メジロ家の落ちこぼれ   作:神咲胡桃

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3愛され系?

今日も今日とて、クラウディはテイオーとダンスレッスンに励んでいた。

 

マックイーンに追いかけられたことが効いたのか、最近ではテイオーが密着することもなく、クラウディはまるで水を吸うスポンジのように、ダンスを覚えていった。

 

本人の努力もあるだろうが、やはりテイオーの教えも効果があるのだろう。教え方が非常に上手い。

 

そして休憩中の会話に出たのは、最近のテイオーだった。

 

「テイオーさん。皐月賞、頑張って下さい」

「うん! クラウディも見ててよ! ボクがかっこよく勝っちゃうところ」

 

クラシック級に移るにあたって、テイオーは兼ねてより公言していたクラシック三冠をめざし、皐月賞に出走する。

 

幾度となくその話を聞いていたクラウディは、テイオーの夢への第一歩を応援する。

 

「クラウディも、もうすぐデビュー戦なんでしょ? ボク、絶対応援行くからね!」

「そ、そんなの悪いですよ。ただでさえ、皐月賞に向けての調整があるのに、こうしてダンスレッスンを手伝ってもらってるのに……」

「ボクがクラウディのレッスンを見るって言ったんだから、最後まで見るのは当たり前だよ。大丈夫だって。クラウディならいけるよ!」

 

テイオーの言葉に、クラウディはやる気がみなぎるのを感じた。

 

もうすぐ始めるメイクデビュー戦。絶対に負けられない。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、クラウディはグラウンドで雲莉から指導を受けていた。

 

「もっと腕の振りを意識して! テンポを崩さない。もっと辛くなるよ!」

 

雲莉の声を背に受けながら、頭のてっぺんから爪先まで意識を集中させる。

 

速度が出ないことに対する雲莉の秘策。それは、フォームを整えることだった。

 

数日前、

 

 

『――フォームの矯正、ですか』

『クラウディは、色んなウマ娘の走りを参考にしてるって言ってたよね?』

『はい』

『参考にするのは間違ってないんだけどね。あなたの場合は、参考にしすぎてる』

『えっと……?』

『詰まる所、あなたの走り方は、脚質や適性距離問わず、いろんな走り方が混ざってる状態なの。だから噛み合わずに速度が出ない。今日からは、フォームを修正するからね』

 

 

それからというもの、クラウディにはフォームの矯正が行われていたのだが、その中で雲莉はその異常性に気付かされた。

 

「……彼女の適性距離が分からない」

 

そう。()()()()()()()()()()()()()()()()のである。加えて()()()()()()()()

 

これは悪い意味ではなく、むしろどの距離、脚質も悪いものではないからだ。

 

なまじ前のフォームが複数の走り方が混ざっていた為に、距離ごと、脚質ごとの走り方を彼女は、断片的にものにしてしまっていた。

 

ある意味で、究極の器用貧乏だ。

 

これでは、彼女の脚質や適性距離が正しく判別できない。

 

適正ではない距離や走り方をすれば、待っているのは故障だ。それだけは避けたい。

 

もしかすると、全ての距離、脚質が走れるかもしれないが……そう判断するのは、本当に最後の手段だ。

 

取りあえず今は、現時点で最も良いタイムを出せている中距離のメイクデビュー戦に出走登録している。そのレースをもって、メジロクラウディは正式にデビューすることになる。

 

「まずは、目の前の一勝か……」

 

気持ちを切り替えて、雲莉は指導を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の特訓を終え、雲莉はとある部屋を目指していた。

 

「ここか……」

 

目的の部屋に到着した雲莉は、ドアをノックすると、中から入室を促す返事が返って来た。

 

返事に従い中に入ると、湿布の臭いに似たツンとした刺激臭が漂ってきた。

 

「君は初めてみる人間だが、一体誰だい?」

「初めまして。私は雨乃智雲莉。メジロクラウディのトレーナー」

「へぇ……。まさか彼女にトレーナーが付いたとはな」

 

しげしげと雲莉を眺めるアグネスタキオンに、雲莉はさっさと要件を告げる。

 

「クラウディから、あなたの事を聞いてね。肉体改造を施してるんだってね?」

「ああ、そのことか。言っておくが、合法だからな。クラウディでデータが取れたら、私にも施すつもりなのだから」

 

雲莉がタキオンの研究室に来たのは、クラウディから肉体改造の事を聞いたからだ。

 

すでにトレーナーがいるウマ娘なら非合法と言うことはないだろうが、念のためにこうして話を聞きに来たのだった。

 

「それで用事というのは、肉体改造を止めろと言いに来たのかな?」

「いいえ。むしろ逆よ」

 

意外な言葉に、タキオンは驚いたような表情を見せる。

 

タキオン自身、クラウディにトレーナーが出来たら、今のデータ採取も終わるだろうと考えていた為、雲莉の言葉は予想外のものだった。

 

「あなたは知っていると思うけど、あの子は遅いわ」

「そうだね」

「それが、あなたの肉体改造を施されている上であるならば、止めさせるわけにはいかない。ただでさえ少ない勝ち筋を、潰すわけにはいかない」

「意外と辛辣なんだねぇ」

「事実を事実として受け入れられなければ、あの子を勝たせてあげることは出来ない」

 

毅然と答える雲莉を興味深そうに眺めた後、タキオンは机に置いてあったタブレットを手に取り、雲莉に近づく。

 

「中々面白いねぇ。気に入った。君が欲しいと思うなら、今さっき考案した走法を、君たちに授けようじゃないか。どうする?」

 

試すような、挑発的な視線を向けられた雲莉は、少しの間迷う素振りを見せるも、答えが出るのにさほど時間はかからなかった。

 

「わかった。あなたの言う走法、私たちに教えてほしい」

「……いいだろう!」

 

如何にもマッドサイエンティストと言わんばかりの笑みを浮かべ、両手を広げたタキオン。

 

それを見た雲莉は、用は済んだとばかりに部屋を出ようとする。

 

「それじゃ、詳しいことはまた伝えるわ。あなたのトレーナーにも伝えないといけないし」

「ああ、待ちたまえ」

「何かあるの――――」

 

 

――ズドンッ!!

 

 

タキオンに呼び止められた雲莉が振り返った瞬間、タキオンの右手が、雲莉の左側に突き出される。

 

雲莉の背中は既に扉に当たっており、突きだされたタキオンの右手も、音を立てて扉に立てられた。

 

いわゆる、壁ドンの体勢である。

 

 

「……一応伝えておくが、彼女への肉体改造は、私が直接行っていた。つまり、君が彼女のトレーナーになる前までは、私が彼女を育てたと言っても過言ではない。そこの所、間違えないでくれたまえ?」

 

それだけ言うと、タキオンは雲莉から離れ、雲莉も何事もなかったように部屋から出ていく。

 

しかし、雲莉の頭は混乱していた。

 

「……この場合、あの子が愛されてると喜ぶべきか、それとも厄介事が増えたことに嘆くべきか……はぁ」

 

壁ドンだなんて乙女チックなことを体験したにも関わらず、雲莉の口からは重い溜め息しか出てこなかった。

 

 

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