サンセット・サンライズ   作:ゆーり

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皆様からご愛顧いただき、本作品の評価数が二百を超えました。
本当にありがとうございます!
評価の高い・低いを別にしても、評価数200と300にそれぞれ大きな壁があると思っていたので、それだけ多くのヒトに評価をしてもいい作品だと思ってもらえたことが嬉しいです。
これからも面白いと思ってもらえる内容を書いていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。

堅苦しい話はこのくらいにして本編どうぞ。
ちなみにファル子先輩は出てきません。


にぶトレーナー

 季節は春。暦は三月。まだ肌寒い日はあるものの、春の陽気を感じることも多くなってきた。

 

 そして、春はその年のGⅠ戦線が本格化する季節でもある。短距離の高松宮記念、中距離の大阪杯、長距離の天皇賞(春)に向けて、シニアの強豪たちが始動するのだ。

 

 そんな中、俺とテイオーはと言えば、あまり変わり映えのしないトレーニングの日々を送っている。

 

 大阪杯を約一月後に控え体調は万全なのだが、実力という点ではイマイチ伸びていない。菊花賞はテイオーが病み上がりで適正も未知数な状況だったことから、成長の有無を判断する決定的な要素にはならなかった。

 

 だが大阪杯は違う。距離は皐月賞と同じでテイオーが二冠を獲った中距離レースに分類される。そして、ダービーから約一年後の開催となるこのレースにおいて、俺とテイオーは判断を下されることになる。

 

 かつての強さからどれだけ成長し、己を高めたか。

 かつてのパートナーと比べてどれだけ優れ、劣っているのか。

 

 相変わらずの人気を誇るトウカイテイオーと違って、俺に対する世間の評価は下降の一途を辿っている。外野に関係性を口出しされる筋合いなどないが、あまりに雑音が多いとテイオーの気が散ってしまうのでよろしくない。

 

 レースで結果を出して周囲を黙らせるのが最善ではあるのだが……。

 

「強くなってるのかどうかが全然分からないんだよなぁ……」

 

 俺の育成能力と鑑定眼に難有りということが早速判明しました。

 というのも、年明け位までは順調に進んでいたのだ。

 筋力とスタミナ、柔軟性が戻ったことでトレーニングで出せるタイムはダービーの時と遜色ないレベルまで到達できた。

 

 しかし、そこからの伸びしろが此処二か月ほど見られない。

 例えば大阪杯の距離を走らせてみたタイムは、菊花賞後に測った値からほぼ変化なし。

 中盤の一ハロンや上がり三ハロンと区間毎に分けて数字を出しても同様だ。

 早くなるでも遅くなるでもなく、安定した数値がずっと続いている。

 菊花賞より短い距離だからか、スタミナが尽きて息があがるということもない。

 

 変わらない状況に焦りを感じ、メニューの変更や春天を意識してみるか、などと迷走しそうになっていた俺に対して、当のテイオーには現状への不満が見受けられなかった。

 

 なにか現状に対して自覚しているモノがあるのだろうか。

 そう思って尋ねてみたところ、以下の回答が返ってきた。

 

『なんかね、出力調整が難しすぎて上手くいかない感じ。上手く行かない理由が口で説明しづらいんだけどね。ごめんだけど、怪我が怖いからもう少しだけ慣らしに時間をちょうだい。大阪杯には間に合うから』

 

 どうやら感覚的に出力調整がバグっているというかド忘れしたというか、車で言うところのローギアかトップギアのベタ踏みしか選べない状態らしい。

 序盤から中盤にかけて徐々に上げていく、あるいは意図してスピードを出したり抑えたりが効かないらしく、意識せずに走ると大逃げか追い込みのような動きになってしまう。

 しかもトップギアでベタ踏みしたときの足に掛かる負荷が測りきれないらしく、今は常時ローギアで動かして少しづつギアの上げ下げを試行しているんだとか。

 

「はぁ。本当はこれ、俺が見抜いて修正方法のアドバイスをしてやる場面なんだよな」

 

 菊花賞以降、俺なりに熱意を持って本気でテイオーの育成に取り組んではいるものの、思ったように成果は出せない。

 当初はテイオーに見向きもされない程度だった俺と、二冠を獲らせたあの女の差はどうしようもなくあったという訳だ。

 

 その差を埋めるべく努力も始めた訳だが、そんな事はトレセン学園のトレーナーであれば当たり前の前提条件でしかない。

 一朝一夕で追い付けるだなんて考えてはいなかったが、大阪杯は目前なんだ。

 力及ばす何もしてあげられませんでしたじゃ、アイツのトレーナーを名乗れない。

 

 ちょっと憂鬱な気分だが、打てる手がないか模索するしかない。

 

 良い案がない訳でもないが、覚悟を決める必要がある。

 まずは手っ取り早い手段として、フクキタルの元でシラオキ教に入信して神頼みすべきかとアホなことを考えながら校舎内を歩いていると、階下でテイオーと誰かが話しているのを見つけた。

 

 スーツを着た男性ということは、学園のトレーナーだろうか。

 

 まだ声も聞こえてこない程度に距離があるが、テイオーの表情は心底嫌そうに歪められていた。まさか、マヤノの担当トレーナーと同じ嗜好をした変態予備軍だろうか。

 

 ウマ娘が本気で抵抗すれば人間が勝てる訳もないのだが、放っておくのも良い気分がしない。

 虫除けになるのもトレーナーの役目か。そう思い、階段を降りる歩調を早めた。

 

 

 「(しつこいなぁ……)」

 

 年度代表ウマ娘に選ばれ、新しい勝負服も手に入れた。心機一転、トレーナーと一緒にシニア級を戦っていこうとやる気が漲っているのだが、最近は水を差されることが多い。

 

 ボクの目の前で今後の育成方針やレース計画を熱弁しているのは、トレセン学園でも優れた経歴を持っているベテランのトレーナーだ。

 別に今日に限ったことじゃない。ここ最近、ベテランや中堅、若手といった区別なく、トレーナーが居ない時を見計らって引き抜きを掛けられるようになった。

 菊花賞も終わり、ボクの怪我が完治して精神的にも安定して見えたことで、及び腰だった連中が動き出したということなんだろう。

 

 やれ『自分の方が君を成長させられる』だの『今後のレースで勝ちたいならあの男とは縁を切るべきだ』だの、見当違いなスカウト文句には辟易させられる。

 トレーナーとしての実力なんてどうだっていいんだ。一番辛い時に、大切な時に傍に居てくれたからこそ、ボクはあのヒトに自分を託していいと思っている。

 それを盲信と謗る奴だっているだろう。だが、都合の良い時にだけすり寄ってくる連中とどれほどの違いがあるというのか。

 

 白けた視線を向けていることにも気づかず、一方的に捲くし立てられることも鬱陶しいのだが、コイツらに共通するどうしても許せないことがある。

 

「あのクズの元に居ては君も一緒に腐ってしまう。私でなくてもいい。別のトレーナーの元に行けば、君は以前の輝きを取り戻せる」

 

 これだ。先輩たちの親しみと敬意を込めた呼称とは違う。

 

 ボクを救い上げてくれたヒトの事をクズと呼ぶコイツらに、ドス黒い感情を向けてしまうことをどうしても我慢できない。

 

 ボクの機嫌が最悪だということに、やっと目の前の鈍い人間も気付いたようだ。

 

「私は君のことを想って言っているんだ! 他の者達のスカウトも断っているようだが、それは決して君のためにならない」

 

 それでも引かずに自身の意思を唱えたのはトレーナーとしての矜持か、ボクを想うが故か。

 そのどこまでも掛け違っている言葉を拒絶しようと口を開きかけたとき――。

 

「質の悪いナンパはそこまでにしてくれねーかな」

 

 後ろから、聞き慣れた声が掛かった。

 

 

 早足に近づいていくと、話している内容も聞こえ始めてきた。どうやら変態予備軍ではなく、ただのスカウトだったようで一安心。

 

 そう思っていたのだが、なぜかテイオーの機嫌が滅茶苦茶悪い。負のオーラが立ち昇っているし、拳を強く握りしめている。聞こえてきた限りでは変なスカウト内容ではなさそうだったが、癪に障ることでも言われたのだろうか。

 

 なんにしても、アイツが不快な思いをしているのならギルティである。お引き取り願おう。

 

「質の悪いナンパはそこまでにしてくれねーかな」

 

 テイオーの後ろに立って告げると、負のオーラを霧散させたテイオーがこちらを見上げてきた。一度だけ目を合わせてから、遮るように二人の間に体を割り込ませる。

 

「お前は……。ナンパなどとふざけた物言いをして! 何時までもウマ娘たちを好きなように食い物にできると思うなよ!」

 

 そう唾を吐きながら勢いよく話す男に向けて手をパタパタと振る。汚いからもう少し勢いを抑えて欲しい。

 

「お盛んなとこ悪いが、コイツはこれから俺とデート(トレーニング)をする約束があってね。お邪魔虫にはお引き取り願いたいんだ。ほら、人の恋路を邪魔するとウマ娘に蹴られるって言うだろ?」

 

 おちゃらけた態度を崩さずに言うと、男は顔を真っ赤にして言い放った。

 

「そのような軽い気持ちだから、この娘に菊花賞であのような負け方をさせてしまうんだ! 自分がどれだけ浅はかな行為をしたか分かっているのか!」

 

 うーん、まことに正論である。俺もこれじゃ良くないなって思い、態度を改めているところだ。しかし、如何せん才能が不足していてキャパシティが乏しい。真面目になれるのはテイオーに対しての態度だけで限界なのである。

 

 だから申し訳ないのだが、何時もどおりの対応でお帰り願おう。

 

「外野がぐちゃぐちゃと喧しいんだよ。俺とコイツの関係に他人が口出しをするな。心配しなくても、あの時にトウカイテイオーをスカウトしていればと、一生後悔するくらいの結果を叩きだしてやるよ」 

 

 ドヤ顔で宣言すると、男は更に憤慨する様子を見せ、捨て台詞を吐いて去って行った。

 

「結果を出せない無能に、何時までも居場所があると思うなよ」

 

 居場所か……。

 温泉宿の丁稚と運ちゃんのアシスタント、格闘家のセコンドだと一番楽に稼げるのってどれになるのだろうか。

 転がり込む先は考えておいたほうが良いのかもしれないな。

 

 そう思いながら後ろのテイオーに向き直ると、こっちも顔を真っ赤にしていた。

 なんか負のオーラの代わりに湯気が立ち昇っている。

 

 どうしたんだろうか。もしかして風邪か?

 

 

「お盛んなとこ悪いが、コイツはこれから俺とデートをする約束があってな。お邪魔虫にはお引き取り願いたいんだ。ほら、人の恋路を邪魔するとウマ娘に蹴られるって言うだろ?」

 

 声が聞こえた時点でドス黒い感情は消えていたのだが、次いでトレーナーが放った言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 そして溢れてくる、処理できない情報と感情の洪水。

 

 デート。……デートと言ったか?

 それはあれか。恋人同士が一緒に遊んだり寛いだり、共に時間を過ごすアレか。

 人の恋路とは誰と誰のことか。

 ボクとトレーナーか?

 いったい何時の間にそんな関係性に?

 いや別にダメってことはないんだけどね?

 踏むべきステップってあるじゃん、テイオーステップじゃん?(意味不明)

 いやしかし、ボクとトレーナーは担当ウマ娘と担当トレーナーで、ウマ娘とトレーナーは一心同体だから、そういうことなのか(メジロ並感)

 

 頭の中をグルグルと回る情報の処理はまるで完結せず、次の行動に移れない。

 そこに、畳みかけるように追撃が行われた。

 

「外野がぐちゃぐちゃと喧しいんだよ。俺とコイツの関係に他人が口出しをするな。心配しなくても、あの時にトウカイテイオーをスカウトしていればと、一生後悔するくらいの結果を叩きだしてやるよ」

 

 俺とコイツの関係ってなにさ?

 前後の文脈からすると、やっぱり恋人か? 

 恋人同士だったのかボクたちは?

 

 なんの行動もできずノーガード状態のボクは、軽く小突くだけで倒れてしまう程に無防備を晒していた。

 

「おい、テイオー。どうしたんだ? 顔が真っ赤だが風邪か?」

 

 顔を真っ赤になんてしてないし、いきなり恋人宣言されて舞い上がったりもしてないからね。

 

「べ、べべべ別になんでもないにょ。いやー、もう春だね。アッツいなー」

 

 手で顔を扇ぎながら完璧な誤魔化しを敢行する。

 これで体面は取り繕えただろう。

 

「……? まぁ、体の具合が悪いんじゃなければ構わんが」

 

 ちょっと脳みそが沸騰して心臓がぴょんぴょんしてるけど、全然平気かなっ!

 

「そ、それよりトレーナー、今日デートの予定なんてあったっけ?」

 

 今日どころか、今までもこれからも入ったりしないはずの予定だったが、気付かない内にボクたちの関係性には大きな変化があったのかもしれない。

 

「あ? あー、そうだな。最近はトレーニング漬けだったし、偶には息抜きするもの大事だよな。ぱーっと遊びに行くか」

 

 あ、あれぇー。やっぱりボクの勘違いじゃなくて今日はデートの予定だったの? 

 

「そ、その、なにぶんデートというのは初めてなものでして。お手柔らかにお願いしましゅ……」

 

 一体、自分は何を言っているのだろうか。

 初めてだからお手柔らかにって、慣れてきたら手荒でもいいってことになっちゃうじゃん。

 

 たぶん、なにか盛大な勘違いをしているんだという気もする。

 けれど、嫌な気は全然しないから詳しくなんて聞かない。

 

 デートでボクをどこに連れて行ってくれるのか、楽しませてもらうことにしよう。




クズにぶトレーナー
「わざわざデートなんて比喩表現にツッコミしてくるなんて、コイツも遊びたいって思ってたんだな。折角だし、俺のお遊びフルコースでもてなしてやるか!(R〇UND1)」

にぶくないトレーナーはトレセン採用試験で落ちる(偏見)
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