小説や漫画、ゲームは平気なのにアニメとなると、何か尻込みしちゃうんですよね。
同士いる?
曇らせが少なくなってきた今日この頃。
<ドーベルと少女漫画>
その日、クラウディはドーベルの部屋にお邪魔していた。
「よく来たわね。ちょっと待ってて。飲み物を淹れて来るから」
「ありがとうございます、ドーベル姉さま」
「っ……べ、別に良いわよ」
凛としたクールな姿のドーベルに、はにかみながら礼を言うと、彼女はそっぽを向いて冷蔵庫へと歩いていく。
それを見て怒らせてしまったのだろうかと反省するクラウディだったが、実際ドーベルの顔は真っ赤に染まっていた。
「(ま、まったく、クラウディは可愛すぎるのよ。あんな不意打ちされたらたまらないじゃない!)……クラウディ。オレンジジュースでいいかし……」
振り返ったドーベルは、眼の前の光景を見て固まった。
だってそうだろう。眼の前のクラウディが持っているのは、ベッドの下に隠しておいたはずの漫画で、中身はちょぴりエッチな本なのだから。
「はわっ!?」
さらに間の悪いことに、クラウディが漫画を開いた途端に顔を真っ赤にした。
十中八九見られた。
しかも最悪なことに、あれは姉が攻めで妹受けの姉妹モノだったはずだ。
このままではクラウディから蔑まれ、姉とも思ってもらえなくなってしまう。
そう考えたドーベルは、彼女から漫画を取り上げようと駆け寄ろうとする。
「クラウディ! それはだめぇぇっ!?」
「へ?」
しかし不運にも足を滑らせたドーベルは、クラウディを巻き込みながら倒れる。
「あいたた……ぁ」
「ぁぅ……」
痛みに呻きながらドーベルが目を開けると、そこにはさらに顔を真っ赤にさせているクラウディの顔があった。
至近距離で見つめ合うこと数十秒、やがて正気に戻った二人は、バッとお互いから離れる。
結局この日は、仲良くおしゃべりに興じることはなかった。
<タキオンと実験>
この日、タキオンから呼ばれているクラウディは、彼女が占拠している空き部屋、もとい研究室に向かっていた。
彼女から施されている肉体改造によって、何かしらの副作用などが出ていないか検査して貰うためだ。
「タキオンさーん。クラウディです」
『鍵は開いている。入りたまえ』
言われた通り中に入ると、いつもの白衣を着ているタキオンがいた。
「やあやあ、よく来たね。さっそくだが、検査を始めようか。さあ、そこに横になってくれ」
「はい。よろしくお願いします」
部屋に置かれた台にクラウディが仰向けで横になると、タキオンはペタペタとクラウディの足を触ったり、電極のようなものを張り付けたりする。
そのくすぐったさに時々声が漏れ、タキオンに注意される。
クラウディは気付いていないが、その時のタキオンの耳が薄らと赤くなっていた。
十分ほど時間が経ち、検査が終わった。
「これで検査は終わりだ。喜ばしいことに、副作用と言ったことは見られないね。君の方では、何か感じることはないかい?」
「いえ、とくにはないです」
「そうかそうか。それじゃ、検査は終わりだ。こんな場所で何だが、少しゆっくりしていくといい。そこに置いてある飲み物なら、好きに飲んでくれて構わないよ」
そう言ってタキオンは、途中だった研究に戻る。
本音を言えばトレーニングに行きたいクラウディだったが、せっかくの好意を無下にするのもどうかと思い、素直に甘えることにした。
さきほどタキオンから好きに飲んでいいと言われた事を思い出し、せっかくなので飲み物を貰うことにする。
お茶のペットボトルの隣にあった水の入ったペットボトルを取り一口飲む。
そのタイミングで、研究をしていたタキオンが振り返り言った。
「言い忘れていたんだが、透明な液体のペットボトルは飲まないようにして……く、れ……」
その言葉に、クラウディは自分が飲んだ飲み物を見る。
ペットボトルには、透明な液体が入っていた。
「飲んだのか!? それを飲んだのか!?」
「ひゃいぃ!? ご、ごめんなさい!」
「いや、飲んだのは良いんだ。いや良くないが!」
タキオンの慌て振りに、クラウディは首をひねる。
「あの、これがどうかしたんですか?」
「……それはね、とある実験の際にできた副産物だ。それの効果は、いわゆる惚れ薬というやつだ」
思っても見なかった答えに、クラウディは思わず手の中のペットボトルを見る。
ただの水にしか見えないこれが、そんなものだとは夢にも思わなかった。
「でも、なんでペットボトルに入れてたんですか?」
「さっきも言ったが、それは副産物だ。偶然予想外にできたものでしかなかったんだ。だから、何か入れ物が無いか探して、近くに空のペットボトルを見つけて、それに入れたんだ」
「はぁ」
事態が呑み込めないのか、のほほんとした顔のクラウディに、タキオンは真剣な表情で言う。
「君はそれの危険性をよくわかっていないようだね」
「危険性って……。だって、ただの惚れ薬ですよね?」
「そうだ。それはつまり、どんなに嫌われていようと、自分を好きにさせるんだ。対象の意思は無関係にね。ここまで言えば、さすがに分かるだろう?」
つまりは相手の気持ちを無視した一種の催眠のようなものである。
ようやく事の重大さに気づいたクラウディは、顔を真っ青にさせて震える。
と同時に、サササッとタキオンから距離を取る。
「おい。なんで私から距離を取る」
「だ、だってタキオンさんも惚れ薬のせいで……」
「安心したまえ。副産物とは言え、それの開発者は私だぞ。開発者が自分の開発したものに掛かるわけないだろう」
その言葉に、クラウディはマジマジとタキオンを見つめる。
確かに何時ものタキオンだ。どうやら彼女の言葉は本当らしい。
「それよりもすぐに解毒薬を作ろう。すまないが、少しだけ待っててくれ」
クラウディから惚れ薬の残りを受け取り、タキオンは解毒薬の作成に取り掛かる。
幸い、惚れ薬の構造は簡単なため、すぐに完成するだろう。
しかし、タキオンには別の問題が発生していた。
「(い、いかん……。思っていたよりも惚れ薬の効力が強い。早く解毒薬を作らなければ、どうなる分からない……)」
クラウディは気付かなかったが、さっきも言っていたように惚れ薬が出来たことはまったくの想定外。偶然の産物である。
そんな物が自分に効かないなんて、
少しでも気を抜けば、今にも仮初の恋心でクラウディを
「(耐えろ、アグネスタキオン! 私の科学者の誇りに掛けて、絶対に堪えろー!)」
それから一時間後に解毒薬が出来るまで、タキオンは悶々とした気持ちをどうにかして堪えた。
もっとも、感極まったクラウディがタキオンに抱き着いたことで、タキオンは正体不明の感情を感じ取り、解毒薬が効いてないのではとしばらく訝しむのだったが、それはまた別のお話。
<??????>
トレセン学園の理事長室。
そこでは、3人の女性が向き合っていた。
革張りのソファに座る一人は、幼いながらも理事長を務めるほどの才物、秋川やよい。
その後ろで立っているのは、やよいの秘書である駿川たづなである。
「感謝! 急な呼び出しだが、よく来てくれた!」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
特徴的な喋り方のやよいに、そう返したのはやよいの反対側に座る、どことなくパッとしない表情の女性。
胸元に見えるバッジからして、トレーナーであることは想像に難くない。
「それで今日はどうしたんですか?」
「確認! 本当に担当のウマ娘をとるつもりはないのか?」
「……そんなことを言いに、わざわざ呼んだんですか? 一応、給料分の仕事はしていると思うんですが」
「むしろ、今だからだ」
仮にも理事長である少女に向かって、粗野な口調で話す女性。
しかしやよいは気を害した様子を見せず、たづなが口を開いた。
「確かに、あなたには
「逆に言えば、そろそろ後戻りできなくなるのだ」
たづなとやよいの言葉に、しかし女性は心に響いた様子を見せないでいた。
「……本当に、構わないのだな?」
「何度もそう言ってるでしょう。私はもう、トレーナはやらないって……」
イラついたように話す女性の声を遮り、理事長室の扉がノックされた。
「開錠! 入ってきたまえ!」
『失礼します』
扉越しに聞こえた声に、女性は思わず顔をしかめる。
扉が開き、外から入って来たのは生徒会長でもあるシンボリルドルフだった。
「失礼します。例の件に関して書類を……」
生徒会長としての姿勢で話すルドルフだったが、部屋にいた女性に気付くと、大きく目を見開いた。
「……先生」
「やあ、ルドルフ。相変わらず頑張ってるね」
「ぁ……はい。先生も、お元気そうで何よりです」
耳がパタンと倒れ軽く目を伏せるルドルフに、先生と呼ばれた女性は気まずそうに目を逸らす。
この空気が、二人の間に並々ならぬ事情があると示しているが、それは今語る事ではないのだろう。
やがて空気に耐えられなくなった女性が、部屋を出ようと席を立った。
しかし、やよいがその背にストップをかける。
「静止! 待ちたまえ」
「まだ何かあるんですか?」
「君の決意は分かった。しかし、来週の水曜にある選抜レース。それを見に行ってくれないか?」
「なんで、そんなこと……」
「君とてトレーナーを志してこの学園に来たのだ。ならば最後くらい、レースを見るのがせめてものケジメではないのか?」
「そんなことしても……!」
「これは、ルドルフさんのお願いでもあります」
たづなの言葉に、女性は驚きの表情でルドルフの方を見る。
ルドルフは部屋に入って来た時とは違い、まるで悪戯が親にばれた子供のような、縋りつくような顔をしていた。
この時、初めて女性は迷いと戸惑いを見せた。
「……分かりました。ですが、それで最後です」
「了承! ……ありがとう」
やよいの礼に、やはり女性は気にすることなく部屋を出て行った。
「これで良いのだな?」
「はい。ありがとうございます、理事長」
「ですが、本当に良かったのですか? あまりこんなことは言いたくありませんが、有望な娘はすでにスカウトされています。もし、来週の選抜レースを見ても、彼女が何も思わなかったら……」
「大丈夫です」
たづなの懸念はもっともである。
もし、彼女がレースを見てもかつての情熱を取り戻さなければ、おそらく二度と昔の彼女は戻ってこない。
それでもルドルフは言い切った。
何故なら、来週の選抜レースには、
「…………なに、あれ」
トレーナーの女性は、あまりの衝撃に席を動けなかった。
理事長から言われたからと、仕方なく見に来た選抜レース。
すでに有望株はスカウトされ尽くしており、このレースに出るのは、言葉は悪いが誰の目にも止まらなかった非才のウマ娘しかいない。
なのに、その中で
だからこそ思う。実に
たまらず立ち上がり、早足で彼女の元へ向かう。
先のレースで一位を取った小柄で白髪のウマ娘は、それなりの数のトレーナーに囲まれスカウトを受けていた。
これだけいれば、彼女に声を掛けるのは難しいだろう。
遅かったかと、少しだけ残念に思った女性は諦めようとして、その声を聞いた。
「――――私が走る理由は、何だと思いますか?」
今日何度目かの衝撃が、女性トレーナーを襲った。
「(スカウトに来たトレーナーにそんな問いをするなんて、まるであの娘のよう……)」
彼女の周りにいたトレーナーたちは、口々にこうではないかと、憶測を言っていく。
だが違う。きっと、彼女の求めている答えは、そういうのではないのだ。
気づけば、ポツリと洩らしていた。
「――自分で考えなさいよ」
周りの喧騒に掻き消されそうな小さな声だったが、さすがはウマ娘というべきだろうか。
そのウマ娘は、人の波を掻き分けて女性トレーナーの前まで来ると、ただ何も言わずに女性トレーナーを見つめる。
「(……言うな。言うな。言うな。言うな。言うな。お前にそんな資格なんてないでしょう? あの娘を裏切った私が、その言葉を言っていいわけがないでしょう!)」
心の中で、
しかしその叫びも、ついさっき見た光景で簡単に掻き消された。
「私は、あなたをスカウトしたい。受けてくれる?」
「はい。喜んで」
そう言って、眼の前のウマ娘――――メジロクラウディは、伸ばされた女性トレーナーの手を取った。
前書きにも書きましたが、アニメ観るので多分間が開きます。
なので、雲ちゃんがリギルに入ったらというIF回を一話挟んで本編を進めたいと思います。