時系列的には、トゥルーエンドの翌日。
――思えば、いつも最後だった。
あの娘と友達になったのも。
彼女たちと友人になったのも。
塞ぎこんだあの娘のことを知ったのも。
そして今も、私が最後だった。
◇◇◇
「あぅ~」
……やらかした。
大雨の中、増水した川に飛び込もうとして、マックイーン姉さまたちに救われた次の日の朝。
寒気と気怠さと熱っぽさを感じ、念のため体温を測ると39℃もあった。
原因は間違いなく、昨日の雨を浴びたことだろう。
そこまで考えて、私はベッドに倒れた。
何とか電話で寮長であるヒシアマゾンさんに体調不良を伝え、苦労してベッドに潜り込んだ。
ホントは薬とか飲んだ方が良いんだろうけど、そんな気力すらなかった。
少ししてから、ヒシアマゾンさんがゼリーと薬を持ってきてくれた。
手助けをしてもらいながらゼリーを食べ、薬を飲んだ私を寝かせ、ヒシアマゾンさんは登校して行った。
学園への連絡もしておいてくれるらしく、やっぱり寮長だなぁと思った。
そして今へと至る。
「あぅー……暑い……苦しい……ゴホッ! ゴホッ!」
なんだか悪化したような気がするのは気のせいだろうか?
咳は出るし、身体は暑いし……なにより一人が辛い。
ちらりと横を向けば、そこには一切の使われた痕跡のないベッド。
人数の関係で一人部屋の私は、帰って来た人に心配される事もなければ、看病される事もない。
……いやまあ、それはとっくに慣れた。
だけど、誰もいないし帰って来ないというのが本当に辛い。
外からは元気なウマ娘たちの声が聞こえる中、私に聞こえるのは咳き込む自分の声だけ。
まるで世界から爪はじきにされたかのような、怖くて、寂しくて、悲しくて……そんな感情が、風邪で弱った私の心をグチャグチャに埋め尽くそうとしてくる。
後ろ向きな考えが頭の中に溢れ、それを無理やり押さえつける。
やばい。なんだか頭がボゥっとしてきた。
我慢しろ。我慢しろ。我慢しろ。
別に一人には慣れているんだ。
帰っても誰もいない、誰も帰って来ない部屋も
妄想癖から寝る前にうっかり口にした妄想を誰にも聞かれないことも
シャーペンの芯の音しか鳴らない勉強中も
涙をこぼしても、誰にも、慰められないことも
……もう、慣れているのだ。
だから
「……マック、イ……ンお姉、さま……」
だから
「……テイ、オーさん……」
だから
「……ライ、ス、さん……」
だからッ……
「……ライ、アン…姉さま……」
だから……ッ!
「……タキオ、ン……さん……」
だからぁ……!
「……ルド……フさん……」
だか、らぁ……
「……グル……ヴ、さん……」
だれかぁ……
「……ゴ……ルド、シ……プさん……」
たす、けて……
「こわ、いよぉ……ドーベル……姉さまぁ……」
――――安心しなさい……一緒にいるから。
◇◇◇
私がそのウマ娘と出会ったのは、年に数回ある親戚の集まる宴会のことだった。
メジロ家に連なる家系であった私の親も、当然それに参加し、まだ幼かった私も連れて行かれた。
だけど宴会なんてものは、基本大人たちが楽しむものだ。
子供たちは子供たちで、すぐに飽きて他の子どもと一緒に遊びだす。
そんな中で私は、部屋の隅で家から持ってきていた少女漫画を読んで、時間をつぶしていた。
ちらりと視線を動かせば、子供たちが外で遊んでいる。
だけど、根っからの引きこもりだった私は、そのことをどこか達観して見ていた。
子供っぽく、疲れるし、怪我するかもしれないし、そんなことよりも家の中で少女漫画を読んでいる方が、私にとっては有意義だった。
そんな時だ。彼女が声を掛けて来たのは。
「ねえねえ! あなたも一緒に遊ぼう!」
何故か片手に大量の焼き鳥を持った皿を持っているウマ娘。
明らかに話しかけるなオーラを出していた私に、あの娘はそう話しかけてきた。
めんどくさい奴だと判断した私は、無視を決め込む。
「…………」
「何読んでるの?」
「あ、ちょっと!」
私の手から漫画をひったくった彼女に、取り返すついでに一言文句を言ってやろうと彼女に向かったとき、その娘は私の顔を見て笑っていた。
「やっと見てくれた!」
「は?」
「だって、ずっと無視するんだもん!」
「はい」と漫画を返してくる彼女に、私は思わず呆れた。
「あなた、何がしたいの?」
「さっきも言ったでしょ。一緒に遊ぼう?」
「断るわ。興味ないもの」
「まあまあそう言わず!」
言うやいなや、彼女は私の手を掴み、立ち上がらせると別の部屋に連れていかれた。
「二人とも、お待たせ!」
「あら、お帰りなさい」
「お帰り、クラウディ! ……ってあれ? その娘は?」
別室にいたのは二人のウマ娘。
引きこもりの私は親戚であろうその二人のことを知らなかったけど、片方は如何にもな御令嬢っぽく、もう片方はボーイッシュな娘。
前者はともかく、後者はあれだ。
きっと可愛いものに憧れを持っているはずだ。少女漫画で習った。
前者もきっと俗物的なところがあるのだろう。少女漫画で習った。
「私はメジロマックイーン。マックイーンでよろしいですわ」
「あたしはメジロライアン!ライアンで良いよ!」
「あ、私はメジロクラウディ。よろしくね! あなたのお名前は?」
「……知らないのに連れて来たんですの?」
「大丈夫だよ。今知れば問題なし!」
「アハハ! クラウディらしいや」
仲よさげに話す3人に、私はさっさとこの場を離れたかった。
どうすればこの場から逃げれるかを考える私に、あの子は手を差し出してきた。
「それで、あなたのお名前は?」
ただ、その手を弾いてしまえば良かった。
だけど私は……
「……ドーベル。メジロドーベルよ」
「そうなんだ! これからよろしくね、ドーベル!」
「まぁ……クゥが連れて来たならばよろしいでしょう。よろしくお願いしますわ」
「あたしもお願いするよ、ドーベル」
そう口々に話す3人の存在が、温かいと感じた。
……若干マックイーンの声に圧があったような気もするけど、それは気のせいだろう。多分。
「それで、クゥのその手にある焼き鳥の山は何ですの?」
「あ、そうだった! 小腹が空いたから持ってきたよ!」
「何か持ってくるなら紅茶に合うものとお願いしたのですけど……!?」
「ハハッ! クラウディらしいね!」
「まったく……ん? ドーベルさん、どうしたのですか?」
「……別に、何もないわよ……フフッ」
◇◇◇
私――メジロドーベルはある部屋の前に立っていた。
扉をノックしても、中から返事は返って来ない。
悪いとおもいつつも、鍵のかかっていないドアを開けて中に入る。
奥に進むと2つのベッドがあり、片方のベッドでは一人のウマ娘が苦しそうに眠っている。
「クラウディ。お見舞いに来たわよ」
彼女を起こさないように声を掛け、持ってきたスポーツドリンクを入れようと、備え付けの冷蔵庫を開けると、そこにはすでに大量のスポーツドリンクが入っていた。
マックイーンとライアンか……。
まあ、クラウディが風邪を引いたのは二人から聞いたから、別におかしくはないけれど、何か悔しさを感じる。
取りあえずスポーツドリンクを冷蔵庫に入れ、部屋の椅子を持ってきてクラウディが寝ているベッドのそばに腰を掛ける。
「はぁ……はぁ……」
「辛そうね。こういう時に何もできないのが、本当に悔しいわ」
持ってきたタオルで、クラウディの額を流れる汗を拭きとる。
それにしても……
「本当に何もない、わね」
この部屋は年頃の女の子の部屋というには、やけに殺風景だ。
備え付けの棚やベッド、勉強机はあるものの、年頃の女の子が飾るような小物など、見渡した限りでは何もない。
マックイーンやライアン、私だって何かしらの小物だったり、飾りつけだったりはしているというのに、クラウディの部屋には見当たらない。
そこの棚にあるのだって、一般教養の教科書や参考書ぐらいしか……ん?
「これって、昔の……」
棚に近寄り手に取ったのは、如何にもな女児向けの3つのぬいぐるみ。
所々ほつれたそれは、私にとって見覚えのある品だった。
犬と猫と兎がデフォルメされたそれらは、昔クラウディの誕生日にマックイーンとライアンと一緒に、悩みながら決めたプレゼントだった。
これを渡したとき、あの娘は泣きながら喜んでくれたのを憶えている。
まだ、大事にしてくれてたのね……。
あの娘の優しさに嬉しくなっていると、ドサッという音と共に勉強机から何かが落ちた。
気になって拾ってみると、それは私とクラウディが初めて出会ったときに、私が持っていた少女漫画だった。
やや強引に連れられ、マックイーンたちと友達となった私は、クラウディに持っていた少女漫画をあげた。
当時は何でそんなことをしたのか、自分でも理解できなかったけど、今なら分かる気がする。
あの娘、あんなに笑顔で喜んでくれたんだもの。
彼女からすれば、知らない上に中途半端な巻の漫画を渡されたというのに、大事にするね、って言ってくれた。
その漫画がここにあること、既に完結している漫画なのに他の巻が一冊もないこと、透明なブックカバーが掛けられ大事に扱われていることが、とても嬉しい。
漫画を机に戻し、寝ているあの娘の側に立つ。
この娘は、未だに苦しそうな表情を浮かべていた。
「……少女漫画だったら、苦しそうな
気が付けば、眼の前一面に彼女の顔が広がっていた。
重力に従って私の頭が下がって行くにつれて、彼女の薄い唇に近づいていく。
そしてあと数cmの所まで下がり……
「こわ、いよぉ……ドーベル……姉さまぁ……」
下っていた私の頭が止まった。
顔を離し、自分に向けたため息をつく。
何やってるのよ私……。
そうだ。そもそもこんな寝こみを襲うような真似していいはずがないでしょう。自己険悪でどうにかなりそうだわ。
逸る心を何とか自制させ、キスの代わりに手を握る。
「安心しなさい……一緒にいるから」
その声が届いたのかは分からないけれど、クラウディの寝息を次第に落ち着いたものに変わり始めた。
この娘が自殺未遂をしたことは、マックイーンから秘密裏に聞かされた。
随分とショックを受けたものだ。彼女が自殺未遂をしたことではなく、それまでに彼女が追いつめられていると気づけなかった自分にだが。
私はいつもそうだ。
気づけば一番最後で、一番遅い。
何も知らず、知ることが出来ず、こうして彼女を救うことは出来ない。
だけど……
「私はお姉さまだものね。グイグイいくのは、あの二人に任せるわ。だから、もし疲れたり、甘えたくなったら、私の所に来なさい。たくさん、たくさん抱きしめてあげるから。……チュッ」
握っていた手の甲に唇を落とし、私は彼女を起こさないように部屋を出た。
ちな他のウマ娘のお見舞いは……
マックイーンのお見舞い
マック「大丈夫、大丈夫。クゥがただの風邪に負けるわけありませんわ……ですが」
雲ちゃん「……マック、イ……ンお姉、さま……」
マック「私はここにいますわ、クゥ。お、おまじないですから……チュッ」
マック「おでことはいえ、キスは恥ずかしいですね……」(まんざらではない)
テイオーのお見舞い
テイ「クラウディ……大丈夫かなぁ」
雲ちゃん「……テイ、オーさん……」
テイ「ッ! ……ッ、ッ!」(あたりをキョロキョロ見回す)
テイ「ん、ん~……チュッ」
テイ「……ッ!?」
テイ「(ほ、ほっぺにチューしちゃった~!)」(ダッシュで逃走)
ライスのお見舞い
ライス「クラウちゃん、可哀そう……。ライスに、何かできないかなぁ」
雲ちゃん「……ライ、ス、さん……」
ライス「ッ! そうだ、この前ウララちゃんが、チューしたら元気になるって!」
ライス「よ、よーし……チュッ!」(唇のすぐ横)
ライス「ぁ、ぁぅ~~」(機能停止)
ライアンのお見舞い
ライ「こ、こういう時って、どうすればいいんだろう……」
雲ちゃん「……ライ、アン…姉さま……」
ライ「そうだ。可愛い妹のためだ。でも、どうすれば……」
ツルン(足が滑った音)
ライ「え? ……んむぅ!?」
ライ「~~~~~ッッ!?!?」(爆逃走)
タキオンのお見舞い
タキ「モルモット2号君。君のために特製の風邪薬を……なんだ。寝ているのか」
雲ちゃん「……タキオ、ン……さん……」
タキ「辛そうだな。起こすのも忍びないし、口移しで飲ませるか」
~少女口移し中~
タキ「プハッ……これでいいか? しかし、なんだ? この胸の感覚は……」
ルドルフのお見舞い
ルド「君が風邪をひいて寝込んでいると聞いたのだが……ぐっすりだね」
雲ちゃん「……ルド……フさん……」
ルド「私を頼りにしてくれるのか……嬉しいな」(頭なでなで)
雲ちゃん「ふにゅ……」(ニッコリ笑顔で頭を擦る)
ルド「……可愛いいな。クセになって、母性に
雲ちゃん「…………ゴホッ、ゴホッ」(ちょっとだけ悪化した)
エアグルーヴのお見舞い
エア「まさか体調を崩すとはな。健康管理は重要だというのに……」(オカンの顔)
雲ちゃん「……グル……ヴ、さん……」
エア「……まあ、仕方あるまい」(山のようなスポドリを冷蔵庫にシュゥウト!)
エア「というか、なんで私はこんなことをしているんだ……?」(副会長の顔)
雲ちゃん「ぅぅ……」
エア「む。寒いのか? 待っていろ。薄い毛布を持ってきてやる」(オカンの顔)
エア「放課後も見に来てやりたいが……難しいか」(オカンの顔と副会長の顔)
ゴールドシップのお見舞い?
ゴー「よーっす。生きてるかー?」
雲ちゃん「……ゴ……ルド、シ……プさん……」
ゴー「なんだ。生きてるみたいで安心したぜ。さーて、ここはゴルシちゃん流の治し方ってやつをしてやるか」
雲ちゃん「ぅ……ぅぅ……」
ゴー「お、なんだなんだ。病人のくせして逃げようとするとは。ふてえ野郎だ」
ゴー「知ってんだろ? ゴルシちゃんからは逃げられない……」
ゴー「ぢゅっヂュヂュヂュ~ジュルルルルッチュプゥーズズッ!!!」(音声を差し替えております)
各お見舞いの時の雲ちゃんは、完全に寝ており、意識はありませんでした。
だから覚えてないし知らないんですねェ。
ドーベルの前にこんなことあったよってだけ。
最後のゴールドシップは、ディープなチューもエッッ!!なこともしていません。
してないったらしてない。R18なんてするわけねぇだろぉ!?
ちなみにこの献身的?なお見舞いのお陰?で、雲ちゃんは次の日には復活。
だけど何故かお見舞いに来た一部のウマ娘たちは、数日の間、雲ちゃんを見ると顔を赤くして逸らすようになった。雲ちゃんは曇った。
雲ちゃんは逆に、ゴルシを見つけたら反射的に逃げるようになった。
何故かは知らぬ。
見たい番外編は? 上位3つ
-
テイオー:注射を打つ
-
マックイーン:我慢する
-
ライアン:筋トレする
-
ドーベル:初めての少女マンガ(百合)
-
ライス……どうしよう(※案求む)
-
タキオン:実験