「…………で、ルーラーのこと思い出してたらむかっ腹が立って反射的に身体が動いたと」
「反省はしている。だがあのくそ白騎士モドキ野郎の噛ませと言われてキレたのは後悔していない」
「市民の胸ぐら掴んだことに後悔しろやボゲッ!」
ベギッ、という良い音と共に鋭い一撃が側頭部を打ち据える。
通常友人にやるにしては些か気合の入りすぎた拳撃な気がしなくもないが、彼は知っている。
無駄にデカい恵体を持つこの友人、
「いってぇなゴラッ!?」
ほら言った。やはりゴリラである。
「も〜っ!事務所着いたのに喧嘩しないで下さいよ!はい、麦茶!!」
互いの頬を掴んで捻り合う、そんなゴリラとその友の掛け合いを見て小さく頬を膨らませてぷりぷりと怒っている少女が一人。お盆片手に手際よく冷たいお茶を人数分用意するその姿は、まだ歳若いにも関わらずなんだか不思議と似合っていた。
「うぇーい麦茶。サンキュ
「おっ、あんがとな」
「どういたしまして!あと
先程までそこの男子二人と共に外に居たにもかかわらず、気を使って飲み物を持ってきてくれた少女に感謝を述べる。ただしゴリラの方は、彼女の名前に『助』を付け足したことを怒られていたが。おおよそ可愛らしい少女に付けるもんでは無いと思うのだが、脊髄反射で口が動いているのだから仕方ない。
学生特有のハツラツさというか、若者故の有り余った元気と言うべきか。
女三人寄れば姦しいとはよく言うが、学生三人寄れば最早喧騒の域である。主に一番でかいゴリラこと
「あ〜?
「名前に助付けられて喜ぶ女子のが少ねーだろ。
「そーだそーだ!」
「しゃぁねぇなぁ〜…………悪かった、これから宜しくな!彩奈蔵!」
「反省してない!絶対反省してない
独自の感性というよりはその場のノリで口を動かしている
少女もそれに同調しながら文句を言うので、さもわざとらしい様子で面倒くさそうにして見せると、助が蔵に変わるだけというなんの意味もない変更を提示。
案の定、少女はブンブンと両手の拳を上下に振って抵抗の意志を表明した。
「んだよ、ワガママだなぁ」
「ぜっっっったいワガママじゃないよコレ、ボク絶対間違ってないもん」
「しゃあねぇ、別のを考えてやる。ちょっと待っててくれや」
「素直に
どう考えてもこのゴリラが悪いと言うのに、なぜ自分がワガママ扱いされなければならないのか。理不尽を感じる少女だったが、彼女は知っている。このゴリラ、こうやって人をからかっているだけなのだと。というかその場のノリで口を動かしているので計画性もクソもないという事を。
んー、と考え込む
「んじゃ彩奈吉」
「だからヤダって!」
「そんなら彩奈之進」
「もっと男っぽいじゃん!やだよぉ!」
「こうなりゃ彩奈丸!」
「あ、ちょっと可愛………くない!ボクの感性がおかしくなってるだけだコレ!!」
「奥の手だ、彩奈平!!」
「だれがペッタンコだァ!!!」
「そうと決まれば彩奈納言!!………!サナゴン!!!」
「コレだ!!みたいな顔しないでよ!!もうやだよぉボクの方がライダー歴だと先輩なのにぃ〜〜〜!!」
わっ、と机に突っ伏して半べそをかく少女を見て「悪ぃ悪ぃ」、と軽く謝る
隣に座る少年が思わずため息をつくが、じゃれ合いの範疇だろう。流石に一つ年下の女の子を本気で泣かせるほど
「なんだよサナゴンも不満なのかサナゴン」
「もう定着させようとしてるし!絶対やだからね!!」
「よし分かった。こうなったら秘奥義、サナゴン丸ッ!!」
「もはや漁船じゃん!!!」
…………薄情では無いはずだ。
からかいを含んだような笑みを浮かべる大柄の少年に向かって、小柄な少女が頬を膨らませて涙を浮かべながら『むーっ!』と不満を露わにする。それを傍らで呆れたように見つめる人の良さそうな少年という、言うなれば何処にでもありそうな親しい雰囲気。
この日本を探せば、彼らのような3人組はそれなりに見つかるだろう。事実彼らは、普通の日本の高校生だ。
ただし、たった一つだけ。彼らを普通から遠ざける現実が、そこにはある。
日本中探してもこの賽目市にしか有り得ない事柄。
本来無縁のはずの生命のやり取り、日常と隣り合わせの非日常。
普段の彼らを覆い隠す、仮面の秘密。
「______はどうかな?」
「
「………?おい、来たぞ」
ふと耳に届いた微かな声音を聞いて、少年がじゃれている2人に声を掛ける。
互いに互いの頬を引っ張り合って変顔を覗かせていた
ガチャり、と扉が開かれる。
「…………あぁ、三人とも。随分待たせてしまったね」
先ず顔を覗かせたのは、人の良さそうな初老の男性。白髪の混ざった斑模様の頭髪に煤汚れの目立つ白衣が特徴的な小太りのその人は、つい先日の
「おーっす、おやっさん!遅かったな!」
「馬鹿。お前が来るのが遅かったから、待ってる間に突然の連絡が来て対応してたんだよ。………どもっす、社長」
「ははは、ありがとう
お気楽そうに手を振ってそう述べる
親しみやすい人といえども、この初老の男性は自分たちの雇い主。様々な面で世話になっている恩人だ。
親しき仲にも礼儀あり、そう表現するかの如くぺこりと頭を下げた少年だったが、小太りの老人は人の良さそうな笑みを浮かべて構わないと口にする。既に60近い老人にとって、彼らのような若々しさは見ていて楽しいのかもしれない。
「ところで、随分騒いでいたけど………何かあったかい?」
「あぁ、それは…………」
キョロキョロと軽く部屋を見渡しながら、老人が首を傾げる。
部屋の外まで聞こえていたらしい、
「______
老人の後ろからゆったりと響く男性の声音。
確かに成人した男の声なのだが、何処と無く軽さを感じる。
しかし軽薄そう、とはまた違う。ただただ軽く、重みがない………フワフワと宙に浮いている様な、掴みどころのない、そんな声。
黒髪の両側がピョンッと跳ねた、独特の髪型。デニムの作業着に身を包んで右肩に荷物を背負ったその男性は、何処かのんびりとした様子で部屋に足を踏み入れた。
「!
「やっほ〜
福さん、と呼ばれた男性は、ヘラヘラっとした笑みを浮かべながら軽く手を振って少年に返答。
どうやら
「それで、さっきの騒ぎは____」
「うえええええんっ!!師匠ぉぉぉぉぉ〜〜〜ッ!!」
「_____っと、わわわっ。どうどう
老人と同様、この男性も先程の騒ぎが気になった様で何があったのかと尋ねようとしたその時。
ピョイーンッ、と効果音が響きそうな勢いで男性の胸元へと飛び込む影が一つ。先程から
合図もなしに飛び込んできた少女だったが、男性は荷物を落とさないように落ち着いて小柄な乱入者を抱きとめる。
師匠師匠と口にしながらグリグリと頭を押し付ける子犬のような少女に、苦笑を浮かべながら落ち着くように促す。
「だぁってぇ〜〜〜…………!」
「あーらら。
「いやいや
「あはは、もはや漁船だねぇ」
不満アリアリといった様子でプクッと頬を膨らませる少女を見て、したり顔で
からかったのではなくスキンシップだと主張する
先程まで騒いでいた3人組、全員を下の名前で呼んでいる辺り、かなり親しい間柄らしかった。
「はいはい、全員落ち着く。あまり長引かせるのもアレだし、早いところ始めようか」
「うぃー」
「ラジャっす」
「はーい!」
「了解でーす」
老人が数度手を叩いて全員に呼び掛けると、それぞれが返事しながら自らの椅子に腰掛ける。
といっても席を立っていたのは先程飛び込んできた少女と戻ってきたばかりの男性のみ。落ち着いた様子の少年は勿論、先程から騒ぎまくっていた
_______改めて紹介しよう。
ここは【泰山カンパニー】。
賽目市に籍を置く中小規模の一企業。社員数こそ少ないものの、精密かつ丁寧な部品を世に送り出している。
ただそれだけ。何処にでもありそうなごく普通の会社だ。
一つだけ特徴をあげるとするのなら、こうだろう。
「これより泰山カンパニー社長『
この賽目市に四社しか存在しない、仮面ライダー変身者所属認可企業。
つまりこの会社は。
マスカレイドアリーナ序列4位に座する泰山カンパニーは。
「______仮面ライダーゾゥハの加入式を、執り行う」
この街の
☆☆★
「と言っても、仰々しいこと何もしないんだけどねぇ」
「しねぇのかよッ!!」
のっほほ〜んとした緩い声であっはっは、と笑う小太りの老人こと
「どうしたんだい
「いや、だっ、おやっさ、その…………今の流れでそんなのっほほ〜んと始まるぅ!?」
「始まるんだなぁこれが」
のんびりとした様子で後ろ手に頭を搔く
そんな彼の反応を予測していたのか、はたまたこの肩透かしを知っていたのか。
「形式としてこれ言わなきゃいけないだけで、終始このノリで行くのは辛いんだよ。許しておくれ
「諦めろ
「ボクも去年やりました〜」
「いやぁ、何回見ても飽きないねぇ〜、コレやられた時の新人の反応って」
どうやらこれは泰山カンパニーの通過儀礼のようなものらしい。新人の時に同じ反応をしたと少年が頷けば、同様だと少女が笑い。一番経験が長そうな男性は、今年も面白いものが見れたとケラケラ笑っていた。
「んっだよぉ〜、えらく真面目な雰囲気だったから肩肘張って損したぜ………」
「ははは、何か新しい書類に印鑑押したりするのを想像してたのかな?」
「いや、こう………ナイフで指ピッてして血で指紋をドーンッ!みたいな契約を…………」
「まさかの血判覚悟とは恐れ入ったなぁ」
現代日本で血判をするような契約がまだ残っているかはさておいて、それほどの気合を入れてきたと胸を張る
「さて、と。それじゃあ改めまして、自己紹介といこうか」
「んぇ?もう俺全員知ってっから平気だけど?」
「心機一転という意味も込めて、もう一回ね。改めて、泰山カンパニーの社長を務めている『
ぺこりと頭を下げながら小さく笑った小太りの老人こと、泰山カンパニーのトップを務める
丁寧ながら砕けた様子で接してくれるのでここにいるメンバー含めた社員全員と仲の良い、できた人である。
「それじゃあ、デビュー順でいこっか。僕は福岾。『
「うっす!改めて宜しくな福さん!」
にへらっと笑いながら、ピースサインを
この場にいる面々の中では、年齢もライダー歴も頭一つほど抜けている福岾だが、どうにも少々ふらついた性格らしかった。
「デビュー順ってことは………三谷の前に俺か。まっ、知ってっと思うけど『
「おう、頼りにしてっぞシスコン」
「あいよ。あと一言言っとくが俺はシスコンじゃない。妹達が大天使過ぎるので悪い虫が近寄らないよう守るのに尽力しているだけの一般お兄ちゃんだ、良いな?」
「アッハイ」
3人組でツッコミに回ることが多い少年こと
………そして同時に過保護の抜けきらないシスコンでもある。
「え、えーっと………じゃあボクも自己紹介しますね!ご存知の通り、
「おーう、よろしくなサナゴン丸!」
「だぁかぁらぁ〜〜っ!!ライダー歴だとボク先輩なの!!ちょっとは敬ってくれてもいいじゃん!!」
「ッス!よろしくお願いしまっス!サナゴン丸パイセンまじリスペクトッス!…………あ、ゴン丸先輩とかどうだ?」
「もう原型ないッ!!!うえぇ〜〜師匠ぉぉぉお〜〜〜〜!!」
「はーいどうどう。よーしよし
薄い胸を張ってちょっと誇らしげに自己紹介を述べたのは、先程から弄られ役になっている唯一の女子メンバーの
とは言っても、等身大の少女らしい
「_______んじゃ、最後に俺だな!大トリかますぜ!」
「おーおー、やったれやったれ」
師匠の胸に飛び込みながら半泣き状態で睨みをきかせる
真っ直ぐ、一切のブレなく目の前の4名に視線を注ぎ、改めて自らの名を告げた。
「辺田高校2年D組!『
「いや、自分で言うのかよそのあだ名」
「こっから始めっからいいんだよ!」
にっひひ、と笑って胸を叩く。
確かにデビュー戦は散々だったろう。過去に類を見ないレベルの瞬殺、アレでは市民を安心させられるかも怪しい。
だがそれでも良い。ここから始めて認めて貰えれば。
「ぶっちゃけまだ右も左も分かんねぇけど、やる事は変わらねぇ!この街も、人も、何もかも!全部ひっくるめて俺らが守る!そんだけだ!」
まだ弱い。それでもいい。彼の中の理想が、成すべきことが変わることは無いのだから。
それは産声。新たなる護り手の誕生。投げ出された黒色の
どんな目が出るのかはまだ分からない。
全てを守り切るトップライダーを生み出す
数多の困難が降り注がれる茨の道へ誘う
だがしかし。出目に左右されない1つの真実。
「_______これから、よろしく頼んますっ!!」
彼の
「だけどルーラーのクソ野郎はぶん殴ぅる!!」
「社間問題になるからやめて?」
……………僅かもブレていないッ!!
「…………あ、そうだ
「おぉっ!!俺のライダーセット!!」
ガシャン、と
そこに置いてあったのは、仮面ライダーへと転身することを可能とする秘蔵のアイテム。これから活動する上で、無くてはならない代物達。
昨日ぶりに対面した自分用の機器に
「あぁ、それとね
「いや〜やっぱ黒がイカすよな、ちょっと朱色が入ってんのが俺のセンス溢れるというかって………ん?なんだおやっさん?」
「君、暫くは変身禁止ね」
「…………………………え゛?」
投稿日から明後日の11/16(火)の21:00に、活動報告にて現状の確定採用者組、及び空き枠のお知らせを致します。