テイオーの大阪杯、赤坂さんの「もはや前二人はどうでもいい!」
……時代が時代なら、炎上待ったなしなんだろうなぁ。
1遅かったスタートライン
選抜レースで初めて一位を取った。
重賞での勝利だとか、GⅠの勝利だとか、そんなものよりもちっぽけな勝利。
だけどそれは、私にとって大きな一歩だった。
◇◇◇
「ハァ……ハァ……ハァ……ッ!」
「まだまだ足りない! もっと足を動かしなさい! スタミナを気にするな!」
多くのウマ娘たちがトレーニングに励むトレセン学園のグラウンド。
その中に、そのウマ娘はいた。
たなびく白い髪に小柄な体躯のウマ娘――メジロクラウディが足を動かし、その後ろから女性の声が飛んでくる。
「は、は、は……どうでしたか?」
「やっぱり速さが足りないね。後は、途中からフォームが崩れてた。集中力を切らさないようにね」
「はい」
つい先日までは見られなかった光景。
メジロ家の残りカスに、女性のトレーナーが指導を施している。
「今はとにかく、スピードを上げることと、フォームの修正を意識しなさい」
「……がんばります」
新たな日常の一コマである。
◇◇◇
彼女の走りに魅せられた選抜レースの翌日。
無事トレーナー登録を済ませた私こと、
「それじゃ、まずは自己紹介からしようか。私は雨乃智雲莉。呼び方は好きに呼んで」
「では、トレーナーさんとお呼びします」
「うん。いいよ」
視線で自己紹介を促すと、眼の前の彼女は紹介を始めた。
「知ってるかもしれませんが、名前は、メジロクラウディです」
世間一般的に言うなら、クール系という単語が如何にも似合いそうな無表情。
見た目の可憐さも相まってか、やはりお嬢様だなぁと感じる。
「さて、他のことはこれから知って行くとして、私はあなたとトレーナー契約を結びました」
「そうですね。私と契約を結んで下さったこと、とても感謝しています」
話し方が固い気がするけど、それも仕方ない。
会ってまだ二日程度だしね。
「これからあなたとやって行く訳だけど、その前に一つだけ、聞いておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「あなたは、何をしたい?」
そう問うと、クラウディは俯いた。
スカウトした時の、彼女がトレーナーたちにしていた問いかけ。
きっと彼女は、何をしたいのかが定まっていないのだろう。
大抵のウマ娘なら、三冠なり、トリプルティアラなら、他のウマ娘を追いかけるなり、この問いにはすぐに答えられる。
何故ならウマ娘とは、良くも悪くもレースに憑りつかれているのだから。
特に中央は、その傾向が顕著に表れる。
レースしか知らず、レースしか見ず、レースしかない。
だから、聞かなければならない。
目標ではなく、なにがしたいか。一見同じに見えるが、その実本質は異なる。
クラウディは間違いなく、後者の側だ。
さて、クラウディはなんて言うのかな……?
「――私は」
「私は?」
「一位を取りたいです」
――ウマ娘にとって、より良い世界を作りたいんだ。
「一位を?」
「はい」
「三冠とか、そういうのじゃなくて?」
「一位が取れれば、何でもいいです」
――三冠とか、興味ないの?
――私は、他のウマ娘が笑っているのが好きなんだ。
……参ったなぁ。
まさかこんな部分まで、
「そっか。うん、じゃあ、一位を目指そうか」
「え……?」
クラウディに変な反応された。
え、もしかしてちゃんとした目標があったりしたの?
だとしたら私、なんかすっごい恥ずかしいんだけど……。
「何その反応、もしかして違うの?」
「いえ、その、あんまり歓迎されないかと思って」
まあ、確かに抽象的だものね。
明確な目標を持っていた方が、トレーニングのモチベーションも大きいし。
「……別に良いじゃん。レースなんて後で決めればいい。私はあなたのしたいことを、否定しないよ」
「トレーナーさん……」
「もちろん、出たいレースとか決まれば、遠慮なく言ってくれて構わないよ」
「……ありがとうございます」
そう言って頬を染め礼を言ってくる、無表情
…………中々可愛い所もあるじゃん。
これがギャップ萌えか。
コホン。
何はともあれ、クラウディにレースの希望がなくとも、仮とはいえ今後の指標たるレースを定めておく必要はある。
そのためには、能力の把握が必要だ。
よって、グラウンドで色々と計ったんだけど……さっそく問題が発生した。
「お、遅い……」
「すいません……」
タイムが遅い。遅すぎる。
むしろ、どうやってあの選抜レースを勝ったのか、疑問に思えるほどの遅さだ。
まさかの結果に少し引いていると、クラウディがシュンとなってしまった。
イカンイカン。
「えーっと、取りあえずは、通常のトレーニングに基礎能力のトレーニングを重ねようか。それと……」
「……ごめんなさい」
今後のトレーニングの予定を考えていたら、急に謝られた。
「私、やっぱりダメダメですよね。その、トレーナーさんが大丈夫なら、契約解除を――」
「あほ」
「あいたぁ!?」
急に変なことを言いだしたクラウディにチョップをお見舞いする。
話が飛躍しすぎでしょ。
「私はあなたの走りを見て、あなたのトレーナーになったの。こんなすぐに解除するわけないでしょう?」
「でも、私なんかじゃ、きっと迷惑かけることになっちゃいますし」
「くどい。そうやってウジウジしてる暇があったら、5周走ってきなさい!」
「は、はいぃぃぃぃいい!!」
はぁ……あの娘、自虐が過ぎる。
それにしても、一位を取りたい、か。どうするかなぁ。
その為にはある程度の身体づくりも必要だけど、それはどうにかできるとして、問題はその後のGⅢから。
彼女に足りないのは、明らかに速さ。
スタミナは無視していい。というか、あり過ぎてるくらいだ。
彼女が息を切らしているところ、一回も見ていないし。
なんなら能力測定のための今さっきのメニュー、昔見た
それをこなせたんなら、スタミナは折紙付き。
……とはいえ、今のスピードじゃあ、GⅡにも行けない。
まあ、努力はしようか。
私、