(あれ、は・・・、確か・・・、ビスティ・ノワート・・・、
大きな音がしたから近付いて来たんだ・・・、どうしよう・・・)
ゆっくりと自分に迫るモンスターの姿を確認し、
守くんは恐怖を覚えました
お姉ちゃんとの特訓中に少しだけ戦ったこのモンスターは、
伸びた手足と小さな爪を持っています
そして、ビスティ・グルバに比べると動きはそれなりに早く
知能もある程度あります
できれば一度に複数を相手しないよう言われていた、
守くんにとってやや強敵と言える相手でした
(だめ・・・、勝てない・・・、逃げなきゃ・・・、
でも、やっぱり動けない・・・)
必死に身体を動かそうとする守くんですが、
やはり手足に力は入らず、這って動くことすらできません
ビスティ・ノワートは少しだけ守くんのことを警戒しているのか
様子を伺うようにじっと見つめます
そして動けないと判断したらしく、
次の瞬間飛び掛かってきました
(あぁっ・・・! もう、だめっ・・・!
お姉さん、お姉ちゃん、ごめんなさい・・・・・・)
絶望的な状況に、守くんは固く目を閉じてしまいます
心の中では、自分に良くしてくれた二人へ申し訳ない気持ちでいっぱいでした・・・
ですが、そんな気持ちを吹き飛ばしてしまいそうな大声がすぐ近くから聞こえてきます
「シュナーマ・フォー! うらぁっ!」
(えっ・・・?)
魔法の呪文に驚いた守くんが目を開くと、
そこには3人組の一人がいました
それも、剣がほんの少し赤みがかっており、
モンスターを切りつけたような恰好を取っています
「おらこっちだっ! かかってこいやっ!」
更に、男性はビスティ・ノワートを挑発するような口ぶりで
真っ向から武器を向けました
すると、モンスターは標的を変えて男性と向き合い、
今にも飛び掛かりそうな恰好で構えます
(ど・・・、どういうこと・・・?
どうして、あの人がモンスターと・・・?)
目の前の状況がすぐに飲み込めず困惑する守くんですが、
そこへ更に驚くことが待っていました
「へへっ、引っ掛かりやがったぜぇっ! シュナーマ・フォー!」
モンスターが向きを変えた瞬間、
もう一人の男性が後ろから攻撃を仕掛けたのです
立て続けに頭部へ攻撃を受けたビスティ・ノワートは
断末魔を残して消滅します
(あ・・・、倒しちゃった・・・、でも、どうして・・・?)
ますます訳が分からなくなってしまう守くんですが、
2人は嬉しそうに拳を交わします
「完璧なタイミングだったなロズドー、うまく片付いたな」
「ばっちりだったぜラシュラ、・・・で、次はこいつか」
そう言うと、二人は倒れ伏す守くんを見下ろし、ゆっくりと近づいてきました
モンスターは倒されたものの未だ危機は去っていませんが、
やはり守くんにはどうすることもできません
しかし、2人は守くんが予期していなかった言葉をかけてきます
「魔力がなくなっちまったのか・・・、おい、立てるか?」
「ぁ・・・」
「立つどころかしゃべれねぇっぽいぞ、こりゃそのままほっといたらまじぃな」
「ちっ・・・、しゃあねぇ、俺がこっちを運ぶからお前はグィスを頼む」
「軽い方選びやがって・・・、ま、仕方ねぇな、あいつも無理させられねぇ」
あれこれ話していたかと思うと、そのうちの1人が守くんの身体を持ち上げ
背負ってしまいました
そして、もう1人がモンスターに食べられかけていた人を背負うと
2人揃って歩き出します
「まっすぐ砂時計のところに戻るか・・・、他のモンスターはこいつが倒しちまったろうし
安全な道が出来てるだろ」
「だな・・・、ちっ、やっぱグィス重てぇよ、何か来たら下ろすからな?」
「分かってらぁ、さすがにモンスターと出会ったら俺は離れとく、
正直下手に何かしたら防具が壊れちまいそうだ」
軽口を叩き、周囲を警戒しつつみんな揃って戻りますが、
状況を把握しきれない守くんはラシュラと呼ばれた人の背中でいろいろと考えます
(ど、どういうこと・・・? どうして、僕はこの人たちに運ばれてるの・・・?
さっぱり分からない・・・)
(僕の魔石を奪おうとしてたんじゃあ・・・、
でも、今は助けてもらってる、ってこと・・・?)
考えたところで疑問が解消されるはずもなく、
守くんは揺られながら運ばれ続けました
5分もたったころでしょうか、少しだけ回復することができたのか、
守くんは不意に声を出します
「ぁ・・・、あの・・・、その・・・、どうして・・・?」
「あん? なんだ、しゃべれるようになったのか、回復はえーな」
「子供の方が魔力が早く回復するらしいぜ? ・・・で、どうして、ってのは何だ?」
「いやそりゃこの状況だろうよ、なんで背負われてるのかってことだろ」
「そりゃあ、てめぇが食われかけたからだろ?」
「俺じゃねぇよ! そっちのガキは訳分からねぇだろうが、
何せ俺たちゃこいつから魔石を奪おうとしてたんだからよぉ」
「ああ、そういうことか、まあ最初から分かってたけど」
「ならつまらねぇこと言うなよ・・・、こちとらマジで食われかけだったんだぞ、
落ち着いて休ませろ」
冗談を交え、楽しそうに会話する3人組ですが、
相変わらず守くんは困惑してばかりでした
それでも、疑問を抱いていることは伝わっているらしかったため、
返答を待っていると、やがて背負ってくれている男性がゆっくりと口を開きます
「まあ、あれだ・・・、一応こいつを・・・、グィスを助けてくれた礼と、
さっき魔石を奪おうとしちまった詫びだ・・・、悪かったな」
「その状態じゃスタート地点に戻るどころかすぐには歩けねぇだろ?
どうせ俺らもこのデブを安全な場所に避難させなくちゃいけないからよ」
「それに、受験者同士の助け合いは禁止されてねぇからな・・・、
ああ、さっきの魔石、ぜんぶ拾っておいたからよ、お前それ持ってって合格しな」
「えっ・・・? でも・・・、いいんですか・・・?」
「いいさ、仮にお前が大魔石で合格して、俺らがおこぼれの4つを貰ったとしても到底足りねぇ、
何せおれら、3人まとめて3つしか魔石を手に入れちゃねぇんだ」
「結局受かるのは1人だけってことよ・・・、
だけど俺ら、3人一度に合格したいんだ」
「というのも、俺たち1人ずつじゃ小型モンスター相手でも苦戦するくらいでよ、
1人でも先に受かっちまえば残りは絶対合格できないのさ・・・、ははっ」
「バカ、笑いごとじゃねえっての・・・、
ま、情けなくて笑うしかねえかもな」
「ガキが1人で試験受けようとしてるのを見てムカついて、バンバン魔物倒してるのに余計ムカついて
難癖付けて魔石奪おうなんざ、確かに情けなくって涙通り越して笑いが出るな、はっはっは」
「はっはっは・・・、ああすまん、お前さんには笑いごとじゃねぇよな」
「いえ・・・、あの・・・、その・・・、あはは・・・」」
初めて出会った時とはまったく違う雰囲気に、やっぱり戸惑う守くん
ですが、少しずつ回復してきたこともあってか、段々とお互いに打ち解けてきました
いろいろと他愛のないことを尋ねたり、
どうして試験を受けているのか聞いてみたりします
「シュクトゥル・セージュになったらそんなにいっぱいお金がもらえるんですか?」
「あったりまえだろぉ? 町の外見回りしてモンスターがいるかどうか報告するだけでも
一応の金になるんだ、そっからモンスターを倒して魔石を手に入れりゃその分も追加よ」
「小型を1体だけでも三日分の生活費くらいにゃなるからなぁ、
こんなに割のいい仕事はないぜ」
「しかも領地内の町ならいろんなサービスが受けられるんだぞ?
宿泊も格安だし、何より男どもにとって最高の娯楽施設・・・、おっと、これはまだお前にゃ早いかな?」
「ま、その分いろいろ危ねぇけどよぉ・・・、とくに、なんかヤバいことが起こったら
無理やり駆り出されちまうし」
「結構前の話だが、モンスターの大群が押し寄せてきたことがあったろ?
詳しくは知らねぇけど、全体の2割くらいは大けがして、1割くらいは死んじまったって話だ」
「もっともこのご時世だ、いつまで生きられるか分からねぇしよ、
それよりじゃんじゃん稼いでたっぷりいい思いした方がいいよなぁ」
「お前はまだそういうの覚えてなさそうだけど・・・、
欲っていうのは大事だぜぇ? 欲望を満たさずして何の人生だってもんよ」
「俺はシュクトゥル・セージュになったら一生に一度でいいから、
いい女を何人も侍らせて遊んでやるんだ、絶対にな」
「俺はエネレーじゃねぇ食い物って奴を食ってみてぇな・・・、
ハンバーグ味の奴ってあるだろ? 知ってるか? 本物のハンバーグって奴はすっごく熱くてよ、
そんで丸くて、でもかぶりつくとうまい汁が出てくるらしいぜ?」
「ハンバーグ・・・、なんだかお腹すいてきました・・・」
「だなぁ、俺らも動き回って腹が減ってきちまった、早く戻って飯食うか、
リタイアするとはいえ補給地点の飯ぐらいありつけるからな」
「その点お前はいいよなぁ・・・、堂々と休めるじゃねぇか・・・、
それに大型モンスター倒して合格した奴なんざ滅多にいないぜぇ?」
「そもそも出てくること自体、本来ならありえねぇことだからなぁ、
通りでいつもモンスターが多くいる場所に全然いねぇわけだ、
あいつの気配に気づいた奴から逃げちまったんだろうな」
「大体10年に一度くらいは倒せる奴が出るらしいな・・・、
そいつらみんな大物になってるって聞くぜ?」
「じゃあ俺たちゃ今、歴史に名を遺す奴の英雄譚を間近に見ているってことか? へへっ」
「手始めに、試験官からお褒めの言葉がもらえるかもな、はっはっは」
「これは大型モンスターの魔石・・・!? 君たち、こんな奴と戦ったのか!?
なんて危険なことを! 大型のモンスターを見つけたらすぐこちらに連絡するよう言っただろう!
もしも倒せなかったら君たち以外にも被害が広がっていたのだぞ!?」
「は、はいぃ・・・、ご、ごめんなさい・・・」
「い、いや、俺らは巻き込まれただけで、倒したのはこいつ一人っすよぉ・・・」
「そ、そうそう、だからお説教はそいつを合格させた後でじっくりと・・・」
「っていうか俺食われかけて危ないんで、早いところこの防具外したいんですけど・・・」
「君たちも同じだよ! 知らせればすぐに私たちが現場へ向かえたんだ!
倒せるか倒せないかを冷静に判断することも大事なことなんだよ!?
その点から見ると減点に値する行為だ!」
「「「「ご、ごめんなさいぃ・・・」」」」
なんとか無事にスタート時点までたどり着いた4人ですが、
魔石を提出すると褒められるどころか
危険な相手と戦ったことをものすごく怒られてしまいました
連絡できることを忘れて危ない賭けにでてしまったのですから、
ある意味仕方ないことだと言えるでしょう
とはいえ、一応はとても大きな戦果だということもあり、
他の3人に手柄を譲られ、守くんは合格となりました
「それじゃあ・・・、この魔石は彼の物ということでいいんだね?
よし、では君は魔力が切れているようだからここで休んでいなさい、
それと、防具が壊れかけていた君もだ」
「いや、こいつはいっすよ、身体は一応無事だし、飯だけ貰って帰ります、
おいマモル、・・・世話になったな、あんがとよ」
「じゃあなマモル・・・、次に会うときはお前のこと先輩って呼べる立場になっててやるよ、
・・・あんまり年下をこう呼びたくはねぇけどよっ」
「俺まだ休みたいんだけどなぁ・・・、まあいいか、マモル、
またいつか今日みたいな大物倒したら、そん時は本物の飯食わせろよっ」
「みなさん・・・、助けてくれてありがとうございました!」
3人組とはそこで別れ、守くんは魔力を回復させるために食事をいただきます
その後、砂時計の砂が落ちきるまで守くんは休んでいましたが、
いろんな人が次々に戻ってきます
守くんは人の流れをぼんやり観察していましたが、
何人かに怪訝そうな目で見つめ返されました
中には飲み食いをした後また走っていく人もいて、
リタイアする人も出てきます
そのまま時間が過ぎていき、とうとう試験の終わりが告げられました
「よし、試験終了、ここまでに魔石を持ってきていない人は
残念ながら不合格です、他の試験官は各受験者に合図を」
「そして、今ここにいて決められた魔石を提出している人全員を合格とします、
最初の部屋で説明会を行いますのでついてきてください」
守くんを含めた、最初に集まった人数の半分にも満たない人たちに
合格が言い渡されます
守くんはほっとしながら歩き出しますが、疲れからか
魔力が回復しきっていないからか、かなり足取りが重い様子でした
既に借りていた防具は脱いでしまっているので
それも一つの原因かもしれません
とにもかくにも一生懸命前の人についていき、
なんとか部屋へ戻りました
「皆さまお疲れ様です、そして合格おめでとう」
「ですが、これで終わりではありません、皆さまの
シュクトゥル・セージュとしての第一歩はこれから始まるのです」
「モンスター退治の仕事や訓練、先輩に付き従っての実戦など多くの義務が・・・」
「引き換えに各種施設などでの優遇から生活空間の用意など・・・」
「また有事の際には・・・」
全員が着席すると、お祝いの言葉もそこそこに
難しい説明が始まります
守くんは早々についていけなくなったばかりか
疲れていたため眠気に襲われ、何度も舟をこいでは慌てて起きました
そのままほどなくして説明は終わりましたが、
帰り際に、渡されていた資料をきちんと大人の人に見せるよう
口を酸っぱくして言われてしまいます
部屋を出て、歩き出しながら、
守くんは試験が無事に終わったことを改めて安堵していました
「これで終わったんだよね・・・、無事に済んでよかったぁ・・・」
「合格の証は後から贈られるって言われたし、
もう帰っていいとも言われたんだから、とにかく帰ろう・・・」
「説明、よく分かんなかったなぁ・・・、後でお姉さんたちに教えてもらわないと・・・、
うう、それにしても疲れたぁ・・・」
受付の女性に挨拶をして、守くんはどんどん重たくなっていく足を動かしながら
建物を出ていきます
すると、そんな彼を待っていたかのように
二つの人影が少し離れた場所に見えました・・・