「では、これより軍議を開始する」
ばさりとマントを靡かせ、腕をこちらに突き出してクラウディアが告げる。
「前回の作戦にて全ての大罪を奪還することに成功した我々だが、無論これで終わったわけではない。むしろこれからが大変と言えるだろう」
彼女は二つ、小さな結晶体を円卓に置く。
それは彼女が獲得した大罪、獅子の形を模した【傲慢の獅子】とグリフォンの形を模した【虚飾の鷲獅子】である。
「大罪は纏うだけでも強大な力となるが、それでは真の力を引き出せたとは到底言えるものではない。大罪の声を聞き、その身を真なる姿に昇華させてこそ本来の大罪騎士と言えるだろう」
「せやな、ワイらは全員変身できとったみたいやし、第一段階は突破したと考えてええやろ。やけど、その次の大罪の声を聞くっちゅーのがようわからん。手に入れた時の呼び声みたいなもんやったら頭にガンガン響いとったけど、それとはまた別なんか?」
そうサングラスにアロハシャツを着た男、強欲の騎士“成田利彦”が問いかける。
その問いにうんうんと頷きながら嬉しそうに答える。
「そうだともそうだとも! 大罪にはそれぞれに意志が、いや、
「悪魔、ですか?」
修道服の女性、淫蕩の騎士“マリオン・タッカー”が訝しそうに呟く。
「ああそうだ。これは超人因子にも見られることだが、高純度の怪人因子の結晶体には時に意志の様な物が宿ることがある。かの有名な世界No. 1ヒーローには古き神が宿っていると聞く。またヒーロー専門の武器職人一目連の造る物に意志らしき物が宿ることも確認されている。皆にも覚えがあるのではないかね」
「……あいつ、嫌い」
身長140cm未満の一見幼女にしか見えないが、歴とした成人女性である暴食の騎士“クロエ・ローウェル”が憎々しげに呟く。
「クロエさんは幼少期の頃から奴とは浅からぬ因縁がありますからね。斯く言う私も人のことは言えませんが」
嫉妬の騎士“ラインハルト”が補足する。なお、ラインハルトとはコードネームの様な物であり、本名で呼ばれることが多い大罪騎士の中で
「そんなの騎士どころか十字軍の奴ら全員に言えることだろ。世界に嫌われ疎まれ、何度も地獄を味わって、行き着いた先がここだ。程度の差はあるが、みな同じだろうよ」
目つきの鋭い強面の男性、憤怒の騎士“
(そう言えば何人か心当たりあるわ。てか似たようなの経験したばっかだし)
ガサゴソと紙袋を鳴らし、円卓に置いていたお菓子を摘む。
彼女と交戦し戦死したスターフェニックスのスーパーノヴァ。あれも確かに意志が宿っていた。ただそれは通常の星辰戦隊には見られない現象であったため、スーパーノヴァ特有の現象と考えていた。
だが、奴が死ぬ直前に呟いた言葉が脳裏をよぎる。
『危険だがもう一度因子を再注入し出力の底上げを』
因子とは当然超人因子のことである。怪人因子を注入したところで爆散するか、良くて弱体化するだけだろう。
(あの時はよく考えてなかったけど、不死鳥の意思は歴代の不死鳥座の戦士を守護してきたなら他の星座の意思もあるはず。けどそんなの今まで見たことなかった。超人因子の濃度の問題? 因子を濃くしてスーパーノヴァになるといつもは表に出てこない星座の意思も活動可能になるってこと? うっわ考えただけで嫌過ぎる。あの野郎程度ならともかく、今の星辰戦隊が全員ノヴァ化したら袋叩きになる自信があるわ。……今のうちに潰しに行く? いや隠れ里潰したからきっと警戒態勢よね。逃げに徹せられたられたり応援呼ばれたりしたら潰し切れる自信ない。却下却下)
モグモグとチョコ菓子を咀嚼し、食べ終わったら次のお菓子に手を伸ばす。
ふと視線を逸らすと、それを羨ましそうに見ている隣のクロエと目があった。
「……」
すっとお菓子を右に動かすと、視線も右に、左に動かすとつられて左へと瞳が動く。
「いる?」
「……うん」
小さく尋ねると、目を輝かせて頷く彼女。
そっと残りの半数を彼女の前に差し出す。
「ありがとう」
嬉しそうにお菓子を食べ始める彼女。
(外見や仕草からして年下の子供にしか見えない……。ほんとに二十歳越えなの?)
ガサゴソと紙袋を鳴らしながら、そんなことを考える。
「と言うわけで、諸君らにはこれより修行期間に入ってもらう。既に第二段階に入っているフェネクスと涼太郎には特別任務に当たってほしい」
(あれやっぱり聞こえない系だったのか)
チラリと涼太郎の方へ視線を向ける。
第一印象は触ったら危ない系の不良。見た目からして憤怒に相応しいと言えるかもしれない。
「詳細は後に端末に転送しておくから目を通してくれ、では解散」
(……あ、そういえばこの後精密検査があるんだった)
前回かなりの重傷を負った彼女には大総統から完治したと判断されるまで一日に一度精密検査を義務付けられていた。
ガサガサと袋を鳴らし、彼女はすぐに検査室へと向かう。
その背中を六人は無言で見送り、完全に姿が見えなくなったところで、利彦が一言疑問を漏らす。
「なんであの娘、ずっと穴の空いた紙袋被ってたんやろな?」
それは顔を隠すための鉄仮面が前回の戦闘で破損して未だ修理も間に合わず、そもそも本来支給される予定の装備もまだ完成していないからなのは大総統しか知らなかったため、彼女はゆっくりと視線を逸らした。
(……ふむ、憤怒の騎士が星辰戦隊の基地を襲撃するから、私はどこか目立つ場所で囮をすればいいのか……。控えめに言って死ぬのでは?)
指令書に目を通した感想がこれである。
まず第一目的は涼太郎が星辰戦隊基地を強襲、そこで保護されている次代の祭壇座の戦士を抹殺することらしい。
なんでも今代の族長兼祭壇座の戦士は抹殺したらしいが、その子は事前に逃がされていたために取り逃したとのこと。
祭壇座の戦士は代々神託を受けて星辰戦隊に行動を指示するため、力が弱い今のうちに抹殺しなければならない。
(未来予知って便利な反面、敵に回ると鬱陶しいもんね。早く潰さなきゃ)
しかし、正面から行っては目標を逃す可能性がある。だから彼女が他の場所で星辰戦隊を引きつけ、その隙に抹殺する算段である。
ただ騒ぎを起こして駆けつけてくるのが星辰戦隊だけとは限らない。高確率で他のヒーローも駆けつけて来るだろう。
今の彼女の実力から考えて、上級までは問題はないが、上級の上級が現れた場合が未知数である。
大総統曰く「君が本気になれば十分渡り合える。今回は囮だから倒さなくてもいい」とのことだが、不安なものは不安なのだ。
これは過大評価ではなく、クラウディア自身が目にした彼女の実力を踏まえての考えでそれは正しい評価とも言える。
だが元来自身のことになると低めに考えがちな彼女にとって、強化されたとは言え今まで避けてきた上級の上級との戦いはこれ以上ないくらいに不安でしかなかった。
(できるだけ星辰戦隊のいる都市で、トップ勢が湧き出さない場所……どっかあったかな?)
一人考えるが答えは出ない。
「あ」
ぽん、と手を打つ。
一人で考えるよりも何倍もいい道具が支給されていたことに気づいたのだ。
彼女は早速部屋に備え付けられていたデスクトップPCを起動させ、怪人専用サイトへアクセスする。
【星辰戦隊のいる都市の重要施設襲うのでいいのない?】
というタイトルでスレッドを立てる。
あろう事かこの娘、自身の生存がかかっているこの作戦を他人任せにするという暴挙を犯したのだった。