サンセット・サンライズ   作:ゆーり

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シルバーウィークの暇つぶしにどうぞ。
強襲もとい、サブキャラ達によるクズのお部屋訪問回です。


強襲Ⅲ

『トウカイテイオー、菊花賞出走登録が完了。回避はせず』

 

 トレーナー室でそんな記事が一面を飾る新聞を読みながら思案に耽る。

 

 テイオーは辛いリハビリを耐え抜き、レースに出られる状態まで脚を回復させた。

 夢を叶えたいという強い意志があってこそ、成し遂げられたのだと思う。

 

 警戒していた世間からのバッシングもあまり大きなものではなかった。

 脚の状態を心配する声もあるが、それ以上に三冠達成を見たいという声と夢への挑戦を応援しなければいけないという同調圧力が世間に出来上がっている。

 この世間の後押しはレースの結果次第で反転しかねない危うさがあるが、アイツのやる気に水を差されるよりはマシだとポジティブに考えるとしよう。

 

「周囲のお膳立ては整ったわけだ。トレーナーが俺じゃなければ案外勝ちは堅かったのかもな」

 

 確かに脚は治った。その兆候も夏を迎える前には見て取れた。

 他のトレーナーならば、あの時点でトレーニングプランを見直して菊花賞を勝つための案を練ることができたのかもしれない。

 だが、俺が考えて実行したのは普通の範疇を出ないありきたりなトレーニング内容だ。

 少なくとも、トウカイテイオーにマッチした独自の方法なんてものではない。

 

 アイツの才能に自分では見合わない。その事実を改めて認識したからだろうか。

 ここ最近、自分の中で燻っているモノをはっきりと感じ取ることができた。

 

 テイオーは夢に挑める。

 俺は大金を得られるかもしれない機会が増える。

 世間の連中は主役を欠いたレースを見ずに済む。

 良いことずくめのはずだ。

 

 なのに、勝つために必死で自分の走りを取り戻そうとしているアイツを見ていると、居心地の悪い感じがする。

 

 自分でも原因がどこにあるのかは分かっている。

 

 俺はウマ娘のために心の底から真剣になることができない。

 勝つことを信じて心から望んでいる。力になることも吝かではない。

 だが周りのトレーナーと比べると全くもって足りていない。

 

 リギル、スピカといった学園最高峰のチームだけではない。トレーナーなら当たり前に持っているべき"熱"を俺は持てていない。一般的な理論や使い古されたトレーニング方法が悪い訳ではない。だが専属トレーナーを名乗るのなら、それだけでは不足だ。担当しているウマ娘をしっかりと見て、それぞれに合った内容を真剣に模索し実践と修正を繰り返していかなくてはならない。そうした無二の関係性こそが、ウマ娘の強さに繋がる。

 

 今までは担当したウマ娘に期待できる才能がなかったからと言い訳もできていたのだが、的外れだったようだ。

 トウカイテイオーに才能がないだなんて、笑い話にもならない。

 どれだけ取り繕おうとも、これは俺自身の欠陥だ。

 

 それならば、自分が悪いと思っているのならば、直していけばいい。

 本気だって出せばいい。熱中もすればいい。したいという気持ちがない訳ではないのだから。

 そう考えたことも、それこそ数えきれないほどある。

 

「それで"熱"が持てるなら苦労はないってね」

 

 ダラダラと二十年以上も克服できなかった悪癖だ。自分ではどうにもできない。

 情けないことだが、誰かに切っ掛けをもらうしかないのだろう。

 

「失礼。シンボリルドルフだが、入っても構わないだろうか」

 

 そんな益体もない悩みに没頭していると、ドアがノックされ声が掛かった。

 

 ……このタイミングでラスボスのお出ましかよ。

 いったい何の用だってのは、考えるまでもないか。

 

「悪いが、この部屋には時代遅れの女人禁制の法が敷かれていてな。回れ右で頼む」

 

「ふむ、確かに私は左回りより右回りのレースを好んではいるが、左回りが苦手ということではないよ?」

 

 そんなこと聞いてねーから。

 

「そもそもテイオーだって女の子だろう。ふしだらな目で見ているなら蹴り飛ばすが、女性として見られないなどと言われたら、やはり蹴り飛ばすことになるが?」

 

 どないせーと言うんじゃ。

 ストレートに拒絶の意志を示したというのに意に介した風もなく部屋に入って来てやがるし。

 

「あの女と理事長、どっちの差し金か知らんが交渉するつもりはないぞ」

 

 コイツなら俺ではなくテイオーを説き伏せられそうな気もするが、此処に来たのはアイツの夢を直接否定するのは憚られたからだろうか。

 

「む? ああ、勘違いさせてしまったか。菊花賞の件で来た訳ではないんだ。君と少し話がしたかったのと、そうだな、見定めたいことがあった」

 

 ……色々と疑問の湧く目的であるが。

 

「今更なのか? お前は俺がテイオーと一緒に書類を提出した場にも居ただろう」

 

 話をしたい理由とテイオーが無関係ってことはないはずだ。だが、それにしては時期を逸している気がする。俺とテイオーが契約書類を提出した後の尋問にコイツも居合わせていたが、その時の表情からはなにも読み取れなかった。俺を疎んでいたのか、怒っていたのか。少なくとも負の感情を抱いていたとは思うのだが。

 

「おや、あまり信用してもらえていないようだね。テイオーのパートナーとして相応しいかだけではなく、私の目的の協力者として見定めたいという話に嘘はないのだが」

 

 ますます分からん。

 シンボリルドルフの目的というのは、全てのウマ娘の幸福とかいうやつだろう。

 俺からは最も遠い世界のお話だ。

 

「追々でも構わなかったのだけど、テイオーのことも心配で丁度良い機会だったからね」

 

 そう言って微笑む皇帝は、どこまでも泰然自若としている。

 ヒステリック女やお子様理事長、自称大人の女ガールとは大違いだ。

 

「座れよ。コーヒー位なら淹れてやる。……ぶぶ漬けも出せるが、どっちがいい?」

 

「なら、コーヒーをお願いしようかな」

 

 

 

 

「それで?」

 

 さっさとお帰り願いたい俺の問いかけに対して、ルドルフは至極ゆったりとコーヒーを味わっている。

 その優雅な所作でコーヒーを飲む姿は、俺なんぞよりも余程に成熟して見えた。

 

「天下の生徒会長様だとそこらのマグカップとインスタントコーヒーの組み合わせでも絵になるな。生徒会室にお高いコーヒーメーカーとか置いてそうだし、口に合わないんじゃないか」

 

 余裕たっぷりな態度を見て、早々に帰ってもらうことを諦めた俺は仕方なく会話を振ることにした。

 

「やはり、そういうイメージを持たれているのだろうか? なにぶん忙しい身だからね。私も普段はインスタントコーヒーの世話になっているよ。飲みすぎて寝つきが悪くならないか憂慮しているくらいだ」

 

 本題以外の話題にはあっさり乗ってくるのな。

 カフェインの取りすぎは中毒になるし、睡眠にあまり良い影響を与えないからほどほどにしておけよ。

 

「このマグカップは君の趣味かな? 魚の漢字が羅列されているデザインは寿司屋や湯飲みでよく目にするが、マグカップというのは珍しい」

 

「俺の元担当にトラックの運転手してる奴がいるんだよ。そいつが北海道に行ったときの土産だ」

 

 湯飲みでいいのになんでか取っ手が付いてるんだよな。アイツの趣味はよく分からん。

 

「ああ、彼女の。最近は会っていないが、他の二人も含めて息災かな?」

 

「三人とも相変わらず元気にやってる。というか、なんでお前がアイツと会うことがあるんだよ」

 

 才能なくてドロップアウトしたウマ娘と七冠の皇帝様に接点なんてないだろ。

 

「彼女はトレセン学園の備品の運送もしているからね。生徒会が員数や状態の確認に立ち会うことがあるのさ」

 

 へぇー、まぁそういう事なら機会はあるか。

 

「それに、彼女と私の在学期間は被っているからね。見知った先輩ではあるのさ」

 

 そう言えば、シンボリルドルフが学園に来た時に結構な話題になってたのをアイツと聞いてた覚えがあるな。

 

「レースで優れた成績を残せはしなかったが、芯があって自分の在り方がブレない強いウマ娘だった。だからかな、そんな彼女が学園を去ることに大きな悔恨の念を感じたものだよ」

 

 ……内心、俺が担当したのが三人と知ってる事にも驚いていたが、コイツからしたら木っ端ウマ娘だろうアイツの在学中のことも覚えてるのかよ。底知れないというべきか、物好きというべきか。

 

「退学の日、会って話をしていてね。学園を去るウマ娘は皆失意に暮れて顔を俯かせていたから、笑顔で気分良さそうに出て行く彼女には面食らったなぁ」

 

 コーヒーを飲み終え、饒舌に語るルドルフの表情は、穏やかに過去を懐かしんでいた。

 

「『やりたい事に全力を尽くして、その先に別の新しいやりたい事ができた。この学園に来て自分の道を決めることができた。後悔はない』と、そう言われたことが今も忘れられないんだ。この学園でレース以外の幸福を見つけられるウマ娘がいる事実に、私はとても大きな可能性を感じた」

 

 とても楽しそうに語ってるとこ悪いんだが、この話は長くなるのかな……。

 

「コーヒー、もう一杯淹れてきた方がいい感じか?」

 

「おや、すまない。衆目の前で語る機会が多いからか、どうにも長話になってしまうな。これでは周りから煙たがられてしまう。あ、コーヒーは淹れてほしいかな」

 

 暗にはよ帰れと伝えたつもりなのだが、分かってて遠慮がないのか天然なのかどっちだろう。

 

「はぁ……。そろそろ本題に入れよ。テイオーの話がしたいんじゃないのか」

 

「いや、彼女の話も大切なんだ。口惜しい話ではあるが、トレセン学園で栄光を掴めるのは一握りのウマ娘のみ。そこから零れた者達に道を示すことが、私にはできなかった」

 

 そりゃ道を示すと言っても、歴代屈指の成績を叩きだして会長の座に君臨している奴に言われても嫌味にしかならんからな。

 

「だからこそ、私は君と彼女たちの関係性を尊いものだと考えている。それこそ、レースで活躍するウマ娘とトレーナーの関係に匹敵する程にね」

 

 とんでもなく見当違いな高評価をされたものだ。

 少なくとも退学後の身の振り方なんて、アイツらが勝手に見つけてきただけだ。

 俺がなにかしたなんてこともない。

 いや、運送会社だけは喫煙所で屯していた業者のオッサンたち経由で俺が紹介したんだっけ?

 

「なら、学園内に職業斡旋所でも作るんだな。レース一辺倒のガキどもに世の職場体験でもさせれば視野も広がるだろうさ」

 

「……ふむ、斡旋とまではいかずとも職場体験というのは悪くないな。ウマ娘の身体能力が社会の発展に寄与している場所はレースの興行以外にも多い。無駄にはならないだろう」

 

 なに真剣に考えだしてるんだよ。レースをするための学園で他の事に現を抜かしてたら本末転倒だろうが。

 

「学園の未来なんて壮大な話は生徒会室に戻ってやってくれ。もういい加減にテイオーの事を話そうぜ。本人が此処に来ちまうよ」

 

「それはいけないな。君と二人きりで談笑している場面なんて見られたら、テイオーに焼き餅を焼かせてしまう」

 

 談笑のつもりはないが、テイオーはシンボリルドルフの熱狂的ファンだもんな。

 

「テイオーの事で私が伝えたかったことは一つ。どうかあの娘の事を宜しく頼む。立場上、贔屓することは出来ないが、それでもお願いしたい」

 

 そう言うや否や、立ち上がり頭を下げてきたルドルフを見て、俺は言いようのないばつの悪さを感じた。宜しくとはどういう意味なのだろうか。

 

 面倒は見る。それが俺の利益になる公算が大きいからだ。だが俺には、自分を慕う後輩の競技者生活を任せられるような信頼はないはずだ。

 

「頭を上げろ。話しづらい。意図は分からないが、俺にはお前が望むようなことは出来ないよ」

 

 トウカイテイオーを強くしてくれなんて意味なら、土台無理な話だ。

 

「トレーナーに求められるものは育成の手腕だけではない。ウマ娘の夢への共感、勝利を疑わない信頼、そして人生を捧げられるほどの覚悟が必要だと私は考えている」

 

 さすがは生徒会長様、志もお高いことだ。

 

「それで? 結論として俺にトウカイテイオーは相応しくないって話だろ。勿体付けるなよ」

 

「むぅ、どうにも君には上手く伝わらないな。君はその全てを満たしている。言うこと無しと断じることはできないが、テイオーに見合わないとは思わないさ」

 

 ……は?

 

「俺のどこがだよ」

 

「菊花賞と無敗の三冠という夢は、君がテイオーの手を取ったからこそ挑めるんだ。そして君はテイオーなら勝てると信じている。人生を捧げるほどの覚悟だけは、簡単に推し量れるものではないけれどね」

 

 そう自信たっぷりに答える皇帝様は、まるで俺以上に俺のことを分かっているとでも言いたげだった。

 

「ふふ、まぁあの娘が勝った暁には、二人でテイオーが勝つと信じていたって言おうじゃないか」

 

 お、おう。……ん?

 

「そういえば、テイオーと一緒に温泉に行ったそうだね。とても楽しそうに話をされたよ」

 

 おいおい、他所でその話をするんじゃないよ。警察がすっ飛んで来たらどうするんだ。

 

「温泉って硫黄の臭いがするだろう。テイオーはあまり気にならなかったと言っていたが」

 

 ……え? あ、うん。

 

「話したかったことはこれで全てだ。時間を取らせてすまなかった。菊花賞、頑張ってくれ」

 

 そう言って、皇帝は颯爽と部屋から出ていった。

 

「……もしかして、生徒会長って割かし暇なのか?」




走る理由を自分の夢以外に求め始めたテイオー。
自分が本気になる切欠を誰かに貰いたいクズ。
シリアス以外で出すなら寒いダジャレを言わせなければいけないとミーム汚染された皇帝。
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