サンセット・サンライズ   作:ゆーり

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京言葉を話すキャラが出るけど、似非だから間違ってても気にしないでよね。
読みやすさ重視で標準語にしてるとこもあったりするよ。
だったら最初から変なキャラ付けするなって? 
うん、俺もそう思うよ。


そうだ、温泉に行こう

「おこしやす」

 

 ……テレビでくらいしか聞いた事ないけど、本当に京言葉で喋るんだ。

 

「ああ、また世話になる。金は出世払いで頼むわ」

 

 そして元担当ウマ娘の実家にツケ払いを頼むトレーナー。嘘でしょ?

 

「万年底辺のトレーナーはんが、なんに出世するんやろか。ロリコンの犯罪者になって逮捕されるのだけは勘弁してほしいわぁ」

 

「そんな不名誉な出世があるか! エリートトレーナーとして名伯楽とか名将とか呼ばれたりするかもしれないだろ!」

 

 それはトレセン学園のトレーナー陣が壊滅してるのと同義じゃないかなぁ……。

 

「テイオー、なんだその訝しむような目は。お前が俺をそこまで連れて行くんだぞ?」

 

「ごめんよトレーナー。ボクは無敗の三冠とか七冠を目指してるけど、それは無理そうかな」

 

 世の中できないことってあるよね。

 

「お前最近言うことが明け透けになってきたな! 七冠より難しいって実質不可能って言いたいのか!」

 

 だってねぇ。仮にボクが最強のウマ娘でも、このトレーナーを名伯楽とは呼ばないんじゃないかなぁ。他に失礼だよ。

 

「なんや思ってたよりも仲良しさんやねぇ。上手くいってそうで安心したわぁ」

 

 この頬に手を当ててコロコロと笑っているのが、トレーナーが最初に担当したウマ娘らしい。

 細目で小柄でニコニコしてる、優しそうなウマ娘だ。

 

「えーっと、お世話になります。……先輩?」

 

 なんて呼んでいいか分からず先輩と呼称してしまったが、変だっただろうか。

 

「あら、こない可愛らしい子が後輩やなんて嬉しいわぁ」

 

 トレセン学園にもお嬢様タイプの子は居たけど、ここまでのんびりした雰囲気のウマ娘とは初めて会ったかもしれない。

 

 全然闘争本能とかなさそうだけど、レースにすごく熱意があったって本当だろうか。

 

「ほなら、改めまして、温泉旅館『厩ど』。ゆっくり癒されていってな?」

 

 菊花賞まで残り二か月を切った九月上旬。

 

 ボクたちは湯治に来ていた。

 

 

 

——————————

 

 

 

「じゃあ部屋に荷物置いて、早速温泉に入りにいくか」

 

 旅館の廊下を歩きながら、トレーナーは楽しそうに言った。

 ウキウキしているのが全然隠せてない。お子様だなぁ。

 ……まぁそのために来たのだからいいのか。

 

「二部屋取ってあげられたらよかったんやけど、一部屋になってもうて堪忍してな? 襖で仕切れはするけど、トレーナーはんに変なことされそうになったら、大きな声出さなアカンよ?」

 

「あ、はい。ちゃんと叫ぶようにします」

 

 あり得なさそうだけど、それを認めるのも癪だからあり得る前提で話しておこう。

 

「待て待て待て。自分の担当トレーナーを変態扱いするんじゃないよ。親御さんからも全幅の信頼を以って連れてくるのOKされてるからね?」

 

 ボクもおかーさんと電話してみたけど、頼れる大人って言うよりは大人の身分だけは持ってる同年代の友人くらいに思われてたよ? 

 

「そない言うて、毎晩テイオーちゃんの柔肌を揉みしだいとるんやろ? やらしいわぁ」

 

 あまりに変な表現をされたものだから、少し顔が熱くなった。

 そ、そんなんじゃないし。

 

「変な表現をするな! 脚のむくみを取るためにマッサージしてるだけで、そんな激しい揉み方はしてねーよ!」

 

「激しくはせず、優しく撫でまわすように揉んでるやて? 腕を上げたんやねぇトレーナーはん」

 

 なにもいかがわしい事なんてないはずなのに、顔から熱が引かない。

 うぅー、なんかトレーナーの顔も見づらいよ。

 

「この耳年増め。……いや、もう耳年増というには少し若さが足りないか?」

 

 いや、先輩ってまだ二十歳を少し超えた位なんだよね? 若さが足りないは失礼でしょ。

 

「ほんまに女心を欠片も理解せんヒトやねぇ。頭を蹴り飛ばしたら多少はマシになるやろうか」

 

 ニコニコした表情は全然変わらないのに気配が一気に物騒になった。この先輩、グラスワンダーと同じ系統か。

 

「ウマ娘に頭蹴られたら愉快なオブジェになっちまうだろ。そもそも、女心より先に俺の立場を考えて発言してくれない? ロリコン疑惑とか免許剥奪されかねないからね?」

 

 先輩も小柄なタイプだしちょっと怪しい。体の凹凸はボクよりずっとあるけど……。

 

「他に担当した二人もロリ系だったんですか?」

 

 この際だから先輩に色々聞いてみよう。トレーナーに聞いたら、そのうち会う機会があるからその時の楽しみにとっておけって言われたけど、やっぱり気になる。

 

「んー、ロリやないなぁ。長身姉御系とゴリマッチョやから」

 

 ロリから一番遠そうな二系統じゃん。

 

「そうそう、だから俺は全くロリコンではないからね?」

 

「せやな。女やったらなんでもかまへん悪食やもんなぁ」

  

 うわぁ。

 

「お前それ学園の男性トレーナー全員が被害受ける発言だからな!」

 

 トレーナーって学園だと周りに舐め腐った態度を取ることが多いから、手玉に取られてるのって珍しい光景だなぁ。

 

 ……それに、やっぱりボクとよりもずっと仲が良いんだ。

 

「あらあら。さて、こちらがお部屋になります。お風呂は普通の温泉と別に時間予約して入れる混浴の家族風呂もありますから、是非そっちも味わっていってな?」

 

「あー、そういやそんなのあったな。どうせならそっちも入っていくか」

 

 へっ!?!?

 

 

 

——————————

 

 

 

「……ふぅ」

 

 あ"ぁ"ー、極楽極楽。

 湯船に浸かって一息つくと、おじさんみたいな声が出てしまった。

 

「温泉を独り占めなんて贅沢なことしてるなー」

 

 金曜日からの二泊三日で来た温泉旅行だけど、部屋が埋まるのは明日からで今日はかなり空いているらしかった。

 

 折角だし、存分に寛がせてもらおう。

 

 それにしても、混浴かー。

 

「……っ」

 

 ふと意識してしまったその言葉を頭から消したくて、湯に頭から潜る。

 

 それってそういうことなの。いやでもあのトレーナーだよ? 交代で入るだけで変な意味なんてある訳ないじゃん。

 

「ぷはっ……」

 

 ダメだ。消すどころかずっと頭の中をグルグル回ってる。これじゃまともにトレーナーの顔見られないよ。

 

「お湯加減いかがどす?」

 

「わひゃあ!?」

 

 突然後ろから掛けられた声に体が飛び跳ねた。

 

「うふふ、今は他のお客さんがおらんから構いまへんけど、もう少し静かにな?」

 

 後ろを振り向くと、先輩がニコニコしながら立っていた。 

 

「い、いきなり声掛けないでよぉ」

 

 一応ボクもお客さんなんだけど、掃除でもしに来たのだろうか。 

 

「世間話のついでに背中流したろ思てな。トレーナーはんが居ると話しづらいこともあるやろ?」

 

 そう言って洗い場に手招きされる。

 

 ……さ、さすがに初対面の先輩に体を洗われるのは恥ずかしいんだけど。

 

「先輩後輩で裸の付き合い。家業を継ごうと決めて最大の役得やわぁ」

 

 もしかしてトレーナーよりこの先輩のほうが危険なんじゃないかな……。

 

「ほら、髪洗うからそこ座って。……菊花賞、ほんまに勝てる思うとるのか聞きたくてなぁ」

 

 今日までに耳にタコができるくらい言われたその言葉。けれど、そこには今までと別種の重さが宿っていた。

 

「別に止めたいわけやないんよ? 勝てへんレースに何べんも出させてもろたのは、うちかて同じやからね」

 

 そういえば先輩たちの戦績って。

 

「勝てなかったんですよね……?」

 

「そやなぁ。勝てたのは未勝利戦くらいで、プレオープンですら散々やったなぁ。重賞レースなんて夢のまた夢や」

 

 それは、ボクにとっては想像するのも難しい領域の話だった。

 

「せやからほんまに驚いたんよ。あのクズが二冠ウマ娘をスカウトしたやなんて。担当トレーナーとテイオーちゃんの弱み握って脅したに決まってる言うて、他の二人が殴り込みに行きそうになってたわ」

 

 仮にも自分が担当したウマ娘にクズ呼ばわりされて脅迫を疑われるって、どれだけ信用がないのさトレーナー。

 

「その後に『雑魚しか担当したことないから折れた天才の慰め方がわかんねー。誰か教えて?』とかメッセージ送ってくるもんやから、ほんまに殺したろかと思うたわ」

 

 敵対者に態度が悪いだけかと思ってたけど、全方位に対して喧嘩売るスタイルなんだ。

 

「でも、才能ないから走るの辞めろって言われた事はいっぺんもなかったなぁ」

 

 ……。

 

「変に気負うとらんか心配やったんよ。うちも負けたことない子の気持ちは分からんから。正確には、勝てると思ってるかより負けた後どうするつもりなんか聞いてみたかったんやけど」

 

 三冠でも、無敗でもなくなったとして、ボクはどうするのか。どうしたいのか……。

 

「トレーナーはなんて言うかな」

 

 少なくとも今は、自分の中に答えが見つからなかった。

 情けない話だ。走る資格だけでなく理由まで他者に求めようとしてる。

 

「あのヒトは間違いなく『壊れるまで走れ』って言うやろなぁ」

 

 ……それもいいかも知れない。

 周りが走るなと止めるなか、ボクに走ることを望んでくれた唯一のヒトだ。

 そんなトレーナーのために走り続けるのも悪くないかもしれない。

 

「誰かのために走ることで強くなれんとは言わんけど、あのクズのため言うのはアホらしいからやめとき」

 

 あはは、他人事ながら酷い言われようだなぁ。

 

「負けてもかまへんから、なんもやる気せんなった時は相談してきてな? うち以外の二人も含めて、そっち方面ならベテランや。温泉でもトラックの長距離旅行でも格闘技でも、走る以外の楽しいこと教えるから」

 

 走ってもいいと言ってくれるヒトと、負けた後は任せろと言ってくれる先輩。

 何もかも失って失意のどん底だったボクだけど、トレーナーたちに出会えて本当によかった。




〇先輩後輩による裸の付き合いの後会話
先輩
「そういえば混浴風呂は夜入れるよう予約したから、二人で楽しんでなー」

トウカイテイオー
「えっ、いや、それはさすがにその心の準備が」

先輩
「どっかの令嬢もトレーナーとウマ娘は一心同体言うとったから大丈夫や」

トウカイテイオー
「うっ……。でも、向こうはボクのことそんな風に見てないだろうし」

先輩
「なんか勘違いしとるみたいやけど、貸出水着の着用必須やで。というか旅館の共用設備で変なことされたら困るんやけど」

トウカイテイオー
「それならそうと最初から言ってよ!?」
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