――思い立ってからの私の行動は速かった。
震える身体をやっとの想いで立ち上がらせ、眼の前の底の見えない濁流を見る。
私の眼も、こんなふうに濁っているんだろうか。
そんなことを他人事のように感じていた。
「もう、疲れた。さよなら、■■■■■――――」
胸に残る虚無感が命じるままに、私は左足を踏み出した。
―――――はずだった。
「――――クラウディッ!」
グイッ、と身体に衝撃が走る。
次の瞬間には身体が地面に横たわり、お腹の上に見知った顔が乗っかっていた。
「バカッ! バカッ! バカッ!」
「……テイオーさん」
無敵の帝王が、雨とは違う雫を溢していた。
◇◇◇
「クラウディ……クラウディ……一体どこに!」
クラウディを探してすでに数十分が経ち、あっちこっちを探していたら、何かに導かれたように河川敷に来ていた。
河は増水して荒れまくり、こんな危険な場所にいるのかと思っていると、ふと川の側に誰かがいた。
「あれは……」
何であんな危険なところに……?
取りあえず、危ないからと声を掛けようとした時、ボクのウマ娘としての聴力が、その言葉を聞き取った。
「もう、疲れた。さようなら、
気づいたときには、地面を抉り取るみたいに駆けだしていた。
まるで一陣の風になったみたいに駆け抜けて、クラウディを抱えて地面に押し倒した。
「バカッ! バカッ! バカッ!」
「……テイオーさん」
押し倒したさいに外れたフード。
そこから見えたのは、まさしく探していた相手、クラウディだった。
「何考えてるんだよッ! あんな、死んじゃうかもしれなかったんだよ!?」
「じゃあなんで、死なせてくれなかったんですか」
「……え?」
理解出来なかった……いや、したくなかった。
喉から出かかった声が、途端に引っ込んでいく。
言ってやろうとした言葉が、行き場を失い、虚空に消えていく。
「なんで、そんなこと……」
「もう、いやなんです。ありもしない才能に縋って、叶えられない夢を見るのは……辛いの。怖いの。苦しいの」
そう苦しそうに話すクラウディは、だけどその表情を変えない。
そこにあるのはただの『無』だった。
きっと、無表情っていうのはこういうのを言うんだろうな。
「でも、努力すれば、きっと……」
「努力するからなんですか!? 努力なんて、誰だってやってる! それなら、後は生まれ持った才能が全てを決めるんです! 努力は裏切らない? そんなの当り前です。信頼云々以前に、努力はすることが前提条件なんですから。信頼するものでなければ、裏切られることなんてないですしね」
淡々と、色を失った顔でクラウディは話していく。
違う。彼女は元々色なんてなかったんだ。
「で、でも、今までのウマ娘の中にも……」
「才能が無いと言われていても、輝いたウマ娘はいると? 違いますよ。そう言った人たちには、元々才能があったんですよ。例えばナリタタイシン。彼女は小柄な体型から、レースに向いていないと言われていた。だけど、今ではGⅠで並み居る強豪と戦っている。ナリタタイシンは、レースに不向きな小柄な体型でも戦える才能があったんですよ。才能が無いと言うのは、何時だって周りだけですからね」
だけど今、彼女の色が染まろうとしている。
絶望へと誘う漆黒に。
どうして? 何がクラウディを駆り立てたの?
「才能という壁は、超えることが出来ないんです。そう……”絶対に”」
「……あ……」
カチリと、何かが嵌った音がした。
『絶対』。
それは、憧れのカイチョーを表す二文字。
ボクにとっての目標で、夢で、目指す場所。
カイチョーのような無敵のウマ娘になって、カイチョーのように『絶対』と呼ばれるウマ娘になりたかった。
……でも、そっかぁ。
『絶対』が、クラウディを悲しませるなら……
「”絶対”なんて、ないよ」
「え……?」
「ボクが証明してみせる。クラウディが、また笑顔で走れるように」
初めてカイチョーと話したあの日から、ずっと、カイチョーの背中に追いつきたいって、そう思っていた。
だけど、そんなの甘えだった。
追いつくだけじゃ、意味がない。だから、ボクは
「なに、を……」
さっきと違って、微かに困惑した顔を見せるクラウディを安心させようと笑みを浮かべ、ギュゥと抱きしめる。
「”絶対”が、クラウディを否定するなら――ボクが、『絶対』を否定してやる!」
「あ……ああ……!」
腕の中にいるクラウディの小さな体が、小さく震える。
マックイーンの気持ちが分かる気がする。この小さな宝物を、守りたいって思う。
「だからさ、もう、黙って居なくならないでよ。クラウディがいなくなったら、ボク、心配で……嫌だよ?」
「ごめん、なさい……ッ! ごめんなさい……ッ!」
「よしよし」
涙混じりの懺悔が、彼女の涙のように降り続ける雨のカーテンに、静かに溶けて行った。
あの一件後、マックイーン達と合流し、クラウディを学園に連れて帰った。
ただし、元通りとはいかなかった。
クラウディは他人にひどく怯える様になり、ボクやマックイーン、ライスの他にアグネスタキオンやゴールドシップ、カイチョーなど、元々親交のあった人にしか関わることがなくなった。
そしてもう一つ、クラウディがボクから離れなくなった。
何処に行こうとしても、ボクの腕にくっ付いて付いてくる。
病院で検査に行かせるために離すと、クラウディは顔を真っ青にさせ、錯乱したかのようにボクの名前を呟き続けた。
これによって、彼女を実家に戻すことも難しく、トレセン学園の方も今は休学扱いになっている。
だけど、ボクもトレーニングやレースのことがあるから、いつも一緒に入られない。
その対策として、クラウディをスピカに入団させることにした。
始めはスペシャルウィークやダイワスカーレット、ウォッカにトレーナーを警戒していたけど、ゴールドシップがいることもあってか、今ではそれなりに馴染んでいる。
心に傷を負ったクラウディが笑顔を見せてくれることはうれしいけど、なんだかちょっと、心がもやもやする。
まぁ、それ以降は大したことはなく時は流れ――――
『さあ! やってまいりました! 選ばれしウマ娘だけが出走できる有馬記念! しかし、今年の有馬はいつもと違う! ”絶対”と呼ばれ、いくつもの伝説を立ててきた絶対皇帝と、圧倒的な走りで
熱の入った言葉を叫ぶ実況と、それに煽り立てられた観客たちの歓声が、この地下バ道にまで響いてくる。
「……それじゃ、行ってくるよ、皆」
「はい! 頑張って下さい、テイオーさん!」
「1番になってやりなさい!」
「皇帝に一発、ガツンとやってやれ!」
「お前が勝ったら、トレーナーの金で焼肉だからなぁ!」
「おいゴルシ!?」
「あはは……」
今回のために作って貰った
なんだか緊張感が無くて、いつも通りな皆にちょっと笑っちゃう。
「ほれ、お前もなんか言ってやれ」
「……テイオー、さん」
「クラウディ」
ゴールドシップに背中を押されて出てきたクラウディが、ボクに抱き着いてきて、ボクも彼女を抱きしめ返す。
別れを惜しむ男女のように、熱い抱擁を交わす。
なんかスペだったりスカーレットとかウォッカとかが顔を紅くさせてるような気がするけど、そんなのお構いなしに抱擁を続ける。
「頑張って、ください」
「うん。大丈夫だよ。だから見てて。ボクが、『絶対』なんてないって証明するところを」
「…………はい」
名残惜しくも抱擁を解き、ターフへと足を向ける。
その出口で、見知った背中を見つけた。
「君は言ったな。いつか、私のようになると」
「…………」
「本音を言えば、私は半信半疑だったのかもしれない。本当に、私に追いついてくるのかと」
「カイチョー」
話を遮り、ボクはカイチョーと向き合う。
……不思議だ。前まではカイチョーを前にしたら、何かしら考えていたのに。
今じゃ歓喜も、感慨も、興奮も感じない。
感じるのは、今目の前にいるこの人を倒したいというあくなき闘争心。
それだけだった。
「ボクはさ、カイチョーに追いつきたいと思ってた。カイチョーのような、無敵の三冠ウマ娘になりたいって、ずっと思ってた。だけど、今はもう、それだけじゃ満足できなくなっちゃった」
「ならばどうする?」
「決まってるよ……今ここで! ボクはカイチョーを踏み越える! 絶対は、ボクが否定してやるッ!」
「面白い……ならばやってみろ、テイオー」
そしてボクたちは、同時にゲートへと向かう。
さあ、行こう。
クラウディを、誰にも否定させやしない。
あの時言っていたように、レースの結果が才能によって決まるなら、ボクがカイチョーを倒して証明してみせる。
この世に、『絶対』は無いんだって。
実績 【『絶対』との決別】を獲得しました。
「”絶対”が、クラウディを否定するなら――ボクが、『絶対』を否定してやる!」
条件 テイオーエンド①を見る。
テイオーエンド①に関して小さなヒント。
・テイオーの誓いの際に泣いたクラウディは、心配を掛けたことについて懺悔していたわけではない。
ハッピーエンドとは言ってないし。
雲ちゃんのハッピーエンドのために必要なのは?
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愛
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友情
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勇気
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希望
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才能
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努力
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理解者
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姉
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親友
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奇跡
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ルームメイト
-
チームメイト
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肯定
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同じ境遇のウマ娘
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知識
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甘々イチャイチャ百合ハーレム
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名優
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帝王
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青い薔薇
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全部あっても足りねぇ!!