「じゃ、魔石ありがとね~♪ お店来てくれた時はサービスしてあげるからっ♪」
「良かったらまた稼がせ・・・、じゃなくて指導してね~?♪ ちゅっ♪」
ディアさんとエミリーさんに色仕掛けで迫られてから、
最終的には魔石を全て渡すことになってしまった守くん
上機嫌に投げキッスをしながら去っていく二人を漠然と眺め、
そして姿が見えなくなったところでがっくりと肩を落とします
「モンスターいっぱい倒したのに、けっきょく魔石を全部あげちゃった・・・、
アミーお姉さんになんて言おう・・・」
本日の成果がほとんどないも同然という事実が改めてのしかかり
すっかり落ち込んでしまいます
それだけでなく、初めての指導はほとんど失敗も同然という結果だったのですから
無理からぬことでしょう
(とりあえず、もうお家に帰ろうかな・・・、
でも今日はアミーお姉さんまだ帰っていないだろうし、お昼はここで食べようっと)
守くんはひとまず気持ちを切り替え、休息しようと決めました
最低限の食料が提供される食堂のような場所へ行き、
エネレーと水を受け取って空いている席に座ります
そして昼食を取っていると、窓の外に人影を見つけます
「もぐもぐ・・・、んむっ? あれはひょっとして、ディアさんとエミリーさん?
それに・・・、誰かと一緒だ」
少し遠くにいるため顔が判別しづらく、
また既に防具を外しているのか服装も違いますが、
守くんはなんとなくあの二人だと判断しました
それだけなら特に大したことではないものの、
二人は背の高い男の人らしき人物へ寄り添うように歩いているのです
(誰だろう・・・? 見たことがあるようなないような・・・、
シュクトゥル・セージュの人かな?
いや、それよりも今度は何を・・・? もしかしてまた・・・)
魔石を二人占めされてしまったことを思い出しつつ、
また誰かを騙すつもりではないかと訝しむ守くん
先のことを思い出し、できればあまり関わりたくないと考えながらも、
昼食を一気に食べ切ってから立ち上がります
「ごちそうさまでした・・・、やっぱり、悪いことをしそうなら注意しなきゃ・・・!
後を追ってみよう」
守くんは防具を身に着けたまま建物を出ると、二人の行動を止めるため、
既に見えなくなった彼女たちの進んでいた方へ歩き出しました
曲がり角の先を覗き込んだところで、道を外れて路地裏に入る誰かの後ろ姿を
ほんの一瞬だけ捉えます
(曲がっていった人がたぶんディアさんかエミリーさんだよね?
でも、あんなところに道なんて・・・)
人影が消えた場所まで近付いてみると、
普段は大して気に留めることのない狭い道がありました
守くんの大きさならそれほど苦にはならない幅ですが、
大人の人が通るとなると大変そうです
「ここに入っていった、のかなぁ・・・?
こんなところに何の用事があるんだろう、
モンスター・・・、がいるわけないよね」
てっきり町の外へ行くのかと思っていた守くんは
予想が外れていたことに首をかしげます
もっとも、二人が恐らく防具を外していた時点で
その可能性はほとんど潰えていたのですが、そこまで頭が回っていなかったようでした
「あんまり知らない道に入ると迷っちゃうかも・・・、
ちょっと進んで誰もいなかったら帰った方がいいかな・・・」
守くんはどこか薄暗く感じる細い道の先を恐る恐る覗き込み、
慎重に進み始めます
と同時に、見知らぬ道を進んだ先に何があるのかという
ある種の高揚感も心のどこかで覚えていました
そのまま少し歩いたところで、やや大きめの建物が目に付きます
「あれはなんだろう? あんなところに何かあったんだ、
結構大きいけど、本部の建物が陰になってて見えなかったのかな?」
見慣れぬ建造物の存在に気付いて足を止める守くんですが、
そこへ不意に怒声が聞こえてきました
「てめぇら! ふざけんじゃねえぞ!」
「わっ! び、びっくりした・・・、な、なに・・・?
この先から聞こえてきたけど、もしかして・・・」
静寂を突き破る大きな声に驚きながらも、
その発生源をなんとなく察した守くんは急いで先へ進みます
そして開けた場所に出てあたりを見回してみると、
やはりディアさんとエミリーさんの姿が、そして大声を出したであろう男の人の姿を見つけました
「な、何よ・・・! だから言ったじゃん・・・!」
「サービスはしてあげるんだから、文句言わないでよ・・・!」
「だからふざけんじゃねっつってんだよ・・・! てめえらに魔石をくれてやったのは
こんなところでママゴトみてえな接待を受けるためじゃねえんだよ!
そんなもんで割に合うと思ってんのか!?」
(わわっ・・・! や、やっぱりあの二人だ・・・)
明らかに揉めていることが分かり、守くんは思わず路地裏に身を引っ込めます
そして言い争いの内容を確かめてみますが、どうもディアさんとエミリーさんが
守くんへやったように他者の魔石を自分のものにしていたようでした
「いちいち怒鳴るなっての・・・! だいたい偉そうなこと言ってるけど
あんな小さい魔石ばっかでそんなサービス受けられると思ってるわけ?」
「っていうかあんたよりもたくさん稼いでくれた人はいっぱいいるんですけどー?
今日も外れかと思ったら当たりの奴が一人さー、中型の魔物まで倒してくれてー♪」
「そうそうー♪ その内また稼がせてもらうからねー♪
あれならまた誘えば楽勝だしー♪」
「ってわけでー、ぶっちゃけあんたとかいらないの♪
ギャーギャー騒いでるとこ悪いんだけどさ♪
つーかそんな騒がれたらここでのサービスもやめちゃうよー?♪」
(今日・・・ってもしかして僕のこと・・・? また組んだら今日みたいなことになっちゃいそう、
もう絶対あの二人とは一緒にお仕事しないぞ・・・!
・・・それに、あの男の人、やっぱり二人に騙されて・・・?)
罵声を浴びせる男性に対し、二人は揃って挑発的な言葉を投げかけます
あの男性も自分のような被害者だと考え、
守くんは段々と同情的になっていきました
ところが、そこから事態は思わぬ方へ進んでいきます
「くっ・・・! 大人しくしてりゃ付け上がりやがって・・・!
言っとくがこっちの階級は「4」だぞ! この意味が分かるか!?」
「なーに? 命令でもするっていうの?」
「ははっ、おもしろーい♪ 従うわけないじゃん」
「いいや? てめえらみてえに性質の悪い連中を裁く権利ぐれえあるってことだよ!
トリィ・クシオン!」
男性が呪文を唱えると、手から電気のようなものが放たれ
二人の身体へ襲い掛かりました
「「きゃあああっ!」」
「えっ!? ひ、人に魔法を・・・!? あ、で、でもあれはっ・・・!」
二人が攻撃されてしまったことに驚く守くんですが、
その魔法が自分も知っているものだったことにも驚きます
それは、以前アミーお姉さんに教えてもらった
悪い人を捕まえるための、人に対して使う魔法だったのです
「へっ、ざまあねえな、手は出せねえとでも思ったか?
生憎と言うこと聞かなきゃこうするつもりでてめえらの誘いに乗ってやったんだよ」
「あぐぅ・・・、うぅっ・・・」
「あ・・・、ぁう・・・」
(ふ・・・、二人とも倒れて・・・、あ、あのままじゃ死んじゃいそう・・・)
魔法を受けた二人は、倒れたまま動けなくなってしまったか
身体を震わせるばかりでした
その魔法は電流を浴びせ、相手を動けなくするだけのもので、
傷つけるほどの力はないと聞いていましたが・・・
実際に使うところを目の当たりにした守くんは
言い表しがたい恐怖を感じます
(ほ、本当に人に使っていい魔法なの・・・?
二人とも苦しそうで・・・、は、早く病院に・・・)
苦悶を浮かべるディアさんとエミリーさんの表情に、
嫌な想像ばかりが浮かぶ守くんですが・・・
そこへ、男性は思いもよらぬ言葉をかけたのでした
「いい気味だ、ついでにもう一発かましてやりゃちったぁ懲りるだろう」
(!?)
ただでさえ危ない状態に見える二人に対し、
同じ魔法をもう一度使うと言い出しました
それを聞いた守くんは、後も先も考えず
反射的に身体が動いてしまいます
人が人に対して暴力的な行為を行うという
日常ではまず見ないであろう場面に遭遇してしまったのですから
冷静な判断ができないのも無理からぬことでした
「ま・・・、待って!」
いきなり登場した小さな存在に、
その場の人間はいっせいに意識を向けます・・・