時系列としては菊花賞~前話の間くらい。
一部、メタな表現や三人称視点になっている場面があります。
夢が破れるとき、一体どんな音が鳴るのだろうか。
紙が破れるときのような音だろうか。
心が折れるとき、一体どんな音が鳴るのだろうか。
割り箸をへし折るときのような音だろうか。
胸が高鳴るとき、一体どんな音が鳴るのだろうか。
……アタシの胸が高鳴ったときは、鈍くて濁った音がした。
当然だろう。
友の掲げた無敗の三冠が叶わぬ願いとなったとき、彼女の心から鳴る音を聴いてみたいだなんて。
そんな薄汚くドス黒い感情を抱く自分から、綺麗な音が鳴るわけないのだ。
■
始まりは何だっただろうか。
たぶん、彼女がダービーに勝利して二冠を得た時だったと思う。
同世代において、最高の天才と目されるそのウマ娘が放つ輝きは、目を焼き尽くすほどだった。
この世のすべてが自分の味方で、自分のためにあるとでも言わんばかりの自信と自任。
どれだけの才能を持って生まれれば、周りからの承認を得て生を歩めば、そんな在り方ができるのか。
仮に同じ才能があったとしても、自分にはできそうにない生き方だなと、苦笑しながら友達付き合いをしていた。
そうして彼女の骨折が判明し、菊花賞への出走が絶望視されたとき。
とても信頼していた大切なトレーナーから契約解除を言い渡されたとき。
あれほどの天才でも地を這うことはあるのだと、世の無常さに戦慄したものだ。
そして、少しだけ自分の心が弾んでいることに気付いた。
己が高みに至ることではなく、他者が理不尽な不幸で落ちていくことに、優越と快感を覚えたのだ。
なんて、なんて嫌なやつなんだろう。
そんな自己嫌悪を消すために、がむしゃらにトレーニングした。
彼女の友人として、生活のサポートを買って出て、コミュニケーションも図ろうとした。
次のトレーナーが決まるまでの間は、彼女が周りを拒絶していたから上手くいかなかったけれど。
それでも、梅雨を迎える頃には以前の関係を取り戻せたように思う。
そうして気付くと、菊花賞に出走できる資格を得ていた。
彼女の居ないレースなら、自分にも勝ち目があるかもね、なんて軽い考えで出ることを決めて。
出走できない彼女への申し訳なさと、自分だってGⅠを獲れば輝けるかもしれないという淡い期待を持って。
やっと、かつて自分が抱いた仄暗い胸の弾みを忘れられたと思ったとき。
地を這っていたはずの彼女は、かつてと変わらない輝きを放ちながら、菊花賞に挑んできた。
アタシは御大層な夢なんて抱かない。
だから夢破れて心が折れるなんてことは、これからも一生ないだろう。
その代わり他人を羨んでばかりで、うじうじとしている自分に溜息がでちゃうけど。
彼女は、物理的に脚が折れて一緒に夢もポッキリと逝ってしまったはずの彼女は、また立ち上がって歩み始めた。
なんて強さなのだろうか。
彼女が才能だけで走っている訳ではないことをアタシはよく知っている。
不断の努力とひたむきさは関節の柔らかさやバネといったアジリティに負けないくらい稀有な才能だ。
だからこそ、とんでもなく高いところを飛び続ける天才だからこそ、落ちてしまえば元には戻らないと思っていた。
実際、その走りは菊花賞までに元に戻ることはなかった。
けれど、そこに向けてトレーニングに励む彼女には以前と変わらない、あるいは以前よりも遥かに燃え盛る炎と熱が、煌々と瞳に宿っていた。
世間は彼女のことを悲劇の天才だなんて呼んで。
どこまでも無責任に奇跡の復活劇を望んでいる。
まるで本当にこの世の全てが彼女に味方しているかのようだった。
天才にとっては挫折や絶望すら、人生を彩るためのスパイスでしかないのだろうか。
だったら、アタシたちは一体なんなのだろうか。
彼女たち、選ばれた天才の引き立て役?
付け合わせの野菜。演劇の黒子。背景の賑やかし。
誰がやっても同じことに、たまたま選ばれたエキストラ。
そんな訳がない。あっていいはずがない。
ああ、だからどうしても一緒に走って聴いてみたくなった。
彼女の夢が破れる音を。
彼女の心が折れる音を。
アタシとアナタは何も違いはしないのだと、実感させてほしい。
主役も脇役もない。誰もが平等に戦い絶望するのだと、教えてほしい。
そうして、決戦の火蓋が切って落とされた菊花賞。
成せば、トゥインクル・シリーズに消えない歴史として刻まれるだろう無敗の三冠は、夢のまま終わった。
その時のアタシの心情はあまりにもぐちゃぐちゃで、筆舌に尽くし難いものだった。
自分の四着という結果に落胆するでもなく、アタシはそれを確認することを優先した。
胸の内をゾクゾクと這い上がってくる興奮と好奇心。
こんなことを考えてはいけないという罪悪感と自己嫌悪。
ねぇ、テイオー。
今、あなたはどんな表情を浮かべているの?
ねぇ、テイオー。
今、あなたの心はどんな音を鳴らしているの?
アタシはいま、こんなにも醜悪な笑みを浮かべて、心はこんなにも汚らしい音を鳴らしている。
ねぇ、テイオー。
アタシとアナタはなにも違わないって、教えて?
■
「ん"あ"あ"ぁ"ーーーーーー!!」
チーム『カノープス』が集まりトレーニングの打ち合わせをするなか、唐突にナイスネイチャの絶叫が部屋に響いた。
「ネイチャ、どうしたの?」
ツインターボが他の二人に問いかけているが、その様子を疑問に思っても驚いてはいないあたり、カノープスでは割とありふれた光景なのだろう。
「きっと、そういうお年頃なんだよー」
「大声を出すことで体内に酸素を多く取り込み、筋肉への血流を増加させることができます。血流を良くすると肩こりや腰痛の改善に繋がりますから。これはネイチャさんなりのストレッチのようなものでしょう」
のほほんとネイチャ思春期説を推すマチカネタンホイザと、メガネをクイッと持ち上げながら、ネイチャ流健康法説を推すイクノディクタス。
今日もトレセン学園は平和である。
「あぁー、確かに座って話を聞いてるだけだと退屈だし、体が固くなっちゃうもんね」
「……それは暗に、さっさとミーティングを終わらせて解放しろと言われているんでしょうか」
ツインターボが納得するなか、カノープスのトレーナー南坂は、自分の話が長くて面白くないと言われているように思えて肩を落としていた。
「アタシは嫌な女だっ! 自分が勝つことじゃなくて、ライバルが負けることを望むだなんて! ナイスネイチャじゃなくてバッドネイチャなんだーっ!」
机に突っ伏し頭を抱えながら叫ぶナイスネイチャを見て、一同は再度顔を見合わせた。
「ネイチャはなに言ってんの?」
「きっと、昨日みた昼ドラの影響だよー」
「ライバルの負け、というのは先日の菊花賞のことでしょう。この場合、恐らくはトウカイテイオーさんのことですね」
イクノディクタスからその名前がでた瞬間、ナイスネイチャの体がビクッと跳ねたことで、トレーナーも得心がいったようだった。
「全員が万全の状態で臨み、自分が勝つことができれば最善です。しかし、定められた時期までに調子を上げてくることもウマ娘に求められる能力です。そこまで気に病む必要はないのでは?」
トレーナーの視点から見れば、ナイスネイチャの悩みは珍しいものではない。
相手の不調や失策を願ってしまうのは、それだけ勝利への執念が強いことの証明でもある。
スポーツマンシップに悖るという考えは理解するが、嫌悪するほどのものではない。
「違うの! アタシ、自分の着順よりもテイオーが負けたことが気になってた! どんな気持ちなんだろうって、そんなことばっか考えてた! 友達なのに、こんなの最低じゃん!」
そこまで言われて、ようやく全員が程度の差はあれ理解した。
ナイスネイチャは見たかったのだ。敗北したトウカイテイオーの姿が。
「ネイチャって変わってるね。ターボは自分の勝ってるとこのほうが見たいかなー」
「ぐはぁっ!」
「そういうことですか。確かに圧倒的な強者が敗れる姿に思いを馳せる気持ちは理解できなくもないですね。嫌な女という点は否定できませんが」
「おぅふ!」
「私はみんなが頑張って、えいえいむんっ!って勝っても負けても良かったねーって言えるようなレースが好きかなー」
「うぐぅ……」
三者三様にレース観を語られるなか、ナイスネイチャは自分の心が折れる音を聴いた。
もうバキバキのベコベコのボッキボキである。
「……もうアタシ、テイオーの友達でいられない」
突っ伏したままボソボソと話すナイスネイチャは、微かに涙声になっていた。
「これはミーティングどころではありませんね」
溜息をついたトレーナーは、何かを考えるようにしばらく目を伏せてからこう言った。
「その悩みを抱えたままではまともにレースを走れません。解決する方法がありますので、皆さん手を貸してください」
そうきっぱりと言い放ったトレーナーを、ナイスネイチャを含む全員が見た。
「ほ、方法って?」
自分のクソみたいな性根を叩き直せる方法なんてあるのだろうか、という心情がありありと読み取れる声だった。
「はい、直接トウカイテイオーにぶちまけて、謝罪しましょう。一時間もあれば解決ですよ」
いい感じのスマイルで火の玉ストレートを投げると宣言したトレーナーと、ニヤリと笑みを浮かべてにじり寄ってくる三人のウマ娘を見て、ナイスネイチャは先ほどまでとは別種の叫び声を上げた。
「無理無理無理! こんな酷いこと言ったらアタシ、テイオーと絶交することになっちゃう!」
「友達じゃいられないと言っていたじゃないですか。どちらにしろ同じ結果なら、当たって砕けろですよ」
拘束され、三人掛かりで担がれ、ドナドナと運ばれていくナイスネイチャを道行くウマ娘たちが何事かと目をむいて見るが、顔ぶれを認識すると納得したように日常へ戻っていった。
チーム『カノープス』
勝ちきれないチームであり、雰囲気もどちらかと言えば理知的で穏やかなこのチームだが、やると決めたときの手段の選ばなさは、学園最強なのである。
■
「という訳で、ネイチャさんはテイオーさんに思うところがあるらしく、直接会って話がしたいとのことです。申し訳ありませんが、お時間をいただけないでしょうか」
いやいや、テイオーってば目を丸くして何事かと驚いてるじゃん。
トレーニングを終えて栄養補給中だったのだろう。もうじき日が暮れる食堂で軽く食事を取っているところだった。
「食べながらで良ければ別に構わないけど、当のネイチャがすっごい嫌そうな顔してるんだけど……」
当然だ。なにが悲しくて友人に絶交を突き付けられに来なきゃいけないんだ。
アタシが悪いのだとしても、やりきれない。
「ネイチャ、さっさと話せば?」
よく分かってなさそうに催促してくるツインターボの能天気さが心底羨ましい。
「我々が居ると話しづらいのでしょう。引き上げますので、後はご自分で頑張ってください」
「二人とも、喧嘩しちゃだめだよー」
こいつら、アタシを処刑台に運んでおいて結果を見ずに帰るとか鬼か。
いや、近くに居られると話しづらいのは事実だけど、そもそも運んでくるなよ。
ぞろぞろと帰っていく三人を恨めしく思いながら見ていると、テイオーから声が掛かった。
「座りなよ。表情を見る限り、あんまり良い話じゃなさそうだけど、どうしたの?」
コチラを見てくるテイオーは至って普通だった。
そう。菊花賞に敗れたあの時、あんなにも辛そうな表情を浮かべて、あんなにも悲しそうな音を鳴らしていたというのに、この天才はまた立ち直っていた。
「えっと、その、菊花賞があんなだったから心配でさ。いやアタシも四着だから偉そうなこと言えないんだけど。あ、でもURA賞に選出されたんだっけ。お、おめでとう」
アタシはナイスネイチャ。脚質は逃げで覚醒スキルは逃亡者である。
「ありがと。ちょっと色々あって素直には喜べないんだけどね。で、本題は?」
この娘はトウカイテイオー。脚質は差しと追い込みで固有スキルはブルーローズチェイサーだ。
なんて現実逃避をしている場合ではない。
覚悟を決めろアタシ。女は度胸。本音を隠したまま仮面を被って友人関係を続けるつもりか。
たとえ蛇蝎の如く嫌われようとも、本当に友人だと思っているのなら逃げてはいけない。
「ごめんテイオー! アタシ、菊花賞で負けて心が折れたアンタを見たいって思ってた! その時にどんな音がするんだろうって、トウカイテイオーでもあんな顔するんだなって愉悦を感じちゃってた! 本当にごめん!」
言った。言ってしまった。
胸のつっかえが取れて、軽くなると同時に嫌悪がじわりと広がる。
「へぇー、そうなんだ。やっぱり皆も暗い気持ちを持ってたりするもんなんだね。ボクだけかと思ってたよ」
あっけらかんと言ってから食事を口に運ぶテイオーを見て、アタシはしばらくなにも反応できなかった。
「怒ったりしないの……?」
「なんで?」
だって、自分が負けたところを見て喜ばれているなんて憤慨ものだろう。アタシだったら許せないし、悲しくて泣いちゃう。
「そういう事を思われてもお互い様かな。ボクだって菊花賞の出走が確定するまで、出られる連中は全員脚折れろって思ってたからね」
ええ……。
「フクキタルに呪術も教わりにいったよ。『専門外です!』って教えてくれなかったけど」
全方位に対して天才なテイオーなら、呪術にも適正があったかもしれない。
フクキタルが悪ノリしていたら洒落にならなかったかも。
「テイオー、アンタって結構イイ性格してたんだね」
マヤノやマーベラスと同じ、純粋でナチュラルに善性な娘だと思ってたのに。
「そりゃあ、自分の状態が最悪なときに調子の良い周りなんて見たら悪態の一つでも付きたくなるでしょ。ネイチャはボクのことを正義のヒーローだとでも思ってたの?」
正義かどうかはともかく、ヒーロータイプで王様気質だとは思っていた。
そういえば帝王って傲慢で悪政を敷くイメージがあるから、むしろこれが正しいのだろうか。
「それはそれとして、心の折れたボクが見たいだなんて屈折した感情を抱かれてるとは思いもしなかったけどねー」
意地の悪い笑顔でコチラをのぞき込んでくるテイオーは、もしかしなくても楽しんでいるようだった。
「うっ、それについては誠に申し開きのしようもなく……」
テイオーだって同じようなことを考えることがあるんだと安心感は得られたものの、それで自分の行いが許される訳ではない。こんなやつと友達なんてやってられないだろう。
「しょうがないから、今から一緒にはちみーを飲んでくれたら許してあげるね」
数瞬、言われた内容が理解できなかったが、これは財布役になれという意味だろうか。
「ええっとその、何百回くらい奢ればよろしいので……?」
菊花賞の賞金で足りるだろうか。
「ボクはトレーナーほど金に意地汚くはないんだけど。奢りじゃなくて自腹で一緒に飲んでくれるだけでいいよ」
もしかして、このウマ娘は帝王ではなく天使とか聖女の類だったのだろうか。
「それだけで、いいの?」
席から立ちあがり、はちみーを買いに歩き出したテイオーを慌てて追いかける。
「ボク、忘れてないよ。怪我してるときに荷物持ってくれたり、契約解除されたボクを元気づけようと話しかけてきてくれたこと。あれ、全部演技だったの?」
そんなことはない。
一切の打算がなかったかと言えば嘘になるが、アタシはテイオーと友達でいたいのだ。
いつも元気で周りを明るくしてくれる、天才肌のウマ娘。
嫉妬するし、劣等感もあるけど、それ以上にアタシはテイオーのこと大好きだ。
そんな娘の痛ましくて苦しそうな姿を見たくなんてない。
友達としてちょっとでもいいから力になりたい。
そういう思いだって、本当にあったんだ。
「ボクはネイチャとずっと友達でいたい。だから別に気にしないよ。それに、これからの事を考えるとあんまり怒るに怒れないから」
それは、一体どういう意味だろうか。
「友達ってだけじゃなくてさ、ライバルだとも思ってるから。ネイチャはどう?」
もちろん、アタシもテイオーのことを最強のライバルだと思っている。
「ライバルとして対等だから、怒ったりしないってこと?」
なんだか、それは変な気もする。
「そうじゃなくてさ、ボクの心の折れる音が聴きたかったんでしょ? ボクは他の娘の心が折れる音なんて興味ないけど、それは折らないって訳じゃないからね」
先を歩くテイオーがコチラを振り向いたとき、その表情には今まさに沈んでいく夕日の如く、熱く輝く決意が漲っていた。
「もう、負けたくないんだ。例えどれだけのウマ娘の心を折って、夢を破いて、絶望させることになっても」
向けられる気迫と圧力に、体を冷や汗が伝う。心臓が大きく脈打つ。
「ボクの心の折れた音が聴きたかったんだとしても、ボクはネイチャと友達でいるよ。だからボクがネイチャの心を折っても、ネイチャはボクの友達でいてくれるよね?」
テイオーの才能を恐ろしいと思ったことはあった。
テイオーの在り方を恐ろしいと思ったこともあった。
だが、テイオーの笑顔を恐ろしいと思ったのは、今日が初めてだった。
「ネイチャは次のレース、何に出るつもりなの?」
「えっと、有馬記念に出て、その次はまだ決めてないけど……」
「そっか。ボク、次は大阪杯にする予定なんだ。だから、出てくるなら覚悟しておいて」
ゴクリと自分が唾を呑む音が、やたらと大きく聞こえた。
「二度と立ち上がれないくらいグチャグチャに叩き潰すけど、友達だから許してね?」
■
「それで、どうなりましたか?」
テイオーから潰す宣言を受け、カノープスに与えられているミーティングルームに戻ると、トレーナーが一人で待っていてくれた。
「友達で居てくれるって。それと、次の一緒になったレースでグチャグチャに潰すって」
「それは……成功なんでしょうか」
疑問に思う気持ちも分かるけど、個人的には大成功だ。
あの後も、はちみーを一緒に飲んで他愛もない近況とか世間話に花を咲かせた。
「提案してくれてありがとうね。無茶でしょって思ったけど、結果的に丸く納まったよ」
「丸く……? 僕はカノープスのトレーナーですからね。ネイチャさんの要望に応えるのが仕事です」
当たり前のようにそう答えるトレーナー。
柔和で軟弱に見られがちだが、流石はトレセン学園のライセンス持ちというべきなのだろう。
「それじゃあさ、ついでにもう一個ネイチャさんの要望に応えてほしいんだけど、いいかな?」
潰す宣言を受けたとき、湧き上がってきたのは恐怖だけではなかった。
「構いませんが、なんでしょうか?」
自分の中にある闘争心が沸々と湧いてくるのが分かった。
「このままじゃネイチャさんはテイオーに潰されてしまう訳で、そうならないよう厳しいトレーニングメニューを用意してほしいなー、なんて」
テイオーはアタシをライバルだと言ってくれた。
潰すと宣言したのは、アタシのことが嫌いだからではない。
対等なライバルとして、何度だって向かってくる相手だと認められたんだ。
その期待に、応えたくなった。
「分かりました。今日はもう休んでください。メニューは明日までに用意しておきます」
本当に、頼りになる。
「ああ、一つだけ聞いておきます。厳しいと言っても具体的にはどれくらいをご所望で?」
どれくらいか。その言葉を聞いて、唇の端が持ち上がるのが分かった。
たぶん今のアタシは、また醜悪な笑みを浮かべているのだと思う。
「トウカイテイオーを、あの天才の心を、へし折れるくらいに」
テイオーはアタシを叩き潰すと言った。
ならば、アタシだって彼女の心を折っていいはずだ。
あの娘は、友人としてアタシに許諾をくれたんだ。
何も気にすることはない。折れたほうが弱くて悪いだけのことなんだって。
だから、もうなにも遠慮しない。
自分を主役の影だなんて思わない。
世の理不尽さや、他のウマ娘にも頼らない。
アタシはアタシの力で、あの天才をへし折る。
そう決めた自分の心から鳴る音は、どこまでも黒く綺麗に澄んでいた。
ライバル関係っていいものですね。