トレーナーさんと契約を結んだ翌日。
私はグラウンドにて、トレーナーさんと今後のトレーニングについて話していました。
「取りあえず、今後はトップスピードを上げることを最優先にする。あなたのスタミナは十分だけど、トップスピードが上がらなきゃどうにもできない」
トレーナーさんの言うとおりです。
どれだけ長い距離を走れようと、遅ければ意味がない。それがレースの世界。
「それからダンスの練習もね」
「え? ダンス、ですか……」
「そりゃ、ウイニングライブとかあるしね。勝ったらだけど」
…………。
そうだった……ッ!!
今まで選抜レースで勝つことなんて無かったから、ウイニングライブとか考えたことなかった!
恥ずかしい! 恥ずかしい!
あぅ、トレーナーさんに呆れられてないかな……?
しかも
「一応聞いとくけど、ダンスとかってどれくらい出来る?」
「……ごめんなさい」
「ああ、分かった。その反応で分かったから、落ち込まないで」
私はダンスが苦手なんです……。
昔、お祖母様が現役だった頃のウイニングライブのDVDを見せて貰ったことがあったんですが、マックイーン姉さまやライアン姉さまたちがノリノリで踊る中、私だけが転んで泣いちゃったことがあります。
それからというもの、どうにもダンスは苦手なんです。
「ま、まあ、それは練習次第でどうにかなるから。むしろ大事なのは、ここからでさ……」
「なんでしょう?」
「クラウディはさ、他のウマ娘の走り方とか参考にしてたりする?」
「は、はい。してます」
「誰の走りか、聞いても?」
「え、えっと……色んなウマ娘のです。DVDとかで」
「つまり、手当たり次第ってこと?」
昔の私はどうすれば速く走れるか分からなくて、とにかく色んな人の走りを見ました。
どういうふうに走ればいいか理解出来れば、きっと少しは速くなると思ったから。
ですが、私の話を聞いたトレーナーさんは、手で目を覆って空を見上げてしまいました。
「……やっぱりそういうことか。いやでもこの娘は悪くないし、むしろ積極的に学んでることはそれだけやる気があると言うことで……」
「トレーナーさん?」
「ん? あーごめん。とりあえず聞きたいことは聞けたから、今日のトレーニング、始めようか?」
「はい、よろしくお願いします!」
「それと、他のウマ娘の走りを参考にするのはこれからは禁止ね。少なくとも私が許可を出すまでは」
「……え?」
◇◇◇
お昼休み。
多くのウマ娘たちが、空腹に誘われるままに食堂へと駆け込む頃、クラウディの姿も食堂にあった。
「ダンスのトレーニング、どうしようかなー」
大きなハンバーグを突っつきながら、苦手なダンスをどうしようかと考えていた。
もちろん、デビューしてレースを走るからには、ダンスの振り付けは覚えておかなければならない。
どんなレースでも一位を取りたいのならばなおさらである。
しかし、苦手なダンスを覚えるために、他のトレーニングをおろそかにしては本末転倒である。
悩みながらハンバーグを食べていると、背後から声が掛けられた。
「あれ~、クラウディじゃん」
「……テイオーさん」
クラウディが振り返ると、そこにはトレーを持ったトウカイテイオーがいた。
テイオーはクラウディの対面座席に座る。
「どうしたの? そんなに悩んで」
「私、そんな顔でした?」
「うん。こう、うぬぬぬぬぬって顔してた」
「そ、そうですか」
テイオーの指摘に途端に恥ずかしくなったクラウディは、次からは気を付けようと思った。
「それで? 何を悩んでたの」
「実は…………」
正直、個人的な問題なため、あまり迷惑を掛けたくなかったが、一人で悩んでいても仕方ないと、思い切ってテイオーに相談することにした。
クラウディから話を聞いたテイオーは、少しだけ考える素振りを見せると、こう言った。
「それなら、ボクが教えてあげる!」
「それはさすがに、御迷惑をかけるわけには……!」
「大丈夫だって! ボクもそろそろ見直しておきたいなーって思ってたし、気にしなくていいよ」
「でも……」
「まあまあ。それにほら、ボク元々、今のチームのメンバーにダンスを教えてほしいってカイチョーに言われてから、そのチームに入るのを決めたしね。それにクラウディとたくさん触れゲフンゲフン!! そういうわけだから、ボクが! 絶対! おしえるからね!」
「そういうことなら、お願いしても良いですか?」
「もっちろん! 無敵のテイオー様に任せてよ!」
こうして、クラウディはテイオーからダンスレッスンを受けることになった。
◇◇◇
昼食後、そのままダンスレッスンをすることになった二人だったが、
「それでねー、ここはこうでー」
「あ、あの……」
「ここのステップは、右足を前に出してー」
「そのぉ……」
「くるっとターンした後に、決めポーズ!」
「テイオーさん!」
「どうしたの?」
「あの、近いです!」
どうにもテイオーの距離が近いのだ。
手取り足取りという言葉もあるが、それにしても近い。
クラウディの後ろから、テイオーがクラウディの手足を動かして覚えさせている。
しかし、クラウディが振付に躓くその度に、テイオーは体を密着させてくるのだ。
その上、どうすればいいかを耳元で囁かれるたびに、脳のキャパが限界に近づいていく。
さらになんか、テイオーの手が肌を擦ってくるというか撫でて来るというか、妙に羞恥心が煽られるのだ。
端的に言って、恥ずかしい。
「でもなー、ダンス上手くなりたいんでしょ?」
「うぐっ」
「その為には、これぐらいの恥ずかしさは我慢しないと! それに、本番になったらもっと多くの人が見てるんだよ!」
「ふぎゅっ」
「今こそ、ガッツを見せる時だよ!」
「……が、頑張ります!」
ちなみにこの間も、テイオーはクラウディに密着している。
教わっている立場という罪悪感に加えて、耳元で囁かれるせいでまともに思考は機能せず、クラウディはへとへとになるまでレッスンを続けることになった。
ちなみにテイオーはと言うと、
「(ああ……クラウディの身体柔らかいなぁ、それに肌もすべすべだし、もっちもちだし……も、もうちょっとだけこのままで居させて。マックイーンに知られたらヤバいけど、もうちょっとだけこのままで……!)」
内心でこんなことを思っていても、表情に出さないのはさすがと言うべきだろうか。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」
「お疲れー」
「は、はい。ありがとうございました」
レッスンも無事に終了し、正体不明の謎の疲れで座り込んだクラウディに、テイオーがスポーツドリンクを渡す。
「クラウディ、どうだった?」
「少しは上達したと思います。テイオーさん、ありがとうございます」
「えへへ。どういたしまして。言ってくれれば、また見てあげるからね?」
「じゃあ、また時間があるときにでも」
「うん!」
恥ずかしかったとはいえ、分かりやすかったのは事実。
感謝の気持ちを伝えると、テイオーはむず痒そうに笑った。
「……えへへ! クラウディー」
「きゃっ……!?」
そして何を思ったか、テイオーがクラウディに抱きつく。
「て、テイオーさん! その、今は汗かいてるので!」
「ボクそんなの気にしないよ」
「で、でもぉ」
テイオーがクラウディの首筋に顔を埋める。
汗をかいてる恥ずかしさから、クラウディはテイオーを離そうとするが、テイオーがガッチリと捕まっており、中々離れない。
「えへへー」
「ぅぅ……テイオーさんのいじわる」
「ぎゅー!」
結局、クラウディもまんざらではない表情で、テイオーを抱きしめ返すのだった。
後日、クラウディから事の次第を聞いたマックイーンによって、テイオーは追いかけまわされることになるのだが、それはまた別のお話。