謁見の間
春蘭「・・・とまあ、そういうわけです。」
春蘭の報告に、華琳と純はため息をついた。
華琳「・・・呆れた。それで、孫策に借りを作ったまま帰ってきたというの?」
華琳「・・・どうなの?」
春蘭「え、ええっと・・・連中の領に逃げ込んだ盗賊の退治は手伝ったのですから、差し引きで帳尻は・・・」
純「合ってねーよ。他国の領に入る前に黃巾党を片付けておけば、差し引く必要すらねーだろうが。」
燈「そうねぇ。・・・ふふっ。全く、その通りだわ。」
華琳「・・・しかも燈の前でこんな話をする羽目になるなんて、笑い話にもならないわよ。」
純「確かに・・・。」
それに春蘭は、
春蘭「で、ですが華琳様、純様。連中め、私達が仕掛けた瞬間、もの凄い勢いで逃げ出しまして・・・。今思えば、あれも連中の策略だったのではないかと。」
そう言ったのであった。
桂花「・・・策略?凪、それは本当なの?」
春蘭「私が話しているのだぞ。」
凪「す、すみません、自分は官軍の撤退の支援をしていたもので・・・。」
桂花「なら香風。」
春蘭「私に聞けよ!」
香風「シャンも凪と一緒だった。」
桂花「季衣はどう?」
春蘭「聞けってば!」
季衣「ええっと・・・。それまでは都の軍を一方的に攻めてたんだけど・・・僕と春蘭様が攻撃を仕掛けたら、ばーって撤退していって・・・。」
燈「華琳様、純様・・・。」
華琳「・・・ええ。前に潰した黃巾党か、それとも新しく入ったか・・・いずれにしても、黃巾党にはそれだけの策を弄せる指揮官がまだいるという事ね。」
純「しかし、こちらの予想としては折り込み済みの事項だから、驚くことではないですけど・・・。」
純「香風。今回の官軍の指揮官は誰だった?」
香風「張遼将軍でした。かなり強い指揮官でした。」
香風「多分、上から数えた方が早いくらい。」
純「そっか・・・。」
そして、純は香風にこんな事を聞いた。
純「香風は知り合いだったか?」
香風「ううん。張遼殿は董卓将軍の部下だったから、名前くらいは知ってました。」
純「そう言えば姉上、この前の山中の食料庫を陥とした時の戦、共同作戦だった事にして欲しいと手紙を送ってきた中郎将がそんな名前でしたね。」
華琳「そう言えばそうね。」
それに燈は、
燈「あれは皇甫嵩将軍の任務でしたから、それででしょう。皇甫嵩将軍と董卓殿は、同じ閥に属していたはずでしたから。」
そう答えたのであった。
華琳「董卓というのは、どういう人物なの?あの時は恩を恩と解する人物のようだったから引き受けたけれど・・・その口ぶりだと、知っているのでしょう。燈。」
燈「もちろん。董卓将軍は地方豪族の出ですが・・・」
燈「公明正大な人物で、怪異蠢く朝廷の数少ない良心の1つと言えるでしょう。」
燈「そちらに手紙を送ってきた際も、贈り物はほんの手土産程度だったのではない?」
華琳「ええ。大量の賄を持ち込んだなら突き放すつもりだったけれど、手紙の文面も礼を尽くした物だったし、土産の趣味も悪くなかったわ。」
燈「恐らく、その文面で感じた通りの人物よ。ただ、そんな性格だし、朝廷では苦労しているようだけれど。」
純「だろうな。あそこは、正しい者には生きにくい世界だからな。」
香風「・・・賄賂を沢山送った人が、強い。」
華琳「官軍の動きも妙だったし、今後はあちらを援護する場面も増えるでしょうね。純同様。」
純「そうかもしれませんね。」
華琳「ええ。ああ、そうだわ、純。あなた、春蘭が会った孫策という人物は知ってるわよね?」
純「はい。『江東の虎』孫堅の娘であることは知ってますよね。」
華琳「ええ、その程度しか知らないわ。」
純「その虎の娘に相応しい武勇と王の器を持っております。袁術の下に収まる者ではありません。」
華琳「そう。春蘭も純と同じ意見かしら?」
しかし、
春蘭「?」
よく分からなかったのであった。
純「難しく考えるな、武人の夏侯惇としてだとどう見たんだ。素直に答えろ。」
すると、
春蘭「・・・檻に閉じ込められた野生の虎の目をしておりました。虎の娘というなら、それは間違いないでしょう。」
春蘭「袁術とやらがどんな輩かは知りませんが、純様の言う通り、ただの食客で収まる器ではないかと。」
華琳「そう・・・。春蘭、その情報に免じて、今回の件についての処分は不問とするわ。孫策への借りは、いずれ返す機会もあるでしょう。その機を見誤らないように。」
春蘭「はっ。ありがとうございます。」
華琳「それでは、他に何か報告すべき意見はある?」
桂花「いえ。朝廷の動きは、私の知人を通じて探らせておきます。」
燈「あちらの監視は、私に預けてもらって構わなくてよ。香風さんも色々知っているだろうし。」
香風「んー。あんまり頼りにされても、困る。」
桂花「結構よ。こちらはこちらでするわよ。」
と桂花は燈に対抗心むき出しであった。
華琳「・・・競いすぎてお互い尻尾を掴まれないようになさい。上に睨まれてもつまらないわ。」
桂花「お任せ下さい!」
燈「ええ、心得ていますわ。」
華琳「黃巾党はこちらの予測以上の成長を続けているわ。官軍は当てにならないけれど・・・私達の民を連中の好きにさせることは許さない。いいわね!」
季衣「分かってます!全部、守るんですよね!」
純「そうだ。それにもうすぐ、俺達が今まで積み重ねてきた事が実を結ぶはずだ。それが、奴らの終焉となる。」
春蘭「・・・どういう事でしょうか?」
純「いずれ分かる。・・・それまでは今まで以上の情報収集と連中への対策が必要になる。」
華琳「民達の血も米も、一粒たりとて渡さないこと。以上よ。」
そして、その日の軍議は解散となったのであった。
春蘭「純様!」
その時、春蘭が純を呼んだ。
純「どうした、春蘭?」
春蘭「いえ、先日の純様の遠征の件ですが・・・。」
純「ああ、青州に行った・・・」
春蘭「それです!焔耶が敵将の首を取ったと。」
純「ああ、取った。中々の活躍だった。兵の指揮といい、将としての器も確かだ。」
春蘭「そうなのですね。それで、実力はどのくらいですか?」
純「それって、個人の武のことか?それなら今だったらお前の勝ちだ。けど、あいつの才能は確かだ。瞬く間に追い付くぞ。もしかしたら、お前も追い抜かれるやもな。俺を追い越す前に。」
その瞬間、春蘭の目付きが変わった。
春蘭「いえ、負けるつもりはありません。」
そう言って、その場を後にした。
華琳「流石ね、純。」
純「姉上、聞いていたのですか。」
華琳「ええ。全部ね。」
純「そうですか。」
華琳「何故あのようなことを言ったのかしら?大体は理解できるけど。」
純「実際に焔耶の才能は確かです。先日の戦でも、その前の戦でも、その才の片鱗は見せています。その上でそう言ったのです。ああいう才ある者が結果を残し続ければ、春蘭を初めとした他の皆にとって、良い刺激になります。そして、お互い競い合い、高め合い、それが、我が軍の底上げになり、覇道完遂に大きく近づくかと。」
華琳「なるほど。あなたらしいわね。」
純「恐縮です。ではこれにて。」
そう言い、純はその場を後にした。
関所
香風「華琳様と純様は、シャン達が見えてる景色が違うんだろうね。」
秋蘭「我々には及びもつかん事を考えていらっしゃるからな。私は特に純様と一緒にいた時間は他の誰よりも長いが、まだ分からん事もある。仕方ないさ。」
香風「秋蘭様も、分からない事あるんだね。」
秋蘭「分からない事だらけだよ。出来るのは、分かろうとする事と、信じる事だけだ。」
香風「・・・間違っていない事は、大体分かる・・・。」
秋蘭「ふっ。そうだな。」
その時、
純「何の話してんだ、お前ら。」
純が現れた。
秋蘭「純様、いえ、何でもありませんよ。」
純「そっか・・・。しかし、俺も国境警備の視察か・・・。まぁ、それが正しく行われてんのか確かめるんだけどな。」
秋蘭「はい。しかし、苑州は他より厳しくないはずなんですけどね。」
純「まあ、それには理由があるんだけどな。」
旅人A「こんにちは、お役人様。」
香風「こんにちはー。」
純(まあ、こうやってのんびり馬を進めてると、旅人達が声かけてくれんだけどな。)
旅人B「どうも、ごきげんよう。お役人様。」
秋蘭「うむ。」
純「ああ。」
そうやって暫く視察をしていた時だった。
兵士A「捕まえてくれ!関所破りだ!」
純「秋蘭!」
秋蘭「はっ!!」
それを聞いた秋蘭は、馬にくくり付けていた弓をひょいと取り上げ、つがえた矢を素早く引き絞った。
秋蘭「・・・無理に関など破らねば、この場にいる純様は貴様を受け入れて下さったものを。」
そう言って、秋蘭は関所破りに向けて矢を放った。
関所破り「がっ!?」
その矢は、関所破りの肩にまるでそこに最初から決まっていたかのように吸い込まれていったのであった。
純「おおーっ。お前また腕上げたな。」
純は額に手をかざして見ながらそう言った。
秋蘭「いえ、まだまだです。純様もこの程度の距離、造作もない筈。それに聞いたことがあるでしょう、長沙の辺りにはこの倍の距離でも外さない弓使いがいることを。」
純「確かに聞いたことがある。けど、俺の中ではお前が1番だよ。」
秋蘭「ありがたきお言葉。・・・さて、肩ならば致命傷になっていないはずですが。」
そう言って、純達は関所破りに近づいた。
関所破り「うぅ・・・痛ぇ・・・。」
香風「純様、この人・・・。」
純「うむ。しかし、関所に払う金がねーのか、後ろめたいと思う気持ちがあったのだろうな。まあその分、救いようがあるんだがな。」
そう言って、純は関所破りを見ていると、
純「ん?」
懐に何かを発見したのであった。
秋蘭「どうかなさいましたか?」
純「こいつの懐に何か入ってる。・・・何だこれは、手紙か?」
そう言って、懐から取り出し、広げて見てみた。
純「これは・・・!」
秋蘭「純様?」
純「これを見てみろ。」
そう言い、純は秋蘭達に見せた。
秋蘭「これは!いきなり情報が転がり込んで来ましたね。」
純「ああ。おい、連れて行け。」
兵士A「はっ。ご協力、感謝致します。」
そう言って、兵士は関所破りならぬ、黃巾党の連絡兵を連れて行ったのであった。
純「大手柄だな、秋蘭。」
そう言って、純は秋蘭の頭を撫でた。その時の秋蘭の顔は、幸せそうな表情であったと、後に香風は語っていた。
謁見の間
華琳「大手柄ね、秋蘭。」
秋蘭「・・・はっ。」
桂花「連中の物資の輸送経路と照らし合わせて検証もしてみましたが、敵の本隊で間違いないようです。その後、凪と沙和を偵察に向かわせましたが・・・。」
凪「はい。張3姉妹と思われる3人組も、見受けられました。」
華琳「間違いないのね?」
沙和「うん。3人があの歌を歌って、黃巾の兵士達がみんなでそれを聞いてたの。すっごく楽しそうだったの。」
華琳「・・・楽しそうだった?」
沙和「なの!」
華琳「分からないわね・・・何かの儀式?」
凪「詳細は不明です。連中の士気はやたらと上がっていたようでしたので、戦意高揚の儀式かもしれません。」
純「稟、彼女らは見つけ次第、殺せば良いか?」
稟「いえ、彼女達は見つけ次第、捕まえるべきかと。彼女達の歌でこれだけ集まったのです。それには利用する価値があり、彼女達に徴兵をさせて貰うのです。」
純「つまり、彼女達の力で徴兵し、兵力を上げるってことか?」
稟「はい。」
純「なるほど・・・。姉上、如何致しましょう?」
華琳「郭嘉の意見を採るわ。この件は、一気にカタが付くわ。動きの激しい連中だから、これは千載一遇の好機と思いなさい。皆、決戦よ!」
そう言われ、それぞれ準備を始めたのであった。