを無視して、一人語り出す。

 

「あれはメッセージだったのよ。私がここに来た瞬間から、ずーっとメッセージをテレパスで頭に叩きつけてたって訳。テレパスってとても繊細で、受け取る側との相性が悪かったり力が弱かったりするとただの頭痛としか感じられないらしいし、私も気付くのがだいぶ遅れちゃった」

 

 でも、と彼女は続ける。

 

「お前の不死鳥を見て思ったの。これはもしかしたらただの頭痛じゃないのかもって。そう気づけば簡単だった。意識を集中させてそいつに集中してみると、うざかった頭痛は止んではっきりと声が聞こえてきたわ。『力が欲しくば此方へ来い』ってね。あまりにも煩いもんだからさ。私はこう言い返してやったのよ。『今忙しいからお前が来い』って」

 

 瞬間、耳をつんざく雄叫びが周囲に響く。

 

「そしたらさ、丁度お前を貫いた時に『しばしお待ちを』って聞こえて視線も消えたから、もう少しすれば来るかもって思って長話してたんだけど、ようやくとかちょっと遅いよね」

 

 屋敷の残骸から黒い影が舞い上がる。

 それは一直線に此方へと飛翔し、彼女の眼前へと降り立った。

 それは黒い炎を纏った異形の鳥であった。

 

「あれはまさカ、()()()()()!? 廃れた大罪が封印を破って現代に甦ったとでもいうのカ!?」

 

 そうまさにスターフェニックスの放つ不死鳥を漆黒に染めたかのように瓜二つのそれは、彼女へ傅く。

 

『遅れて申し訳ありません。憂鬱のアスタロト、ただいま参上いたしました』

 

「それで、力って何なの?」

 

『御手を』

 

 右手を出そうとして、そういえば吹き飛んだんだったと左手を差し出す。

 

『我が力は御身の下に』

 

 そう告げると鳳の姿が揺らめく。

 鳳凰の輪郭が崩れ、黒い炎となって彼女の掌の上に凝縮されていく。

 

「へぇ、まるでお前の鳥みたい」

 

 それは鳳凰の形をした結晶体だった。色が漆黒という点を除けばまさに星辰戦隊のそれと同じ物と錯覚するくらいに、スターフェニックスの持つ結晶体と瓜二つであった。

 

「ん〜ならもしかしてこれは使えちゃったりする?」

 

 ゴソゴソと懐を弄り、取り出したのは彼女が幻想機関から盗み出した星辰戦隊の変身装備、スターチェンジャーのコピー品である。

 

「馬鹿ナ!? なぜ貴様がそれを持っていル!!」

 

「しーらない。勝手に考えてれば」

 

 そう告げると同時に鳳凰の結晶体を放り投げる。

 クルクルと回転したそれはゆっくりと吸い込まれるようにきちんと持ち直したスターチェンジャーの差し込み口へと入り込む。

 

「変身」

 

 スターチェンジャーから漆黒の炎が溢れ出す。

 炎は左腕を伝い、瞬きにも満たない時間で彼女の全身を覆い尽くす。

 彼女が腕を振るうと、炎は散り散りとなって消え去る。

 そこから現れたのは異形の怪物だった。

 人々に幸福をもたらす鳳凰をまるで魔物に貶めたような装飾をした、ダークレッドの全身鎧。それは失ったはずの右腕すらも再現し、動かすことすら可能とした。

 背中には鳳凰の尾のような飾りが八つ備え付けられ、まるで一つ一つが意思を持つかのように揺らめいている。

 足下から頭の頂点に至るまで、ありとあらゆる箇所から時折炎が吹き出し、絶えずその炎にさらされている地面は耐えきれずに液体化し、沸騰してマグマのように様変わりしている。

 

「そう言えば、私ってコードネームとか決めてなかったよね」

 

 右手の人差し指を顎に当てて考える。

 ふと視線を逸らせば、そこには彼女が脱出した際に散らばった家具が、その中の砕けた姿見に映る自分の姿が見えた。

 

「ふーん、なかなかにいい格好してる……そうだ、【アンチフェネクス】なんていいかも! ()()()()()()()()()()()んだし、私が使っても問題ないよね」

 

「ぬかセ、悪党!」

 

 彼は再び必殺の不死鳥を放つ。

 それは彼女へ向けて一直線に飛翔し、彼女に襲いかかるが、寸前で動きを止める。

 

「なにこれ、全然手応えがないし、手抜いてんの?」

 

 彼女の左腕が不死鳥の頭を掴み、そのまま押さえつけていたのだ。

 すると、彼女の左腕に何時の間にか装着されていたスターチェンジャーが点滅するとともに話し出す。

 

『いえ、それ以上に主の力が強化されているのでしょう。我ら大罪は超高純度のテルスにて構成されております。我らを纏った者はそれだけで強大な力を得ることになります。この結果は当然と言えるでしょう』

 

「テルス?」

 

 聞き覚えのない言葉に首をかしげる。

 

『失礼。現代の言葉に直しますと、怪人因子と呼ばれている物質になります』

 

「ああなるほど。……まあ時代によって呼び方とか違うし当然かな」

 

 そう言うと彼女は左手に力を入れ、そのまま不死鳥を握りつぶした。

 

「これでは駄目カ! ならば危険だがもう一度因子を再注入し出力の底上げを」

 

「遅い」

 

 彼女、アンチフェネクスは一気に距離を詰め、首を掴む。

 

「ぐ!? だガ、これで貴様も逃げれれまイ! 私諸共煉獄に落ちるがいイ、クリムゾン・ノヴァ・フェニックス!!」

 

 最早これまで、と自身ごと彼女を焼き尽くそうと必殺の炎を放つ。

 だが、それは叶わなかった。

 

「な、なぜ、フェニックスが、不死鳥が出ない!?」

 

 彼がいつも通りに必殺技を放つ動きをとったが、レイピアの先から不死鳥が放たれることはなかった。

 

「あはは、遂に不死鳥に見限られちゃった? 知らんけど」

 

 彼女は右手に力を込める。

 五度程爆発を起こすと、彼の変身が解除される。鎧に宿った不死鳥の炎でさえも、密着した状態で急所に連続して起こる爆発を防ぎ切る程の防御性はなかったようだ。

 

「他の大罪の在処って知ってる? 万が一、また事前情報と違ってたら厄介だからさ」

 

「誰が言うものカ! 貴様ら薄汚い悪党ふ」

 

「じゃ、死ね」

 

 言い終わるのも待たずに、彼女の右腕から生じた黒炎が鳳凰院学の全身を覆い尽くす。

 

「アアアアアア!? 熱イ! フェニックスだゾ! 不死鳥が焼かれ死ぬだト、ふざけるナ!!」

 

 彼はレイピアを捨て炎を消そうと踠くが、首を掴む彼女がそれを許さない。

 

「アアアアアア……」

 

 やがて抵抗は段々と弱くなり、最後には腕を垂らし力なくただ吊られるだけの人形になる。

 

「もう死んじゃったの? 情けない」

 

 そう言うと彼女はそれを捨て、胸だった部分を踏みつける。

 炭となった身体が砕け、何か硬いものにぶつかる。

 

「あったあった。これで任務達成かな」

 

 彼女がそれを拾う。それはやや溶けてはいるものの未だ形を保っている牡牛の彫像だった。

 

『主よ、それを破壊すれば封印は解けるでしょう』

 

「そうなの?」

 

 聞くや否や掌を爆発させる。彫像と手の隙間にバリアを作り、そのまま爆破させたのだ。

 その爆発は彼女が思っていたよりも強く、彫像は呆気なく砕けてしまう。どうやら彼女の異能の出力も強化されているようであった。

 

『ああ、面倒だ。また俺が起こされるとはな』

 

 彫像の中から現れたのは黒い泥であった。

 明らかにあの彫像の中には納まりきらないほどの泥があふれ出し、体長が二メートルに迫るほどの牡牛の姿をとる。

 

『仕事の時間だ、ベルフェゴール。我と相性の良いお前なら必ず主の力になるだろう』

 

『主、ねえ。まあそんなこと知ったこっちゃないが、時が来たというのなら仕方がない。逆らうのも面倒だしアンタでいいよ』

 

 そう言い残すと黒い牡牛は再び泥となり、彼女の左手の上に収束する。

 黒い泥が全て集まると、小さな黒い牡牛の結晶体がそこに残されていた。

 

「……うん、あとは帰るだけなんだけどさ。そういえば大罪が喋るなんて聞いてないよ、総統閣下」

 

 そんなことを呟きつつ、彼女は集合地点に向かう。

 

 

 

 

 

 

 余談ではあるが、帰りの輸送機内にて変身を解除した時、未だ再生していなかった顔と腕に驚かれてひと悶着あったのは別の話。

 

 

 




・スーパーノヴァ(仮)
 過去に存在した星辰戦隊の強化形態を鳳凰院学が独自で再現したもの。
 本物に比べると強化率は劣るが、本来受ける試練などを無視して使用できるのが強み。

・大罪
 七つではない。
 傲慢、憤怒、嫉妬、暴食、強欲、怠惰、淫蕩、憂鬱、虚飾の九つ。
 よって大罪騎士も本来は九人いるべきなのだが、色々あって七人になった。
 二重襲名しているのは総統と戦闘員さん。

・怪人アンチフェネクス
 憂鬱のアスタロトを使用して変化した形態。
 由来はスターフェニックスが死ぬほど気に入らなかったけど、不死鳥は気に入ったため、名前を奪った。
 スターチェンジャーを使用しているものの、分類上は怪人。
 能力は「黒炎」と「??」。再生能力はない。
 黒炎はどちらかと言えば身体機能よりの能力なので異能とは少し違うかもしれない。
 
・戦闘員さん改めアンチフェネクスさん
 毎回大怪我をしているような気がする狂犬。不思議だね。
 痛みを感じないわけじゃなく、ただ慣れているだけ。
 普通の必殺技なら再生が早いが、ノヴァ形態の必殺技は超人因子の濃度も濃いため、再生が遅れた。多分二日で治る。
 今回の報酬で憂鬱と怠惰を手に入れて、《憂鬱の騎士》と《怠惰の騎士》を襲名した。
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