「さて・・・、当然道具がなければ安全の確保もままならないね・・・、
野宿は初めてなんだろう? まずは道具と使い方から教えてあげるよ」
そう言うと、セレスティナさんは懐から小さな袋を取り出し、
いきなり手を突っ込みます
そしてそこから、どれ一つとしてその袋には入りそうのないものを
次々と取り出しました
「そ・・・、その袋、一体どうなってるんですか・・・?」
「これかい? これはある人が作った高度な魔法の使われた道具袋でね、
単純に大量の物を収納できて持ち運びが簡単な素晴らしいものさ、
そして今出したのは、最低限の野宿用の道具だよ」
「わぁ・・・、見たことのない道具がいっぱい・・・♪
この筒はなんでしょう?」
「それは明かりなんかに使う炎を灯す道具だね、
魔法でも炎は出せるけど、長い時間出すのは大変だからなかなか重宝するらしいよ、
私は出せないから必需品なんだけど」
「便利な道具ですね、じゃあこっちは・・・、バケツですか?」
「それは、川の水などを汲んでおくことで飲み水などに変えてくれるんだ、
飲むための水は魔法でも出せないからね、そっちは普通の人でも必需品さ、
だから後で水を汲んでおこう、すぐ近くに川があったはずだ」
「お水・・・、なるほど、確かに大事です・・・、じゃあこれは・・・、寝袋ですか?
なんだかキャンプするみたいです・・・♪ 」
「そうさ、それでもって、魔物除けの素材が使われている一級品の道具なんだよ、
このセットの目玉と言ってもいい品だね」
「まものよけ・・・? じゃあ、これがあればモンスターに襲われないんですか?」
「正確に言うとモンスターが近寄りづらくなり、また気付かれなくなるそうだ、
結構貴重なものらしいから、借り賃は安くないけどね」
「えっ・・・? あの、僕、お金なんて持ってないんですけど・・・、
もしかして、これは全部セレスティナさんが・・・」
「ああ、その点については心配ない、紛失せずに返却すれば料金は格段に安くなる、
それに支払いはここにある魔石で行うからね」
「魔石で、ですか?」
「そうだよ、これは本部に提出すればモンスターを退治した証にもなるが、
その時に引き取ってもらっていろんなサービスを提供してもらったり、現金に換えてくれたりもする、
・・・これまでも見回りをしてきたんだよね? もしかしてこういうことは・・・」
「えっと・・・、あの・・・、全部、お姉さんがしてくれてた・・・、
んだと思います・・・」
守くんは顔を赤らめ、恥ずかしげに俯きながらそう言います
どうやら、これまで自分が戦闘面や生活面以外の
いろんなことでお姉さんを頼っていたと改めて思い知らされたようでした
「ふむ・・・、まあそうだろうね、手続きは覚えてる人間がした方が早い、
だけど、いずれ君にも必要になることのはずだから、後でやってみるといい、
受付で教えてもらえるから、しっかり勉強しておくれ」
「はい・・・、ありがとうございます・・・」
「さ、それはそれとして、早く野営の準備をしよう、
道具の使い方を教えてあげるから、一緒においで」
「分かりました、まずは何をするんですか?」
「そうだね、最初は寝る場所を決めて寝袋を設置しておくんだ、
これで一応の安全は確保される、今回は水場の位置だけ気にしておこう、
もう少し行けば近くに川があるはずだ」
セレスティナさんの言葉に従って進んでいくと、
水の音が聞こえる場所に辿り着きます
そこで、手分けして野営の準備へ取り掛かることにしました
「よし、じゃあマモルはこれに水を汲んできてくれ、
普通に入れるだけでいいから頼んだよ、私は寝袋と明かりを設置しておくから、
ちゃんと間違えずここに戻っておいで」
「分かりました、じゃあ行ってきます」
バケツのような道具を持たされた守くんは、
小さな川のせせらぎを頼りに木々の中を歩いていきます
段々と周囲は薄暗くなり始め、少し分かりづらくなっていたものの、
茂みを一つ二つ越えた先に小川を見つけました
「あった、川だ・・・、良く見えないけど、これ、綺麗な水かなあ・・・?
ほんとにこのバケツ?に水を入れたら飲めるようになるのかな、
とにかく組んでみようっと」
持たされた道具を軽く眺め、バケツを使う要領で水を汲み、
今度はしっかりと抱えて慎重に持って帰ります
普段であれば重たいと感じるくらいの重量でしょうが、
幸いにも着ている服のお陰で力も強くなっているらしく
簡単に運ぶことができました
少し歩いたところで、セレスティナさんが点けてくれたであろう明かりが
正面から少しずれたところに見えてきます
「あ、向こうが明るい・・・、ちょっと道を間違えちゃったのかな、
まっすぐ歩いてたつもりだったのに、危ない危ない・・・」
目標物がない木々の中を歩くことの危うさを意外なところで学びつつ、
守くんは無事にセレスティナさんの元へ帰りました
「戻りました、それで・・・、普通に水を入れてきたんですけれど、
これで水が出来てるんですか?」
「おかえり、ああ問題ないよ、試しに飲んでみようじゃないか、
ほら、ここをこうすれば水が出てくる、コップもあるから喉を潤そう♪」
道具を受け取ったセレスティナさんは、そう言うと
水を容器に移して守くんへ手渡してくれます
明かりに照らされた水は透明で綺麗なように見え、
匂いもしなかったので、守くんは恐る恐る口を付けてみました
「んく・・・、あ、おいしい、ほんとにちゃんと飲めます・・・♪」
「そうだろう♪ さて私も・・・、ふぅ、やっぱり持ってきた分だけじゃ足りないからね、
良く休まないと魔力も回復しない、さ、晩御飯もあるからさっさと食べてしまおうか」
「あ、はい、ありがとうございます♪」
水とエネレーで最低限の食事を済ませると、
二人はようやく一息つくことができます
ぼんやりと明かりを眺めていた守くんは、
他愛のない質問が口をついて出てきました
「この炎を出す道具って、何かこう、モンスターと戦うのに
使えたりしないんですか?」
「ん? そうだね、これはちょっとそういうことには向いてないなあ、
この火は明るいけど熱くないんだ、こうして囲んでいても
せいぜいちょっと温かいくらいだろう?」
「そういえば確かにそうかもしれません・・・、
なんだか不思議な道具ですね」
「そうかい? これは単に灯りの魔法の代用品でしかないから、そう珍しくはないと思うけど・・・、
夜になったら町に灯りが点くだろう? それと同じものなんだ」
「夜・・・、夜は・・・、早く眠ってしまうので、
外の景色はあんまり見たことがありません」
「ふむ、そうか・・・、それじゃあそろそろ眠くなっていたりするかい?」
「えっと、そういうわけでも・・・、ふあぁ・・・」
「はは、身体は正直だね、欠伸が出てるじゃないか♪」
普段眠っている、というより大体はお姉さんとお風呂に入り、
鼻血を出して気絶してしまっているような時間が過ぎていたためか
守くんはいつの間にか眠気が溜まっていたようです
町の外という安全の保証されていない場所ではありますが、
少しずつ慣れてきたらしく、充分に眠れそうでした
「ごめんなさい、やっぱり眠いです・・・」
「別に無理をして起きていることはないさ、
休まないと明日が大変だからね、そろそろ寝るかい?」
「じゃあ、そうさせて、もらいます・・・」
「特にすることはないし、私も寝るとしよう、
いつもならお風呂へ入るところだが、代わりになる道具を借りると高いからなあ・・・」
セレスティナさんの呟きも大して聞こえておらず、
守くんはゆっくりと立ち上がり、
用意してもらっていた寝袋の方へ歩いていきます
そして挨拶をして眠りに就こうと思いましたが・・・
「むにゃ・・・、あれ・・・? セレスティナさん・・・、
寝袋、一つしかありませんよ・・・?」
「ああ、それは結構高くつくからどうしようか考えてね、
君は小さいし、二人一緒に使っても充分入れると思ったから
一つだけ借りることにしておいたんだ」
「そうなんですか、じゃあ一緒に寝るんですね・・・、・・・えっ?」
自然な口調で投げかけられたとんでもない言葉を受け、
守くんは眠気など吹き飛んでしまいました
冗談を言っているのかと考えていると、
セレスティナさんは立ち上がって灯りの道具を手に取ります
「さて、そろそろ消灯しようか、あ、マモルは明るくなくても眠れるかい?」
「いえ、それは平気ですけど、あの・・・」
「うんうん、じゃあ私が先に入るから抱きかかえてあげよう、
結構大きいから寝苦しくはないと思うよ」
ごく当たり前のようにそう言うと、
セレスティナさんは寝袋へ入り、守くんを手招きします
女性と同衾するなど守くんにはとても恥ずかしく思えましたが、
明確に要求されてしまったからでしょうか、
半ば足が勝手にそちらへ向かってしまいました
そして、二人はやや大きな寝袋の中へ一緒に包まります
「思った通り、君となら充分一緒に入れるね、
寝心地はどうかな? 慣れないうちは少し寝苦しいかもしれないが、
今日はたっぷり疲れたし、眠くなってきたんじゃないかい?」
「えっと、あの・・・、その・・・」
「うん? どうかしたかな? 先ほどから
ちょっと様子が変じゃないかい?
・・・ひょっとして、体調が良くないとか」
「そ、そうじゃなくてですね・・・、
その・・・、恥ずかしいん、です・・・」
心配するように調子を尋ねていたセレスティナさんは、
守くんの返答を聞くと楽しそうに笑いました
「く・・・、ふふっ♪ なんだいそれは♪
誰かが見てるわけでもないのに、そう気にしなくていいじゃないか♪」
「そ、そうかもしれませんけど、やっぱり恥ずかしいですよ・・・」
「ふぅん・・・?♪ ひょっとして、私のことを意識してくれているのかな?♪」
「え・・・? それはどういう・・・」
「つまり、私を女性として意識しているから
恥ずかしいのかな? って聞いているのさ♪」
「えぇと・・・、それは・・・、そう、なのかも、しれません・・・」
小さな声で質問を肯定すると、
セレスティナさんの顔により一層楽しそうな笑みが浮かびます
更に、軽く抱きしめていた守くんの身体をより自分の方へ寄せ、
片方の手で撫でるように頬へ触れながら言葉を紡ぎました
「その年で、女性に興味があるのかい・・・?♡
ずいぶんとおませさんじゃないか・・・♡」
「え・・・、あの・・・、セレスティナさん・・・?」
「君のこと、ただの子供だと思っていたからこうして一緒に寝ることにしたわけだけど・・・、
ちょっと早まっちゃったかな・・・♡」
「えっと、その、ごめんなさい・・・」
「謝らなくていいんだよ・・・?♡ 決めたのは私からだ・・・♡
ところで、いったい私のどこを意識してくれているんだい?♡」
「ええ・・・? それは・・・」
「やっぱり背中に押し付けている胸かな・・・?♡
それとも後ろをついて歩いていた時に見えていたお尻?♡
もしくはもっと違う部分だったりする?♡」
「あ、あの・・・、さっきから変ですよ、セレスティナさ・・・」
「お姉様だ♡」
「さん・・・、えっ?」
「私のことはお姉様と呼びなさい、いいね?♡」
「え、ええと・・・、はい・・・」
「ほら、呼んでみるんだ♡」
「ええと、お姉様・・・?♡」
急に変わったセレスティナさんの様子に驚きつつも、
守くんは言われた通りの呼び方をします
すると、セレスティナさんは嬉しそうな表情で背筋を震わせ・・・
守くんのことを更に強く抱きしめてきました
「ん・・・っ♡ これ、思っていたよりいいじゃないか♡
弟がいるってこんな気分なのかな?♡ いや、少し違うだろうね♡
少なくともこんな気持ちを家族に対しては抱かないか♡」
「あうっ・・・! せ、セレスティナさん、落ち着いてください・・・」
「こ~ら、ダメじゃないか♡ お姉様と呼ばなければ♡」
「ええっ、と、お姉様、落ち着いてください・・・?」
「んっ♡ いい響きだ♡ もっと言っておくれ♡」
「うわぁ、だから落ち着いてください・・・!」
なぜか高揚してしまったらしいお姉様の行動はなかなか収まることがなく、
守くんはなだめるのにすっかり疲れてしまいます
そのうえ、身体中がぬくもりに包まれており、
背中には柔らかな感触をたっぷりと押し付けられ、とても眠れる状態ではありませんでした
「ふ~・・・、いやすまない、ちょっとからかうだけのつもりだったけど
どうにもはしゃぎすぎてしまった♪
不思議なことに、私は思ったより君のことを気に入ってたみたいだよ♪」
「そ・・・、そうなんですか・・・、はは・・・」
「・・・信じられないかもしれないが、私はどちらかというと人見知りするタイプでね・・・、
今まで誰かと一緒に外へ出たことは、新人の時を除いて記憶にないぐらいだ」
「えっ? じゃあ、どうして僕と一緒に来てくれたんですか・・・?」
「そこなんだ、そこが自分でもはっきりと分からないんだよ、
もしかしたら、誰かに声をかけてもらえたのがそれなりに嬉しかったのかもしれない」
「本当ですか? あの・・・、それなら僕、嬉しいです、
今日はいっぱいいろんなことを教えてもらいましたし・・・」
「信じられないのはそこもなんだ、私がああしてお節介を焼いて
新人の指導をするなんて、少し前までは考えもしなかった」
「でも、僕、今日はほんとにたくさん教えてもらいましたよ?」
「だから驚いているのさ、私がそんなことをしたということに・・・、
私はね、今まではずっと自分が強くなることだけを考えていたんだけど、
なんだか君には手を貸してあげたくなったんだ」
「それは、どうしてですか?」
「そうだね・・・、ちょっと頼りないところとか、
放っておくと危なそうなところとか・・・」
「う・・・、それはその・・・」
「あと、意外と頑張り屋さんなところとか、ひたむきに学ぼうとしているところとか、
強くなろうとしているところなんかを見て、昔の私を思い出したような気がするよ」
「昔のセレ・・・、お姉様、ですか?」
「うん、だからかな、協力してあげたくなって、
そして大事なことを一つ思い出した」
「だいじなこと、一体なんでしょう?」
「一人で強くなろうとしても無理ってことさ、
いつの間にか忘れていたこと、君のお陰で思い出したよ、ありがとう♪」
「えっ? えっと・・・、どういたしまして・・・♪ あ、ふぁ・・・」
急に褒められ、守くんは思わず照れてしまいますが、
同時に欠伸も出てしまいます
どうやら、お話をしている間に気分が落ち着き、
眠気が来たようでした
「おや、そういえば随分と話し込んでしまったね、
本当にそろそろ寝ないと明日に響く」
「ふぁい・・・、じゃあ、おやすみなさい・・・」
「ああ、お休み・・・♪」
その言葉を最後に、二人の会話は終わります
そして少しすると、どちらともなく静かな寝息が聞こえ始めました
星空の下、二人はゆっくりと休息をしました・・・