サンセット・サンライズ   作:ゆーり

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リアルの有馬記念に合わせてルドルフと戦わせようと皮算用していた私、間に合う気がしなくて笑えない。


決意と成長と

 "女帝"の放った辞令というサラリーマン特効の一撃によって敗北を喫し、悩めるウマ娘の相談に乗らされた翌日。

 過ごしやすい気温の爽やかな朝とは異なり、俺の心には重たいモノが圧し掛かっていた。

 

 初っ端から素人に任せるべきではない人生相談を持ってきた生徒会もどうかと思った。

 だが問題は、仕返しにと経費で高額なにんじんハンバーグに舌鼓を打っていてテイオーに連絡を入れるのを完全に忘れていたことだ。

 

 やっちまったと思いながら見たスマホには着信とメッセージの連打。

 あまりにも多い通知履歴にビビりつつも、アイツって案外寂しがり屋なんだなと思いメッセージを一通り読んでいた。

 

 異変に気付いたのは、メッセージを数十ほど読み進めたときだ。

 それまでは無断でいなくなった俺への怒りを露わにしながらも、コチラの所在を確かめる内容だった。

 だが途中から経緯不明な泣き言と生徒会への文句が並べられ、最後はこう締め括られていた。

 

『シンボリルドルフをボコボコにするっ!!』

 

 テイオーとルドルフって仲良かったんじゃなかったか?

 疑問ではあったが、そう言えば最初からテイオーの目標はルドルフだったなと思い出した。

 シニア級に上がったときの目標設定であまり意識していないようだったから忘れていたが、初心を思い出したのか何か奮起する理由でもできたのか。

 やる気が出るのなら悪い事ではないかと謝罪の返信をしようとしたとき。

 

 新たなメッセージが着信した。

 

『その前にトレーナーもボコボコにするから』

 

 ……明日が俺の命日になるかもしれない。 

 とまぁ、そんなこんなでウマ娘に力で抗う方法を考えながら眠れない夜を過ごした訳だ。

 

 そうして迎えた翌日早朝。

 すでにジャージに着替えてトレーニングコースを爆走していたテイオーと合流した。

 

「でりゃあぁーーーー!!!!」

 

 凄まじい気迫とスピードで周回を重ねるテイオーは、トレーニングというよりもストレス発散が目的のように見えた。

 声を掛けようかとも考えたのだが、あのスピードのままコチラに飛び蹴りでもされたら間違いなく死ぬ。

 できれば止まるまでは話しかけたくない。

 

 どうしたもんかと現実逃避気味に空を眺めていると、土を蹴る音が止んだ。

 視線を落とすと、コチラに歩みを進めるテイオーの姿。

 ギラついた眼に、体温の上がった体からオーラの如く蒸気を出しながら近寄ってくる様は控えめに言って怪物みたいだった。

 

「なにか、ボクに言うことがあるんじゃないかな?」

 

 久しぶりに聞いたテイオーが本気で不機嫌な時の声色。

 専属トレーナーとしてはあってはならないことをしたと、素直に謝罪することにした。

 

「すまなかった。生徒から悩み相談を受けてな。あまりにも急だったのと、内容が重たかったもんで連絡するのを忘れてた。次からは気を付けるよ」

 

「……他にも、なにか言っておかないといけない事があるんじゃない」

 

 責めるような上目遣いは、隠し事はしてくれるなと言っているようだった。

 生徒会に文句言ってたのは、定期的に悩み相談を受けることになってトレーニングの弊害になることを知ったからなのだろう。

 

「悪い。生徒会からウマ娘の悩み相談に乗ってくれって頼まれてな。週に何回か放課後はトレーニングに付き添えなくなる」

 

 辞令である以上は断り切れない話だったのかもしれないが、それでもテイオーに無断で決めることじゃなかった。

 トレーナーであるなら、こういう信頼を損ねる行動はしちゃいけないよな。

 

「……その娘、悩みは解消できそうだった?」

 

 テイオーは悩んだように、聞くかどうか迷うような素振りで問いかけて来た。

 

「正直、分からん。ちったぁ元気が出てくれりゃいいんだけどな」

 

 件のウマ娘と色々話をしてみたところ、適性は短距離で趣味は手芸らしい。

 俺の拙い知識だと短距離はそこまで突出した奴が居なくて狙い目じゃないかとも思うんだが、少し調べたところ下の世代が粒揃いらしい。

 飛び級の天才児ニシノフラワー。

 時々バカでかい声で校舎を走り回ってるサクラバクシンオー。

 いくつかレース映像を見てみたが、モノが違うウマ娘たちだと感じた。

 今年か、遅くとも来年には短距離重賞レースは地獄の様相を呈すことになるだろう。

 そんな状況でレースで納得のいく結果を出させる案は俺の中にはなかった。

 

 だもんで、自分は走る以外の方法では価値を示せないと勘違いしたウマ娘におススメの総務課に行くよう伝えた。

 走る以外でも、レースやウマ娘に関わる方法ってのは意外と多かったりする。

 手芸というか手先の器用さだと、勝負服のデザイナーだのぬいぐるみの原案作成だの。

 走ることを目的として学園に来たウマ娘には見向きもされてないが、実は採用募集やイベントもあったりするのだ。

 作る方でなくとも、モデルや練習台としての需要が普通にある。

 ウマ娘として生まれてきたというメリットは、それだけで滅茶苦茶大きいのだ。

 

 結構面白いから気分転換に行ってみろと言ったら、よく分かってなさそうに頷いていた。

 

「お前がトレーニングの邪魔だからやめろって言うなら生徒会に直談判しに行ってくるぞ。いや、この場合は理事長になるのか?」

 

 たまに賄賂として駄菓子を渡していた仲だったりするのだが、最近は受け取ってくれない。

 秘書の厳しい管理下に置かれているらしく、勝手に菓子の類を食べると後が怖いらしい。

 子供が好きに菓子も食えないとは、世知辛い世の中である。

 

「ううん。断らなくてもいいよ。ボクもトレーナーにたくさん助けて貰ったからね。ボクのことを忘れて没頭されちゃうのは嫌だけど、他の娘たちのことも助けてあげてよ」

 

 ちょっとだけ納得してなさそうに、それでも撤回する気もないといった顔でテイオーは許可をくれた。

 相変わらず、子供っぽい容姿と態度に反して内面はしっかりした奴だ。

 

「ああ。もちろん俺が一番に優先するのはテイオーだ。何かあれば遠慮せず言えよ。悩み相談は……相手にゃ悪いが最悪は後回しにさせてもらうさ」

 

 どっちにしろ後悔するんなら俺はテイオーを選びたい。

 

「うん。よーっし、この話は終わり!」

 

 区切りを付けるように、テイオーは大きな声で宣言した。

 

「それでねそれでね! 会長をボコボコにする話なんだけど!」

 

 おう、それそれ。ボコボコって表現を可愛いと思うべきか物騒と思うべきか判断に困ってたんだよな。

 

「二度と偉そうな口が利けないように徹底的にやりたいんだけど、やっぱり会長が得意の差しで圧勝してやるのが精神的にダメージ与えられるかな!」

 

「いや、なんでそこまで敵意剥き出しなの? 怖いんだけど」

 

 否定のしようもなく物騒な表現だったわ。

 勝利は最初から確定事項で、如何にして精神にダメージを与えるか考えてるのはいかんでしょ。

 スポーツマンシップを思い出してほしい。

 

「もしかしてトレーナー、会長が偶然で悩み相談の話を持ってきたと思ってるの?」

 

 え、そりゃそうでしょと返した俺に、テイオーは察しが悪いなーとぼやきながらも事の経緯を説明してくれた。

 

 テイオー曰く、ルドルフは己の掲げる夢のために俺とテイオーを手元に置きたいらしい。

 怪我に起因する夢の喪失を味わいながらも、そこから復活を遂げたウマ娘。

 育成者たるに相応しくない噂話を囁かれながらも、様々な形でウマ娘に道を示すトレーナー。

 それは、多少強引な手段を用いてでも確保しておきたい人材らしい。

 

「いやいや、テイオーはともかく俺にそんな価値を見出すのはおかしいだろ。カウンセラーもキャリアプランナーもアイツが求めれば鶴の一声で集まるんじゃないか?」

 

 俺はその手の分野について何一つとして勉強したことはない。

 ルドルフ個人の名声でもシンボリの家の力でも、人材を集めるのに苦労はしないと思うんだが。

 それでも人手が足りないからとにかく掻き集めたいという事だろうか?

 

「トレーナーって他人の悩みは扱き下ろしながら相談に乗るのに自己評価低いよね。中央のトレーナーなんだから、それだけで上澄みなんだよ?」

 

 ふっ、大人になるってのは身の程を知ることが第一歩なんだぜ、お嬢ちゃん?

 

「なに腹立つ顔してんの。トレーナーのこともボコるって話、ボク忘れてないからね」

 

 ……美味しいご飯に連れて行くから勘弁していただけないだろうか。

 

「昨日は主導権握られちゃったけど、改めて考えると会長には全てのウマ娘の幸福って夢以外にもトレーナーに執着する理由があるんだと思う。正確には、ボクを担当しているトレーナーに対してかな」

 

 昨日のことを思い出しているのだろう。少しだけ憂いた顔をしたテイオーは、ルドルフの考えに思い当たることがあるらしい。

 

「きっとボクとトレーナーの関係が羨ましいんだよ」

 

 羨ましい?

 俺とテイオーの関係性に羨むような特別性はあっただろうか。

 トレーナーの立場からしたら、こんな天才を担当できるのは嫉妬に値するだろうけど。

 

「例えばの話だけどさ、トレーナーはボクが週末に遊園地に連れて行ってほしいって言ったら連れて行ってくれる?」

 

「トレーニングの調整が付けば連れて行くけど」

 

 なんだ、ルドルフのやつは遊園地に行きたいのか?別に一緒に連れて行っても構わんが。

 

「東条トレーナーは優秀なヒトだよ。ウマ娘を強くしてレースに勝たせるって意味じゃ今のトレセン学園で一番じゃないかな。けど、あのヒトは生粋のトレーナーだからウマ娘個々人に深入りはしてこない。プロフェッショナルって言えばいいのかな」

 

 ふむ。確かにおハナさんがリギルのメンバー個々の趣味に付き合ったり、プライベートで一緒に外出しているなんて話は聞かないな。

 まぁ、あの人の場合は単純に忙しすぎて時間の捻出も出来ないんだろうけど。

 

「会長は夢の実現のために頂点に君臨しなきゃいけないと思ってる。その意味で東条トレーナーは文句なし。だけど、ウマ娘の幸福って夢にまで付き合ってくれる訳じゃないのも知ってる」

 

 シンボリルドルフにとって、レースの勝利は目的であると同時に手段。

 だが、おハナさんは勝利の先にまで口出しする気はないってことか。

 

「だから羨ましいの。ボクがお願いすればレースに勝つ以外のことも一緒に叶えてくれるトレーナーのことが」

 

 それはまぁなんというか。

 

「あいつ結構バカなんだな。レースの勝ちじゃなくてアイツの夢を一緒に叶えたいって思ってるやつも大勢いるだろうに」

 

 校内放送でも使ってぶちまければ、すぐに立候補者が見つかる気がするけど。

 

「そこはほら、立場ってものがあるから素直に行動に移せないんじゃない? 昨日のやり口もかなり陰湿というか回りくどかったからねー」

 

 詳しく聞いてみると、俺を探す一環で生徒会室を訪ねたテイオーに対して去年の骨折や先輩連中の例を出して協力を要請してきたらしい。

 しかも俺とテイオーが一緒に居ない時を見計らい、互いに相手の状況が認識できない状態で、学園への根回しと下ネゴで拒否できないようにしてだ。

 悪いことをしている訳ではないし、やりたい事にも理解は示すが正直気分が良くない。

 

「なぁ、やっぱり悩み相談は断ってこようか? 理屈はともかくやり方に納得がいかんのだが」

 

 ムカつかないと言えば嘘になるし、これじゃどう転んでもお互いにしこりが残ってしまう。

 

「断っても会長が諦めない限りはあの手この手で誘いを掛けてくるよ。断り続けるのに労力使うのもバカらしいし、本当に強引な手段に出られても困るからね。だからこそ、向こうが提示してきた賭けに乗る」

 

 年末の有馬記念でシンボリルドルフに勝つという条件。

 テイオーどころか、それ以外のウマ娘にも自分が負ける可能性を一%たりとも考えていないのは流石"皇帝"というべきか。

 

 それはともかく、あの女ですら勝つのに三年という時間を見ていたシンボリルドルフに今年挑むというのは、些かならず早計だろう。

 勝算は、少なくとも俺には導き出せなかった。

 

「その条件、お前はやれると思っているのか?」

 

 テイオーには、俺とは全く別のモノが見えているのだろうか。

 それを聞いてみたくなった。

 

「あったり前じゃん! ボクとトレーナーが力を合わせれば会長なんてラクショーだよ! コテンパンにしてやるから!」

 

 それはたぶん、根拠のない自信だった。

 それでも俺にとって、トレーナーという職に就く者にとって、一番嬉しい言葉だった。

 

「おう! そんじゃ、ぱぱっと勝って最強のウマ娘になっちまうか!」

 

 担当のウマ娘がやりたいと、やれると言っているのなら全力で付き合うのが役目。

 トレーナーとして覚悟を決めて挑むだけだ。

 

「それにしても舞台は有馬記念か。まだ少し先の話だな」

 

 勝つためのトレーニングやレースをこなしていればあっという間だろうけど。 

 

「一応は猶予をくれたんだと思うよ。今すぐに戦って勝てるかと聞かれると厳しいからね」

 

 約半年という残り期間で、どうシンボリルドルフに勝つか。

 当たり前の話だが、俺に具体的な案とかは全くない。

 

「それでねトレーナー。早速、お願いしたいことがあるんだけど」

 

 なんだろう。心の栄養補給のために遊園地でもいくか?

 

「併走相手を用意してほしいんだ。できるだけ強いウマ娘で」

 

 なるほど。トレーニングの質を上げるために欠かせない要素だ。

 なんだかんだと相手探しが滞っていたが、いい加減に見つけないとな。

 

「夏合宿するって話はあるけど、マックイーンとスペシャルウィークに頼めないか聞いてくるか」

 

 マックイーンはシニア級の対戦相手だが、背に腹は代えられない。頭でもなんでも下げるとしよう。

 

「うん。出来れば二人にもお願いしたいかな。けど、一番お願いしたいのは別のウマ娘なんだ」

 

 どうやらテイオーには明確に思い浮かべる相手がいるらしい。

 

「交渉事の巧みさを期待されても困るが、やるだけやってみるさ。で、誰なんだ?」

 

「オグリキャップ」

 

 テイオーから出たその名前は、シンボリルドルフに勝ち得る実力を持った数少ないウマ娘の一人であり、今の日本に知らない者はいないであろうアイドルウマ娘だった。




テイオー:
「ところで、悩み相談に乗るだけにしては遅くまで返事がなかったけど、なにかあったの?」
クズ:
「元気なくて体力も落ちてそうだったからメシ食わせに行ったんだよ。ほら、お前と契約する前に行ったハンバーグの店」
テイオー:
「あっ、ふーん(半ギレ)」

この後、まだ他のウマ娘と一度も行ったことのない新しい店を見繕って連れていけと要求されたそうです。
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