さもなければ、全てのウマ娘をゴールドシップに変えるウイルスを散布する!
繰り返す! 運営は即座にリトルココうわっ何をするやめろー!
気にしないでください。リトルココン成分が不足なだけです。
ああ、雲ちゃんと絡ませたい。タイシンと一緒に絡ませたい。ロリロリな二人を雲ちゃんに絡ませたいぃ……!
そうだ。アグネスデジタル迎え入れたので、報告しときますね~。
あ、前話にて、マックイーンの天皇賞(春)を優勝したことの会話を入れました。あんま気にしなくていいです。
それと「ご都合主義」タグを追加しました。
『最終コーナー回って先頭は3番○○○○。ここから最後の直線おおっと! 外から6番メジロクラウディが上がってきた! 間が開く。先頭に躍り出たのはメジロクラウディ! さらに加速しゴール!』
京都ジュニアステークス。
グレードはGⅢのこのレースを、メジロクラウディが優勝した。
会場の一部が少々ざわついているのが分かる。しかしそのざわつきは、トレーナーとして経験を積んでいる者だけである。
その理由も分かる。
終盤の加速。あれは本来、する必要のない加速だった。それでも加速したのは、トレーナーである私の指示だ。
この調子なら、あの子は確実にGⅠへの挑戦権を手に入れられる。しかし、そこで戦うにはスピードが足りないのだ。それを補う一手を試すために、今回のレースを走った。
結果は上々。これはギリギリまで隠しておきたかったが、GⅠでいきなり使うわけにもいかない。加速してゴールするまで、時間にしてわずか数秒。これなら、大して気に留められないだろう。
あとは、あの子の足にどれだけの負担がかかるか。
踵を返して、あの子を迎えに行く。ウィニングライブまでは、まだ少し時間がある。しっかりと足のケアをせねばならない。
アグネスタキオンが言っていたことが、昨日のように思い出された。
◇◇◇
「はぁぁぁああああ!」
「うおっはぇ!?」
クラウディの蹴り上げた土が土煙となって宙を舞う。
ストップウォッチを止めると、普段のタイムを大幅に更新していた。クラウディも手ごたえを感じたのか、顔に笑みを浮かべていた。
ここはトレセン学園から離れたところにある廃れたグラウンド。雑草が伸び放題で、最低限の手入れしかされていないここに、私たちの姿はあった。
「どうだい? 私の考案した特殊な走法は。そうだな……『
「意外と、そういう名前を付けたりするんだ」
「心外だな。別にそういう趣味ではないさ」
私の言葉に、不服そうにしたアグネスタキオンが語り始める。
「『爆発加速』は単なる加速ではない。名前の通り、厳密には加速するというよりも
「一点集中?」
「ああ。加速というのは一息に速くなるのではなく、ジリジリと時間ごとに速さを増していくものだ。しかし『爆発加速』はそれらを無視して、一気にスピードを上げる。だから爆発さ」
「今更だけど、大丈夫なのそれ」
「大丈夫だと思うかい?」
「なっ!?」
こいつ……今になって言わないでよ!?
「それに加速と違って一瞬スピードを上げるだけだから、維持できなければ速度は下がる一方だ。おまけに足が耐えれる以上の速さを出せば、それこそ悲惨なことになる。この走法だって、わざわざクラウディのためにいくらか調整したのだからね」
「苦労かけるわね。それにしても、そこまでの代物か……」
「だが、私がその危険性を説いたところで、君たちは使用するだろう? それしか手がないと知っているのだから」
「……一日の使用回数制限は?」
「3回。大事を取って2回に留めておくのが関の山だろう」
「それほどの負担がかかるってことか。でも、自分でやらないの?」
「これを使ったら、私は想定よりも早く引退することになるからさ」
「色んな意味で、他のウマ娘に見せるわけにもいかないか」
「それなんだがね」
呆れたように言ったタキオンがクラウディ……の隣を指さした。
「いやー! やっぱついてきて正解だったな! すげぇじゃねえか!」
「あ、ありがとうございます。でも、タキオンさんのお陰でもありますから」
「……彼女、君の担当じゃないんだろう?」
「言わないで。分かってるから」
クラウディの頭をワシワシと撫でているウマ娘――ゴールドシップ。
沖野さんのチームスピカに所属しているはずの彼女が何時からいたのかは……はっきり言って分からない。だって、あまりにも自然にいるもんだから、気が付いたらいたのだ。
「あー、話してるところ申し訳ないんだけど……ゴールドシップ」
「お、なんだよ?」
「ここで見たこと、聞いたことは黙っててもらえない?」
「おう、いいぜ! アタシだって言いふらすようなつもりもないしな!」
「そう……そう言うなら、信じるわ」
「ちなみにアタシが頷かなかったらどうするつもりだったんだ?」
「なんてことないわ。理事長を通してスピカに抗議文を送るだけだから。スピカのウマ娘にトレーニングを邪魔されたって」
「意外と容赦ねえんだな」
当たり前でしょう。この走法はまさしく最終兵器だ。GⅠに挑めば確実に使うことになるが、それまでこの走法を知られたくない。
これがなければ、きっと勝負にならない。
「……んー。ならよ、あの加速を練習する時は、アタシが並走相手になってやろうか?」
「こっちとしては願ったり叶ったりだけど、スピカは良いの? 沖野さんが大事にするとは思わないけど、引き抜こうとしてるって言われるのは嫌なんだけど」
「安心しろって。トレーナーは説得するさ。もちろん、詳しいことは内緒にしてな」
「だとしても、あなたにメリットはないんじゃ」
「面白そうだから!」
「……ああ、そう」
そう言えば、ゴールドシップってこういうウマ娘だった。頭が痛いが、彼女はこういった約束事はしっかり守る。信頼していいだろう。
「タキオンさん!」
「ん? どうしたのかね?」
「あの、ありがとうございます! タキオンさんには、おんぶにだっこで……」
「気にしなくていいさ。データはしっかりと貰っているし、あれは元々プランビッ……ウマ娘の可能性を探る中で発見したものの一つだからね。君には、それを
クラウディのために、彼女用へ特別に調整したって言ってたくせに……なるほど、照れ隠しか。意外とかわいい所があるじゃない。
ほらほら、尻尾が揺れてるよ?
◇◇◇
さて、タキオンが言っていたことが確かなら、一回使うだけでも気を付けなければならない。
特に彼女は、今回のレースの前にもいくつかレースを走っている。
レースがあった11月までに彼女が走ったレース数は5本。
7月
・巴賞 芝 OP 1800m右 先行
8月
・フェニックス賞 芝 OP 1200m右 先行
9月
・札幌ジュニアステークス GⅢ 芝 1800m右 差し
・芙蓉ステークス 芝 OP 2000m 右 先行
10月
・もみじステークス 芝 OP 1400m 右 追込
そして今回の京都ジュニアステークス。脚質は差し。
多い方ではある。だがその距離も脚質もバラバラ。もうしばらくしたら、世間から批判が現れるかもしれない。
しかし、クラウディと話し合った結果、それでレースに出たのだ。そして、彼女は勝った。
12月にあるホープフルステークス(GⅠ)にも出そうかと思ったが、しばらくはあの子を休ませよう。多少文句は言われるだろうが。
しかし今の彼女は……
「――ん?」
地下バ道を歩いていると、前方にクラウディを発見した……が、どうにも様子がおかしい。寄りかかるように壁に手をついている。
まさか、もうすでに……!
「クラウディ!」
慌てて駆け寄ろうとして、ふと聞こえた彼女の呟きに足が止まった。
「私が1位、私が1位……誰にも追いつかれなかった。私が、他の人を置き去りに走って……ふ、ふひっ……あ、トレーナーさん」
私に気付いたクラウディが、俯いていた顔を上げる。
私の動揺なんて気が付いていない様子で、話し始める。
「気づかなくて、すいません。でも、私勝てました。トレーナーさんのお陰で、私勝ててます。さあ、もうすぐウィニングライブです。一旦控室に戻りましょう?」
言うだけ言って、彼女はスタスタと歩いて行った。
明らかに普通ではない。それに、あの様子は見覚えがある。
「
ウマ娘の中には、勝利を重ねる中でいつしか勝利に固執する子が出て来る。
別に何が悪いというわけではない。勝利への渇望は、本人のモチベーションを上げるうえで非常に重要だ。
しかしそれが行き過ぎると、時として一度の敗北で気を病んでしまうことがある。そのせいで、ターフから去ってしまう子だっている。
これはトレーナーたちの間で、「勝利に呑まれた」と呼ばれている。
実力が無く、今まで勝てなかったクラウディが呑まれる確率はかなり高い。何せ、
「それなりに対策はしてきたけど、無理だったか」
私は勝利に呑まれるウマ娘には法則性があると考えている。
それは、「明確なレース目標を持っていないウマ娘」が呑まれやすいのではないかという説。
ルドルフは「ウマ娘にとって誰もが幸福になれる世界を作ること」が目標であり、その目標に一番近かったのがクラシック三冠だったから、クラシック三冠路線で走った。
そしてクラウディは「1位を取りたい」。そのためなら、レースは何でも良いというスタンス。
こうした自分でレース目標を持っていないウマ娘は、勝利の美酒の意外な美味しさに味を占め、再び美酒を飲みたいと勝利に固執する。
この説が正しいとは必ずしも言えないのだが。
しかし、今言えるのは、一手間違えるだけで
「……絶対に、あなたを折らせはしない。あの時のような間違いは、絶対にしない」
脳裏にフラッシュバックする忌まわしき記憶を振り払い、私はクラウディの後を追った。
京都ジュニアステークスの勝利によって、メジロクラウディの評価が上がり、それに加えてある話が広まった。
曰く、あのウマ娘は
曰く、あのウマ娘に出来ない走り方はないのか。
曰く、あのウマ娘ならば、並み居る強者たちに並び立てるのか。
そして数日後、ジュニア級とはいえ、無敗で短距離、マイル、中距離を勝利したウマ娘が、『蜃気楼』という二つ名で呼ばれ出した。
ウチでの育成続行条件は、ホープフルを優勝できるか。
爆発加速はスプリントバーストで間違いありません