メジロ家の落ちこぼれ   作:神咲胡桃

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雲ちゃんの初めてのレースです。

レース描写については、まじで勘弁してください。


それと今更ですが、誤字脱字報告ありがとうございます。


4初めてのレース

テイオーさんが皐月賞を勝利した。

 

もちろん、私もトレーナーさんに許可を貰って、中山レース場で直接応援した。

 

ゴールの間際、一瞬だけ観客席――しかも私の付近に顔を向けていたけど、誰か知り合いでもいたのかな?

 

何はともあれ、テイオーさんは無事、夢への一歩を踏み出すことになった。

 

そして私も、念願のメイクデビュー戦の日が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

「……緊張してる?」

「緊張……というより、感極まったという方が正しいです。私には、きっと味わうことのできないものだと思ってましたから」

 

控室の中で、トレーナーさんとお話しする。

 

これも憧れていたことの一つ。レース前のお話は、今からレースに出る……()()()ことを強く意識するから。

 

「その感想は、走ってからにしておきなさい。観客席で応援してるわよ」

「はい。勝ってみせます」

 

テイオーさんも、皐月賞を勝ったんだ。

 

同じ場所に立てるとは思わない。三冠なんて夢のまた夢。

 

そんなの分かってる。

 

だけど、せめてそこに近づきたい。

 

「私は、やれます」

「そっか……応援してるよ」

 

それだけ言って、トレーナーさんは控室を出て行った。

 

周りを見れば、他のウマ娘もそれぞれトレーナーの人と話している。

 

メイクデビュー戦なためか、出走予定のウマ娘の控室は、まとめて一つの部屋が控室になっている。

 

だから他のウマ娘の表情も見れて、そのどれもが、緊張が顔に張り付いていた。

 

目の前の鏡を見る。いつも朝に見るような表情だった。

 

「……うん、大丈夫だ」

 

どことなく気楽に感じる。

 

むしろ選抜レースの時の方が緊張していた気がする。

 

ボーッと鏡を見つめていると、他のウマ娘のトレーナーも控室を出ていき、控室はウマ娘の呼吸がやけに大きく感じた。

 

『――出走の皆さん、間もなくレースが始まります』

 

スタッフの人が控室に来て、控室に居たウマ娘たちが動き出す。

 

私も立ち上がり、地下バ道に向かう。

 

夢にまで見たレースまで、もうすぐである。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

時は戻り、雲莉は控室を出て観客席に向かっていた。

 

メイクデビュー戦とはいえ、これからの将来有望なウマ娘が生まれるかもしれないのだ。それなりの人数が観客席にいる。

 

しかし、やはりメイクデビュー戦。閑古鳥が鳴いているとは言わないまでも、重賞のレースに比べれば、やはり人は少ない方だろう。

 

ここにいるのは、コアなファンと、出走するウマ娘のトレーナーと、それと――

 

「……意外ですね。まさかあなたたちがここにいるなんて」

「昔の教え子が新たに担当するウマ娘のレースだもの。一応、期待の新人ということで偵察に来たのよ」

「俺もおハナさんに同じくだな」

「クラウディが走るなら、ボクがいるのは当然だよね!」

 

――こんなメイクデビュー戦の会場にいるとは思えないような、人とウマ娘である。

 

 

一人は数々の有名ウマ娘を輩出している、強豪チームの一角であるチームリギルのトレーナーでありおハナさんの呼び名で親しまれる、東条ハナ。

 

 

一人は一時期チーム登録抹消の危機に危ぶまれたが、サイレンススズカやスペシャルウィークなどのウマ娘を擁するチームスピカのトレーナー、沖野晃司。

 

 

一人はつい先日の皐月賞を勝利し、三冠への一歩を踏み出したウマ娘、トウカイテイオー。

 

 

そして、

 

「そ、その、先生。お久しぶりです」

「……うん。ルドルフも久しぶり」

 

 

トゥインクル・シリーズで七冠を達成し、絶対があるとまで言わしめる伝説のウマ娘の一人、シンボリルドルフ。

 

 

トレセン学園の生徒会長たる彼女が、まさかメイクデビュー戦のこの場所に来ているとは思わなかった。

 

「それで、なぜ皆さんがここに?」

「あら、さっきも言ったでしょ? 元教え子の担当ウマ娘ぐらい、今の内に偵察しておきたいのよ。()()()()()()()()()()()()()

「……昔の話ですし、それに七冠を達成させたのはおハナさんじゃないですか」

「三冠まではあなたが担当していたじゃない」

 

東条から言い返され、雲莉は気まずそうに視線を逸らす。

 

「ハッハッハ! やっぱおハナさんには弱いな、雲莉ちゃんは」

 

今度は沖野が、雲莉をからかう様に話しかける。

 

東条と沖野は雲莉がサブトレーナー時代からの知り合いであり、特に東条にはサブトレーナーとして、様々なことを教えてもらっていた。

 

いわゆる師弟関係の様なものである。

 

故に、雲莉は東条にはあまり強く出れないのだ。

 

「沖野さんも来たんですね。ちょっと意外です」

「ああ、俺はテイオーの足としてな。テイオーがこのレースを見たいって言うから、連れて来たんだ」

「フフン! クラウディがボクのレースを見に来てくれたんだから、ボクだって見に来るのは当然だよ!」

「……ってな感じでな」

 

自慢するように少々残念な胸を張るテイオーに、沖野は苦笑する。

 

そして雲莉は、一番気になっていた人物に声を掛けた。

 

「ルドルフが来てるのも、意外ね。生徒会の方は大丈夫なの?」

「っ! ……はい、済ませる必要のある仕事はすでに終わらせているので……」

「カイチョー?」

「な、なんでもない」

 

皇帝とも呼ばれたあのシンドリルドルフが、何時もの堂々とした姿ではなく、どこか怯えている様子を見せていた。

 

その様子を疑問に思ったのか、テイオーが声を掛けると、ルドルフはいつものような毅然とした立ち振る舞いに戻った。

 

『――間もなくレースが始まります』

「おっ、もうすぐだな」

「……そうですね」

 

アナウンスからさほど時間もかからず、出走ウマ娘たちが続々とゲートに入って行く。

 

「クラウディだ! おーい、クラむごっ!?」

 

途中、クラウディの名前を叫ぼうとしたテイオーの口を、雲莉が慌てて塞ぐ。

 

「ちょっと、あなたは皐月賞ウマ娘なのよ!? あなたがここにいると広まるだけでも不味いのに、そんなあなたがクラウディの名前を叫んでみなさい。絶対に余計に注目されるって!」

 

皐月賞ウマ娘がメイクデビューのウマ娘を名指しで応援する。

 

そんな話が広まってみろ。確実に悪い意味でも良い意味でも注目が集まる。

 

そしてそのほとんどは、悪い意味だろう。

 

「あ……ごめんなさい」

「わかってもらえれば良いよ。私も、いきなり口を塞いだりして、ごめんなさい」

 

互いに謝り、ターフへ視線を戻す。

 

すでに準備が終わっており、ウマ娘たちは構えを取っていた。

 

どのレースでも共通する、スタート前の一瞬の静寂。

 

この数時間にも感じられる数秒の後、ゲートが開いた。

 

「よし」

 

知らずの内に、雲莉の口から声が漏れていた。

 

一斉に飛び出たウマ娘たちの中、クラウディは先頭についた。

 

「……よし、よし」

 

うわ言のように呟く。

 

今回クラウディに指示したのは”逃げ”で走る事。そして、()()()()()()で走る事。

 

前者はともかく、後者はどんなウマ娘でも、明らかにおかしいと思う内容。

 

メイクデビュー戦とはいえ中距離。最初から全力で走ってしまえば、絶対にスタミナが続かない。

 

だが、彼女にはそれが出来る、出来てしまうスタミナがある。

 

ちらりと隣を見る。東条や沖野、テイオーにルドルフも、クラウディが全力で走っていることに()()()()()()()ようだ。

 

 

やがて最終コーナーに差し掛かるが、足を残して走っていた他のウマ娘と、最初からハイペースで走っていたクラウディでは、既に大きな差が出来ていた。

 

これはクラウディのハイペースによって、自分たちのペースが乱されたからであろう。

 

序盤から大きな差が出来てしまえば、終盤に追いつくことは出来なくなってしまう。

 

だからペースを上げるのが間違いとは言えないが、このレースに出ているのは経験の乏しいウマ娘しかいない。

 

故に、早々にバテてしまったのだろう。

 

「……決まったか」

 

ルドルフがポツリと漏らした。

 

そして彼女の言った通り、この差ではラストスパートをかける必要もなく(最初から全力なので掛けれないのだが)、クラウディは悠々とゴールイン。

 

1位のウマ娘が大差で勝利した()()()()()()()()()

 

しかしその本質は全くの別。クラウディ以外がバテたからそう見えるだけである。

 

タイムを見ればそれは一目瞭然であり、おそらく東条と沖野は気付いたはずである。

 

1位のウマ娘へ拍手が届けられる中、余計なことを聞かれる前に、雲莉はクラウディの元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

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