ちなみにお祖母様は3人からまだ許して貰えていないそうな……何故や。
荒ぶる息を整え、顔を上げれば拍手を送る観客たち。その拍手は、すべて私”だけ”に向けられている。
後ろを振り返れば、私よりも”遅れた”ウマ娘たちが、”悔しそう”に膝をつき、数人は”涙をこぼして”いた。
ここにきて、
観客席に視線を戻し、拍手が飛んでくる観客席へ手を振る。
――これが一位。
――これが勝利。
――夢にまで見たレースで
――私は勝った。
なんて
なんて
――――なんて、気持ちいいんだろう。
◇◇◇
「クゥー! おめでとうございますわー!」
「わわっ。マックイーン姉さま、苦しいですよー……えへへ」
木漏れ日が降りかかる中庭で、私はマックイーン姉さまに抱きしめられていた。
ギューッと抱きしめられて、ちょっとだけ苦しいけど、この温もりが心地良かった。
「マックイーン、独り占めは良くないよ」
「そうよ。クラウディと話したいのは、あなただけではないのよ」
近くのテーブルでは、ライアン姉さまとドーベル姉さまが待っていた。
今日はなんと、姉さまたちからお茶会に誘われちゃいました!
私がメイクデビュー戦で勝利したお祝いだそうです。
「わ、分かっていますわ。さ、クラウディ、座ってください」
そう言うと、マックイーン姉さまが椅子を座りやすいように引いてくれた。
あわわ。申し訳ないですよ!
「今日の主役はあなたですから、気にしないでください」
「そ、それなら……」
恐縮しながら椅子に座ったところで、お茶会が始まった。
「それにしても、クラウディ。レースの初勝利、おめでとう」
「ありがとうございます。ライアン姉さま」
「せっかくなら見に行きたかったけど、まさか家から招集が掛かるなんてね」
「まったくですわ! クラウディの勇姿、しっかりと見ておきたかったですのに」
「まあまあ、執事さんに頼んで、ビデオで撮ってもらったんでしょ?」
マックイーン姉さまは当然として、ライアン姉さまやドーベル姉さまも、それぞれの家でのお役目があるらしく、偶に家から集められるらしいです。私は末端も末端なので、そんな堅苦しい事はありませんが。
それでも、昔お二人の両親とは会ったことがある。
ライアン姉さまの御両親は、筋肉がすごかった。
ドーベル姉さまの御両親は、反対に凄いお淑やかでThe・大和魂みたいな感じだった。
「マックイーン姉さまも、春の天皇賞優勝、おめでとうございます」
「ふふ。ありがとう、クゥ。もっとも、ほとんど僅差の様なものでしたが」
「ライアン姉さまは……その、残念でした。で、でも! すごくかっこよかったです!」
「うん、ありがとう」
姉さまも先日、悲願である天皇賞(春)を優勝した。
あのレースは私も直接見に行った。
ライアン姉さまとの壮絶なデッドヒートの末、マックイーン姉さまが逃げ切って優勝を手にした。
あの時の興奮と感動は、未だに忘れられない。
そのことを思い出しながらケーキを食べようとフォークを持って、ふと、マックイーン姉さまだけケーキがないことに気付いた。
「マックイーン姉さまは、ケーキを食べないんですか?」
「え、ええ。私は食べた分が、すぐに体に現れますし、レースのために減量しないといけないので……」
「そう、ですか」
それを聞くと、マックイーン姉さまが我慢してる前でケーキを食べるのが申し分けなくて、フォークをお皿に置く。
「ク、クゥ? どうしたのですか? お腹でもいたいのですか? ハッ、まさか口に合わなかったのですか!?」
慌てた表情で聞いてくるマックイーン姉さまに、頭を横に振る。
「マックイーン姉さまが我慢なさってるのに、私が食べるのは、その……」
「(……え、この子、そんなこと気にしていたのですか。いやですわそんな風に私の事を考えてくれるなんて嬉しすぎますああーやっぱりそれでこそクゥですわですがこのお茶会はクゥのために開いたもので尚且つこのケーキも遠方から取り寄せたクゥの好みであるちょっとだけ渋みがあるけどとっても甘い抹茶ケーキなのですからやっぱりクゥに食べて笑顔になってもらいたいむしろその笑顔こそ私にとっては最高級の甘露であり私の大好物なのですしでもこの子が私の事を慮ってくれたからこそのことでありやはりそんな風に私の事を考えてくれるなんて(以降ループ)――)」
「別に気にしなくていいんだよ? マックイーン、夜にこっそりお菓子を食べてるっていうし……」
「そうね。むしろ見せつけるくらいでいいのよ。あ、私お代わり」
「あなたたちはもう少し気を使いなさいな! というかライアン、それどこで知ったのですか!?」
ライアン姉さまとドーベル姉さまがからかって、マックイーン姉さまが顔を真っ赤にして文句を言う。
3人の掛け合いが、まるで昔のような関係に戻れたみたいで、とても……とても……
「……クゥ。あなた、泣いているのですか?」
マックイーン姉さまのその声で、私は泣いていることに初めて気が付いた。
「ふぇ? ……あ、あれ? なんで、悲しくなんてないのに……泣きたくなんてないのに」
情けない所を見せたくなくて、涙を拭おうとする。
なのに、必死に目元を拭っても、拭っても、涙は止まってくれない。
「そんな乱暴に拭ってはダメよ。ほら、目元が赤くなっちゃったじゃない」
そう言って、ドーベル姉さまがハンカチで優しく涙を拭ってくれる。
「私、違うんです。悲しくなんてないんです。なのに、なのにぃ……」
「大丈夫だよ。あたしも、マックイーンも、ドーベルも、分かってるからさ」
「さ、ケーキでも食べて、落ち着いてくださいな」
三人の優しさが、心の奥深くまで沁みわたっていく。
私は言われるまま、ケーキを一口食べる。
少しだけ渋みがあって、とても甘くて、ふわふわな私の大好きなケーキ……でも、少しだけしょっぱい味のするケーキは
「……大好きです……!」
その後、やっと泣き止んだ私は、後悔と羞恥心に苛まれていた。
「ぅ……ぅぅ……」
「ふふ……顔を赤くするクゥも可愛いですわ」
「ぁぅ~」
マックイーン姉さまに頭を撫でられる。
こうして貰うのは大好きだけど、さっき泣いちゃったこともあって恥ずかしさが勝る。
「さて、名残惜しいですが、そろそろお茶会もお開きに……」
「あ、待って。マックイーン姉さま」
「どうしたのですか?」
私は残っていたケーキをフォークですくい、マックイーン姉さまに差し出す。
「はい、マックイーン姉さま。あーん」
「「なっ!?」」
「……? …………っ!?!?!?」
いくら減量中とはいえ、お姉さまだけが食べられないのは可哀そうだ。
だから一口だけ。それだけならきっと大丈夫。
「ク、ククククククククゥ……そ、それはぁ……!」
「……もしかして、ご迷惑でしたか? ごめんなさい……」
「うえっ!? そんなことありませんわ! むしろバッチこいですわ!」
「そ、それじゃあ、あーん」
「あ、あー……んっ」
マックイーン姉さまにケーキを一口食べさせ、口の中を怪我しないように、ゆっくりフォークを引き抜く。
「ん……」
……なんだか、すっごい胸がドキドキする。なんでだろう……?
「ん~! 幸せでしゅわぁ~」
マックイーン姉さまは幸せそうな笑みを浮かべて、ケーキを堪能していた。
その笑顔は綺麗というより可愛い笑顔だった。
……あれ? ライアン姉さまとドーベル姉さまが、マックイーン姉さまをすっごい見てる。
あ、もしかして、二人もまだケーキが欲しかったのだろうか。既に食べ終えてる様子ですし。
うん。このケーキは美味しかったし、当然だと思う。よーし、だったら――
「ドーベル姉さま、あーん」
「ええっ!? あ、あーん」
「ライアン姉さまも。はい、あーん」
「あはは。ありがと、クラウディ。あーん」
お二人にもケーキを上げると、笑顔でお礼を言われた。
えへへ。なんだかこそばゆいですね。
「クラウディ。お返しよ。あーん」
「ふぇ!? そんな気にしなくて大丈夫ですよぉ!?」
「あら、もしかして迷惑だったかしら?」
「そ、そんなことないです!」
「だったら、ほら」
「あ、あーん」
「ボクもお返しあげるね。 はい、あーん」
「ラ、ライアン姉さままで……あーん」
まさかケーキのお返しが来るとは思わなかった。
でも、二人から食べさせてもらったケーキは、自分で食べるよりもおいしく感じた。
このすぐ後、マックイーン姉さまからもクッキーを食べさせてもらった。
おまけ
お茶会中の会話にて。
「それにしても、マックイーン姉さまは食べたら体に出るんでしたか」
「ええ。ですから減量しなくてはいけなくて、毎日大変ですの」
「夜にお菓子食べたら減量にならないわよ?」
「そこ! うるさいですわよ!」
「……私からしたら、少しだけ羨ましいです。あんまり背が伸びなくて、ちんちくりんな体型ですし」
「別にクラウディも、そこまで気にしなくていいと思うけど」
「私も、姉さま方みたいなナイスバディになりたいです! もっと引き締めるところを引き締めて、出すとこ出して、それに身長も大きく――――」
「「「それはダメ!!(迫真)」」」
「……ふぇ?」
みなさん、お気づきでしたか?
ライアンとドーベルは、雲ちゃんからの「あーん」のお返しに、ケーキをあげました。
でも、雲ちゃんは既に食べ終えていたから、二人に「あーん」してあげました。
意味が分かると怖い話……
なわけねーわな。
単純に紅茶のカップで、雲ちゃんから見えにくいようにしていただけです。
雲ちゃん:単純に食べ遅れた。
ライアン&ドーベル:雲ちゃんに「あーん」をする機会を狙い、わざと一口分残しておいた。
そして雲ちゃんの身長は、マックイーン達三人が抱くと、ちょうど胸の位置に頭部が来る。抱き枕として優秀。
4人でお泊り会をすると、必ず誰が抱いて寝るかを3人が秘密裏に争う。