「今日の雨は、よく降りますわね」
校舎の廊下の窓から覗く外の風景は、季節外れの大雨が降り注いでいた。
朝から続く大雨のせいで、グラウンドが使える筈もなく、仕方なくジムの器具を使ってトレーニングしていました。
ですが中々身が入らず、トレーナーさんの判断で今日はトレーニングを取りやめることになり、しかし部屋に居てもどこか落ち着かず、こうして校舎を歩いています。
「……それにしても、今朝の夢は一体なんだったのでしょう?」
雨だからトレーニングにやる気が出ない。
そんなことは今までありませんでした。
同じような状況なら、今まで何回かありましたし。
もし他に原因を上げるとするのなら、それは今朝見た夢でしょう。
気づくと私は、暗い場所に一人で立っていていました。
周りを見てもだれもおらず、どれだけ声を上げようと返事は返って来ない。
ですがふと正面を見ると、そこにはクゥが立っていました。
私は誰かと会えたことが嬉しくて、その上クゥだったことがさらに嬉しくて、彼女を抱きしめようと手を伸ばした瞬間、どこからか流れてきた津波に、クゥは呑み込まれてしまいました。
目が覚めたのは丁度その時。
なんでそんな夢を見たのか分かる訳もなく、ただただ気味が悪かったです。
そんなものですから、とにかくクゥに会いたくなって探しているのですが、なかなか見つかりません。
「はぁ……。上手くいきませんわね」
「何が?」
「きゃぁ!?」
溜め息をついていると、背後からぬぅとテイオーが現れました。
「そんな大げさに驚かなくてもいいじゃん」
「驚きますわよ! というか、なんでここにいますの?」
「べっつにー。ボクだって、同じメジロならクラウディが良かったなー」
「そのお言葉、そっくりそのまま返しますわよ」
先日テイオーと久しぶりに話してからというもの、いつの間にかクゥと知り合っていたという彼女と、話す機会が増えました。
私がスピカを抜ける前のようにとまではいきませんが、あの一件以来、どこかよそよそしくなっていた空気が変わったことは、とても嬉しいです。
これもクゥのお蔭、でしょうか?
「それで、どうしてここに?」
「じつはさー、何かトレーニングに気分が乗らなくてさー」
「何をゴールドシップさんのようなことを」
「えー、じゃあマックイーンは何してたのさ」
「それは……トレーニングに身が入らなくて、クラウディを探していたんですの」
「マックイーンだって人のこと言えないじゃないか!」
「「…………」」
気分的に会話が続かない。
これは思っていたよりも重症だと感じた私は、クゥを探そうと歩みを再開する。
「それでは、私はこれで」
「あれ? マックイーンどこ行くの?」
「クゥ…ラウディを捜しに行くのですわ」
彼女を探しているのは、気分が上がらないからだけではありません。
昨日、クゥを見かけたのですが、その際の様子がどこかおかしかったのです。
目にはうっすらと隈が浮かび、小さな声でブツブツと何かを呟き、フラフラと歩いていて今にも倒れそうでした。
自殺でもするのではないか……冗談抜きでそう思いました。
心配になり声を掛けようとしましたが、ちょうどトレーナーさんに呼びとめられてしまい、その後で探しましたが結局見つかる事はありませんでした。
ということで、今のこの時間を使って彼女を探しているのです。
それに、なんだか嫌な予感もしていますし。
「あ、だったらボクも行く!」
「何でですの!?」
「元々ボクも探してたんだよね。クラウディのこと。最近元気なさそうだったし。それに、なんか変な夢見ちゃったしさー」
「……変な夢?」
「そ。なんかさ、真っ暗な場所にいてさ。離れた場所でクラウディが手を振ってたんだ。側に行こうとしても何でか近づけなくて、それがずっと続いてた……」
そう話すテイオーの声色は、段々と沈んでいった。
テイオーも、私と同じだったということですか。
「ま、そんなんだから、クラウディと一緒にスイーツでも食べようかなーって!」
……この人、前々から思っていましたが、クゥに対して少々馴れ馴れしすぎでは?
まさか、私のクゥを奪うつもりでしょうか。
その場合はO☆HA☆NA☆SIする必要がありますわね。
さすがのテイオーさんでも、あっさりと渡すほど優しくありませんわよ?
「おっ。メジロマックイーンにトウカイテイオーか」
テイオーと一緒にクゥを探して、それなりの時間が経った頃。
私たちは一人のウマ娘に話しかけられました。
「ヒシアマゾンさん、御無沙汰しておりますわ」
「ああ」
クゥが住んでいる寮の寮長をしてる方で、私も一度挨拶に向かったことがあります。
如何にもな姉御肌の人で、いろんな方から頼りにされているのだとか。
まあクゥの姉は私なのですが。
「それで、どうかなされましたか?」
「いや、それがよ。さっき他の奴らが、レインコートを着て外に出るウマ娘を見たっていうもんでな」
その話を耳にしたとき、私の心臓がドクンと音を立てた。
先ほどから感じていた嫌な予感が、速さを増して強くなっていく。
「この雨の中をですか? それもウマ娘が?」
「ああ。ウマ娘用のレインコートを着ていたらしいから、間違いないだろう」
「ゴールドシップとかじゃないのー?」
「聞いた話だと、そいつは
それを聞いた瞬間、私はすでに走り出していました。
やはり、昨日の時点で探しておくべきでした!
「おい!」
「えちょっ、マックイーン!?」
◇◇◇
「ハァ……。変な夢見ちゃった……」
今日は、なんだかおかしい。
ライスがそう思い始めるきっかけになったのは、おかしな夢を見てからだった。
真っ暗な怖い場所で、ライスは一人でポツンと立っていた。
震えながらその場所を歩いていると、やがて小さな光が見えた。
それに喜びながら光に向かって走ると、そこに居たのは私の大切なお友達、クラウちゃんだった。
だけどクラウちゃんは目を閉じて横になってて、その周りには青い薔薇が散乱していた。
ライスが戸惑っているとクラウちゃんの下から、赤い、紅い色が広がってきた。
その色はやがて周囲の薔薇へと届き、その花弁を紅く染めていった。
それはまるで、クラウちゃんの血を薔薇が吸い取っているようで。
そこまで考えて、咄嗟にクラウちゃんを見た。
眠るように目を閉じる彼女は、本当に死んでいるかのようで……次の瞬間には、自分の叫び声で起きていた。
同室のブロイちゃんも起こしちゃって心配された。
そんな怖い夢を見ちゃったからなのか、何をするにもやる気が起きなくて、初めてお姉さまにトレーニングをお休みさせて欲しいってお願いした。
お姉さまはとても驚いたようで、体調は大丈夫かだとか、熱は出てないかとか、いっぱい心配されちゃった。
だけど、部屋にずっといるのも良くないと思って、今はクラウちゃんを探してる。
それだけ、あの夢は怖かった。
「クラウちゃんとぎゅー! ってしたら治るかなぁ?」
それにしてもさっきから探しているんだけど、中々見つからない。
そのまま校舎をウロウロしていると、前から誰かが走ってきた。
「……マックイーンさん?」
「っ! ライスさん、ちょうど良かったですわ! あなたも来てください!」
「ふぇ!?」
走って来たのはマックイーンさんで、ライスの手を掴むとライスはそのまま引っ張られていった。
◇◇◇
昇降口に着き、急いで靴を履き替え、近くにあった貸出し用のレインコートを3着取り、ライスさんにも1着渡す。
「あ、あの……マックイーンさん、何があったんですか?」
「ライスさん、いきなりで悪いですが、手を貸してください。時間が惜しいので詳細は省きますが――――クラウディが行方不明です」
「え……!」
「おそらく、今は外にいると思われます。誘拐とかそういったものではありませんが、何か胸騒ぎの様な物を感じるんです。そうでなくても、今のクラウディは何か危険な気がします」
これが杞憂だとか考えすぎならいいが、昨日のあの娘の様子を見る限り、あながちそうとは思えない。
何かあってからでは遅い。
ライスを連れて来たのは、多少強引でも話がすぐに通じるからだ。
「分かりました。ライスも手伝います!」
私の話を信用してくれたライスさんが靴を履き替え、レインコートを着る。
そのタイミングで、テイオーも追いついてきた。
「ちょっとちょっと! 一体どうしたのマックふぉッ!?」
困惑しているテイオーに、もう一着のレインコートを投げ渡し、私も急いで身に纏う。
……ああ、もう! ウマ娘用のレインコート、耳が引っ掛かりやすすぎますわ!
何とかレインコートを着ると、土砂降りの外へ飛び出す。
先ほどから感じている嫌な予感、そしてヒシアマゾンさんからの話で、私の中にある予想が生まれた。
これが違ってくれれば良いのですが……。
「マックイーンってば! 一体どうしちゃったのさ! それに何でライスもいるの!?」
「ライスさんには手伝ってもらっているのです! 先ほどのヒシアマゾンさんの話、おそらく外に出たウマ娘というのは、クラウディですわ! 」
「うぇ!? でも、こんな大雨の時にどうして……?」
「分かりませんが、何か嫌な予感があります。何もなければいいのですが……」
さっき言っていた”悪夢”のことを思い出したのか、テイオーの顔は見る見るうちに真っ青に変わる。
「このままじゃ見つからないよ! ボクはあっちを探してみる!」
「ライスはそっちを探します!」
「はい! なら、私はこちらを!」
お願いですから、変なことを考えず、無事でいてくださいな、クゥ!
三女神だろうと関係ない。
ありとあらゆる神様仏様に祈りながら、ポケットから出した携帯で、急いで電話を掛けた。
◇◇◇
大漁の雨粒が、身体を叩く。
地面を踏むたびに跳ねる泥が、裾を汚す。
私は今、大雨の降る中、河川敷を走っていた。
どれくらい走っていたなんて、もはや覚えていない。
だけど、とにかく走っていたかった。
こうして自分を苛めている間は、苦しいことなんて考えなくていいから。
才能も無く、実力も無く、甲斐性も無ければ、度胸も無い。
そんな私にできるのは、こうして走るだけだった。
風と共に横殴りの雨が吹き、レインコートで覆われていない顔を叩く。
なんだか、頭がフラフラする。
「……あ」
その風に煽られて体勢を崩した。
今までは、この程度の風で体勢を崩すなんて、無かったのに……。
倒れないように咄嗟に足を踏み出すも、濡れた草で覆われた坂だったために足を滑らせ、坂を転がり落ちていく。
視界が回る。
体中が痛い。
頭がグラグラする。
気持ち悪い。
転がり続ける身体が、やっとのことで止まった。
だらりと垂れた左腕が、大雨で荒れる川に浸かる。
なんで、こんなに、苦しいんだっけ……?
もう、嫌だ……嫌だよ……。
誰にも期待されない、誰にも認めてもらえない、誰にも振り向いてもらえない。
甘えるな? 諦めるな? 才能が無いのはお前だけじゃない?
……だからなんだッ!!
甘えは弱さだから、捨てろというのか!
夢は誰だって何時か叶うから、諦めるなというのか!
自分以外にも才能が無い奴がいるから、絶望しないというのか!
そんなの知るかッ!
辛いことに辛いと言って何が悪い!?
無理だと思うから無理だと言うことの何が悪い!?
背負いたくないものを背負いたくないと言ったら悪いのか!?
……もう、嫌なんだ。
眼の前にいる何か、おそらく最後に残った私の希望というくだらないもの。
それに叫んだ瞬間、私の中で、何かにヒビが入った。
――思い立ってからの私の行動は速かった。
震える身体をやっとの想いで立ち上がらせ、眼の前の底の見えない濁流を見る。
私の眼も、こんなふうに濁っているんだろうか。
そんなことを他人事のように感じていた。
「もう、疲れた。さよなら、■■■■■――――」
胸に残る虚無感が命じるままに、私は左足を踏み出した――――
「――――――ッ!!」
ここでルート分岐。
テイオーエンド①とマックイーンエンド①、それとライスシャワーエンド①、バッドエンド①とトゥルーエンドに分岐します。
ちなみに次回は最終回じゃないです。まだまだ続きます。
というわけで、次回は3人の個別エンド。
バッドエンドは後書きにこう言った流れです~ってのを書くくらいにします。
だって流れは思いついてても文章にするのが難しすぎるんだもん。
雲ちゃんのハッピーエンドのために必要なのは?
-
愛
-
友情
-
勇気
-
希望
-
才能
-
努力
-
理解者
-
姉
-
親友
-
奇跡
-
ルームメイト
-
チームメイト
-
肯定
-
同じ境遇のウマ娘
-
知識
-
甘々イチャイチャ百合ハーレム
-
名優
-
帝王
-
青い薔薇
-
全部あっても足りねぇ!!