才能とはなんだろう?
いや、少々言葉が足りないか。
正確には、ウマ娘にとっての才能とは、いったい何なのだろうか?
速く走れることか? 長く走り続けれることか? 戦況を見通せることか? どんな時でも諦めない根性か?
それとも――
――――走ることを楽しめることだろうか?
◇◇◇
「……えっと、シャーペンの芯に消しゴム、ノートも減ってきたっけ」
買う必要のあるものを数えながら、私は商店街を歩いていた。
今は夕方、放課後の時間帯だ。
トレーニングが無いのであろうウマ娘たちが、はちみーだのコロッケだの言いながら私の横を通り過ぎていく。
……友達と放課後に、街に遊びに繰り出す。
一度は経験してみたいけれど、そのような友達のいない私には無縁のことだ。
「……別に悲しくなんてないし。私は遊んでいるような暇なんてないし。だから、だから、だから……羨ましく、なんて……」
何度目かのため息が口から洩れる。
こういう時、ルームメイトがいれば話は速いのだろうが、残念ながら人数の関係でルームメイトがいない。
そもそもいたとしても誘えるとも思えないが。
じゃあライスさんやテイオーさん、なんならメジロの三人がいるのだが、ライスさんはともかくテイオーさんは友達と呼んでいいのか分からないし、メジロの三人に関しては引け目があり過ぎる。
そもそも、あの五人なら自分よりも仲の良い友人など沢山いるだろう。
わざわざこんな、パッとしない上に一緒にいても楽しくない自分より、他の人の方が楽しいに決まっている。
あの五人は、知り合い贔屓があるにしても美形すぎるのだ。
ライスさんは普段とレース時のギャップで生徒の中にもファンがいるようだし、テイオーさんは天真爛漫な性格から多くの生徒と交流を持ってる。
メジロの三人は言わずもがなと言うべきか、それぞれファンクラブが存在するとかしないとか。
……私、メジロ家だからという理由でファンクラブの人達から刺されたりしないのだろうか? 心配だ。
「御店主さん、お会計をお願いします」
「はいよ! あんたも、おばちゃんで良いって言ってるのにねぇ」
「御店主さんは、御店主さんですから」
行きつけの商店街の店で必要な物を買い、さっさと学園に戻って少しでもトレーニングをしようと思っていると、商店街の一角がやけに賑わっているのに気付いた。
福引でもやってるのだろうか?
好奇心に駆られて近づいてみると、どうもイベント事ではないらしい。
何故かって?
そりゃ賑わっている中心に、一人のウマ娘がいるからだ。
小柄な体躯にピンク色の髪。
そして、テイオーさんとはまた種類の違う天真爛漫な笑み。
彼女の名はハルウララ。
ダートのレースを走る娘で、選抜レースや模擬レースでの成績は悪い。
だけども、私よりも実力はあるようですでにトレーナーが付いているらしい。
そんな彼女は、商店街で買い物をしていたご高齢の方々と話をしていた。
身振り手振りに無邪気な笑い。
ご高齢の方々からすれば、孫のように思えるのかたまにお菓子をあげたりしていた。
……彼女のように笑えば、私にも友達は出来るのだろうか。
いや、無理だな。あんな風に笑える気がしない。
そうやってボーッとしているところを見つかったのだろう。
ご高齢の方々と少し話すと、ハルウララさんがこちらに駆け寄ってきた。
「うららっ♪ クラウディちゃん、こんにちは!」
「……ええ。どうも」
「あれ? 今ってこんにちはでいいのかな? それともこんばんはの方がいいのかな?」
「さぁ、どっちでもいいじゃないですか?」
「そっかぁ!」
話しかけてきた彼女に、私はつい素っ気なく返してしまう。
今の会話から分かるように、私は彼女と面識がある。
彼女はどうもライスさんと友人らしいのだ。
前にライスさんとばったり会った際、ライスさんがハルウララさんと話していたのだ。
所謂、友人の友人だ。だからそんな親しいわけでもない。
「クラウディちゃんはどうしたの?」
「私は、必要な物を買いに来たんです」
そう言って手に提げていた袋を見せる。
それで話は終わる。
なんだか気まずくなって、慌てて今日偶々耳にした話題を振る。
「そ、そういえば、今日模擬レースがあったみたいですね。どうでしたか?」
言ってから、しまったと思った。
結果は知らないが、彼女は戦績があまりよろしくない。
不快な思いをさせていないかと、それとなく顔色を伺うが、予想と反してハルウララさんは笑顔のままだった。
「今日のレース? うん! とっても楽しかったんだ!」
「……ッ」
レースの成績的な意味で聞いたのだが、どうも彼女は、気分的なことに受け取ったようだ。
気分を害していないことに安堵しつつ、私の胸中に苦いものが広がる。
ほとんどのウマ娘がレースで勝つことを目標とする中、ハルウララは勝っても負けてもレースを楽しむという娘だ。
……なんともまあ、贅沢な考え方で、私は彼女が羨ましい。
才能がない、勝てない私は誰も見てくれないのに、なぜ彼女は振り向いてもらえるの?
彼女と私は何が違うの?
「そう、ですか……。楽しかった、ですか……」
「うん! やっぱり楽しいのが一番だよね!」
「……ッ!」
レースが、楽しい……?
なにが、楽しいなんて……ッ!
「おーい! うららちゃーん!」
「お肉屋さん! どうしたの?」
「おう、模擬レースだったか?
「うわー! 美味しそうなコロッケ! ありがとう! ……あれ? クラウディちゃん?」
◇◇◇
「ただいま……」
部屋に帰った私は、返事の返ってこない部屋に入る。
頭では分かっていても、こればっかりは慣習として身に染みているので仕方ない。
でも、今だけは、だれでも良かったから返してほしかった。
「はぁ……」
買ってきたものを投げ捨て、ベッドへと身を沈める。
レースを楽しいと語る彼女に耐え切れず、逃げるように帰って来た私は、身体をドッと襲う疲労で動きたくなかった。
こんなこと、今までのトレーニングでもなかったのに……。
「レースって、楽しいんだっけ……?」
知らずの内に、口からポツリと漏れる言葉に、されど誰も返してくれない。
「ああ、そうか。私は、辛いんだ。楽しいだなんて、思えなくなるほどに」
それに比べてハルウララさんはどうだろう。
彼女はレースに関して楽しいと言っているのではない。
走ることが楽しいと言っているんだ。
だから、負けても楽しかったと笑える。
私は、そんな
「やっぱり私には、才能がないんだろうな……」
ムクリと起き上がり、携帯を取り出す。
両親とメジロの関係者くらいしか登録されていない電話帳を開き、目的の電話番号を探し出す。
対して数がないので、それはすぐに見つかった。
画面に映るのは、『御当主さま』の文字。
後は、電話を掛けて、学園を退学したいという旨を伝えるだけだ。
なのに、私の指は画面を押そうとしない。
……結局、電話を掛けることを止めた私は、再びベッドに身を沈める。
これも何時ものことだ。
学園を退学しようとして、だけどそれを言い出すことが出来ない。
私の授業料や入学費を出してくれているのは、メジロ家の本家だ。
そんな状態の私が、「私は才能がないのでトレセン学園を辞めたいです」なんて言えばどうなるか。
私が何か言われるだけならいい。
だけど、もし両親に何らかの影響が出たらと思うと怖くなる。
だから私は言えない。
……違う。
それがただの言い訳だと分かっている。
結局のところ、私は才能がないことを認められないのだ。
どれだけ突きつけられようと、目の辺りにしても、”もしかしたら”と無様にも期待している。
「……もう寝よう」
まだ時間は早いが関係ない。
夕飯も食べていないからお腹は減ってるし、こういうのは良くないと知っている。
でも今日だけは、こうして不貞寝をすることを許してほしい。
存在しないチームメイトに許しを請うように、私は眠りについた。
ハルウララ
天真爛漫をウマ娘化したような娘。
成績は振るわないが、トレーナーは付いており、模擬レースなら何回か勝てる。
笑いながら地雷を踏み抜きまくるが、余裕で笑顔で生還できるほどのフィジカルとメンタルを持ってる。
でも雲ちゃんには関係ない。
雲ちゃん視点の時の地の文はどっちがいい?
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ライスシャワー回の時みたいなやつ
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トウカイテイオー回の時みたいなやつ