『_______レディィィーース、アンドジェントルメェェェーーンッ!!昂ってるかいボーイズアンドガァールズッ!ぶち上がってこうぜ老若男女ォォォーーッ!!』
電子板に映る男が煽る。
瞬間、爆発のような歓声が大気を揺らす。数十倍の倍率を超え、その場に居合わせるという幸運を掴み取った民衆。
彼らは揃って拳を突き上げ、血走った目を見開き、潰れんばかりに喉を震わせる。男も女も大人も子供も、それぞれが最大限を持って狂気の咆哮を鳴り響かせ、彼らを讃える。
『ヒュゥゥ〜〜ッ!!最高だぜお前らァァァーーっ!!だけどそりゃそうだよなぁ!!お前らの気持ちは痛いほど分かるぜぇ、俺ちゃんだって震えが止まんねぇぇーーっ!!』
怒号のような叫び声の中でも、男の声は良く響いた。
この
それもそのはずだ。今この場所で起こるのは、誰もが待ちに待った新人戦。久方ぶりに行われるそれは、この街を守る新たな
『みんな覚えてるよなぁ!?30年前、突然この街に化け物が現れたあの日っ!!忘れようったって忘れられねぇ、地獄の幕開けだ!!』
男の言葉に、観客は静まり返る。先程まで狂ったように叫んでいた彼らが、布の擦れる音さえ響かせない様子は異様なもので。同時に、それだけ30年前の地獄を鮮明に知っていることの現れだった。
『だがよぉ、同時に俺たちは知ってるよなぁ!?あの日、街を守ってくれたのは誰だ!?』
『仮面ライダー!!』
『クソッタレのエネミー共をぶっ飛ばして、命を救ってくれたのは誰だァ!?』
『仮面ライダーッ!!!』
『俺たちをいつまでも熱狂させてくれるっ!!最っ高の
『仮面ライダーァァァァァァァァァァァァーーッ!!!』
男のレスポンス要求に答えて、はち切れんばかりの声で叫ぶ。空気振動だけでモニターを破壊せんばかりの声量は、それだけ彼らが抱く感情が大きいことの証左だった。
そうだ、誰も忘れない。
あの日、あの地獄で。
親も、兄弟も、友も、愛する人も、誰もが平等に死を感じたあの時に。
自分達を助け出してくれた、仮面の戦士。
『さぁ、熱気は最高潮だ!!そろそろ主役の登場と行こうぜお前らァァァーーっ!!』
そして今日。この熱狂入り交じる中央アリーナのメインステージにて、また伝説は刻まれる。
これは続きであり始まり。
これから起こる野望、陰謀。それら全てに終止符を打つために生まれる運命。
『______
_____さぁ、
☆☆★
「…………本当に大丈夫かい?」
人の良さそうな声が、仮面越しに鼓膜を揺らす。
振り向いてみれば、こちらを心配そうに覗く影が一つ。
「おやっさん、心配し過ぎッスよ!別に死ぬわけでもねーんだし」
「それは、そうだが………」
白髪の混ざった斑な頭髪が目立つ、小太りな初老の男性。煤汚れの目立つ白衣を着たこの人は、行き場のなかった自分を拾ってくれた恩人だ。
今自分が学校に通えるのも、道を間違えることなく生きているのも。あの時に、この人が手を差し伸べてくれたから。
だから心配するなと笑ってみせる。貴方が作った
…………仮面付けてるから、笑っても分からんだろうけども。
「………済まない。私にもっと技術や資金があれば、短期間でもいくつか武器を用意してあげられたのに………」
「いやー、俺不器用だから沢山あっても困っちまいますって!この………槍?薙刀?がありゃ充分!」
「………一応、モチーフは青龍刀なんだ、それ」
黒い龍が描かれた長い柄に、鈍く輝く反りのある刃剣。おおよそ自分の身長を超えるほどの長さを誇るその武器を軽く回しながら、そーだっけ?と笑う。
「まぁ急に決まったんすから、しゃーないっスよ!」
そんな自分の言葉に、恩人は曖昧に笑う。心配しなくていいという気持ちが伝わったのだろうか。少しは肩の力が抜けたみたいだが、それでも心配そうな様子に変わりはなかった。
まぁ、それもそうだろう。
なにせ自分は今日がデビュー戦。同じチームの先輩達と手合わせをしていた程度で、実戦に値するものは初めてだ。
しかも武器も一種のみ、挙句の果てには対戦相手はデビュー前から大々的に宣伝されていた注目株。まぁ観客の大半も、見たいのは自分じゃなくて相手の方だろう。
「にしてもなんだかなぁ。おやっさん事前予想見ました?向こうが勝つって思ってるのが97%って、いくら何でもヤバくないっすか?俺、3%っすよ、3%」
「ははは………向こうのチームはマスカレイドアリーナが始まって以来トップに君臨してるからねぇ。対してウチは序列4位………最下位な訳だし、ある意味当然だよ」
試合前にインターネットで行われていた事前予想アンケートの結果を引き合いに出して、ブーブーと文句を垂れる。
今日の対戦相手は4チームあるライダーバトルチームの中でも1位に君臨する最強チーム、対してこっちは最下位の4位。
資金面でも特訓環境面でも大きく劣るのが正直な所だ。そりゃ観客の期待は向こうに向くよな、とも思う。
「まぁ、結局のところは街の人たちを守れれば良いからね。
「そりゃもちろん!エネミーとの戦いが一番ってのは承知してっけどさ。男なら、勝負は勝ちたいもんじゃん!」
あくまで自分達の仕事は、化け物から街の人たちを守る事。ライダーバトルはあくまで娯楽、宣伝のようなものだ。ここに本腰を入れ過ぎて、街の人を守る時に力を発揮出来ないなんてあってはならない。
だがそれでも。勝負と聞けば勝ちたくなるのが男という生き物だ。
「そろそろ入場です!ライダーの方は前にお進み下さい!」
「おっ、やっと来たか!んじゃおやっさん、いってくるわー!」
「気を付けてな、怪我だけはしないようにな!」
おー!と気のない返事を返しながら、案内員の指示に従って通路を真っ直ぐ進んでいく。
よく整備され、ホコリのひとつも落ちていない道。1歩、また1歩と足を動かせば、段々と光が見えてきた。
間違える訳もなく、中央アリーナのメインステージへの入口。今日の戦いの舞台であり、自分が初めて《仮面ライダー》として振る舞う場所。
「………初めて戦うのがライダーってのは、なーんか変な気分だけど………でも、勝負ってんなら本気だ」
あの人に拾われなければ、こんな道に進むなんて選択肢すら浮かんでこなかっただろう。それでも、自分は今ここに立っている。
正直な話、ライダーバトルというものに気は進まない。自分は誰かを守るためにライダーになったのだ、それがライダー同士で戦って、挙句それを見世物にする。変な話だと思う。
だけど、勝負から逃げるのは性分に合わない。それにこれで勝てば、少なからず恩人に報いることにもつながるだろう。
一つ息を吐いて、ヨシっと呟く。
そして光溢れる場所へ、一歩を踏み出し______
『さぁ、来たぜ来たぜ来たぜお前らァァァーーっ!!ウエストゲートより入場ッ!!本日デビューの新人の一人が、俺ちゃんたちの前に現れてくれたァァァァァァァ!!!』
_______音が爆発した。
不思議と耳に残る声音の司会が叫べば、それに伴って観客が叫ぶ。
多数のスポットの光が、ありとあらゆる人々の視線が、意識が、全て自分に向いている。
新たなるライダーへの期待、興味、好奇、希望。全ての環状が音と共に爆弾へと変貌し、自分の心中で化学反応を起こす。
心臓が破裂しそうな勢いでポンプする。血が巡るのに血の気が引く。自分に向けられた剥き出しの感情に、呼吸が浅くなり、震えが止まらない。
思わず一歩後ずさりそうになった時、司会の声が耳をつんざいた。
『黒く鈍い中華甲冑に身を包みこんだ黒色ライダーっ!!片手に黒龍刀・ショウキを携えて、銀に輝く鬼神の如き手甲と脚甲ッ!!くぅ〜〜、こりゃ男にはたぁまんねぇなぁ!?期待が持てそうだぜ、俺好みィーッ!!』
………そうだ。
自分は今、おやっさんの作ってくれたライダーシステムで、ライダーになっているんだ。
誰かを守るために、この姿になったんだ。
「_____情けねぇとこは、見せらんねぇ」
瞬間、駆け出す。
司会の驚く声と、微かなざわめきが耳に入る。
だが止まらず。脚に力を溜め、勢いそのままに跳躍。人体では有り得ない勢いで宙を裂き、黒い流れ星のように数メートル飛び上がった。
軽く跳んでコレかよ。マジで桁違いだ。
あまりの勢いに若干後悔しながらも、ここで失敗したら笑いものだ。
勢いそのままに、ステージ中央にダイブ。
両足をついて着地。ドンッ!という衝突音が響き渡る。衝撃が帰ってくるが、その殆どを打ち消してくれた。おやっさんの技術力に感謝しながら、ゆっくりと立ち上がる。
観客達の視線が、自分に釘付けになっている。
それを見て、小さく笑う。
手に持った黒龍刀を端っこギリギリに持ち、勢いよく1回ぶん回した。
突風が吹き荒れ、観客たちの頬を撫でる。
いきなりの事にポカンとしていた観客達だったが、ゆっくりとステージの男が何をしたのかを理解し、目を見開き______
_____最初の数倍の歓声が、注がれた。
『ヒィヤッホォォォォォ!!!マジかよ新人!!お前エンターテインメント分かってんなぁ!!?肝っ玉何で出来てんだコノヤローーーッ!!』
司会の声に同調するように、観客の歓声も勢いを増す。
自分の度胸を見せつけるように、わざとらしく派手にステージに上がって見せた。そんな事をしだす新人ライダーに、観客が興奮しないわけはなかった。
『さぁ、改めてこの最高の登場をして見せた新人の紹介だ!!前年度マスカレイドアリーナ序列4位、泰山カンパニー所属っ!!怖いもの知らずのこの黒武者の名前はッ!!』
司会の男が興奮を隠さず叫ぶ。たった今、観客を魅了したパフォーマー。
この後始まる物語の始まりを担う男。
彼の名前は、【
またの名を______
『______仮面ライダーゾゥハァァァァァァーーッ!!』