「あぁ・・・? なんだてめぇは・・・!?」
「うぅ・・・?」
「あ、あんた・・・、どうして・・・」
その場にいた全員が守くんの声に反応し、そして声の主を見て驚きます
男性にとっては見知らぬ子供が自分の行動を止めようと突然あらわれ、
そしてディアさんとエミリーさんにとってはつい先ほど騙した相手が
どういうつもりか助けに来たように見えるのですから、無理からぬことでしょう
守くんはと言うと・・・、飛び出したときの勢いが少し薄れてしまい、
ここからどうすれば良いか分からなくなっていました
とはいえ何もしない訳にはいかず、説得を試みます
「あ、あの・・・、も、もうやめてくださいませんか・・・?
お、お二人がかわいそうで・・・」
「てめぇは何だって聞いてんだよ! この女どもの知り合いか!?」
「ひっ・・・! ご、ごめんなさ・・・、う、い、いえ、
友達ってわけじゃなくて、今日出会ったばっかりなんですけど・・・、
いくらなんでもそこまでしなくてもって思ったら・・・」
「訳分かんねえことばかり言いやがって、今なら見逃してやるからどっか行きやがれ!
俺は今、男を騙して魔石を貢がせる悪質で有名な輩に罰を与えてるんだよ!」
「悪質で有名・・・、えっ・・・? そ、そうだったんですか・・・?」
「い・・・、今、ウチらに、聞かないでよ・・・」
「まあ、否定は・・・、できない、けどさ・・・」
男性の怒声にひるみながらも助けようとする守くんですが、
それで相手の怒りが収まるはずもありません
それどころか、二人の悪い噂を聞かされてしまい、
相手も騙されてしまったのかと考えます
「そ、そうだったんですね・・・、じゃ、じゃあ・・・、
あなたも、もう騙されてて魔石を取られちゃったんですか?」
「うっ・・・! ま、まあ取られたというか
分かってたがあえてくれてやったというかだな・・・、
と、とにかくこいつらは俺の方で処分するからお前は引っ込んでろ・・・!」
質問に狼狽えつつも、男性はとにかく考えを改めようとせず、
守くんを遠ざけようとしました
ですが、処分という言葉を聞いて悪い想像をしてしまった守くんは、
慌てて二人と男性の間に立ちます
「そ・・・、そんなことさせません・・・!
こ、これ以上ひどいことをするなら・・・!」
「するならなんだってんだぁ? ガキが首を突っ込むような問題じゃねえんだよ、
もう一度だけ言ってやる、引っ込んでろ!」
「うぅ・・・、い、いやです・・・! これ以上ひどいことをするなら、ゆ、許しません・・・!」
「ほぅ、おもしれぇ・・・! 大人に逆らうガキにも痛い目を見せてやるか・・・!
こっちに来な、かわいがってやるぜ」
恫喝にひるみながらもなんとか二人をかばおうとする守くんに対し、
相手は余裕たっぷりの表情で戦いを始めようとしました
ディアさんとエミリーさんから少し離れた二人は、
道の真ん中で対峙します
しかし、すぐに戦いが始まることはなく、
男性は相手のことを観察していました
(ちっ、勢いに任せて喧嘩を買ったはいいが、よく見るとこいつもシュクトゥル・セージュだ・・・、
階級は5だが、防具を着けてやがる・・・!
あの女どもと違って最低限は戦える人間か・・・!)
(これじゃ対人用の魔法がきかねえ、
おまけにこっちは武器も防具もなしだからちいと分が悪い・・・? いや待て、
こいつさっきから足が震えてやがる・・・、なるほど、試してみる価値はありそうだ!)
声を荒げてばかりの男性でしたが、冷静さ持っていたらしく
どう戦うべきか思案します
そして、考えがまとまったのか悪い笑顔を見せながら口を開きました
「威勢のいいことを言ったわりに足が震えてやがるなぁ?
さてはお前、人間を相手にした経験がねえんだろ?
違うっていうなら俺に攻撃してみろよ?」
「くっ・・・、うぅ・・・」
「へっ、やっぱりか、どうやら図星みてぇだな・・・、
おら! 来ねえならこっちから行くぞ!」
男性は守くんが攻撃してこないことを確かめると、
相手が防具を身に着けていることもあってか遠慮なく魔法を放ってきます
「その防具をぶっ壊せば俺の勝ちだ! ヴィグァ・ハイト!」
「うわっと!」
魔法の刃を飛ばしてきた男性ですが、
それに対して守くんは反射的に高く飛び上がりました
どうやら、昼間に散々モンスターの攻撃をかわしていたことで
相手の攻撃を咄嗟に回避する癖が身についていたようです
「なっ・・・! かわしやがっただと!?
なるほど、体重が軽いから動きだけは大人より良くなるってわけか!」
「・・・だが、うかつに飛び上がったのは間違いだなぁ?
モンスター相手ならそれでいいだろうが人間様はそう簡単にいかねえんだよ・・・!」
男性は悪い笑顔を浮かべると、空高く飛び上がった守くんではなく
正面に向かって手をかざし、そして・・・
「今度はかわせねえだろ! ヴィグァ・ハイト!」
「わぁっ!」
なんと、着地した瞬間を狙ってもう一度魔法を放ちました
とうぜん飛び上がることはできず、守くんはまっすぐに飛んできた魔法の刃を真正面から受けて
吹き飛ばされてしまいます
「あうぅ・・・、しまった・・・」
「はっ! 思った通りこの程度での魔法でも吹っ飛びやがった!
身軽な分、衝撃には耐えられねえようだな! ヴィグァ・ハイト! ヴィグァ・ハイト!」
「あうっ! うわぁっ!」
男性は吹き飛んだ守くんに容赦なく追撃を加え、攻撃の手を緩めようとしません
守くんは衝撃を受けて立ち上がることすらままならず、
このままではどうにもならないことが誰の目にも明らかでした
(うう・・・、だめだ、これじゃいつか防具が壊れちゃう・・・! 反撃しなきゃ!
・・・だ、だけどもし僕の魔法が当たったらあの人は・・・!)
攻撃にさらされ続けながらも、守くんはどうしても
人に対して魔法を打つ覚悟を持てません
このような場合のために人を無力化する魔法もお姉さんに教えてもらったのですが、
困ったことに、守くんはどれも使えなかったのです
やはり女神様に貰った素質は攻撃魔法にしか適用されないらしく、
対人用の魔法は先ほど男性が使ったようなものを含めて呪文を唱えても全て発動しませんでした
(やっぱりだめ・・・、当たったら怪我じゃすまないかもしれないのに
魔法を当てるなんて・・・)
反撃の隙が一切ないわけではありませんが、
モンスターに向けて撃つ魔法を使うことができません
すると、守くんが攻撃を受け続けているのを見かねてか
ディアさんとエミリーさんが男性に話しかけました
「ちょ、ちょっと、もうやめてよ・・・!
いくらなんでもやりすぎっしょ・・・!」
「あいつの防具壊れちゃうよ・・・!
そのまま間違って魔法当てたらどうすんの・・・!?」
「なんだ、もう喋れるようになっちまったのかぁ?
まあ安心しろ、そんなヘマしねえし
一発ぐらい当たったところで打ち所が悪くなけりゃ死なねえよ」
「そ、そんなの・・・」
「むちゃくちゃじゃん・・・」
「てめぇらに言われたかねえなぁ? うるさい奴らめ・・・、
今のうちにまた喋れなくしてやる! トリィ・クシオン!」
「「ぁぁあああっ!」」
横から声をかけられた男性は、守くんから意識を逸らし
二人にあの時と同じ電撃の魔法を浴びせます
殺傷力はない魔法ですが、それによって飛び出した悲痛な叫び声を聞いた守くんは
二人が何をされているのか気付きました
(あぁっ・・・! ま、また二人にあの魔法を・・・!
そ、そうだ、今はあの人たちを助けるために戦ってるんだ、
魔法を使えないなんて言ってる場合じゃない・・・!)
電撃を浴びせられて苦しむ二人を見た守くんは、
こんどは明確に戦う決意を固めます
そして立ち上がると、大きな声で男性を制止しました
「や、やめて!」
「あん? ちっ、うっかり遊びすぎたか・・・、
まあいい、もう一回痛めつけてやるよ! ヴィグァ・ハイト!」
守くんが動けるようになったと気付いた男性は
間髪入れずに回避させる目的で魔法を放ちます
それに対し、守くんは身構えますが、
今度は飛び上がろうとしませんでした
(人に当てたら大変だけど・・・、女神様に貰った素質なんだ、
当てないことも、人以外に当てることだってできるかもしれない!)
「女神様、どうか・・・! ヴィグァ・ハイト!」
守くんが祈るような気持ちで放った魔法は、
相手の魔法とぶつかり合います
そして一方的に消し飛ばしてしまうと、
そのまま男性の側を勢いよく通り抜けました
「な・・・、なにぃ・・・!? 俺の魔法に魔法をぶつけたってぇのか・・・!?
しかもこっちの魔法だけ吹き飛ばしやがった・・・!」
「で・・・、できた・・・! 良かった・・・」
自分が放った魔法を相手の魔法にだけ命中させ、
相手には当てないという狙い通りのことができ、守くんは安堵します
反対に、魔法に魔法をぶつけられるという事態があり得ないのか、
男性は驚きを隠せないようでした
「もっと上の階級の奴ならともかくこいつがそんなこと出来るわけ・・・、
しかし偶然にしちゃ・・・、ええい! ヴィグァ・ハイト!」
「ま、また来た! ヴィグァ・ハイト!」
先ほどの出来事が偶然かどうか確かめるように男性が魔法を放ち、
守くんも慌ててそれに合わせます
すると、やはり魔法同士が激突し、守くんの魔法が押し勝ち
相手の顔の側を通り抜けました
「ぬおっ! ぐ、偶然じゃねえのか・・・!? くそっ!」
(良かった、さっきのは偶然じゃなかったんだ・・・、
でも、これあと何回できるか分かんない・・・、ここからどうすれば・・・)
二度も同じことが起こり、たまたま魔法がぶつかったわけではないと
お互いに確信します
ですが、守くんの方は休息が不十分のためか
思ったより魔力が回復していないようでした
このまま撃ち合っていたら魔力がきれてしまう、
そう考えていたところ・・・
「お、おい・・・、ちょっと待て・・・、
元はと言えばこいつらが魔石を何人もの奴らから
だまし取っていたのが悪いんだ・・・!」
「・・・?」
「だからだな・・・、俺はあくまでもこいつらを捕まえて
しかるべきところへ連れて行くつもりでだな・・・、
これ以上それを妨げようっていうならお前も・・・」
旗色が悪いと判断したらしく、男性は自分の行動が
あくまでも正当なものであると言い始めます
無論、横で聞いていた二人が納得できるはずもなく、
すぐさま口をはさみました
「ふ、ふざけんじゃないわよ・・・!
あんた絶対、そんなつもりなかったっしょ・・・!」
「おおかた、ウチらを手籠めにして、
大っぴらに言えないことしようとか、考えてたんでしょ・・・!?」
「て、てめぇらは黙ってろ! まったく口の減らねぇ・・・!
と、ともかくだな、俺はこいつらをちゃんと捕まえるつもりで拘束したわけなんだよ」
「で、でも・・・、この人たちを処分するって言ってたじゃないですか・・・!
そ、それにさっきも魔法で攻撃してたし・・・、今だってすごく苦しそうで・・・」
「はあ・・・!? あ、ば、バカ、処分ってのはそういう意味じゃねえ!
だいたいこの魔法は攻撃用のものじゃなくて捕獲用だ!
こんなもん何回受けたところで怪我なんてしねえよ!」
「そ、そうなんですか・・・? 僕はてっきりあなたがこの人たちに
とても危ないことをするんだと・・・」
お世辞にも上手いとは言えない男性の言い訳ですが、
それでも事の発端が二人ということもあってか
守くんは段々と言いくるめられてしまいます
ですが、ディアさんとエミリーさんはそれに納得がいくはずもなく、
抗議を続けました
「ちょ、ちょっと・・・! 騙されないでよ・・・!」
「こいつ絶対、ウチらをまっとうに捕まえようとか、
これっぽっちも考えてなかったんだから・・・!」
「~~~! あ~もう、わ、分かった!
とりあえずこいつらの処分は止めてやる!
ただし俺から騙し取った分の魔石を、金を全部きっちり返したらな!」
「ちっ、あ、あんな端金で偉そうに・・・!
だいたい騙したも何も、ちゃんとあたしらの取り分だって形で本部には・・・」
「・・・ディア、ここは大人しく引き下がった方がいいよ・・・、
ウチらも潔白ってわけじゃないしさ・・・」
「・・・分かったわよ、手持ちであるわけじゃないから
後であんたの方に送っておくわ、それで文句ないっしょ?」
「い、いいだろう・・・! いいか、魔石20個分だぞ?
きっちり耳揃えて返せよ?」
「ちょっと、小さいの10個分でしょうが・・・!
なに増やしてんのよ・・・!」
「慰謝料みてえなもんだよ! ちゃんと送られて来なかったら
取り立てに来るからな!?」
「あっ、待っ・・・!」
吐き捨てるようにお金の要求額を言い渡すと、
男性はそそくさと逃げ帰るようにその場を去っていきます
ディアさんとエミリーさんは納得がいっていない様子でしたが、
追いかけようにもまだきちんと歩けないのか
ふらふらと立ち上がるのがやっとでした
「あ~・・・、もうっ! あんな男に声かけるんじゃなかった・・・!」
「いちいち腹立ててたらきりないわよ・・・、
あんなの今までにも結構いたでしょう・・・?」
「だけど悔しいじゃないの・・・! また目標が遠のいちゃうし・・・!」
「あ、あの・・・」
ぷりぷりと怒るディアさんとそれを落ち着かせるエミリーさんに対し、
身体の具合が気になるのか守くんは心配そうに声を掛けます
しかし、二人はなにやら不満そうな表情で言葉を返しました
「なに? あんたも金返せって言いたいわけ?
生憎と手持ちにはないわよ」
「あの魔石もとっくに提出してるし、
即日換金は安く買いたたかれるから嫌いなんだもん、仕方ないでしょ?」
「いえ、そうじゃなくて・・・、お二人とも、体は大丈夫なんですか?
さっきから2回も魔法を・・・」
「大丈夫も何も・・・、さっきの聞いてたでしょ?
怪我とかしてないし、体だってもう少ししたら動くようになるわよ」
「本当にそうなんですね、良かった・・・」
二人の無事が分かり、守くんはようやく安堵します
睨みつけるようにそれを見ていたディアさんとエミリーさんですが、
今度は訝しむ表情をしながら質問を投げかけてきました
「一体なんなのよあんた・・・、結局何が目的だったわけ?
あたしらをかばって、あんな男と戦って、お金もいらないとか言い出すし、
いったい何がしたいの?」
「まさかウチらの身体が目当てとか言うんじゃないでしょうね・・・?
またおっぱい見せたり触らせてもらったりくらいは考えてるんじゃ・・・」
「そ、そんなこと考えてませんよ・・・!」
「身体もお金もいらないとか言うの? 嘘でしょ?
・・・はぁ、嘘じゃないっぽいし訳分かんないし、なんかもうどうでも良くなっちゃった」
「考えるだけ無駄ってことね・・・、まあいいや、とりあえず助けてくれてありがと、
ついでと言っちゃなんだけど、ちょっと歩きづらいから肩貸してもらえない?
すぐそこの建物までだからさ」
「はい、分かりました」
守くんの言葉に納得はできてない様子の二人でしたが、
質問を切り上げると慎重に立ち上がります
そして守くんの肩へ手をやりますが、身長差のせいで
肩を貸して貰うというより松葉杖として使っているような恰好でした
「肩貸してもらったけどあんま変わんないね・・・、
まあ大して歩かないからいっか」
「どうもすみません・・・、ところで、ここがお家なんですか?」
「寝泊まりはしてるけど家じゃないわ、
ここはねぇ・・・、ウチらの仕事場、
そんでもって大人の遊び場ってやつよ」
「大人の・・・、遊び場・・・?」
守くんは、二人に寄り添われる形で
ちょっと危ない場所へ足を踏み入れてしまうようです・・・