メジロ家の落ちこぼれ   作:神咲胡桃

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昨日投稿して、お気に入り登録数がそれなりに減ったので、やっぱりちょっと露骨だったかなぁと。




2曇り曇らせ、暗い空

 

夜、私は恩師であるおハナさんに連れられ、彼女行き付けのバーへと足を運んでいた。

 

話題は最近の近況だとかそんなものだけど、やはりというかメインは私が担当を持ったことについてだった。

 

「まさか雲莉が、またトレーナーとしての活動を再開するなんてね。話を聞いた時は驚いたわ。()()()()()がまだ尾を引いてると思ったから」

「それは……あの時はすいませんでした。色々と押しつける形になってしまって」

「気にしていないわ。それに、また復帰したことは嬉しいし」

 

あっけらかんと言い、おハナさんはグラスを傾ける。

 

昔、トレーナーとしての仕事から一度退いた私は、おハナさんに迷惑をかけてしまった。

 

実際、そんな簡単に許せるような迷惑でもなかったはずだ。当時はそれなりに話題になったのだから。

 

「どうして戻ろうとしたの? あのメジロクラウディという子に、何を感じた?」

「……分かんないです。あの時は、選抜レースをただ見るだけのつもりでした。でも、彼女の走りに私の心が揺さぶられた。それは確かです」

「そう。それと、もう一つ気になることがあるのだけど」

 

来た。

 

おハナさんが私を飲みにつれて来たのも、ただ世間話をするためでもないことは薄々気づいていた。

 

いやまあ、色々と大変であろうおハナさんなので、そのつもりでもあっただろうが。

 

「あなたの担当の子。あの子の走りは何?」

「……企業秘密です」

「私だって、無理に聞き出そうというつもりはないわよ。でもね、ウマ娘の選手生命を預かるトレーナーとしては、気になるのよね。あの走りは、()()()()()()

「……何か最近、沖野さんに似てきましたよね?」

「なっ!? 誰があんな男と!」

 

顔が真っ赤ですよとは言わない。しかし似ているのは確かなのだ。昔のおハナさんなら、わざわざ気にすることはなかっただろうに。良い変化であるのは間違いないが。

 

その話は置いといて、クラウディの話についてか。

 

コホンと雰囲気を戻したおハナさんが話を続ける。

 

「あの子の走り、あれは間違いなく普通じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、正気の沙汰じゃないわ」

「まあ、そう思うでしょうねぇ」

 

当然の正論に、思わず苦笑いが零れる。

 

おハナさんがバカにしているのかと言わんばかりに、顔がムッとする。

 

「雲莉、分かってるの? 走ってる途中でフォームを変えるなんて、自殺行為に他ならない。下手したら文字通りの事が起きる可能性だってあるのよ?」

 

おハナさんが言うことは正しい。

 

少し話がそれるけど、ウマ娘たちの走る時のフォームは、当たり前だけど別々だ。しかし完全に別物というわけではない。

 

基本的なフォームは共通しており、それぞれの細かな癖が肉付けされていくことで初めて当人のフォームとして完成する。

 

そして、各ウマ娘によってその細かな癖は、さらに細かく変わっている。

 

おハナさんが危惧していること、それは……

 

()()()()()()()()()()()()()()()。それがどれだけ危険か、分かっているでしょう?」

 

そう。クラウディは他人のフォームを模倣しているのだ。細やかな癖すらも模倣したそれは、ほぼ完ぺきと言えるほどに。

 

しかも、レース中に一つだけを模倣するなんてものではない。クラウディはレース中、状況に合わせてフォームを変えているのだ。

 

しかしそれは諸刃の剣でもある。たった一人のウマ娘だけに合っているフォームが、他のウマ娘に合うはずがない。その模倣の先に待ち受けるのは、事故か故障か。どっちにしても良いものではない。

 

それにも関わらず、私がそれを止めさせない理由。それは

 

「おハナさんの言いたいことは分かっています。でも、時間が足りないんです。あの子は早く走るために、様々なウマ娘の走りを見てそれを真似してきた。私がクラウディと出会ってトレーニングをした時間と、あの子が一人で頑張ってきた時間は比べ物にならない。あの子は既に、()()()()()()()()()()()なんです」

 

だからこそ私が出来たのは、模倣したフォームの矯正。せめて複数のフォームを同時に模倣して、めちゃくちゃなフォームにならないようにすることだけ。

 

それでも時間はかかった。現にジュニア級の初めのレースだと、一瞬とはいえフォームがぐちゃぐちゃになることがままあった。

 

そんな状態で、彼女だけのフォームを作るには時間が足りない。というか、フォームと言うのは小さい頃から続けてきた、自然体の走りがそのままフォームになることが多い。

 

今の状態では、それを再びやらせることも難しいのだ。

 

「……ごめんなさい。問い詰めるようなことを言って」

「いえ、おハナさんは間違ってませんから。私、どうしたらいいんでしょう。あの子が走るのを見るたびに、怪我をしないか気になってしょうがないです。……きっとおハナさんや他の上手いトレーナーなら、どうにかできるんでしょうけど。はぁ、私()()()()()()()

 

最後の方は愚痴になりながら、グラスに残った僅かなお酒を一気に飲み干す。

 

今日はもう自棄酒にしようか……。

 

「飲みすぎたら後が辛いわよ」

「ぅぅ~、おハナさ~ん」

「まったく……あんまり悲観しない方が良いわよ。それにあなたの担当、()()()()()()()()()()()()()()()

 

だから、なおさら複雑なんですよ~。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「102票を集め、今年度の最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれたのはこの方。メジロクラウディさんです!」

 

大量のフラッシュが私を照らす。着慣れないドレスに戸惑いながら、私はどうにか笑顔を維持する。ここまで来たらむしろ恥ずかしいのだ。

 

「ありがとうございます」

『出走したレースは六つ。その全てで勝利を収めました。また、距離と脚質を選ばず、その独特な走り方から『蜃気楼』という呼び名でも呼ばれております』

 

本当に何なのだろうか、それ。蜃気楼って何? 初めて知った時は顔から火が出るかと思った。まあ今は炎が出そうなんですだけど。

 

やめてください。恥ずかしさで死にそうになります。

 

「では、今後の目標を聞いてみましょう」

「……私は、支えてくれる方たちに恥じない走りをしたいです。追いつきたい人が居るので。その背中を目指したいと思います」

「ありがとうございます。メジロクラウディさんの功績を称え、賞金として金一封が送られます!」

 

スタッフの方から賞金を貰い、最後に一礼して袖に戻る。

 

「おめでと、クラウディ」

 

控室に戻る途中、トレーナーさんと向き合う。

 

言えなくなる前に、私は伝えなければならないから。

 

「トレーナーさん。その、ありがとうございました。私がこんな、表彰されるなんて……夢みたいで……わたし……」

「うん」

 

トレーナーさんに抱きしめられる。

 

誰にも見向きなんてされないと思っていた。

 

才能もなくて、実力もなかった私だけど、トレーナーさんと出会ってすべてが変わった。

 

「わたしは、わたしはぁ……」

「大丈夫だよ。泣いたっていいさ。それは嬉し泣きだからさ」

「ぅぅ……ぁぁ……うれ、しいです。でもこれが、夢なんじゃないかって……」

「夢じゃないよ。あなたが頑張って、そして掴んだんだ。たくさん誇ればいい。たくさん嬉しがればいい。たくさん、泣けばいいよ」

「トレーナーさん、トレーナーさん……!」

 

トレーナーさんの胸の中で、私は涙を流し続けた。

 

でも、ここは私の目標地点じゃない。

 

まだまだ足りない。これだけじゃ足りないんだ。

 

だから、まだ足りない。

 

『今後の目標は無敗でーす!』

『私は春の天皇賞、2連覇を目指しますわ!』

 

まだ、まだ足りない。

 

足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。

 

もっと走って、もっと勝って、もっと上に行く。そうしていつか、追いつく。

 

だから私は止まれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

――そう、止まれないのだ。何があっても。

 

 





ネタバレ
・雲ちゃんはマックイーンの2年遅れ、テイオーの一年遅れでデビュー。つまり……?
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