メジロ家の落ちこぼれ   作:神咲胡桃

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みんな、バッドエンド見たかったんか……?

ということで、難産でしたが書いてみました。


この希望のない世界で バッドエンド①ー①

【中央のウマ娘が自殺 ストレスを苦にしてか】

 

ある日の新聞が、その見出しで報じられた。

 

内容によると、○○日の未明、学園近くの川岸に遺体が流れついていたところを、近くを散歩していた老人が発見。

捜査の結果、学園とメジロ家から捜索願が出されていた()()()()()()()()と判明。

目立った外傷がなく、遺体からも毒物は検出されなかった。

トレセン学園では、目立った友人もおらず、成績が振るわなかったことを苦にして自殺したのではないかと警察は見ているとのこと。

 

 

あの中央に在籍しているウマ娘が自殺したというニュースは、全国に瞬く間に広がっていった。

この事態に、学園の理事会は臨時記者会見を開き、今回の件について虐めといったことが起きていないことを述べた。

 

その我関せずの対応に世間からは批判が殺到するが、後に中央の現理事長である秋川やよいが

 

「今回の痛ましき事件の一因は、事前に気付けなかった学園側の不手際にある。故に、今後このようなことが二度と起こらないように、しっかりとした対策を検討する」

 

と、頭を下げたために批判も収まりをつけた。

この件でやよいの理事会における影響力が大きくなり、トレセン学園でのウマ娘、トレーナー関係なく定期的なカウンセリングが行われるようになった。

 

 

 

 

 

 

しかし、全てが収束したわけではない。

 

 

学園の中を歩いている生徒会長、シンボリルドルフは頭の中でまとめていたここ数日の動きと、その間の業務の疲れで不意に溜め息を溢した。

 

「既にあの事件から一ヶ月、か……」

 

すこしやつれた顔のルドルフは、これから向かう場所に思いを馳せ、しかして哀愁に気を沈ませる。

 

「まさか、君がそこまで思い詰めていたなんてな……。全てのウマ娘にとって、より良い世界を作るなんてことを言っていたことが、バカらしく思えてしまう」

 

ルドルフは件のクラウディと友人というわけではないが、知らない仲というわけでもない。

こう言っては何だが、そのおかげでこれぐらいで済んでいるのだ。

 

とはいえ、ルドルフと、そして同じように少し話した仲であるエアグルーヴも、ここ最近は心労が溜まっており、ろくに生徒会の業務も進まない。

あのサボりなナリタブライアンが、自分が仕事をするから休めと言ってくるぐらいには、端から見ても酷かったのだろう。

 

そんな訳で、絶賛お休みを言い渡されたルドルフだったが、こうして学園を歩いているのは理由がある。

 

それは、ここ最近ほとんど日課となりつつある、ある事のためだ。

 

「……入るぞ」

 

ルドルフが入ったのは、様々な器具が立ち並ぶトレーニングジム。

外は快晴なためか、まったく人が居ない中で、一人のウマ娘がランニングマシーンの上を走っていた。

 

「……テイオー」

「あ。ヤッホー、カイチョー! どうしたの? こんな所に来て」

 

そう言って、ルドルフに()()()()()()()を浮かべるトウカイテイオー。

その無邪気な表情からは、まるであの事件に関して区切りをつけたように思える。

 

だが、ルドルフは知っている。

その無邪気な笑顔の裏は、何の感情も映えない能面なのだと。

 

「いや、君の様子を見に来ただけだよ」

「そうなんだ! ありがとう!」

 

礼を言うやいなや、テイオーはトレーニングに戻る。

 

この時点で異常だ。

 

前のテイオーなら、トレーニングそっちのけでルドルフに構ってもらおうとしていたというのに、今は最低限言葉を交わしただけで用はないとばかりにトレーニングに打ち込んでいる。

 

「……テイオー」

「…………」

「テイオー」

「…………」

「テイ――――」

「それ以上はやめときな。生徒会長さんよぉ」

「君は……」

 

声を掛け続けるルドルフを止めたのは、何処にいたのかゴールドシップだった。

 

見たところ、()()()()()()()()ようだが、その顔にはどこか憂いが映っていた。

 

「…………」

「…………」

 

二人は顔を見合わせたまま何も言わない。

 

テイオーが走るランニングマシーンの駆動音だけが、ジムの中に響き渡る。

 

「……失礼する」

 

この沈黙に耐え切れずに、ルドルフはジムを出ていく。

 

ゴールドシップがいるなら、テイオーも無理はしないだろうと言い訳を残して。

 

 

 

そして数分後、ルドルフの姿は学園の図書館にあった。

やはりというか、トレーニングに時間を割かれるこの学園では、そこまで人は居ない。

 

そんな中、ルドルフはしっかりとした足取りで図書館の奥の方に歩いていく。

 

「見つけたよ」

「…………」

 

図書館の隅に座り込む黒い影。

彼女もまた、メジロクラウディと仲の良かったウマ娘――ライスシャワー。

 

「調子はどうだい?」

「…………」

 

声を掛けても、ライスシャワーは黙々と絵本を読み続ける。

 

クラウディの死亡が報じられてから、彼女はまるで現実から逃げるように、本の世界により没頭するようになった。

 

ならレースに出なくなったかといえば、それも違う。

聞いた話では、最近数人のウマ娘のトレーニング場所に不定期に現れているらしい。

 

トレーニング風景を見るライスシャワーの眼光は、まさしくナイフの様に鋭く、その瞳には青い炎が宿っているようらしい。

 

そして、彼女がトレーニング風景を見るウマ娘はGⅠレースに出ることを一度でも公言した同期、もしくは後輩とのことで、まさかと思いつつもルドルフは胸騒ぎがしてならなかった。

 

「(しかし、私に彼女を諌める資格があるのだろうか? 彼女の友人の死を防げなかった私に、彼女に説教たらしく止めることなど)」

 

結局、ルドルフはこの場を立ち去る事しかできなかった。

 

 

 

 

校舎を出てグラウンドに向かっていると、いきなり視界が揺れた。

 

「ぁ……ぅ……」

 

足元がおぼつかず、咄嗟に近くの柱に手をつく。

 

「(さすがにそろそろ限界か)」

 

疲労の蓄積を自覚しつつ、その足はグラウンドに向かう。

 

もはや無謀としか思えないが、今から向う場所にいるウマ娘だけは、放っておくわけにはいかないのだ。

 

「着いた、か」

 

芝生の坂にある階段を下りると、眼の前を一人のウマ娘が駆けていった。

そのウマ娘は、やがて走りを止め一人の女性の元へと歩いていく。

 

「トレーナーさん。どうでしたか?」

「目標のラップを大幅に更新してる。問題ないね。……今日のトレーニングは、これくらいにしよっか」

「問題ありません。まだ走れます」

「マックイーン。さすがにこれ以上は、トレーナーとして看過できない」

「では私一人で走ります」

「……あと一時間。あなたが走ることを止めたくないなら、これは絶対に守ること」

「分かりました」

 

そう言うやいなや、メジロマックイーンは走り出した。

 

その背中を寂しそうに見つめる女性――マックイーンのトレーナーに声を掛けた。

 

「お邪魔するよ」

「あなたは……シンボリルドルフ。どうしたんですか。こんな所で」

「いや、彼女の様子を見にね」

「それなら、まあ概ね()()()()()ってところでしょうか」

()()()()()、か」

 

言外に、あの日から、という言葉が前に付いているのを、ルドルフは感じ取った。

 

「私はあの子のことをマックイーン経由でしか知らなかったけど、きっとマックイーンからしてみれば、とっても大切な娘だったんでしょうね」

 

トウカイテイオー、ライスシャワーと同じくクラウディの死に大きなショックを受け、そしてそれ以上に、その()()を食らったのが、メジロマックイーンだった。

 

クラウディの死が報道された際、学園に続く形でメジロ家の当主が会見を行った。

 

それも当然だろう。

クラウディは中央の生徒というだけでなく、メジロ家のウマ娘なのだから。

 

この時、世間ではメジロ家と絡めた根も葉もない、そして心無い出まかせを広めようとする者がいた。

 

 

 

だが、その噂は長続きしなかった。

 

なぜなら、大手の報道関係の会社がそういったことを記事にして騒ぎ立てなかったからだ。

 

メジロ家の現当主は、現役時代に名を遺したレジェンドだ。

その時の彼女を取材してきた当時の若手記者で今のベテランの記者たちは、質実剛健を体現したかのような彼女のウマ娘性をよく理解している。

 

故に、メジロ家で彼女を自殺に追い込むようなことはないだろうと、そう当たりをつけていた。

 

しかし、当の記者会見でくだらない噂を真に受けた若手記者(バカ)が、「メジロ家の当主と、彼女と同年代のウマ娘が彼女を自殺に追い込んだ」という旨の発言をした。

名家のスクープを取って評価が欲しかったのか、それとも断罪をしているつもりの自分に酔っているのか、ネットで手に入れたに過ぎない不鮮明な証拠を基に、記者は一方的な決めつけを続けた。

もっとも、当主の一睨みであえなく竦み上がったのだけど。

 

だが、話はこれで終わらなかった。

例の記者は、会見の場で赤っ恥を掻かされた仕返しのつもりか、中央に張り込み、心が弱っていたメジロマックイーンに隙を見て強引な取材を仕掛けた。

その時は彼女のトレーナーと丁度居合わせた沖野トレーナーによって大事には至らなかったが、その記者は何を仕出かすか分からないほど興奮していたという。

 

この事がメジロ家当主の耳に入るやいなや、当主の逆鱗に触れた。

若手記者(バカ)は名誉棄損や不法侵入などの罪によって逮捕され、所属していた会社もその記者を懲戒免職、さらには会見を開き謝罪もした。

全国に名前が晒され、もはや社会でまともに生きていくことは難しいだろう。

 

これによって一応の終息を見せたが、若手記者(バカ)の強引な取材はマックイーンの心に影を落とした。

「メジロクラウディは、メジロ家と彼女と同年代のウマ娘によって自殺に追い込まれた」と言われたマックイーンは、次の日から無茶なトレーニングをするようになった。

 

 

「もちろん、マックイーンが悪くはないって知ってる。でも、あの娘はそう思わなかった。あの無茶苦茶な言い分の何かが、何故あの娘を苦しめているのか分からない。私は……無力だよ」

「それは……」

 

あなたのせいではない、とルドルフは言えなかった。

 

ルドルフもまた、クラウディを、マックイーンを救えなかったのだから。

 

何かを振り払うように走るマックイーンを、二人はただ見守る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

重く感じる身体を引きずるようにして、ようやく部屋に戻ったルドルフは、自身のベッドに身を投げ出した。

鈍く音を立てるベッドが、彼女の心情を表しているようだった。

 

今回の事件で壊れてしまったのは、あの3人だけではない。

彼女と交流のあった者は、心に何かしらのものを抱えている。

 

また、それはルドルフも同様であり、それ故にルドルフは彼女たちを救えない。

 

「すまない……すまない……すまない……ッ!」

 

 

救えなかった後悔と救うことのできない悔しさに苛まれながら、敗れた皇帝(シンボリルドルフ)は懺悔を呟き続けた。

 

 

 

 




実績:【この希望のない世界で】を獲得しました。

条件 バッドエンド①を見る。

見たい番外編は? 上位3つ

  • テイオー:注射を打つ
  • マックイーン:我慢する
  • ライアン:筋トレする
  • ドーベル:初めての少女マンガ(百合)
  • ライス……どうしよう(※案求む)
  • タキオン:実験
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